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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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バトルフェスティバル・ウィンターパーティ編

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激闘! 格闘羽子板大会2

 最早これは本当に羽根突きなのか――爆音や墨を撒き散らして、その試合は続いていく。
 テディの提案により無理矢理ダブルスに組み込まれたはコートの隅の方で涙を浮かべながら正座をして羽子板を構え、対するは自分の発言のせいで申し訳ないことをしたなと彼を見つつ、止まることのないに少々心配そうな顔をしている。
「我命ずるは混沌の冠・イヴィルクラウン!!」
 ――ビュンッ!
 勢いよくテディに向かって飛ぶ羽根は、別に何の特殊効果もついていないただのレシーブ。先ほどから繰り出す度に唱えているが、3度目の今になってようやくまともに言えたこともあり、京はご満悦だ。
「へんっ! ごちゃごちゃウルサイッ!」
 ――カンッ!
 ダブルスとは名ばかりで、ほぼテディと京の一騎打ち。稀に後ろの方へ飛んできたものを陽と唯が拾うだけで2対2までやってきた。泣いても笑ってもこれが最後の試合だが、本当にそこで止めてくれるのか疑問である。
「我呼び起こすはけもにょにょ……もうっ!!」
 ――カンッ!!
 1度上手く行ったからといってすぐに早口言葉は上達するものでもない。羽根を打ち返す短い時間に言うには無理のある技名にイライラしつつも確実に拾い上げてテディへと返す。
「もらったァ――!!」
 ――パァアアアンッ!!
 飛び上がったテディが腕を振り上げ、コートに叩きつけるつもりだった羽根が大きな音を立てて爆発する。中々に大きかった羽根にぎっしり詰まっていた墨は、羽子板やそれを持っていた腕はおろか、顔や振り袖にまで沢山のしぶきを飛ばして黒く染め上げる。後ろで正座していた陽も思わず膝立ちになって顔面蒼白になりながらテディを見つめている。
(あんな高そうな着物、弁償しろって言われたらどうすればいいんだろう!?)
 心配するのはパートナー自身やそのプライドよりも借り物の着物にあったようで、ヨメ宣言しているテディが報われないことが涙を誘うが、当然そんなことに気づきもしない彼は着地をした後に何が起こったのか分からないという顔で墨の滴る羽子板を見つめる。
「やっぱり、京の勝ちはトーゼンなのだわ!」
 高らかに笑う京と墨だらけの羽子板を見て、ようやく自分が負けたことを自覚したのだろう。もうほとんどが墨だらけの腕で、何かを拭うように顔を擦る。
「た、たまたまだ! 次があったら絶対勝つし!」
 けれど、戦士にとって負けとは死を意味する物。次がないことなどわかりきっている。ぎゃんぎゃんと喚き散らしてみるが、その元気の良さとは裏腹に少し声が震えている気もした。
「――京、おいで」
 いつまでもここで向かい合っていれば、彼のプライドを余計傷つけてしまうだろうと思った唯は、次の試合まで一休みいれようと京をコートの外へ誘い出す。そして、後ろから気を遣うように陽がテディの背中を叩く。
「ほら、とりあえず着替えて……クリスマスケーキでも食べにいこうよ」
「………………っ」
 隙間無く黒くなっていく顔に、落とすのは時間がかかるんだろうなぁと溜め息を吐く。騒動に巻き込まれるのも勘弁してもらいたいが、落ち込まれるのも落ち着かない。ほどほどに元気づけてあげようと陽は思うのだった。
 そうして、神社に祈願した後知り合いの競技を観戦しようと甘酒片手に見ていた佐野 亮司(さの・りょうじ)は、あまりの競技の激しさに少々驚いた顔でコートを見つめている。
(これは……参加せず初詣に行って正解だったな。3つも願い事しちゃったけど、それ以上にこっちのほうが驚きだろ……)
 商売のことや、片思いのこと。友達の幸せまで願って欲張りすぎたかとも思ったが、羽根突きで壮絶なバトルを繰り広げることに比べたら、神様だって欲張りな人間の方が見慣れているのではないだろうか。
 知り合いたちの試合も粗方終わり、次の試合を知らせるボードを見ればデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)明智 珠輝(あけち・たまき)の文字。珠輝のファンである亮司は、この試合も見なければと同じ姿勢で見ていて固まった体を解すように軽く体を動かした。
「……なんだありゃ」
 体を捻った瞬間見えた不思議な人影。黒いショートヘアに眼鏡が逆光で輝き、サンタクロースの帽子と大きな白い袋が無ければまるで獲物を狙っていると勘違いされそうなオーラ。観客席の最前列を陣取って、島村 幸(しまむら・さち)は熱心に明智へ声援を飛ばしている。
(知り合いに似ている気がしなくもないが……まさか、な)
 真っ赤なハイレグ姿はまるで、どこぞの美少女変身モノか敵役のお色気お姉さんのような格好で、その後ろではオロオロと心配している婚約者ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)の姿が。
 彼女が色っぽい格好で他の男性を熱心に応援するとなっては心配かもしれないが、失礼ながら初見で女性と判断出来る者は少なそうな上、珠輝自身は知人程度の認識で他人の恋路を邪魔しようなどという気はさらさら無い以上、ガートナの杞憂に過ぎない。
 とは言え、それを差し引いても男子校で女人の薄着は悪目立ちしてしまう。警護に当たりつつ学舎の安全のために自主的な見回りを行っていた藍澤 黎(あいざわ・れい)あい じゃわ(あい・じゃわ)は、尾ひれのつきまくった噂を元に不審者を捕らえに来た。
「ここか!? 女装した変質者が気の弱い男を従え拘束しているという現場はっ!」
「黎ー、あそこだけ人が避けるように空間が広がっているですよー」
 頭の上でぴこぴこと短い手足を揺らして異常のあるところを教えると、黎がじゃわを構える。そう、全長30cm程の彼はゴムまりのようによく弾むゆる族なので、悪人を捕まえる際にはしばしば必殺技としてなげられるのだ。
「いくぞ、じゃわっ!」
「はいなのですよー! あいじゃわぁあーアターック!」
 そうして黎の手を離れたじゃわが真っ直ぐ目標に向かって飛んでいこうかという瞬間、黎は自分の耳を疑った。
「幸、応援するのは構いませんが、せめてその上着を閉じるとか……こう、風邪でもひいたら大変ですし」
(幸……? まさか、女装と間違えられるような幸と言う名の凛々しい方は……!)
「じゃわ、戻れ! その方は姉上だ!!」
「あねう……ぇえええ!?」
 よく飛ぶように体を小さくし、体育座りのような状態でくるくる回っているじゃわに急な方向転換は無理な話で。どこかにぶつかりでもすれば、自力で方向転換も出来るだろうが空中にいる今は無理だ。
(あのフクロにつかまって、あねうえへのダメージをさけるのですよっ)
 スピードを落とすために、袋の少し手前から手足をひろげ風の抵抗を受ける。これなら、目標通りサンタの袋へ突撃出来ると思っていたのだが。
「幸っ! 危ない!!」
 先ほどまで幸に骨抜きになっていたガートナが危険を察知し、庇うように幸の背中に立つ。それは、じゃわが着地するつもりだった袋の前で、ガートナの額にワンバウンドして地面に落ち、また弾んで彼の顎を直撃した。
「――ッ!?」
「……いたいですの。おひげもジョリジョリでカユかったですの……」
 うるうると大きな瞳を潤ませて頬を擦るじゃわは、数回地面にバウンドして起き上がった。
「ん? あなたは確か、黎のところの……」
 ハート型の旗を振ることに一生懸命になっていた幸は、ようやく後ろで起こっている騒動に気がつき、足下に転がっていたじゃわを拾い上げて肩に乗せる。
「あなたも明智さんの応援に来たんですね! かけ声はラブリー明智、AKECHI! ですよ」
 語尾は愛情をたっぷり込めてハートマークを飛ばしますと力説している後ろでは、ガートナが頭を抱えている。人混みをかき分けて幸の元へたどり着くことが出来た黎は、言いだし難そうに咳払いを一つ。
「……姉上、今日のお召し物は些か男子校には派手過ぎるかと思うのだが、何か余興や作戦の一部であろうか」
「さすが黎ですね。この格好で明智さんの敵を悩殺し、無力化します。そのためにも――」
 声援とともに大きく振られる横断幕。そこには大きく「変」と書かれており、ますます黎の頭を悩ませた。
「敵の前に、周りの観客が……その、姉上に悩殺されて競技を観覧出来ないようです」
「だから言ったのです幸! そんな魅力的な格好して襲われでもしたらと私は何度も口を酸っぱくして……」
 こんこんと続きそうなガートナの小言を遮り、黎は注意を続ける。
「上着を羽織っていらっしゃるのだから、それを閉じて頂いたり旗ももう少し控えめに振ってはいただけないだろうか」
 真剣な黎の様子に、学舎の安全と皆が楽しめる催しにしたいのだという気持ちが伝わった幸は、渋々ながら上着を閉じる。まだ網タイツにエナメル素材のブーツカバーなどが見えてはいるが、この人混みの中ではさほど問題にならないだろう。
 そんな一部始終を見ていた亮司はと言えば、知人に似ているような気がするのは気のせいに違いないと、他人のフリをして競技が開始されるのを待つのであった。けれども、誰もが彼女を無視できるわけではない。1度はパンケーキ会場へ向かったファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が、人捜しにやってきた。そう、幸はあんな目立つ格好をしておいてマロースのお手伝いへ参加していたのだ。
 とは言え、ファタが手にしているメモには『かわいい女性、右手に彼氏からの婚約指輪、セクシーな格好』と書かれている。自分もミニスカサンタのコスプレにオーバーニーという服装だが、あれ以上にセクシーな格好は見あたらなかった。空飛ぶ箒でやや上から見ている以上、近くに居る男性が心配しているようなので婚約者と仮定すれば指輪もつけているかもしれない。
(さすがにここからでは指輪まで確認できんのぉ……しかし、最後の特徴がかわいい女性、か)
 可愛い娘が大好きなファタは、セクシーな女性を捜せるのかとメモを手にした際から友達になれないだろうかと出逢えることを楽しみにしていた。しかし、どうにもセクシーな格好をしているのは極一部の人にだけ可愛いと思われるかもしれない女性……いや、男性にしか見えない。せめて、怪しく光る眼鏡がなければボーイッシュな女性に見えたのかも知れないが、どうにも先ほどのテンションに驚かされて声をかけるのを躊躇してしまう。
 その頃、真っ赤なツインドリルを目印に椿 薫(つばき・かおる)が観客席の後ろを眺めながら歩いてきた。自分自身も特徴のある頭をしているので、それが1番人を探すのに打って付けだと思ったようだ。
「見つけたでござるよ! 写真をちょうだいするでござる、ニンニン!」
 箒の穂先を軽く叩き、ファタにプレゼントを差し出す。自分が躊躇っている間に捕まってしまうなど、なんだか勿体ないことをした気がしてくる。
「ふぅ、しかたないのぉ。どれ、写真とサインじゃったか?」
 箒から降りて薫と並んで写真を撮り、自分のメモを見る。一体、自分の探し人はどこにいるのだろうか。
「ん? まだ相手を見つけておらぬでござるか?」
「うむ、2つの項目に当てはまる者はおったのじゃが、どうも3つ目が当てはまらなくての……」
「ならば拙者、助太刀いたすでござるよ! 袖振り合うも多生の縁、この後は他校の友人へ挨拶に行くくらいの予定でござったからな」
 ファタも、このイベントは知らない人と交流するには良い物だと思っていたので、薫の申し出を受け入れて2人で探すことにする。しかし、幸以上に特徴がピタリとはまる人はいなかったので、結局元の場所に戻って勇気を出して声をかけることになるのだった。
 コートの準備も終わり、白の紋付き袴を着て白虎に獣人化した珠輝と長尺半纏を着たデューイが向かい合わせに立つ。この試合に勝利した暁には、ゆる族であるデューイの抱き心地の良さを心ゆくまで堪能する約束を取り付けている珠輝は悦に浸っている。
「ふふ……私とデューイさんの愛の営みまでもう少しですね……!」
「……君はもう少し、言葉を選んだ方がいい」
 その約束を取り付けられるまで、珠輝のことを「怪しいが優しい青年」だと思っていたのに、その約束から「怪しいが稀に優しい」に傾きそうになっている。なんとしても勝利し、その約束を無効にせねばと思うのに、外野はとても騒がしかった。
「ラブコールも嬉しいものですねぇ」
 1番大きな声援を送ってくれる人たちへ投げキッスを送ると、途端に黄色い声が飛んでくる。諦めるように溜め息を吐くと、デューイは左手に羽子板を握りしめた。
「珠輝さん。早く終わらせて餅つきの会場へ行きませんか」
 にこりと珠輝が微笑み、サーブを始める。互いの身体能力はほぼ同じ、いい試合が続く……はずだった。
「あぁっ!」
「…………」
「……ふっん」
「………………」
「っああ!」
「……明智さんっ!」
 怒り任せのスマッシュを決め、頭を抱えながらデューイは続ける。
「普通に試合をして頂けないか。羽根突きとはそのような競技ではないだろう」
 確かに、羽根が爆発したりと競技自体が通常の物と大きくかけ離れていることはわかる。だからと言って、羽子板に描かれた自画像の胸元に羽根が当たるよう飛び回り、見事乳首に当たった際には恍惚とした顔で息を漏らすのは止めて欲しかった。
「えー、これでも妥協したんですよ? 折角ですから腰下まで描いた物もあったんですが、リアさんにたたき割られてしまいましたし……」
 口を尖らして拗ねた子供風に言ってみても、可愛げの欠片もありはしない。そんな物を持ち込んでいたら、一体どこに羽根をぶつけてどんな試合になっていたことか……ますますデューイの頭痛は酷くなる。
「競技委員、判定をお願いしたい。彼の行動は1つの作戦としてまかり通る物なのだろうか?」
 キッと睨むように見たテントの中には直の姿もある。主催として、そして薔薇学の代表として正しい決断をして欲しいとデューイは願う。
「……デューイ君の話にも一理ある。相手に混乱を誘う作戦があったにしても、珠輝くんの作戦は少しやりすぎてるね」
「そんな! 私のセクシーさは美しくありませんか!? 薔薇の学舎に相応しくありませんか……!」
 ここにパートナーたちがいれば、総出で珠輝を取り押さえていただろうが、止められぬのを良いことにはだけた胸元をアピールしつつ直に交渉する。
「今回はうちの学舎だけじゃない。全体のことを考えるならば珠輝くんは失格、デューイくんは不戦勝という形で……」
 ショックを受けつつも負けを認めてデューイの前に体を差し出した珠輝は、彼の手刀をくらいあえなく気絶。会場に平和が戻って来た瞬間だった。