リアクション
* 山道に入った一行。 急峻な道ではなく、ゆるやかな上りで、深い山林に分け入っていく。馬車を連れていくこともできるが、心配は、この先に盗賊のアジトがある。盗賊は人の命まで奪うことはないようだが、大掛かりな荷物や食糧を持っていると全て奪われてしまう、ということだった。 「ふ、ふふ。おとぼけ教官にハーレム騎士とかモヒカンヒゲ軍師(女)とか……メイドが一番まともってどういうことですか!」 「あ、あのちょっとルイス? 台詞になってしまっていますよ、いいんですかそれ……」 サクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)は変わりつつある主をちょっと心配しつつも、真面目すぎるよりも少しくらいこんな方がいいのかな、と思いつつも、やはり方向性を危惧していた。「まあでも……善き哉善き哉♪」 「ハーレム騎士?」 目を閉じ、静かに馬を駆るユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)。 「はて聞いたことがありませんね。古今そのような騎士譚があったかどうか……」 「俺が一番まともか……」 苦笑しつつも納得の様子の、朝霧。 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、比較的重たくなりつつある旅の雰囲気を明るくしようと、孤軍奮闘……していたのだが、段々雰囲気そうでもなくなってきている? 「くっ、騎士ルイス一体誰の影響を受けたであります? この土地のせいかも知れぬであります。一刻も早く抜けなくては」 「マリちゃん……。そうだ、村でこんなもの買ったよ。お守りになるかな、と思って」 カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が、持ってきたのは…… 「これは、ふむ、牡羊のペンダント、でありますか」 これが後に、思わぬ事態を呼び寄せようとは。…… 一行は、すぐに休憩を取った。少しだれてきているかも知れない。引き締める必要がありそうだが、そういう役割にありそうだった騎士ルイスは冒頭から相変わらず「ふ、ふふ」と笑みをこぼしているばかり。 「騎士ルイス! 辺りを見回ってくるであります」 「ふ、ふふ。わかっていますよ」 「むむ。少し心配でありますな」 マリーのモヒカンがまた少し大きくなっていた。 「マリちゃん……」 ルイスは、辺りの森を歩き回り、やがて開けた場所にやってきた。 「ここは……?」 物音が、なく。静かな場所。そこには、清い泉がしんとした奥深そうな水を湛えている。 「きれいな泉ですね。どこかしら、容易に触れてはいけない禁断の泉のようにも見えます。それほどに、澄んでいる……」 ルイスは、その場を去ろうとするが、どうしようもなく、その泉に惹き付けられてしまう。 「だめだ。僕は一体どうしたのだろう……? 僕は、何かだめになってしまったのではなかろうか……僕は、……うっ」 そのとき、泉がほの青く、光を放ち始めたではないか。 辺りは、尚静かで、ほの暗くある。 「こ、これは。僕の英霊珠が、この光と反応し合っている……?」 ルイスの英霊珠と共鳴し合い、その場は光でいっぱいになる。かすかに、厳かな音楽が響いてくる。 そして泉の中から姿を現したのは…… 「わしはトゥールの司教、ゲオルギウス=グレゴリウス=フロレンティウス。グレゴリア・フローレンス(ぐれごりあ・ふろーれんす)と呼ぶがいい。 ……おぬしが、我が主となる者か……」 ほとばしる光の柱のなかに、淡い影の姿が見えている。 「そ、そうか。これが契約の泉……」 ルイスは、毅然として言った。 「そうです。僕は騎士ルイス。ルイス・マーティン。」 グレゴリウスは、ふ、と笑い、 やがて光の柱が消えて、森に明るさと静けさが戻ると。 「……っこいしょと」 泉から這い上がってきたのは、小柄な裸の女の子だった。 「……」 「どうしたのじゃ? よろしくの。ルイス」 * 「こら騎士ルイス! どこでさらってきたでありますか!」 「あれ? どうしたの? その子、迷子?」 ルイスが、小さな女の子を連れ、皆の前に戻ってきた。 「何を失礼なことを言うか! わしはトゥールの司教、げおるぎるす、ぐれごるうす、ふろ、ふろれ……? あ、あれ? 何か調子がおかしいのう。あれ、な、なんでわしこのような姿を、な、なんじゃ、何が起こった?!」 「今頃気付いたのですか……。 それはおそらく、あなたが英霊として甦る際に、何らかの影響を受けた結果でしょう。 たまに生じる現象だと聞いています。グレゴリウス卿。これであなたも立派なロリババァですね」 「く、な、なっ……なんてことをしてくれたのじゃっ! この馬鹿者! ポカ!」 「あ、痛……」 「ええい、わしは蛮族跋扈するフランクで調停者として駆け回った一線級の政治家じゃ。 ガリア貴族の出であるぞ! えい、えいそのマントを貸すのじゃ。このようなあられもない姿……恥ずかしいわ!」 「くっ、……わかっていますよ! 早くこれを羽織ってください。恥ずかしいのはこっちですよ、全く」 「このわしが、このような小娘の姿なぞに……ル、ルイス! これはおぬしの趣味であろう!」 「なっ? ち、違いますよ……」 マリーが聞き逃がす筈がなかった。 「ふふり。そうでありますか。騎士ルイスはこういう女子が好みであったでありますか」 「そ、そうなのか……ロリコン、いやロリババァ趣味……?」 となると、騎凛先生にもあながち……(騎凛「ちょっと! ロリババァ……って、な、なんですかその言葉は!」) 「ふふり」「ふーん」「ひそひそ ひそひそ」 「な、どうしたのですか、皆さん! ち、違いますよ! 断じて違いますってば!」 「ルイス……」 「え、サ、サクラ? ち、違いますよ?」 こうしてまた一行は歩き出すのだった。 「ふふり」 「違いますってば!」 * さてこうして、騎凛一行は、盗賊のアジトとなっている廃墟を通るのだが。 朝霧は、 「お世話になった村人のためにも、廃墟に巣食っている盗賊の類を倒していこう。と提案はしたが……」 マリーも、 「閉じられた環境ゆえの閉塞性と元々の土地の生産性の低さが流賊を生み出す原因となっているようなであります。将来は流通と産業を振興し、良民が自分の土地を離れず暮らしている手段を整備する必要がありますぞ。これは本来政治の役割なんでありますが。ふふり。いいこと言うたであります。……で。それはそうとしてでありますが……」 木々の隙間から見る。見上げる。 これが、盗賊のアジト…… それは、山中に屹立するまるで巨大な城塞であった。林立する尖塔には、見張りらしき兵がきちんと配備され防備にも余念がない様子。村人の話によると、途中の廃墟に盗賊の類が巣食っていて、近隣を襲って食糧や財宝を奪い蓄えている。――近付かない方がいい。というのをガイドに書き忘れたらしい。 「さあ、皆さん。では盗賊倒しに行きましょう」 ばさっ。木陰を出ていく騎凛。引き止めるカナリー。 「ちょっちょっと騎凛ちゃん!」 「?? どうしたのですか? 何れにしても、行くのですよね?」 「でも、真っ向からはまずいだろ。まさかこれだけのでかい砦だとは……って」 「き、騎凛先生?!」 「盗賊の皆さーん。私達教導団があなた方を成敗しに参りましたよ。いざ、勝負!」 「……」「……」「……」「……」 城塞の門からぞろぞろと、得物を手にした賊どもが立ち出でてくる。 「……やってしまいましたね」 ランスを構える、ユウ。 「この上は仕方ないでしょう」 ルイスも剣を抜く。 「やるしかないな」 朝霧は騎凛に並んだ。騎士二人は、前に出る。 「生け捕るであります!」 「えっ。斬っちゃダメなの?」 と言っているうちに、ざっと百二百の敵が一行のもとへ殺到。 瞬く間に、乱戦となった。 敵勢に、猛烈に突進する騎凛先生。 「ランスバレスト!」 SPが足りない! 騎凛は転んだ。 「えーーん」 「多分、キャラクエやってる皆はそれが聞きたかった筈であります!」 朝霧とライゼあたりは大いに頷いた、筈? 三厳は木刀で、ルゥは仕込み刀で、敵を切り伏せていく。しかし……如何せん数が多すぎる。多勢に無勢もいいところ。 「ユウーーー!」 「く、こうなれば、今こそ奥の手ですよ」 ユウは、盾を投げ、ランスも地面に突き刺すと、ライトブレードを抜き放ちヒロイックアサルトの構えに移った。三厳との契約で授かった、この構え、――柳生新陰流!! 「ユウ!」 三厳、ユウと背中合わせに構える。「久々に本気だね!」 「我等、柳生の二刀流!」 敵が続々と、二人を取り囲む。 「柳生十兵衛三厳、推してまいるんだよ!」 ユウも…… 「ユウ・ルクセンベール……推して参ります!」 行った。襲いかかる敵を、ユウはバーストダッシュで、三厳は持ち前の俊足を生かし、円を描くように捌いていく。 柳生新陰流の真髄は活人剣にあり! というその深い思想の内容はともあれ、そういうわけでユウは盗賊を見事活け捕った。 「ユウ、やるねっ! だけど、印可はまだあげられないかなー」 「ユウ、三厳! まだ、来ますよ!」 だが、全体的には圧倒的に戦況は不利。 打っても打ってもわき出てくる敵をどうにもならず、相手もなかなかの手練揃い、一行は何とかこの場を切り抜けた。 散々な戦いであった。 ユウが敵を捕虜に取ったのが唯一の手柄だったが、相手を尋問する暇もなく、一行は捕虜を引き摺り、追手を逃れ逃げ続けるはめとなった。 人質とするにも使いどころを考えねば。あれだけの人数に囲まれては、交渉が成立しなければお終いだし、まずは追手をまくことだ。 もとの方角へ戻ることもままならなかったので、茂みに隠しておいた馬車はおそらく、奪われてしまっただろう。貴重品は各自で持っていたので心配ないが、これで有効な移動手段をなくしてしまい、食糧も調達せねばならなくなってしまった。 騎凛らは、追手との小規模な交戦や、魔物の襲来に阻まれながら、夜を徹して逃走を続けることになった。少しずつ北へ、北へ近付きつつ……。 * 夜。 ようやく、盗賊の追手をまいて、森の木々に隠れた岩穴に身を潜めた一行。 「ああ、私が相手をしている間に吐いてくださった方がお互いにとって幸福かなーと。なにぶんあの軍師、常識人には何やるかはかり兼ねるところがありますので」 にこにこ笑いながら、バスタードソードの平たい方で盗賊の頭をぱしぱし叩くサクラ。 「ひいぃっ」ぶるぶる震える盗賊。 洞窟の壁に巨大なモヒカンの影絵が映った。マリーが来たのだ。 「ひいぃぃぃぃぃぃ」 「あ、あのな……そんなやり方じゃ、吐くものも吐けないぜ」 ぴしっ。朝霧が、光条鞭を持ってやってきた。 ぴしっ。 「ひいぃぃぃやぁぁぁぁぁ」 …… 洞窟の入り口では、ルイスが頭を抱えていた。 「ああ、そうですよ。僕のせいです……僕のせいで、こんなことになってしまったのですよ……」 「若いな」 「……え?」 見ると、外の岩陰にもたれている、獣人の姿がある。 「な、し、しまった。敵……?」 ルイスは剣を探す。 「この先に、道が二本に分かれるところがある。一方は湖を渡る。そのほとりで、盗賊ども射手が待ち構えている。船を出せば、蜂の巣だ。 もう一方の、洞窟に入る道を行くがよい」 月明かりに照らされる。片目に大きな傷痕。 「だ、誰なんです?」 「力を貸そう」 「……」 * 一行は翌日、謎の獣人ロボ・カランポー(ろぼ・からんぽー)の導きで、洞窟を抜けることになる。 盗賊の追跡は、執拗なものだったが、洞窟に入ると、その手も一旦止んだ。 盗賊への尋問から、盗賊勢力は黒羊郷とつながっており、略奪した物資も一部は黒羊郷へと流れていることなどがわかった。 |
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