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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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第十八章

・予兆

「ウッド!」
「まったく、探したぜ」
  第二層の情報拠点で、セレンスとウッドは再会を果たした。
「良かったですね」
 ロザリンドが二人を見遣る。
「それにしても、今の音はなんでしょうか? 上で何が?」
 少し前、第二層の地面が揺れた。何かが上から落下したようだが、その正体は分からなかった。
「なんでも、合成魔獣がいたって話じゃないか。床を破って落ちたんだよ、きっと」
 司城が冗談めかして言う。
「これを見た限り、かなりの巨体だと想像出来るさ。こんなのが暴れたら、この施設が崩れたって不思議じゃないよ」
「それで怪我人が出てなければいいんですが……先程から上層階からの連絡がありませんし」
 ロザリンドにとっての不安はそこだった。図書館フロアからは定期的に連絡が入ったが、上層階からの連絡は魔獣と少女の確認以降途切れたままである。
「今の揺れの感じだと、魔獣に関しては大丈夫そうだよ? 女の子の方は分からないけど、ちょっと気になる報告があるよね」
 司城がまとめられた情報を流し読みする。
「少女から造られた機晶姫、ですね」
 俄かには信じ難い話だった。
「地球でだってサイボーグ技術が進んでいるんだよ。そういうものだと思えば不思議じゃないさ。もっとも、五千年前にその発想があった事には驚きだけどね」
 真剣な話をしているはずなのに、どこか司城は楽しげでもある。生徒の前で動揺はしまい、と強がってるようにさえも見える。
「しかし、その全てがここに封印されてるわけじゃないみたいですよ」
「きっと、他の機体も目覚めてるんじゃないかな? 失敗、成功含めて十体いるんでしょ?」
 司城の話を聞き、彼女は確認する。
「ありました。少なくとも五体は別々の場所にいるようです。しかし、それらも含めて全ての施設は元々国のものだったなんて……」
「一度認めさせてしまえば、いくらでも欺く方法はあるんだよ。その間に人脈作って資金源でも確保しておけば、何とでもなるし。あるいは、元々善良な医者とかだったら、支持も集められてたのかもね」
 ワーズワース個人に言及した文献は発見されていない。あくまでも可能性としての話だ。
「医者ですか? 確かにそれなら人や他の動物の生体についても深い知識を持っていても不思議じゃありませんね。入ってきてる情報からも、熟知していたとしか思えませんし……」
 その時だった、再び振動が起こる。今度は何かが落ちてきたというわけではない。守護者が現れた時と同様に、付近の魔法陣が光を放っていた。だが、その様子はおかしい。光は点滅を繰り返し、不安定な状態にあるようだった。
「これは、もしかしたら『崩壊』の前触れかもしれないよ?」
 司城が周囲を眺める。
「他の階でも起こってるのでしょうか?」
 無線での連絡を試みる。案の定、それは遺跡内の至るところで起こっているようだった。そのため、避難誘導をすることにした。地図を参照に、各階からの最短の経路を伝える。


・Cruel innocence

「あの女の子、何者なんだ?」
 ミューレリアはパートナーのカカオがいる大広間の入口まで退避していた。魔獣を下層へと落とした後、女の子に近付いた人間が次々と倒れていくのを見たためだ。何が原因かは分からない。念のため光学迷彩で姿を消してもいる。

「一体、何が起こってるんですか……?」
 最上層で起こっている事は、その場の者の理解の範疇を超えていた。広間には血の臭いが漂い始めている。
「おねえちゃん、どうしたの? どうしてこわいかおしてるの?」
 少女が次に捉えたのはファレナ達だ。ゆっくりと、歩み寄って来る。
「みんなうごかなくなっちゃった……」
 それが自分のせいである事を、少女は知らないようだった。どこか悲しげな顔をしている。
 そんな少女に自ら近付いていく者がいた。
「話し中んとこ悪いな。嬢ちゃんここの人か?」
 一階からここまで上がってきた北斗だった。彼のパートナーはその様子が見える程度に離れて見守っている。
 まだ目が慣れていないのが救いだろう。部屋の中に広がってる惨状をすぐに知らなくて済むのだから。
「あの馬鹿北斗……」
 無防備に少女と接する北斗に、ベルフェンティータは呆れるしかなかった。
「まあ、いいじゃないベル。あの女の子は任せて、私達は探すわよ」
 少女の注意が北斗に向いているうちに、広間を詮索する二人。
「魔道書はないみたいだけど、この武器は気になるわね」
 クリムリッテは壁沿いにあった魔力融合型デバイスを手に取る。そこには何らかの魔法技術が使われた痕跡が存在していた。
 一方の北斗は、少女と言葉を交わしていた。
「そっか、いつからいたのかは分からないんだな」
 少女の素性は判然としない。が、少女の悲しげな様子から何があったのかを聞き出す。
「遊ぶ友達がいなくなっちゃったのか」
「そうなの……だからおにいちゃん、あそぼうよ」
 これまでと同じように女の子は『遊び』を持ちかけてきた。
「お、俺と遊ぼうってのか。良いぜ、んじゃ隠れんぼでどうよ。俺が隠れて嬢ちゃんが捕まえる。俺に触ったら嬢ちゃんの勝ち。5分逃げ切ったら俺の勝ちな」
「わーい、おもしろそう!」
 本当に嬉しそうに、少女は満面の笑みを浮かべる。
「じゃ、十数えてる間に隠れるぜ」
 大広間は暗いため、隠れ身を使いながら死角を探していく。幸いにも障害物が一切ない、というわけではない。
 その様子を瑠樹とマティエが眺めていた。
「参ったな。俺達も遊びに乗ったけど、あの子自分の力を分かってないみたいだし」
 二人は光学迷彩で姿を消していた。
「でも、かわいそうですね。遊びたいだけなのに、触れただけで相手を傷つけてしまうなんて」
 兵器としての力を持たなければ、普通の女の子と変わらないのだ。そして本人は自分が何者かの自覚を持っていない。それは非常に残酷としか言えない現実だった。

(この辺でいいか?)
 北斗は巧みに少女を振り切った。もし、ベヒーモスがまだこの階にいれば、その巨体の死角に入り込むことも考えただろう。
 だが、

「みーつけた!」
 
 直後、またもや大広間に嫌な音が響いた。