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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

リアクション



配達は続くよ、いつまでも

 カップルでの参加が多かった神社や日本庭園。けれども、人が集まるなら探し者も見つかりやすいのかも知れないと五月葉 終夏(さつきば・おりが)がパートナーのシシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)ブランカ・エレミール(ぶらんか・えれみーる)を連れて来たまでは良かった。
 しかし――。
「すみませーん!このくらいの背丈の人、ちょっとこの酔っ払い共おとなしくさせるの手伝ってくださーい!」
 そう変わった呼び声で助けを求める終夏。アルコールの入ってないはずの甘酒なのに、酒という名前と周りの雰囲気にシシルとブランカが酔っぱらってしまい、途方に暮れていたのは最初だけ。今ではそれをマロースのお手伝いに利用してやろうと思ったのだ
「いえー! 無礼講ですよう! イルミンスールばんざーい! 師匠ばんざーい! いえー!」
「あっははははは。イルミンスール、ばんざーい! 女王陛下、ばんざーい! あー楽しー、あっははははは」
(楽しいのは君たちだけだってば!)
 良い笑顔を浮かべながら手を出すのを我慢しているのに気がついていない2人は、相当酔っぱらっている。甘酒を配っているスタッフも、誰か酒粕で作ったのかと揉めたり何か仕込まれたのかと数分間調査のため配布を止めたりなど一騒動あった。けれども、原因不明のまま2人のテンションは上がり続ける。
「あっはっはっはっは。ブランカ、シシル。蹴落とすよ。本当に蹴落とすよ? 氷術が使えたら真っ先に放ってやるのになーははははは」
 イルミンスールに所属で使えない魔法があることは悔しいが、それ以上にこのタイミングで放つ事が出来ないのが悔しい。
 そんな騒動をしていると、参加していないはずのイエニチェリの1人、ルドルフの姿が。ジェイダス校長が何故勝ちに拘るのかに真意を聞こうと神無月 勇(かんなづき・いさみ)は以前ミヒャエル・ホルシュタイン(みひゃえる・ほるしゅたいん)が変装に使った衣装を借り、そしてミヒャエルはと言えば「年末年始と言えばこれしかない」と教えられなまはげの格好をしている。
「悪い子はいねぇがぁ〜」
 ぶんぶんと出刃包丁を振り回して周りを威嚇しつつ、何か企んでいるものはいないかと目を光らせる。しかし、色んな国籍の地球人や種族がいるこの場ではあまりメジャーな物ではないのか、その姿に怯えて他の参加者たちは遠巻きに怖がっている事しかできない。
 けれども、それを楽しそうに見ているのは銭 白陰(せん・びゃくいん)。ヨールカから順に探し歩いたが、特別特徴に当てはまる人がいなかったのでここまでやってきてしまった。けれども、自分自身の特徴は2mを超える長身なので、自分が見つからなくても相手が見つけやすければいいかと気楽に考えていた。
(それにしても、随分賑やかな方ばかり集まりましたね。他の方を邪魔しなければ良いのですが)
 けれど、いちいち注意してやる気にはなれない。自分は楽しければそれでいいのだから。そうして、もっと楽しくなる方法を思いついた。メモに書かれている特徴を確認し、口元には微笑を浮かべたまま勇に声をかける。
「失礼致します。少々お伺いしたいのですが……」
「何かな? わた……僕で答えられることならば、力になろう」
 この格好をしていれば、おいそれと一般生徒には声をかけられないだろうと油断していたのか、危うく口調を間違えそうになりながら、何とかルドルフのフリを貫き通す。
「実は人を探しておりまして……金色の派手な仮面を付けていらっしゃる方なのですが」
 くじを引いて探す相手を決める以上、同じ学舎の人に捕まることもあるだろう。臆することなく受け答えをしようと思ったのだが、白陰の言葉に言葉を失った。
「ルドルフさん以外に思い付かなくてお声かけさせて頂いたのですが、参加されていないですよね? 今頃別の地にいらっしゃるのですから」
(あ、あれ……そう、でしたか?)
 もちろんこれは、白陰のはったりだ。ルドルフが主催の物に他のイエニチェリが手伝いに入ることはあっても、忙しい彼が他のイエニチェリの手伝いをするわけがない。その上最近ではさらに忙しさが増し飛び回っているのだから、偵察にすらこれないだろうという点から話を振ったのだ。
 もしそれで本人だったらどうするのかという心配もあるが、元々大胆で楽しければそれでいいという適当な性格な上、怖い笑顔を浮かべて害が飛ばないようにいいくるめることも出来てしまいそうだ。
「なんだ? 僕らが学園を見回っていたらおかしいとでも?」
 完璧な変装にケチをつけられたようで悔しいミヒャエルは、さも心外だと言いたげに腕を組む。白陰にとって事実はどっちでも構わない。ただこの会話で楽しめれば良いのだから。
「いえいえとんでもございません。少し気になったので……こちらの校長が用意された錦鯉についてもお伺いしたいことが――」
 そう言いながら2人を池の畔まで案内すれば、先ほどの酔っぱらいと奮闘する終夏がぴきぴきと今にも頬が引きつりそうな笑顔で2人を早歩きで追いかけている。
「ややっあそこに見えるは干支の干菓子! 師匠ーしーしょーうー! 僕、あれ食べたいですよう! 買ってく〜ださ〜い!」
 12種類揃った可愛らしい干菓子と抹茶を楽しめる野点に気がついて、店に近くで子供のようにねだりだす。かと思えば、隣ではその店に集まった人たちを自分のために集まってくれたと勘違いしているブランカがウインクを飛ばしながら周りの好意に応えようと襟を整え始めた。
「パーティなんだよ、無礼講なんだよ! 楽しんだ者勝ちじゃないか! では男ブランカ、ここで一曲正月の曲、歌いまーす!」
 ノリノリで歌い出し、それに混ざる甲高い笑い声。とうとう終夏の堪忍袋の緒が静かに切れる音がした。
「いいかげんにしなよっ!!」
 手にしていた空飛ぶ箒でブランカを叩きつけようとしたが歌いながら踊り始めていた彼には難なくかわされてしまい、今度はバットに見立ててシシルを狙うのだが元々運動が苦手な終夏は上手くコントロール出来ない上、手からすっぽ抜けてしまった。
「……あ、あれ? どこにいったんだ?」
 成敗したと思った騒音の元凶に縋り付かれ、周辺を確認しても落ちていない。おかしいなと首を捻れば、箒は近くにいた勇とミヒャエルの所までブーメランのごとく飛んでいたらしく、2人を冷たい池の中へ突き落としていた。
「おやおや、大丈夫ですか?」
 藁葺きや重そうな薔薇のマントを着けている2人に手を差し伸べることなく白陰はクスクスと笑っている。
「イメージチェンジをされていたんですね? ルドルフさん」
「え……あっ!」
 衣装の一部である明るめの茶色いウィッグは、水面に浮かび鯉たちに突かれている。黒い髪も露わになり仮面もズレ、偽物なのはバレバレだった。
「僕を落としたのは誰だ! 落とし返してやるっ!!」
 水を吸って重たくなった藁葺きを脱ぎ捨て、鬼の面を被ったまま練り歩くミヒャエルは一足早い節分のようだが、下手に関わればそれだけで池に落とされそうだと思ったのか誰も目を合わさない。
 そんな様子に終夏は見つからないよう身を潜めながら、白陰は楽しそうに見つめているのだった。
 一方、一騒動のあったサンタの家から離れたヨールカ前では、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)、そしてミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)がそれぞれにプレゼントを渡す相手を探していた。けれども、中々見つからないためかミラベルが「少し休憩にしましょう」とアレクセイを連れて食べ物を取りに行ってしまった。
(ミラさん、時間が出来たら少しだけアレクさんと二人きりにしてほしいと言っていましたけど……何かあったんでしょうか?)
 荷物持ちだけでなく、そのことも含めて2人で取りに行ったのだとは思うが優希はそわそわと落ち尽きなく戻ってくるのを待っていた。気にしても仕方がない、けれどわざわざ2人きりになりたいなんて言うことは――? 何かが思い浮かびそうになったとき、長いスカートの裾を引っ張られた。
「きゃああっ!?」
「……びっくりした。声かけてたんだけど?」
 そこには、パーカー風の着ぐるみでペンギンに扮装した桐生 円(きりゅう・まどか)。いつものトレードマークであるとんがり帽子をしていない分、さらに背丈が小さく見えた。
「わぁ、可愛らしいペンギンさんですね。もしかして、私の探している方でしょうか」
「ボクが先に見つけたんだから、ボクの確認が先だよ。スカート丈の長い女性用サンタクロースって、キミのこと?」
 少し掴みにくそうな手でお腹の前にある大きなポケットからメモとプレゼントを取り出し、優希に差し出す。見慣れたメモを確認して、残念そうに笑った。
「渡す前に捕まっちゃいましたか……はい、私のことです。このペンギンさんは、あなたのことですか?」
 とても特徴のある服なので2人といないと思うが書かれてある背丈は140cm。150cmと少しな自分とは10cmくらいしか差が無いはずなのに、目の前の円は20cmも目線が下だ。
「なんだ、丁度交換か。ラッキーだったね」
 言うが早いか優希が手にしていたプレゼントと自分の物を交換するので、少しメモと特徴が違うなどと言えないまま並んで写真を撮り、互いにサインを入れて交換する。受付にそれを持っていけば競技は終了。スタスタと歩き始めた円はくるりと振り替える。
「どうしたんだい? よければ一緒に行ってもいいよ。1人で暇だしね」
「あの……私は、パートナーを待ってて。それで……」
 話し込んでいたりしたら、いつ戻ってくるかわからない。自分のいないところでどんな話をしているんだろうかと考えると、なんだか胸が苦しくなってプレゼントをぎゅっと握りしめる。
「ふぅん……ま、いいけど。そんな辛そうな顔するくらいなら、吐き出せば?」
 じゃあね、と背中を向けた円はそのまま人混みの中に隠れてしまって聞き返すことは出来ない。
(私、そんなに変な顔をしているのでしょうか……でも、どうして?)
 パートナー同士、話したいことだってあるはず。妹扱いされたくないという気持ちはあるが、独占したいだなんて大それた気持ちは持っていないはずなのに。
(……早く、帰ってこないかな)
 寂しさを誤魔化すように強く握りしめたプレゼント。その包み紙のように心がひしゃげてしまうまでに、どうか2人が戻りますように。
 そんな願いを優希がしているとは思わない2人は、ゆっくりとした歩調で飲み物や食べ物を運んで帰る途中だった。
「……優希様のこと、どのように思っていらっしゃるのですか?」
「はぁ? ユーキは契約者であり……まぁ、妹みたいなもんだよ。それがどうした?」
 急なミラベルの問いに当たり障りのない返答をするアレクセイ。けれど、それが本心でないと感じたのかミラベルは足を止めた。
「でしたら、優希様に素敵な殿方が現れた時には素直に祝福をなさる、ということですわね?」
「だからさっきから何の話だよ。ユーキにんなヤツまだ早すぎんだろ」
「お答えになれないのですか?」
 間髪入れずに返ってきた言葉はナイフのように突き刺さって、自分自身を誤魔化しているのだと知る。けれど、手の中にあるカードを全て見せるわけにはいかないと、アレクセイは顔を逸らして呟いた。
「確かにミラの言う通り、女性として見ることもある。妹だろうが女だろうが、俺様が守るのはかわらねぇ」
「それは、優希様に変な気を持たせることになりかねません。中途半端な馴れ合いは――」
「あいつが一人前になるまで、何かをするつもりはねぇよ。あいつが何かを言ってきたにしてもだ」
 仮に女性として大切だと彼女に伝えたら、自分を頼りにしている優希はそれを愛だと錯覚して受け入れるかもしれない。逆に今、すでにそう思って何かを伝えようとしているのかもしれない。彼女自身の気持ちを否定するわけではないが、一人前になったとき初めて誰が何のために必要なのか、傍にいてほしいのかが分かる気がする。
「あなた様の仰る一人前の基準は明確なのですか? まるで、ずるずると言い逃れられそうな言葉ですわね」
「それは――」
 ついあげた視線には、ミラベルの不敵な笑み。その笑顔の意図が分からないまま、アレクセイは立ち尽くしたままミラベルを追う。
「恋を知った女性の成長は早い物です。他の殿方に奪われたくなければ意地を張るのはお止しになってはいかがかしら」
「なんだと……ってミラ、ヨールカはそっちじゃねぇぞ?」
「……し、知っていますわ!!」
 何もこんなときに指摘しなくてもいいではないかと恥ずかしさが込み上げるミラベルだが、アレクセイの優希に対する気持ちが聞けて、彼女へのアドバイスに役立てようとほくそ笑むのだった。