リアクション
* 一方、黒羊旗と教導団との交戦となった三日月湖地方から、その夕刻、単騎ウルレミラを発った騎士があった。フード付マントが、その駆けるスピードに靡く。 【騎狼シューティングスターの駆り手】として騎狼部隊で活躍した菅野 葉月(すがの・はづき)。 この今三日月湖に起こっている事態を、騎凛に知らせる必要があるだろう。今や、何も知らずに黒羊郷へ何も知らずに向かうのは危険だ。 騎凛が発ったのは数日前。急ぎの旅でなければもしかしたら追いつけるかも知れないし、ルートも明確でないが、ハルモニアに寄るということなら、うまくすれば先回りも可能かも知れない。少しくらいなら時間がかかっても、そこに滞在している可能性もある。 そんな菅野の思いとは別に、騎狼を駆る葉月の前に座るミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、その体の温もりを背中に感じつつ、葉月と同乗できてご機嫌なのであったが。 * 「おい、クタのあんちゃん。もう、傷はいいのかい?」 「ああ……じっとしてられる気分でもないから」 「……。なんでえ、さっきまではずっと内ん中で頭かかえてたと思ったら、これだ。わからんね、若いのは」 「まあ、……色々あるってことで」 久多は、まだこの近辺をうろついているという教導団数名を山狩りする任務に加わったのだった。 外へ出ることさえ久しぶりである。 まだ、銃をうまく握ることもできない体だが。 「騎凛……」 がさがさ。 向こうの茂みから、何かが来る。 「おい、そっちだ! そっちに行ったぞ!」 「捕えろ! クタ!」 ざっ。 「!!」 久多の目の前に、現れた巨大な狼。乗り手は、フードに顔を隠している。 「き、騎狼だと?!」 「わっ。どうして?? 盗賊が待ち伏せしそうなところは避けてく方針だったんですけど……!」 「まあ、こういうこともあるよね! ワタシのせいじゃないからねっ」 「わかってますけど、今はこの包囲を突破しませんと」 教導団の一行を捕えんと、山全体に盗賊が包囲網を張っていたところだったわけだ。 「クタ、どうした抜け!」 盗賊の仲間がクロスボウに矢をつがえている。 「そうはさせないよっ。鬼眼!」 睨まれた盗賊らが武器を取り落とす。 「うっ、やつ、魔女を連れているぞ!」 久多は、取り落とした銃をおかまいなしに、騎狼に飛び乗った。 「わあっ葉月、お、落ちる!」 「ミーナしっかり! ちょっ、このっ離してくださいっ容赦しませんよ!」 騎狼は、久多をぶら下げたまま、盗賊達の間を突っ切っていく。 「クターーー!」 久多の体にぼんぼんと木々の葉っぱがぶつかってくる。 「お、俺は蒼学の久多だ! た、頼む。教導団の騎狼部隊だろ、騎凛のところへ連れてってくれ!」 「えっ。君、蒼空学園の……? パラ実でもあるまいし、どうして盗賊なんかに? ボクも、蒼学の菅野葉、……あっ!!」 ぼさっ。ざざざざざ、茂みの中に分け入る。 振り落とされんと必死の久多、思わず、騎狼を駆る菅野の胸に手を回した。 「あっ、あっ……ちょっと〜〜!!」 「え? え??」 「葉月はワタシのもの! 近づく虫は駆除に限るよね!」 「え? うわっ、鬼眼はやめて……」 ぼぼぼぼぼ。 こうして、菅野は久多を引きずって、久多は色々苦い思いを引きずって、騎凛らのもとへ、近付きつつあるのであった。 |
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