リアクション
* やがて、その屋台は傭兵や獣人の間で話題になり、彼らは店を持った。 こういうところには、人が集まってくるものだ。 「まさか、こんなところで出会おうとはな」 「そうでございますな。しかしまぁ、あまり大きな声では話さぬよう。互い、潜伏活動してるわけございますからな」 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は、教導団が三日月湖で黒羊軍と対峙していること、それに、ここへ来る途でクレーメックと会ったことなども、話した。 「私には、遠大な計があってな」 イレブンは、付近の山に、騎狼部隊の隊員らと潜んでいるという。一人様子見に、ここまで下りてきた。同じ騎狼部隊のデゼルも、すでに独自の行動を開始している。彼らの計画とは…… 「そうでございますか。となるとまだそれはわたくしに教えてもらえそうにはございませんな?」 「ふふ。飲み屋の主人らしくなってきているな、ハインリヒ殿」 「しっ。その名は今は……ああそれに、わたくしは主人ではございませんぞ。あちらが」 店を切り盛り大忙しな、割烹着のその女性。 「女将になったか」 無論、彼ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)のパートナークリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)だ。和服フェチの中年男性に人気らしい。 「こんな所で、スキルが役に立つとは思わなかったわ」 ギャザリングへクスで強化した煮込み料理(看板メニューにはギャザリングシチュー、ギャザリングおでん、ギャザリングモツ煮込み……)。 おかげで、客の精力は漲っている。 「ねーちゃん」 「きゃっ! ……女の子へのお触りは禁止ですよ、お客さん」 尻に手を伸ばそうとした男性客を、どこからともなく取り出した光の弓弦のようなものでびしばし叩く。 「あのバイトの子は? ……光条兵器?」 「あ、ああ。これも大きな声では言えないが、剣の花嫁で、天津 亜衣(あまつ・あい)と名乗ってございます」 「そうか……実は私も、この土地に来てから、獣人の剣の花嫁(※)に出会ったのだ。彼女は、何でもご当地十二セイカらしい」※注:今唯ドラマ仕様の設定に変えてあります。 「ご当地十二セイカ? そのようなものが」 「ああ。あの子は違うのか? この土地で剣の花嫁に出会うとは……」 「いや、亜衣は、双子の妹の麻衣を探して放浪してたそうでございますな」 「双子……」 イレブンのところに、亜衣が酒を運んできた。 「それにしても……随分、女の子の露出の多い店だな。これには何か、意図があるのか?」 「もちろん、わたくしの趣味でございます」 このときはまだ、イレブンも、ハインリヒも、束の間の憩いのひと時に、楽しく笑い合っていた。 だがここは敵地・黒羊郷。さて、この地で彼らは…… 7-02 黒羊郷における変化 この男も、黒羊郷にいた一人だ。 刀を差し、街を歩く。彼は考えている。 ……教導団に戦争を仕掛けるだと……! しかし、いくら何でも装備の整った教導団に挑むのは、無謀じゃないのか? おそらく、秘策でもあるのだろう。 何れにせよ、俺一人ではどうにも出来ん。本隊の到着を待ちつつ…… 前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)だ。そんなことを思いつつ、ひとまずは職と寝床を探さねば、と。弓月もいるわけだしな。 俺にはこの刀と、それにドラゴンアーツもある。これを生かせる職が見つかればな…… 情報収集も兼ねて、と風次郎は酒場や宿屋をあたってみた。 「黒羊軍兵士は、どういった人間が担っている? 俺達のような、外から傭兵でもなれるのか?」 古い酒場のおやじは答える。「ここ黒羊郷は、昔は兵を持つような国ではなくてな。数千年前の戦争があった時分などはまた別だが……とにかくその後は、信仰の中心地として、栄えてきた。昔は……と言っても、ここ数年かの、こんな兵どもで物々しくなったのは。だがどこからこんな兵を入れたのかの。 以前は、ドストーワや、ハヴジァ、ブトレバといった国々が、この土地を護る役目を担っていたのではないかのう。あれらは、同じ信仰を持つ国から分かれたので、互いに争うようなこともまずなかったでな。他に砂漠や、河岸などにかつて幾つかの小国ができては消えていったが、黒羊郷側に立てついて生き残った国はないの。 あー、そうそう。黒羊軍の正規の兵はどこから借り受けたのかすでにきちんと編成が成された軍で、それに入ることはできんが、教導団を倒すべく志願兵は募っておるよ。それに、各地で、共に立ち上がらんという義勇兵も起こっておる」 「志願兵、義勇兵か……(職にありつけると言え、教導団と戦うことになるのはまずいな)」 そういうわけで、街は打倒教導団一色であった。 しばらくは、安宿で過ごす日々が続いた。「職を探さねばな……金が底を付く。弓月にも申し訳が立たぬ」 定期的に街へ出ていると、やがて、暴徒の噂が聞かれるようになった。 はっきりしないものだったが、黒羊兵か、黒羊軍に味方する勢力が、付近の黒羊教でない異教徒や獣人の村を略奪している、というのだ。急進的な考えの者が、打倒教導団に立ち上がらない村や非協力的な村を攻撃しているのだとか、義勇兵に立ち上がった者らが徒党を組んで賊徒化したのだとか。 「ふむ。何れにしても、仕事にありつけそうな雰囲気になってきたな」 暴徒相手なら。風次郎は、その夜、刀を磨いた。暴徒の討伐隊の募集があったからだ。 * ここで一つ思い出して頂きたいことに…… 第2章において、黒羊郷の義勇軍に参加した者達。 ルース、ウォーレン、清らの三人である。 彼らの主目的はジャレイラを追うことにあったが、その途中、ウォーレンはこんな噂を流し、ここ黒羊郷にいる教導団の者らに一役買ったことになる。 「俺も聞いた話だが」超感覚で小耳に挟んだ話を、情報撹乱のスキルによって広めた。「武装した信徒や黒羊兵の中に、付近の異教徒や帰依しない村を襲っている奴がいる……」 「火がないところに煙は立たぬ、ですよ」 そう言う清をなで、「こいつも巻き込まれかけた」と、ウォーレンは周囲の者らに語っていたのだった。 西の山脈……グラニニペス峠によからぬ動きが。とも。グラニニペス峠と言えば……撲殺寺院? 黒羊側の幾つかの後方部隊を混乱させる情報となった。 * グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)は、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)と二人、偵察に出ていた。 「頼りになる(?)先輩(温泉女将プリモ。)、心強いです。先輩に兵100はお任せして、私達は偵察の任に」 しかし、前回も迷って(その上黒羊郷にまで)来ているのだ、今回もやはり……迷った。 「私は何処? ここは誰?」 グロリアが、やばい。 黒羊郷付近の森を迷う二人。 レイラは、何かあったときには、自分がグロリアを守るため力いっぱい振る舞うんだ、とグロリアの背中に隠れながらも気を強く持ち、進んでいく。 「私の名はアンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)」 びくっ。レイラは、グロリアの後ろに更に回り込んで隠れた。 「なにやらお困りの模様。旅は道連れと申します」 「ああ、助けて下さるのですか。ありがとうございます……。 と、とりあえず道案内をお願いします」 土地の人かな? と思いつつ、付いていく二人。 「こ、こっちですか?」 「……」 「こっち、さっき私達が来た方……」 「……あっちです」 「こ、ここですか?」 「……違うようですね」 黒羊軍の陣地だった。 「おかーさん」「……(No! Noー!)」 「昨日来たときにはこんなものなかったのですがね。ともかく、…… 女子どもに手を出すような悪い人にはお仕置きです」 アンジェリカは剣を抜いた。グロリア、「おぉお! 頼もしいですっ」レイラ、「……(Yes! Yes!)」 「むっ? お前ら何してる」黒羊兵が気付いた。「おい、こんなところに子どもがいるぞ!」 兵がぞろぞろと集まってくる。 「女子どもに手を出すような……とは言え多勢に無勢。 グロリアさん、レイラさん? ここは三十六計逃げるに如かず。ささ、あちらに逃げましょう」 「おい? お前らっ」 三人は逃げた結果、迷い、同じ場所に戻ってきた。 随分、黒羊側に縁があるらしい。 グロリア一行はそのまま……黒羊軍の一隊に組み込まれた。 しかし、この黒羊兵ら、様子がおかしい。 「おい。さっきのこいつの剣見たろ? 光条剣。こいつ、剣の花嫁だ」 「ってことは、まさか……ご当地十二セイカ?!」 「俺達にも運が向いてきたらしい」 このように、黒羊郷側も、初期の戦いにおいては、一部急進派の過熱による暴動や、ご当地十二星華の影響による造反などが起こることもあった。 だが、それも信徒兵が戦に借り出されるまでのことだった。 彼らは、命令のままに、敵を……教導団を殺すことができる、命令次第では恐るべき殺人集団になり得る存在だった。 * 黒羊郷の地下。 仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)はまだ、地上に風次郎と弓月が来ているとは知らない。 「鏖殺寺院に借り受けた兵とは……鏖殺寺院も絡んでござるか?! (しかし、鏖殺寺院の兵、とは。どこから来ている兵でござろう。 それに、死を恐れん信徒の兵と。) ともかく、この地下神殿には悪の匂いがプンプンするでござる」 伐折羅は、忍装束(ブラックコート仕様)に着がえると、隠れ身で地下を探ることに。 敵の練度、規模、戦術……いかなるものでござろうか。 前回話し声の聞こえた、訓練施設かと思える近くまで来た。「鍵……でござるか」伐折羅はピッキングでこじ開けた。 「!」 大勢の人。 気配を感じられなかった。 こ奴ら、武器を携えているというのに。 「見られたな。ちょうどよい。お前ら、今から実戦訓練に移るぞ。 討て」 伐折羅は光術を放った。「退散でござる!」 だが、光術をものともせず、突進してくる。 「な、そんな……?!」 7-03 地下湖 何なんだここは。 よく分からんが……宗教信者の居住区か? …… ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)もまた、黒羊郷の地下に迷い込んでいた一人だった。 もっともナガンの場合は教導団などのことはどうでもよい筈で、ナガン自身の意志でここまで来たわけだったが。(もとは国頭にサーカスのことを聞いて来ただけが、こんなことにまで……。) 「教導な」やたら教導が嫌いみたいがだ、教導が嫌いな理由……いや、この宗教の考えってなんだろうかねェ。 相手のことをわかりもせず否定するのは馬鹿だしな。 教導はいつもバカな気がするけどな。「……ハハハ」 ……。 辺りは静かだった。先、ぽつぽつと信者らしい者たちの姿があったのだが、追って進んでみると、もう姿がない。 ……そろそろ頭に血上らせてないで冷静になるか。 「ン? 湖……」 洞窟のような地下道のような、薄暗い道を進むと、水のある場所に行き当たった。地下湖だ。 目が慣れてくると、ここは地下に開けた随分と広い場所で、信者らしいローブ姿の者たちが幾人か、水を汲んだり、周囲に寝そべっていたりした。 ここがこいつらの居住区なのか? 「アッ」湖を覗き込んで、ナガンは気付いた。素が出たのは、メイクが薄くなったせいだな。キッチリ直してナガンに戻らねば。 * 「宗教の偉い人に入信するならここへ来いって言われたんですけど〜」 「お前が? 入信?」 更に進むと、小さな寺社ふうの建物があった。 すっかりピエロメイクのナガンだ。 一般人立ち入り禁止っぽいし、説得力はある様な…… 年寄った厳しい顔の男。じーっと見てくる。 しかし、あっさりと、 「いいだろう。誰でも入信することができる」 だ、誰でも来れたのか。ここは。まぁ、入信できたら、何やるのやら、素直に従おう(このナガン、自分を捨てるくらいの道化はできるさ)。 一般立ち入り禁止の地下神殿というところは、おそらくもっと地下にあるのだろう。 「こんなピエロメイクでもか?」 「うむ。しかし、ここにいれば、そのピエロメイクなぞはいらなくなるだろう」 ……何? 「あれを見よ。あの湖は、無意識へとつながる湖じゃ。我々の教えを長年受ければ、あの湖の段々と深くにまで潜れるようになってくる……やがては、いちばん底に達する。湖の深くヘ潜れば、我々はそこで我々自身と出会う。それは我々の真なる姿じゃ。それを見れば、そなたはそのピエロメイクの後ろにある真のそなたと会うことになろう。そなたは、そのときそのままの姿でいられるかな?」 な、何だ。こいつ。大丈夫かよ。 「そして」 「ま、まだ何かあるのかよ」 「湖のいちばん底は更に、阿頼耶識の世界へ通じておる。そこまで行って、そして帰ってきた者は少ない」 「湖に潜って、帰って来れなかったらどうなんだ?」 「にたり。我々のよい信徒となれるじゃろう」 7-04 転換 "π(パイ)だけの存在になると、P2Pならぬπ2π通信が可能な領域。通信には携帯をπに接続する。バスト=2πRなので、通信距離はπのサイズに比例。沙鈴π>騎凛πのため、遠距離では一方通行トランシーバー状態。πのみの存在が一方通行送信できるのはπ情報のみ。故に騎凛に沙鈴のπ成分が移動。 結果:巨乳騎凛、貧乳沙鈴になる(Q.E.D.)" ……そして胸と記憶を失った沙 鈴(しゃ・りん)は、流れて、流れて、薄暗い湖のほとりに漂着した。 「……んっ。こ、ここは何処ですか?」 断片的に思い出すのは、えぇといつかどっかで指揮を執ってたとか、若作り(ェ!!)だとか、等等、おや、まるで誰かですね。 それはもう沙鈴ではない、騎凛 セイカ(きりん・せいか)だった。 「わ、わたしは……」 持っているのは、「きりん」と書かれた名札だった。「きりん?」 あの、修学旅行のときを思い出して頂きたい。騎凛が、沙鈴を日本語(かな)で書くとこうなるんですよ、と「さりん」と書いたものを渡したあれだ(該当頁紛失)、それが濡れて滲んだらしく、「きりん」としか読めない状態になっていたのだ。 「きりん……わたしは、きりん……」 その様子を、この地下湖で、信徒らと生活を始めたナガンは見ていた。「……」 「黒羊郷……一体ここは何なんだ? とりあえず、あれはどう見ても、国頭の天敵でもある教導のキリン教官だよな。一応、助けた方がいいのか。それにあの湖から出てきたってことは……? ……チッ。なんか、まだまだ面倒なことになりそうな予感だぜ……」 |
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