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消えた愛美と占いの館

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消えた愛美と占いの館

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マリエルの涙『苦戦、乱戦』
「腕に覚えのある方は前へ! そうでない方は後方を固めてください!」
 ライトブレードと光条兵器を二刀流で抜き放ち、ウィングが叫んだ。
「おいウィング! こいつら、反撃しちまっていいのか!?」
 リネン・エルフトの雅刀をこぶしで打ち払い、ヘイリー・ウェイクの放った矢をはじき飛ばしながら、恭司が吼える。
「手荒なまねは控えてください! 彼らは操られているだけです!」
「無茶言うな―――ッ!!」
 アストライト・グロリアフルのブレードトンファーを蹴り返しながら、ミルディアが叫んだ。
「あはは、蹴り飛ばすなんて、いけないコだ」
 アストライトは操られていると言うのに、隙あらばミルディアを口説きにかかっていた。
「ハッピー☆シスターズ! トライ☆アタ―――ック!」
 ファイリア、ウィノナ、刹那の三人が、逃げ場をふさぐようにフォーメーションを組んで、益代に飛び掛る。
「危ない」
 平坦な声で言って、白波 理沙、チェルシー・ニール、白波 舞の三人が、ファイリアたちに劣らぬ連携で、益代への攻撃をすべて阻んだ。
 理沙の短剣がファイリアの仕込み箒をはじき返し、ウィノナの氷塊をチェルシーの炎が蒸発させ――……。
「わっ、わっ、わわっ! 飛び道具は卑怯卑劣ッスよ!」
 舞が容赦なく撃ち込む弾丸を、刹那が転げまわって避けていた。
「くううー……誰が敵で誰が味方か訳分かんない―――ッ!!」
 だんっ、と床を踏みつけて、アルマは光条兵器を呼び出した。
 着弾と同時に爆発するグレネード弾を発射できる、グレネードランチャーの光条兵器だ。
「裕也、もう撃つわよ! 五大学校の生徒が、榴弾くらいで死ぬことないでしょ!」
「わーっ! やめろ―――ッ!」
 がしゃっ、とフォアグリップをポンプして榴弾を装てんしたアルマを、裕也がほとんど羽交い絞めにして止めた。
「くうー……まんまとやられました……」
 氷のつぶてに撃ち抜かれたおでこをさすりながら、綾乃が唸った。
 その手にはいつの間にか、ドラムマガジンを装着したトミーガンが握られている。
「だいじょーぶ?」
 ちょこんと首をかしげた美羽に頷いて見せながら、綾乃はトミーガンのチャージングハンドルを引いて放し、教導団が訓練に用いる弱装ゴム弾を装てんした。
「アヤちんはあくまで、まっぴーに肩入れするんだね? なんで? 占いの師匠だから?」
 美羽が問うと、綾乃は苦笑して首をかしげた。
「なんで……でしょうね。本当は、潮時になったらオサラバしちゃおっかな、って思ってたんですよ。益代師匠がアヤシイのは薄々気づいてましたし。……でも、なんかね、あの人の言葉とか、悩みとか、境遇とか聞いてたら、ちょっと放っておけなくなっちゃって……」
 眼鏡の奥で、綾乃の優しげな瞳が、笑った。
「少しくらいみんなに嫌われたってね……手を貸してあげたいって、思っちゃったんですよ」
「……そっか」
 美羽はポツリとつぶやいて、視線をちょっとうつむかせた。
 上靴のつま先で、とんとん、と床を叩く。
「美羽。戦わないなら、早く離脱しよう?」
 くい、と袖口を引いてきたコハクに、美羽はかぶりを振って答えた。
「ううん……離脱はナシだよ。だって、まだコハクとの距離が縮まってない」
「でも、美羽……」
「でもでも、まっぴーに肩入れする気はないよ。だってまっぴーは、このまんまじゃあたしより目立っちゃうかんね!」
 美羽は後ずさって、コハクから五歩離れた。
 視線はまっすぐ、綾乃の後頭部に向ける。
 綾乃は、舞と魔法を撃ち合っているウィノナの背中に、腰だめに構えたトミーガンを向けているところだった。
「いくよ……コハク、片ひざ立てて座って!」
「えっ!? あっ、はいっ!」
 条件反射のように、コハクが片ひざ立ちで座り込んだ。
 美羽が駆け出す。五歩分の助走を一瞬で終え、コハクのひざを踏み台にして高く飛び上がった。
 他人のひざを使った、変形シャイニング・ウィザードだ。ウィザードだけに。
「いっただき―――ッ!」
 高々と飛び上がって振られた美羽の蹴りが、頭ひとつ分高い綾乃の後頭部を捕らえかけた……が、
「何ですかうわっ!?」
 ぱっと振り返った綾乃は、とっさにしゃがんだ。
 美羽の蹴りは綾乃の頭上を掠めただけで、不発に終わる。
「不覚っ! あっ、着地……!?」
 着地に失敗した美羽は、そのままスライディングするようにリノリウムの床を滑った。
「くっ……裏切りましたね美羽さん! そーゆーことなら、容赦しませんよ!」
 綾乃が美羽に向けてトミーガンを構える。
 美羽もすぐさま立ち上がり、次の蹴りをお見舞いするため身を縮め……、
「わあっ、美羽! ぱんつ!」
「……へ?」
 コハクの叫び声に反応して、美羽は自分の下半身を見た。
 スライディングのせいでくるくると巻き上がったミニスカートの下から、純白の三角形がもうほとんど完全に露出していた。
「あー、まあいつものこ……!!」
 あっけらかんと言いかけて、美羽はあわてて両手でパンツを隠す。
「こっ……コハク限定でしばらく目をつむってて―――っ!!」
「隙ありです!」
 綾乃が、美羽に向けて腰だめに構えたトミーガンの、引き金を引いた。
 一分間に700発の速さでばら撒かれたゴム弾が、
「――させない!」
 射線に飛び出したコハクの身体に、吸い込まれるように着弾した。

「よくもマナをさらったなっ!」
 マリエルが叫んで、益代に飛び掛る。
「向こうから出向いてきたのよ」
 益代はすさまじい速さでワンドを振るい、マリエルの目の前にまばゆい光を発生させた。
「ひゃわっ!?」
 白熱灯に似た発光が、マリエルの目をくらませる。よろめく足を引っ掛けて、益代はあっさりとマリエルをあしらった。
「マリエルさん!? ……このっ!」
 アリアが、ハーフムーンロッドを振るう。
 ロッドからほとばしった雷術が益代を貫き……、
「どこを見てるの?」
 益代は、いつの間にかアリアの背後にいた。
「なにか、変な臭いがしているんじゃないの? 頭がふらふらするでしょう? 無理しないほうがいいわ」
 薄暗い部屋の中、オレンジ色の炎がちらちらゆれている。
 アリアはぶんぶんと頭を振って、益代を振り返った。
「――……くっ」
 アリアが構えたロッドの先に、益代の姿は影もなかった。
「ほら、無理するから。わたしがどこにいるのかも分からないでしょ?」
 いたずらっぽい声は、またアリアの背後から聞こえてきた。

「――おうおうおうおうッ!! バカ騒ぎはそろそろ終いにしな!」
 突然、乱戦で騒がしい占いの館に、トライブのよく通る声が響き渡った。
 ひと時の間、薄暗い部室に静寂が訪れる。
「あら、増援? どうしましょう、これ以上人形候補が増えても、置く場所がないわ」
 蛍光グリーンの瞳を細めて、益代が不敵に笑った。
「――魔女子さん?」
 トライブの後ろから顔を出した毅が、益代を見るなり言って、
「毅……さまっ……?」
 益代の笑顔が、凍りつくように固まった。