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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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嬉し恥ずかし初詣2

 パンケーキに蕎麦、このあと控えているお餅と菅野 葉月(すがの・はづき)は折角お揃いの振り袖を着たと言うのにミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の食べまくりツアーに引きずられる形で参加していた。とはいえ、こうして無邪気に食べ歩けるのも平和な証。平凡な日常が続けばいいのにと、腕を引くミーナを微笑ましげみ見つめていた。
「ねぇねぇ葉月、おみくじどうだった?」
 肉類の好きなミーナにとっては夢のようなクリスマスのエリアを抜け出し、少し胃を落ち着かせようと正月エリアへ来たものの、趣のある庭園には興味が無いようで美味しい香りを漂わせていた蕎麦や、こちらでは餅つきがあるんだと楽しそうにプログラムを確認していて、どこにいっても胃が落ち着くことはなさそうだ。
 そんな彼女が次に目を留めたのはおみくじ。御神籤箱を使用した従来の物から、自動販売機のような物、誕生日や血液型などから選ぶ物まで様々で、2人が選んだのは御神籤箱の物だった。
「私は……吉ですね。健康運が良好なようです」
 ミーナに付き合って暴飲暴食をしたらそうも言ってられないような気もするが、実際彼女は肉類やジャンクフードが好きなので、さらに健康に気を遣って食事をするようになったのも事実。けれども、ミーナはおみくじの結果に不満があるのか溜め息を吐いている。
「いいなぁ……ワタシなんて凶だよ? 恋愛運もなんだか良くないし」
 落ち込むミーナに辺りを見回せば、おみくじを結ぶための紐が数本かけてあるのを見つけ、その中でも空いている所へと彼女を連れて行く。
「そういうときは、利き手と逆の手で結ぶのです。困難なことをクリアすると、良い結果に転じることが出来るとか」
「ホント!? やるやるっ!!」
 懸命に結ぼうと奮闘している横で、葉月もおみくじを結ぶ。妙な出逢いではあったけれど、この縁があったからこそ見聞を広げる事も出来たし楽しいこともたくさんあった。この縁を結んでくれてありがとう、そして今年もこんな縁があれば……と願いを込める。
「出来たー!! あっ葉月、今度は甘酒があるよ」
 結べたことの達成感よりも、鼻をくすぐる香りが優先されたらしく、褒めるより先に呆れた声が漏れてしまう。
「またですか? しょうがないな……1杯だけですよ」
 やっぱり、休憩にはなりそうもないなと苦笑している隣では、ミーナが幸せそうに笑う。
「えへへ……幸せだなぁ」
 毛氈の上に座り、並んで甘酒を頂く。未成年の参加者が多いだろうことを配慮して、酒粕ではなく麹で作られたそれはアルコール分はなく芯から体を温めてくれる。けれど、心が温かくなるのは甘酒のせいじゃない。ミーナは幸せそうな顔をして、葉月の方を見上げる。
「……そんな顔しても、おかわりはダメですよ」
「えー!? そんな顔ってどんな顔? おねだりなんてしてないよっ!」
 確かにおかわりしたくなるような味だけど、少しばかり張り切って食べたおかげで満腹に近い。さらに今日は風も少なく日差しが温かいから、こうして食べては歩いてと動きまわっていたミーナには寒すぎることもなくて、温まってきた体にまぶたも重くなってくる。
「今日どれだけ食べたと思っているんですか、この後お餅も食べるのでしょう? 少しくらい我慢を……ミーナ?」
 寄りかかるとうに葉月の肩へこつんと頭を付けて、静かに寝息を立て始める。今日は着付けをするからと早起きをしたし、あんなにはしゃいでいては遊び疲れるのも頷ける。
「ミーナ、こんなところで寝ては風邪をひきますよ……ミーナ」
 気持ちよさそうに眠る彼女を起こすことが忍びなくて、少し遠慮しがちに揺すってみる。けれど、寝ているつもりはないのか「次はお雑煮が食べたい」などとお祭りの続きを楽しんでいるようだ。
(全く、仕方無いですね……)
 連れて帰るにも、この和装では帯のおかげでおぶることは出来ないだろう。未だ幸せそうにもごもごと寝言を口にするミーナに苦笑しながら彼女を横抱きにする。
 体勢が変わったことで夢の中でも何かあったのか、むぅと一瞬眉間を寄せて、また幸せそうに笑う。
「おあずけなんでやだよー……あんころもち、みたらし……いっぱーい」
 散々食べたのに夢の中でもまだ食べるというのか。彼女らしいと言えばそれまでだが、平和な寝言に少々呆れが混ざる頃、ミーナが腕の中でもぞりと動いた。
「でも……葉月が1番好き。……だーい好き、だよ」
 いつでも直球な彼女の囁くような言葉。いつもの熱烈な態度と違って大人しめのそれは、何度も聞いてる言葉と変わりないのに雰囲気が違うからか少し照れくさい。
「――ありがとう、ミーナ」
 優しい微笑みも腕の暖かさも彼女が知ることは無いのだけれど、愛おしそうに抱き上げたまま葉月は連れて帰るのだった。
 後日、どうやって帰ってきたのかと疑問に思っていたミーナが事実を知って、悔しがることになる。
 神前に立ち、今から正に参拝をする安芸宮 和輝(あきみや・かずき)は、少しでも日本文化を知って欲しくてクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)に日本神話や参拝の仕方を教えてきた。そのおかげで手水も戸惑うことなく済まし、身と心を清めた2人は会釈をする。
「ええと……それから、鈴が先でしたかしら。それとも、お賽銭が?」
 修道院育ちの彼女にとって、クリスマスの知識はあれど日本文化の知識はない。参拝するだけでも細かいマナーがあるようで、数回説明されただけでは覚えきれなかったようだ」
「お賽銭ですね。そのあと二拝二拍手一拝……もちろん、神様によって違ってきてしまいますがね」
 神主の家系であった自分でも、八百万の神全てに対しての参拝方法を熟知している自信はない。神のみぞ知るという状態だが、この基本の形式くらいは覚えていても損はないだろう。
(出来れば、そこから興味を持っていただければ……知って頂くだけでも助かりますが)
 恥をかきたくないというだけなのか、それ以上の意味が含まれるのかは和輝にしかわからないが、隣で右手を少しずらして祈るクレアの姿に微笑を浮かべる。皺と皺を合わせれば幸せなのに、節と節を合わせるのは不幸せ。そんなことを教えたときは、じっと両手のひらを見つめたりしていたものだが、背筋を正して祈る姿にはそんな戸惑いの様子は無かった。
 けれども略拝詞までは覚えきれなかったようで、助けを求めるような視線と目が合った。サポートするように和輝が唱え、無事に三唱。最後の礼を終えて神道を避けながら階段を下りる。石畳の通路まで降りてくると、クレアは緊張していたのか安堵の息を吐いた。
「はつもうで、と聞いてどんな物なのかと思いましたが……とても緊張しました。何か失礼をしていないか心配ですわ」
「大丈夫ですよ。私もついていましたが、綺麗な祈りで喜ばれていると思いますよ」
「だと、いいのですが」
 少し自信がないような顔で、クレアは微笑む。慣れないことをさせてしまったかと心配になるが、大きな鳥居を見上げる顔はそこまで疲れてはいないようだ。
「でも、楽しかった……と言って良いのかはわかりませんが、行動の1つ1つに意味があって、大切にされている行事なのが良くわかりました」
 和輝の熱心な話の仕方に、これが日本人にとっては大切な催事であることは理解していたけれど、その意味合いまでは汲みきれていなかったのかもしれない。けれど、実際にその空気に触れてみて教えてもらっていたのでちゃんと参拝することが出来た。
「無理にお誘いした形になってしまったかもしれませんが……知って頂けて、とても嬉しいです」
「とんでもありません。今日は、このおしょうがつという空気を味わってみたいですわ。けれども、今度は私の大切な文化も知って下さいませ」
「もちろんです、その日を楽しみにしています」
 よくつくられた境内の中を2人で歩く。見られると思っていなかった懐かしい風景についつい言葉も弾み、クレアが少し困惑した表情を見せることもあったけれど、外の世界をあまり知らなかった彼女はやさしい微笑みを浮かべたまま、興味深そうに和輝の話に耳を傾けるのだった。



ご用心!? 配達は命がけ

 無事に焼けたパンケーキを観客へ配りつつ、クリスマス部門の広場ではマロースさんのお手伝いへ参加する生徒たちへカメラやプレゼントなど必要物資が配られる。ジェット・マロースとはロシアで言うサンタクロース。夢を配る彼のお手伝いをするのだから、いかに捕まらずにプレゼントを配達することが出来るかがポイントだ。
 けれども、そうやって人を探してプレゼントを渡したりすることで学校の壁を越えて仲良くなれたらという願いが込められている競技なのだが、サンタの家へ向かったエフェメラ・フィロソフィア(えふぇめら・ふぃろそふぃあ)には微塵も伝わっていなかったようだ。
 フォルトゥナ・フィオール(ふぉるとぅな・ふぃおーる)リンクス・フェルナード(りんくす・ふぇるなーど)を従えてやってきたここなら、きっと多くのマロースがやってくるに違いないと完璧な作戦まで考えてきた。そう、彼女は自分のプレゼントを渡す相手を探すのではなく、手当たり次第にマロース役の生徒を襲いプレゼントを強奪しようと、所謂サンタ狩りの計画を立てたのだ。
「……っと。メラっち、この家は鍵がかかっていないみたいだよん」
「まぁ、不用心ですの。でも好都合ですの♪」
 にこにこと微笑み中へ入れば、おもちゃ箱をひっくり返したような様々なおもちゃの山。大会への観客に流れたのか遊びに来ている人はなく、これ幸いとばかりに準備を整えるのだった。
 そんな中、物騒な競技になっているとは露知らずなミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)は、ウキウキとサンタの家へ走っていく。どんなおもちゃがあるのだろうかと楽しみにしていると、家まであと少しというところで藤咲 ハニー(ふじさき・はにー)を見つけた。
「ハニーさんだぁ! えへへ、こんにちはー」
「お、ミレイユ! あんたも男探し? あ、違うか」
「ハニーさんは、男の人を探しているんですか?」
 自分の探す相手はどんな人だっけ、と競技開始直前に引き当てたメモを見る。そのメモには

『絶世の美少女ですの、直視すると目が潰れますの
 ちょっぴり小柄ですけどこれでも大人ですの
 髪はふわふわですの。でも不用意に触れたら死刑ですの』

 と、書かれている。
「ってゆーかあたしがあげたウサ耳着けてくれてんのね! 超似合うわよぉ。ありがとねぇ」
「わぁああ! ハニーさん、ずれちゃうよぉ〜」
 隣からメモを覗き混んでフォローの言葉が見つからなかったハニーはミレイユの頭を撫でくりまわし、その豪快さにずれてしまいそうになるウサ耳を困った顔で押さえるミレイユ。けれども、これが日常的なやりとりのように、2人はとても楽しそうだ。
(……まいったな)
 サンタの家の屋根からこっそり様子を伺っていた鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、どうにも女性が苦手なので競技前に申告して全ての参加者のメモが混ぜられる前に男性と思しき特徴のメモの中から自分が探し出す相手を決めたのだが、折角の苦労虚しくこの場には女性が多く集まった。方向音痴な自分が下手に探し回るわけにもと、こうして目立つ建物の高い場所から探すことにしたのだが、可愛らしい外観と内装に惹かれてか集まったのも女性。
「はぁ……どうするかな」
 ごろんと屋根の上に寝転がり、引いてきたメモを見る。

『焦げ茶の髪、執事服、姫の犬』

「犬って、ゆる族のことか? それとも……」
 そこまで考えて、ふと思い出す、先ほどフォル君と呼ばれこのサンタの家に入っていった少年の姿を。間違いないと確信しても、ここには女性が4人もいる。さすがにその中へ突っ込む勇気もなければ、あの忠誠っぷりから彼が1人だけ出てくることも難しいだろう。
(どうする? 出てくるのを待って、どうにか1人になる瞬間を狙うしか――)
「わぁあああああっ!?」
 家の中から、もの凄い叫び声がした。先ほどまで玄関先で話していたウサ耳の2人組がいないということは、彼女たちだろうか。続けて中で争っている物音もするし、いくら女性が苦手でもこの状況で逃げ出せるほど尋人は非情ではない。
(――仕方無いっ!)
 深く深呼吸をし、覚悟を決めて煙突へ飛び込んだ。飾りでついていた煙突はすすまみれになることなく室内へ滑り落ち、暖炉の中に着地する。
「また来ましたわ。良い子の私にプレゼントを狩られる何て、あなたラッキーですの。疾く出すが良いですの、ハリーハリーハリーハリー♪」
 にこやかに手を広げるエフェメラと目当てのフォルトゥナが立ちはだかり、リンクスの後ろではミレイユとハニーが縛り上げられている。
「こういう競技じゃないだろ! 正々堂々と勝負しろっ!」
「あら、どこにそんなことが書いてありますの? サンタ狩りをしてはいけないなんて、誰も言ってないですの」
「姫の御要望だ。プレゼントをくれねえと悪戯しちまうぜ、だとよ」
 剣を構えるフォルトナに、これ幸いと口の端を上げる。元より渡すつもりだったこのプレゼント、人質との交換条件になるなら好都合だ。
「……わかった。なら、あの人たちを解放するんだ。プレゼントはここにある」
 足下に置いて、数歩離れる。それを見届けて、フォルトナはリンクスへ合図を送る。
「プレゼントさえ貰えたら、どうでもいいですの。どこへでも逃げればいいですの」
「いや、違うだろ? プレゼントを貰ったらすることがあるはずだ」
 2人の紐が解かれたのを確認して、尋人はフォルトナの隣へ滑り込むように走る。
「な――」
 ――パシャッ ジー……
 フラッシュに手をかざしているがフォルトナと、その隅には走っていたためかブレている尋人。写りが良いとは言えないが、最低限の判別は出来る写真だ。
「それじゃ、受け取りのサインを」
「あんた……俺をハメやがったな!?」
「競技のルールだ。あんたはプレゼントを受け取ったんだから、負けを認めるサインをするんだな」
 舌打ちをしながら写真にサインを入れる。エフェメラの要望通りプレゼントを獲得出来たとしても、イルミンスールに負ける要素を加えてしまったのは誤算だ。
「でーも、その写真とメモを受け付けまで持って帰らなきゃバレないよねん」
 くすくすと笑いながらリンクスが仕掛けた罠の数々を思い出す。古い地球の映画でやっていた、少年が家中をトラップだらけにして泥棒を追い返すというものをやってみたかったのか、このサンタの家は見た目の可愛らしさからは想像も付かないような油断ならない物になっている。
「あんたたち、あたしらが自由になったの忘れてないかい?」
「そうだよ! ワタシだって助けてもらった恩は返すんだからねっ」
 2人の応援のおかげで、なんとかトラップをかわしながら外へ出られた尋人だが、彼を探していたのか単に好みだったのかハニーに追いかけられることになってしまい、災難は終わってくれそうになかった。
 はぐれてしまったミレイユは、お餅が出来上がるのを楽しみに試合会場へ向かい、エフェメラたちはなんだかんだとプレゼントを3つ確保出来たので、リタイアして自校に戻った。悔しがる校長の顔を思い浮かべながら――。