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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

リアクション


第十六章

・ベヒーモス

「こっちだ、デカブツ!」
 最上層、大広間。ナガンは積極的に魔獣を引きつけていく。
「グルァァァア!」
 魔獣――ベヒーモスはナガンに向かって前足で殴りつける。その攻撃の勢いは大広間の床を抉らんとするほどだった。
「お次はこっちだぜ」
 ミューレリアが合成魔獣の足元に纏わりつく。踏みつけられたら一たまりもないが、そこはバーストダッシュで離脱して回避する。ナガンと交互に撹乱することで、確実に一ヶ所に攻撃を誘導する事に成功していた。


「これは、さっきあの本にあった……」
 合成魔獣の姿を認めたエメは、驚愕した。隠し小部屋で得たスクラップブックに映っていた獣、それが今まさに目の前にいるのだ。
「ベヒーモス……」
 蒼は声を漏らした。トランシーバーによって、図書館フロアでの情報も伝わってきている。獅子に似た獣の名前、特徴は完全に一致していた。
 しかし、他にも目を奪われる存在がそこにはあった。
「こんな場所に、女の子?」
 ファレナの目線の先には金髪のゴスロリ少女がいた。
「うわぁ、いっぱいきたぁ〜」
 その顔は嬉々としていた。フロアに入って来た全員の姿が見えていたようだった。
「敵意はないみたいだよ?」
 シオンが言う。禁猟区をかけている以上、相手が危険だったらすぐに気付けるはずだ。それに、話しが通じるようである。
「どうしてここにいるんですか?」
 卓也が少女に話しかける。愛くるしい無邪気な笑みを浮かべているが、そもそもこんな遺跡に小さい女の子がいるのは不自然だ。
「わからない。あの子とあそんでたら、とじこめられちゃったの。そしたらねむくなって、ずっとねちゃってたみたい」
 眠っていた、と少女は告げる。それはつまり、この遺跡――研究所が廃棄されてから五千年間眠り続けていたことに他ならない。
「あっちのおねえちゃんたち、あの子とあそんでて相手してくれないの……ねえ、遊ぼうよ」
 ふてくされたような顔をしたあと、すぐに卓也たちを見上げた。
「少女とはいえ女性。頼まれて断ることなど出来ようか。それでは遊びましょうか、お嬢さん」
 ルーメイが手を差し伸べる。
「わーい!」
 女の子は喜んで飛び上がった。だが、その場にいたものが認識出来たのはそこまでだった。
「ルー……メイ?」
 卓也が傍らにいるはずのパートナーを見遣る。そこには誰もいない空間が広がっていた。目の前には少女の姿がない。
 次の瞬間、何かが壁に激突するような、大きな衝撃が響いた。

「なんだぁ?」
 隠し階段を上り、大広間を歩いていた瑠樹が背後を振り返った。壁は抉れており、コンクリートのような破片が頬を掠めた。
「……女の子、ですよね?」
 マティエは金髪の少女の姿を確認した。陰になっていて激突して倒れたルーメイの姿は見えない。
「あれ、うごかなくなっちゃった……」
 少女に手を差し伸べようとしたはずのルーメイは、倒れたまま動かない。傷みのせいか、呻いている。しかし、瑠樹のところまでは聞こえない。
「今の音、あの子がやったのかな? いや、まさかなぁ」
 どう見ても八、九歳くらいの女の子が、素手で壁をへこませることなんて出来ようか。答えは否だ。普通に考えたならば。
「ねえ」
 少女が瑠樹達の方へ視線を向ける。光学迷彩を使っている以上、今は姿が見えないはずなのだが……
「あれ、いない……おかしいな」
 単に気配を感じただけらしい。
(どうする?)
(そう言われましても……)
 二人は困惑している。あどけない少女のようだが、抉れた壁の事がある。彼女がやったとしたら、警戒する必要があるからだ。
 きょろきょろと辺りを見回しながら近付いてくる。
 そこで、二人は光学迷彩を解いた。すると、女の子はすぐに彼らに気付いた。
「キミは、誰?」
 瑠樹が尋ねる。
「おにいちゃんは?」
 首を傾げた後、少女が聞き返してきた。
「オレ? 曖浜 瑠樹。こっちはマティエ・エニュール」
 反射的に自分とパートナーの名前を答える。
「あたしは、あれ、わからないや……」
 しゅんとする少女。どうやら自分の名前が思い出せないらしい。
「ずっとここにいたんですか?」
「うん、たぶん」
 それだけじゃなく、自分がここにいる理由も彼女は知らないようだ。
「ねえねえ、遊ぼうよ、おにいちゃん」
 少女がせがんでくる。
「遊ぶって言ってもなぁ」
 瑠樹はちらっと目を背ける。するとちょうど魔獣を翻弄しているナガンとミューレリアの姿は目に入った。
(あれはやばいよねぇ……)
 とはいえ、ここまで来て無視は出来ない。
「じゃ、追いかけっこしようか?」
 うまく走り回りながら、援護出来るかもしれない。そう考えてのことだ。
(この子の友達かペットかもしれないけど、如何せんあんな状況だからなぁ)
「うん! じゃあ、あたしがおいかけるね!」
 ひとまずマティエと共に少女から離れようとする。
「十数えたらスタートだよ」
 

「オーちゃん、戻っちゃダメ?」
 隠し階段ではなく、近かったからということで別の入口までオハンに引っ張られていた彩は、大広間の中へ戻ろうとしていた。
「見ての通りの状況だ。あんなのに襲われたらひとたまりもない。それに、さっきのを見ただろう?」
 オハンが指摘したのは、少女が人一人を容易く吹き飛ばした事だ。いや、もしかしたら手直接激突させたのかもしれない。あまりにも一瞬過ぎて目が追いつかなかったのだ。
「え、何が?」
 彩はその出来事にすら理解が追いついていなかったようだ。
「あれ、あの子いつの間にあんなところに?」
 ようやく、少女が別の場所に立っている事に気付いた。その脇を、何人かが通り過ぎていった。
「目を押さえてるけど、何やってるのかしら? かくれんぼ? 遊ぶんならあたしも混ぜてもらいたいな」
 中へ戻らんとする意思は変わらない。
「彩殿!」
 オハンはそれを必死で食い止める。それほどまでにこの大広間の中が危険だと彼は感じているのだ。
「そこで何やってんだ?」
 ちょうど入口に高崎 悠司が通りかかった。まだ着いたばかりなため、部屋の中の様子はよく見えない。
「この中は危険だ。今ここから出ようとしている」
「違うよ、中の女の子と遊ぶんだよ」
 二人の言葉は食い違っている。
「女の子?」
 悠司が中を注視する。すると、金色の長髪がうっすらと見えた。
「こんな場所にあんな小さい女の子か。妙だな」
 彼は訝しんだ。徐にトランシーバーを手に取ると、何かそれに関する手掛かりが見つかったか問い合わせる。
「まだ分からずか。そういえば人型兵器ってのがあるって話だが……まさかな」
 その少女の姿が、おぞましい兵器にはどうしても見えなかった。
(何にせよ、確かめればいいか)
 悠司はそのまま大広間に足を踏み入れて行く。
「はーち、きゅーう」
 何やら呟いている少女に悠司が近付き、声をかけた。
「嬢ちゃん、ちょっといいか?」
「じゅーう……なあに?」
 女の子が悠司を見上げる。
「あんたが守護者の結界にちょっかい掛けてたのかい?」
「しゅごしゃ? なんのこと?」
 きょとんと首を傾げる少女。
「いや、知らないならいい。それと、今何してたんだ?」
「いまからおいかけっこするの! おにいちゃんもやろうよ」
 無邪気に遊ぼうと誘ってくる。
「ああ。ただ、追いかけっこするんなら場所はこの部屋ん中、あとは俺が離れるまで……五秒くらまで待ってからスタートだ」
 ルールの提案をするとともに、部屋の状況確認の意味も込めて室内を駆ける悠司。


 その間にも魔獣との戦いは大詰めを迎えていた。
 合成魔獣の雄雄叫びはそれだけで衝撃波を発するから注意が必要だったが、ナガンもミューレリアもなんとか食らわずにいれた。
「お次はこっちだ!」
 魔獣の殴打はいい具合に同じ箇所に集約されていた。もう少しで床に穴が開きそうだった。
 さらにナガンは近くに落ちていた試作型兵器――魔力融合デバイスを起動させ、魔獣の攻撃地点に投げつける。当然、敵の一撃によって破壊されるのだが……

 ドンッ!

 武器の中に収められた魔力が暴発し、魔獣が真上に吹き飛ばす。さすがにそれほどの威力があるとはナガンも予想はしてなかったようだ。
「うわあ、すごい威力だぜ」
 ミューレリアも魔獣を見上げる。
 そのまま落下し、爆発によって脆くなった床を突き破り、下の階へと落ちる。
「ばいびー」
 轟音、二十メートルの巨体は下層の床に激突したようだ。大広間にまでその衝撃が伝わってくる。
「無茶しやがって……」
 それを見ていた悠司が呟く。
「あれ、あの子どこ行ったんだ?」
 室内にいるはずの少女の姿がどこにも見えなかった。
「つーかまーえた!」
 突如声が聞こえてくる。真上からだった。
 普通ならタッチされる程度で済む……はずだが、
「ぐはっ!」
 声を聞いた直後、彼は床にめり込んでいた。急に視界が暗くなったため、何が起こったのか理解出来ない。
「もう一人のおにいちゃんはどこかなー?」
 きょろきょろと辺りを見渡す少女。それから室内を移動し始めたが、その速さはさながらバーストダッシュを使っているかのようだった。ベヒーモスが落ちた穴が部屋には開いているが、軽々と飛び越えている。ほとんど無意識にやっているようだ。
「で、さっきのお嬢ちゃんは、っと」
 ナガンが今度は周囲を見渡して少女を探している。注意は払っていたものの、魔獣の相手をしていたためいつの間にか見失っていた。
「あれー、あの子もいないや」
 少女はベヒーモスの姿が見えない事にも気付いていた。
「ねえねえ、このおっきいのどうしたの。あの子は?」
 ちょうどナガンの近くにいたため、彼女の方が声をかけた。
「ああ、下じゃねェかな。元気がよくってよ」
 と、ナガンは穴の辺りまで行って覗きこんでみる。
「大丈夫そうだ」
 実際はよく見えなかったが、少女が不安がるといけないので適当に伝えておく。
「さぁそろそろ遊びは終わりにして、お喋りしようじゃないかお嬢ちゃん」
「えー、もっと遊ぼうよー」
 少女の方は譲らない。既に二人、彼女の『遊び』の犠牲になっているが、当人にその自覚はないようだ。
「じゃ、仕方ねェ。ちょっとだけな」
 わずかに嘆息し、少女に視線を落とす。孤児院の管理人もしているナガンには何か思う所があるようだ。
「わーい!」
 少女が喜びのあまりナガンに抱きついた。
「っっ!!」
 
 ナガンは身体の骨が粉々に砕ける音を聞いた。遺跡の記憶は、そこで終わった。


・機甲化兵クワトロ&ノヴァンタ

「そう簡単には倒れてくれませんか」
 優梨子は変形し、騎士の姿となったガーディアンに苦戦していた。身体は至る所に剣による傷があり、体力、精神力ともにかなり消耗していた。
 敵の方も決して無傷ではない。ドラゴンアーツを併用した遠距離からの轟雷閃は、破れた装甲からかなりのダメージを与えていた。それにより、雷電属性で動きが鈍ることが分かり、轟雷閃を畳みかけたのである。
 しかし、それでも相手は倒れなかった。装甲がダメになったら、その部分を分離し、今度は動作そのものを速くしたのだ。弱点も当たらなければ意味がない。
「お嬢、やばいですぜ!」
 蕪之進はその場に近付く気配を感じ取った。もう一体のガーディアンも目と鼻の先まで迫っているのである。このままだと挟み打ちだ。
 その時である。
「先客がいましたか!」
 まさに騎士型と戦おうと、美央が槍の形をした魔力融合デバイスを手に戻って来た。
「随分苦戦してるみたいだな。今度こそ、倒してやるぜ」
 ショウと小夜もその場に駆けつける。
「出来る事ならこのまま戦いたかったのですが……そうも言ってられませんね」
 優梨子も構えを取る。
「美央、後ろからもう一体来マス!」
 ジョセフが背後から来る銃撃型をその目に捉え、戸惑う。
「挟まれましたか。ジョセフ、少し時間を稼いで下さい」
「小夜、頼むぜ」
「えぇい、畜生ッ! 足止めするしかねぇか」
 三者それぞれのパートナーが背後から迫り来るガーディアンに向き直る。
「では、いきます!」
 美央が先陣を切る。手に入れた武器を起動させると、槍が電撃を帯び始めた。
 同時に、騎士が一歩踏み込む。装甲の大半を失って軽量化されたために、一瞬で間合いを詰めてきた。
「まずは動きを封じるか」
 ショウがアルティマトゥーレを繰り出す。だが、敵は跳躍し、それを容易く交わしてしまう。
「そこです!」
 優梨子が轟雷閃を帯びた突きを浴びせようとする。しかし、それを相手は剣で受け止める。その構えのまま回転、人間には不可能な動きである。
 その間、美央はディフェンスシフトとファランクスによって相手の動きを見極めていた。
「来る!」
 有り得ない態勢からの斬撃。もし構えていなければ深手を負っていただろう。それをかわし、轟雷閃を浴びせる。それは槍型魔力融合デバイスの威力も合わさり、敵を貫いたばかりでなく、全身を焦がすほどであった。
「すごい……」
 驚きで目を見開いたのは武器の使用者である美央だ。何やらこの遺跡に強力な兵器があるかもしれないという情報を得ていたが、これほどとは予想だにしていなかった。
 既に敵はショート寸前という状態だった。
「終わりにするぜ!」
 その隙にショウと優梨子が轟雷閃を繰り出す。騎士の姿をしたガーディアンは刃に貫かれると、完全に沈黙した。

「こうなったら仕方ありまセン!」
 銃撃者型が攻撃のためにその銃口を開いた瞬間、ジョセフはサンダーブラストを発動する。
「電撃が効くってんなら、コイツはどうだ!」
 蕪之進がラブセンサーで電気を浴びせる。銃口は装甲も薄いためか、かなり効果があるようだ。
「お待たせしました」
 剣士型を倒した三人が援護に加わる。
「さっきのヤツほどではなさそうだが、油断は出来ないな」
 ショウが氷術で銃撃者型がいる床や天井を凍らせる。
「小夜!」
 今度は小夜が火術でそれを溶かし、敵を濡らす事に成功する。
「行きますよ、ジョセフ」
 美央の指示によりジョセフが二度目のサンダーブラストを繰り出す。
「これで……終わりです!」
 美央は先程と同様に電撃を帯びた槍で轟雷閃を繰り出す。既に多くの電撃を浴びせられていた銃撃者型のガーディアンは、その一撃で炭化し、崩れ去った。
 一切の銃撃の隙も与えずに葬り去ったのである。
「ふふ、なかなか楽しめましたよ」
 優梨子は呟くと、ひざをついた。一対一で騎士型と最も長く戦っていたのだ、無理もない。
「まずはヒールを……」
 小夜がその様子を見て、ヒールを施そうとする。
「お嬢、大丈夫ですか?」
 蕪之進が駆けよる。
「ええ、もう少し近くにお願いします」
「え……ぎゃー!!」
 そのまま優梨子は吸精幻夜を三度行使した。
「帯びていた電撃が……消えました」
 美央の手にあった槍の電撃が消失した。再起動しようにも、もう反応しない。
「どうやら時間切れのようデス。もうさっきみたいにはならないのでショウ」
 この場の者達は知らないが、魔力融合デバイスは不完全である。それでも、機甲化兵計画の雛型六体のうちの一体を葬るほどの力を持っていたのであった。