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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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第6章 砂漠にて

「レジーヌ!」
 また、襲いくる敵の牙。姉と慕うレジーヌの姿も見えない。白の剣を抜きざま、斬り落とす。
「あっ。レジーヌ」
「え、えぇ、大丈夫。エリーズ……! 今は、自分の敵を。うっ」
 レジーヌも、ロングスピアを振るって、纏いついてくる凶暴な生き物を打ち払う。砂漠を飛来するこざかしいデザートフライの群れが二人の旅人を襲っていた。
 ――「レーゼセイバーズは獅子小隊(鋼鉄の獅子)に加わったようなので……ワタシはワタシの出来ることを探してみます」。バンダロハムで旅人らしい服装、旅の備品、それに馬も手にいれ準備を整えると、砂漠へ発った、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)。「たまにはレジーヌと旅とかしたいよねー。オヤツ持ってピクニック!」エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)にしてもそんな小旅行気分だったのだが……。
「えぇいっ。こいつで最後ねっ? レジーヌ!」
 砂丘の上で戦うレジーヌのもとへ走る、エリーズ。
 レジーヌも必死で、しつこく飛び交う敵を一匹、また一匹と払い落とした。エリーズの剣が、とどめを刺していく。
「はぁ、はぁ。……エリーズありがと」「はっ。上!」
 もう一匹いた。
 ヒュルッ。そこへ飛んでくる、投げ刃。それが頭に突き刺さると、敵は落下し息絶えた。
「あぁ、……っ」レジーヌは、その場にしゃがみ込む。「助かりました……ね?」
「レジーヌ……」
 刃の飛んできた方角の砂塵の中に、幽鬼のようにゆらめく黒い影たち。
「あ、あっちもだ……!」
 二人の周囲を取り囲んでいた。
 剣をかまえる、エリーズ。レジーヌも、槍を支えに、立ち上がる。
「敵……? 盗賊?」「エリーズ、もう、戦う力が……」
「俺たちはバルバロイだ」
 砂塵の中から現れた一人の男。厳つい狼の迷彩を施したバラクラバに、サングラス。
「バルバロイ……野蛮人? 何するつもり、レジーヌには近づかせないからね!」
「レジーヌ? ……ああ。俺たちは、お前たちの敵ではないが。……。
 何処へ向かっている?」
「ワタシたちは……」
 情報を集めて来ようと、向かったのはドストーワ。列強国の一つだ。黒羊郷に最も近いが、砂漠を通って山脈の麓にまで辿り着かねばならない。三日月湖からは四、五日はかかるし、砂漠の旅は安全ではなかった。このように……
「……ドストーワか。まずは、ここを少し西に行けば小さなオアシスの町がある。そこに寄るといい。ドストーワは、まだ遠い」
 その声は、聞いたことがある気がするが……。それだけ言うと、彼等は吹きすさぶ砂漠の風に足音もなく、砂塵のなかへと姿を消していった。
「バルバロイ……レジーヌ? レジーヌ……怪我も少しひどいし、まずはオアシスの町へ」



6-01 グレタナシァ

 三日月湖地方より北に行くと、まず、すでに何度か登場している国グレタナシァに着くことになる。
 その南北には、国境砦といわれる実際には敵の侵入を防ぐために続く長城があり、西の山脈の麓から、東は大砂丘の窪みのあるところまでに伸びている。大砂丘の付近には、廃墟群があり、ならず者どもが暮らしている。グレタナシァの東と北はもう砂漠である。砂漠の旅人を襲う集団だ。今、彼らは対教導団のため兵としてグレタナシァに雇われている形で、国境付近に固まって屯している。
 なので砂漠へ向かう旅人は今、彼らの餌食になることなく行けたのだが、逆にグレタナシァ付近は物騒な雰囲気になっていた。
 教導団との戦いが膠着状態にあることで、彼らの気も余計立っていたのだ。
 同じく、グレタナシァ国境付近に駐屯している第二波として送られた黒羊軍とも険悪な状況にあった。

 そんな物々しい国境を軽くひとっ飛びして、グレタナシァ国内に入り込んだ者ら……
 夜陰に乗じて、空飛ぶ箒でそっと下り立つと、行商人に姿を変えた。「何とか、慎重にコースと高度を選んだ甲斐はあったわね」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)ら一行だ。
 ひとまずは無事、グレタナシァへ入った。
 湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)は、商隊の護衛役に付く。ならず者の国……と言われる。そう聞かれる国の筈だ。国境には、たくさんのならず者達が、黒羊軍の兵に怯える様子もなく、戦いのあるまで好き勝手に騒いでいるというほどのものだ。が……
 見渡しても、街をしばらく歩いても、柄の悪そうな連中の姿は見かけられず、比較的高貴な服装をした人々が、不安げな面持ちで行き来しているといった様子だった。
「ふぅん。なんだ、少しつまらないくらいだわね……」
 宇都宮自身も、絡まれれば、護身のために鍛えてるわよ? とばかりに、反撃してやろうと思っていたのだが。もちろん、正当防衛の範囲で。
 事を荒げなくて済むならそれに越したことはなかった。
 まだ、内情のよくわからない土地だ。
 セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)は、商いをするのに必要な役人や元締の許可を得る名目で、接触を試みていた。そこから、上層につながる話を聞ければいい。だが、下っ端らしい役人と話をすると、この国は、基本的に外部からの交通を断っており、どうやら、決まった取り決めのある商人としか取り引きをしていないことがわかった。「そう言えば、あんたはどこの商人の部下かね?」危うく、怪しまれるところだった。
「うーん。どこに付け入る隙があるでしょうね」
 三人は、考え込んだ。
 三人はとりあえずこのような状況であったので路線を変え、しかしせっかく国内に入ったのだ、あまり目立たぬよう、別れて酒場などに出入りし、取り引き商人の従者や護衛と偽り、話を聞いてみた。
「あの、国境の物々しい警備は?」
 黒羊軍と、ならず者ども。無論、教導団との戦のために集まっているのだが、そもそも、ならず者は、グレタナシァとは、外敵から守ることで食糧や物資を分け与えて貰うという関係にあるそうだった。彼らは普段は廃墟群の周辺に住み着き、砂丘を越える旅人に通行料を要求したり、あるいは相手によっては略奪や殺人を平気で行っている、そうして生活しているらしかった。
 グレタナシァは、自国の防衛手段は、ほとんど持たないのだ。それでも独立した小国なので、1,000ほどの兵はあるので、国を守りきるくらいの兵力ではあると。もっとも、ならず者どもが力を強めれば、国を乗っ取られかねない、という不安も常にあった。それに、他の同じ黒羊郷側列強国には及ぶべくもないので、同盟しているとは言え、彼らにも不安を持っていた。彼らからは要求があれば、領内に兵を入れざるを得ない。今、兵は長城の外にいるが、黒羊軍の指揮官クラスかと思える者の姿は、国内にもちらほら見られた。
 (まだ統率の執れた黒羊軍ならいい。しかし、凶暴な兵を持って知られる、ドストーワ、あの国が、この上に加わってくるという。ドストーワの兵は、野獣兵と呼ばれ恐れられている。獣人による戦闘部隊なのだ。)
 長城に囲まれているように、このグレタナシァとは、砂漠に閉じた小さな国なのである。こざっぱりした、綺麗な国でもあった。
 ともかく、今、教導団を攻めるための拠点として黒羊軍に宿舎等を提供している形で、ならず者勢も、対教導団の兵力としてここに集められたのだ。だが、最初の戦い以降、この方面軍の指揮官はなかなか積極的な攻撃をかけようとはせず、東の谷や水路から進軍する部隊との同時攻撃を待っているのである。(それに、あるいは今、北からここへ向かっている……彼らが到達すれば、一気に教導団を、手始めに岩城から攻め落としにかかるかも知れない。)

 宇都宮は、マジケット販売用に制作した同人誌『同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)』(内容:百合なのに薔薇な桜井静香本)を持参していた。
 静か(な秘め事)は言う。「母様の故郷では"神代にも騙す工面に酒が要る"とかいう言葉があったそうですけどー。持っていくものにお酒がいるってことでしょうか? それとも今回の場合は酒場で現地民と溶け込めてことでしょうか?」
 お酒……か。ならず者に酒を届ける、というのもいいかも知れない。黒羊兵への差し入れにでもするか。それとも、やがて来るという北の野獣どもに?
 宇都宮は、晩、酒場で絡んできた商人に相手をしてさしあげるわ、と外へ誘い出し、正当防衛の範囲でやっつけると、彼らを縛り、取り引き商人の手形と服装を手に入れるところまで成功させた。
 これで、国の上層にも売り込みができる。
 宇都宮は微笑する。さて、どこを動かそうか……?




 宇都宮らがグレタナシァに入ったのと同じ頃、こちらは、国境付近を抜けていく三人組の姿があった。
 まず、彼女らを黒羊軍が止め問い質そうとしたが、
「教導団ね、一緒にするなよ」
 ボク達は傭兵なんだよ、と言って振り切って行った。どうやら、黒羊軍の連中は上に従うばかりで頭も固く、話のわかるような奴らじゃなさそうね、と思う。――この地にやってきた桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)の三人だった。何を求めて……それはお楽しみとなろう。
 次に、ならず者どもが絡んできたが……彼らは、この三人組が三人だけで十分危険な集団であることを、略奪等で生きてきた者の直感で感じ取った。
 桐生円は赤い目を、オリヴィアは鋭い牙を光らせている。
「これでもよめばぁ? お似合いだよねーっ」
 ミネルバは、ならず者どもに『首刈り上等』(復刻版・国頭書院刊)をぶん投げた。
「おぉ?! 面白ぇ。こいつはやべぇ」
「おい、それよりこいつ等三人ぜってぇやべぇぜ」
「手を出すな。絶対にこれ以上関わり合いになるな」
 ならず者のリーダーは、三人組に、この先にある小国群のことを話して聞かせ、さっさと道を通した。
「あっ。この『首刈り上等』一巻の次、三巻だ」「あいつら、二巻を置いていかなかったんだ」「くぅぅ、わざとやったな。これじゃ気になって夜も眠れねぇーー! おい、なんで三巻の最初で主人公の国頭たけしがいきなり首だけになってるんだ。二巻で……二巻で一体何があったぁぁああ!!」
 ひゃっはー!!
「無様ね」「あでぅー」「あはは、あいつらばか」
 野望を秘めた三匹、砂漠を行く。



6-02 王羊隊

 グレタナシァ国境の、黒羊兵ら。
「ちっ。何でこんな他国の長城の国境警備みたいなことやってなきゃならぬのだ。何故あんな三日月湖など、ひと息に攻め落さぬ」
「指揮官が臆病者なのさ。
 こないだの岩城での敗戦で、これ以上負けるのが怖くてグレタナシァの内に閉じこもってんだよ。何か敵の機晶姫が暴走しただろ? あれを見て怖くなったんだ」
「あんな小城、何度か攻めればすぐ落ちるのに。それにしても奴ら……」
「ああ。ならず者どもめ。毎日酒ばかり食らいやがって。こっちにも寄越せというのだ。いざというとき、役に立つのか」
「あいつら、女も略奪し放題だとよ」
「ちっ」
「その一方、よくやるぜ。あいつら」
「ああ……あれにはあれで、あきれたもんだがな」
 国境前の平野に、兵を展開し、訓練にいそしんでいる部隊がある。
「おらおらぁ、動きが遅いよ!」
 鬼軍曹。甘利砲煙(あまり・ほうえん)
「はぁはぁ」「ぜぇぜぇ」「甘利軍曹……」
 しかし今や、そのいでたちは立派な黒羊軍である。
 食い詰め集団としてスタートした五月蝿ひろし(さつきばえ・-)は、こうしてまず食い詰めどもを黒羊兵の一隊とするところまでのし上げた。
 統率のない寄せ集めだった集団に、部隊としての動きや、軍律というものを叩き込んだ。
 すでに怠惰な者は罰に砂漠でマラソン、砂漠で腕立て、不服従な者は、甘利の雷術を食らっている。が、訓練上優秀な者には、ひろし同席の上、パールやG(ゴルダ)を与えた。それに、何よりオフは一転。彼らの食事や酒席に付き合った。(そこでも、酔い潰そうなどまた寝込みを襲おうなどの不届き者には、軍律に照らし吸精幻夜。すでに20名程を下僕化した。)
 ひろしはひろしで、そういった兵の中から、比較的頭の回りそうな者若干名を本部付スタッフとして抜擢。
 だがこれには悩まされた。
 食い詰めの中に、なかなか比較的も頭の使えそうな者が少なかったからだ。
「おれは算す7級だったべだ」「おらはパラ実後頭部出身だよ」「おっすひろち。元気か?」比較的、……
 それに……彼らを選ぶ条件の中に、ひろしに年恰好の似た者ということがあった。この三人に、参謀教育を施す。こうして、ひろしの下に、三人のひろしを継ぎそうな者が育てられつつあったのだ。
 こうして、兵らとの絆値も上がってきた。
 ひろしは、そうやって徐々に力を蓄えてきた兵を面接の上、三班に分かち、各々隊長・副隊長を任命した。
 ・ 猟兵隊(敏捷で機転の利く少数精鋭。主として斥候・謀略任務予定)
 ・ 竜騎兵隊(頑強で、出来れば乗馬に秀でた者。機動迂回や野戦最終局面での蹂躙突撃担当)
 ・ 主力隊(その他大勢)
 やはり、頭一つ抜けて目立ってきたのは、ジヴダだった。間違って名前が出されただけだったにしても、それで名前ありのNPCになっただけの者ではあったのだ。ひろしはジヴダをその他大勢……主力部隊の隊長に任じた。他の二部隊は、前回ジヴダに食いついた名無しNPCくらいしか、今のところいなかった。
「使えるやつがなかなかおらんですな」
 そんな時、バンダロハムからひろしのもとを頼れと言われて来た者がある、という。
「! 来ましたか。私の禁書……魔道書{bod}チトー・リヴィオよ。よくやりましたな。どれ」
 彼らは、バンダロハムの亡命貴族で、三日月湖での教導団の支配が当面ゆるぎないようだと、ある本の進めにあったという。
 さて、何にこき使ってやりましょうかな。
 その間、
「全く……なぜ余がこのようなことをせねばならんのだ」
 フランシスコ・ザビエル(ふらんしすこ・ざびえる)は、もともと他人より腹の減り具合がひどかった食い詰めどもを満足させるだけの糧秣集めに右往左往していた。無論、黒羊軍の下にある今、食糧に困ることはないのだが……それにこの後は、王羊隊としての制服も必要になる。……おっと。
「王羊隊?」
 黒羊兵に聞かれそうになった。
 そうであった。こうして、ひろし率いる部隊は、グレタナシァ国境に駐屯している黒羊軍の中でも、かなり目立って特異な部隊になりつつあった。
 指揮官は閉じこもっており、今は軍を動かすつもりもないらしいのでよいが、別の指揮官が来るか、状勢が変わってくれば、……やがて兵を再編される可能性がないとは言えない。そうなれば兵の鍛錬させられ損ということにもなる。せっかく絆も高まってきたのだ……。今はまだ、いちばん下級の部隊。今のうちに……
「ひろし殿」
 グレタナシァ駐屯軍の指揮官よりお呼びがかかってしまった。まずいかも知れない。その話とは……
「砂漠の小勢力が、グレタナシァを狙っているという」
 それの討伐に動いてくれないか、という。
「我々黒羊軍の本隊は、教導団と睨み合いが続いている。ここを動けん。
 もともと、傭兵集団である貴公らには、遊撃隊の位置に付いて頂きたい」
 黒羊軍第二波の将軍ラッテンハッハはそう語る。
 ちょうどいい。実戦の訓練になるかも知れぬ。それにそろそろ、動きを見せるべき時か……?
「そうですか……では、私どもは、砂漠で一戦交えて来ると致しましょうか。
 しかし、よくよく気を付けた方がいいですぞ。あの岩城を守る松平岩造率いる龍雷連隊。教導団第四師団最凶の部隊として、恐れられております故」
「ご、ごくり。そ、そうであるな。少しずつ攻めていこう。兵糧攻めがよいか」
「ええ、まあそんなとこでしょう。では、ひろしめはこれにて」



6-03 吸血鬼の国

 小国群生地域。
 砂漠の一国が、何者からにけしかけられたらしくグレタナシァ攻めに行った。という話を、近くの滞在村で聞いた、この三人組……もちろん、桐生円(きりゅう・まどか)オリヴィアミネルバの三人だった。
「チャンスだね!」
 三人は早速、その国を訪れた。
 オリヴィアの政治・法律、ミネルバの武力、更に貢物(『首刈り上等』第二巻)によって、仕官が適った。
「問題はこれからだよね」
 三人は、一夜三人ずつ吸精幻夜で敵国幹部らを次々、洗脳していった。兵隊も同じように……ひと月かけて、将兵およそ100を洗脳。兵は親衛隊とした。
「肝心なのはこれからだよね」
「オリヴィアは、強国になるための法を作り上げようと思いますぅー」
「ミネルバちゃんは、トレジャーセンスでお宝さがすよー」
 早速オリヴィアが一夜で創り上げた法は、周辺諸国を驚かせた。(本国の幹部らは洗脳されているので全員一致で法案可決。)
「兵士のモチベーションのため、吸収合併で大きくなる予定ですから、能力主義による判断を」
 能力主義。
 手柄さえ取れれば、誰でも出世できる。オークでも出世できるのだ、とふれ込んだ。
「雨が少なくて乾燥した土地だからお水は必須ー。
 オアシスの位置はあくしとかないと死ねるかもしれないねー」
 ミネルバはトレジャーセンスで水を探した。それは、砂漠の小国だから、自国内に見つかった。ミネルバはトレジャーセンスで探索続行するうち、他国に行き着いた。
「おっ。お水はっけーん。
 ここは? よそのお国かー。よし攻め奪っちゃおう」
 この付近の国々は大体、オアシスのある場所にそれぞれが発達してきた勢力のようである。
「あーそびーましょー ミネルバちゃんあたーっく!」
 円は、そうしてミネルバが見つけてきた他国に、密偵を放った。
 洗脳国にまでは仕立てたと言え、ここは小国。資金も、資源も少なく、大きな発展は望めない。
「話のわかる小国同士結託して、話のわからない奴らを潰し略奪するか」
 しかし、なかなか話に乗ってくる勢力がない。
 どの国も、自国を守るので精一杯で、兵隊が国を留守にすれば、その間に乗っ取られる可能性がある。それは円らが証明していたのだが……。
 どこをどう動かす。
 密偵は、円が目を付けたブトレバと、三日月湖の状勢も持ち帰ってきた。
 ブトレバは、湖賊=教導団との戦いに力を注ぎ、水軍に大量の兵を投入している、か……
 三日月湖(教導団本営)は、そのブトレバ、東の谷、更には旧オークスバレーにと兵をあちこちに送っているか……いちばん近いのは岩城。龍雷連隊が砂漠やグレタナシァから侵攻に備えている。三日月湖以南の街道にはノイエ・シュテルンが展開、東の谷には鋼鉄の獅子。……
「さーて、いよいよケンカだねー! たのしみー。
 みんなとカチコミカチコミー」
「情報戦だねぇー」
「小国にハイエナは正当な手段だよ。さて、どこから狙ってやろうかな」

 ひろしの王羊隊、桐生円の吸血鬼の軍隊、そして謎の集団バルバロイ……
 砂漠は今、小勢力乱立の時代を迎えようとしていた。そして、時代は……?



6-04 オアシスの町

 ここは、三日月湖から、黒羊郷へ至る半ばほどにある、砂漠の町。

 ここにも、砂漠を旅して来た者の姿が。
「辺境民達の新しき神ジャレイラ……か。
 奴は本当に倒すべき相手か……見定める必要があるな……
 その為にはまず……ジャレイラ本人に会わないとな……。会えるだろうか。途中、奴に関する事が聞ければいいが……」
 この男は、グレン……そう、
「俺は教導団の人間だが、俺がジャレイラに会うのは俺個人の意思だ……たとえ、」
 教導団側に裏切り者扱いされても。
「俺は……自分の心に従う……」
 教導団のグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)
 しかし、何故か執事の格好をしている。で、
「……俺が執事で、ソニアがメイドなんだ? ……何故」
「こ、これじゃかえって目立つんじゃないですか?」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)も、一緒だ。そして、……でも、とソニアは思う。ちょっと恥ずかしいですけど……メイド服も、悪くない……かな。それにグレンの執事服姿も……いいかも……。
 グレンの方も、……気のせいか。……ソニアは喜んでいる? なんでだ? 確かに似合っているが……そう思っているのだった。
 そんな二人を見て、
 え? なんでグレンとソニアにあんな格好させたかって?
 ハハハ! 決まってんじゃねぇか……その方が面白いからだ!(キリッ)……なんて思っているのは、李 ナタ(り・なた)
 道教で崇められているナタ太子の分霊であり、二人の新たなパートナーとなってこれまで一緒に戦ってきた。大胆で能天気な、子どもの姿をした武神だ。『西遊記』や『封神演戯』にも登場する。
「……なんて、あの二人に知られたら、間違いなく……ソニアに死ぬほどビンタ食らって、グレンに潰れたトマト的なことにされるな……。二人とも怒ると怖ぇからな……」
「どうした、ナタク?」
「あぁ、いや……おっと、今はグレンは、俺に仕える執事って筈だぜ」
「……そうだったな……」



 この町で体を休めていた二人。
「私たちは、旅芸人の姉妹だよ」
 この人たち、何か知ってそうかな……こんな砂漠の町に、執事とメイドなんて。この人たちも旅人?
 そう思って、グレンとソニアに話しかけたのは……
 レジーヌエリーズだった。
 お互いの情報を交換する。
 グレンとソニアはこの後、黒羊郷へ……レジーヌとエリーズは、ドストーワへ、それぞれ向かうことになるのだが……突如、オアシスの住民たちが慌てて、家々に隠れていった。商店街も、店を閉め始める。
 やがて、何百という数には上ろうか、ぎらりとした獰猛な眼つきに、涎を垂らし、二又や三又の鋭い槍や仰々しい旗を携え、通っていく獣の軍勢。
 南へ向かって進軍していく。ドストーワの旗印だ。