リアクション
* 「あなた方はその台詞を自分の大切な人たちにも言えますか?」 【ぶちぬこ隊】隊長御凪 真人(みなぎ・まこと)は、ヴァレナセレダの臣下らに、あきれていた。 ここは、ハルモニアに残る一砦会議室。 「何のために戦っているのかもう一度考えてみてください。そうすればそんな台詞は言えるはずもないです」 御凪は、強調する。 「だから諦めずに前を向いて立ち上がってほしい」 ヴァシャに退却すべし。ヴァシャの地でただ静かに死すべし。 彼らヴァルキリーを覆い始めた考えだ。 臣達は、不安気でもなく、迷ってもおらず、ただ厳かにそれを受け入れているという顔をしていた。 「決まったこと」 古老達は、会議には出てきていない。だが古老の言は臣下達にとって、絶対。彼らも今や皆同じ気持ちでいた。 「教導団と同盟して黒羊郷の犯そうとしている過ちを押さえられたならよかったが、それも無理なようじゃ」 ハルモニア領主の娘、ニケもただ静かにこれを聞いている。 「……何故です」 少し熱くなった御凪だが、つとめて冷静に、彼らに自らの言を続ける。 「いいですか。まだ、勝てる見込みは十分にあります。 まず、黒羊軍は各地で戦闘を行っているためこちらに戦力を集中できていません。 また、敵地に遠征している以上黒羊郷から補給を行う必要があります。これを妨害すれば軍隊は動くことも出来ません」 各個撃破していけば勝てる可能性は必ず有る。そう御凪は主張した。 「しかし、それにはハルモニアの人々全ての協力が不可欠ですから。 だから一緒に戦ってくれることを俺は願います」 臣は、黙っている。 「これ以上ヒラニプラを血で汚したくはないのじゃ」 「ふざけるな!」 扉を蹴って、若いヴァルキリーが入ってきた。 「貴様ら老いぼれは、勝手に死ぬがいい!」発言した臣の椅子を蹴ってこかす。隣国出身のバルニアというヴァルキリー戦士だ。「貴様らのしょぼくれた考えのおかげで、士気の上がっていた俺の部隊まで辛気臭くなってるんだ! 俺には地球人の恋人がいるのだ。俺は死ぬわけにはいかんのだぞ?」 「出て行けばよい。バルニア、お前は幸せに暮らしなさい」 「なっ! この老いぼれが……!」列席する臣の椅子を次々蹴り倒していくバルニア。「せっかく、貴様らのピンチを聞いて、故郷に駆けつけてやったのだ! 帰れだと?! ああ、帰ってやるさ、黒羊どもをここから全部追い出したらなっ!!」 ぼそぼそ。臣らは呟き始める。 「そ、そうです」ヴァルキリーにもこういう者がいたか、と御凪も言葉を付け加える。「そう思う気持ちは、皆さんにもある筈……」 「いやそのような考えは我々にはなかった。お前達地球の民、それにバルニア、地球の民に触れたお前も、我々とはもう相容れぬようだ。これは我々の思想なのじゃ。放っておいてくれ」 臣達はよぼよぼと立ち上がると、ぞろぞろ会議室を退席していった。 「くっ、おいニケ。おい御凪、行くぞ! こうなりゃ片っ端から砦を攻めろ。俺が砦1を攻める、ニケは砦2、御凪は砦3、月島が砦4、セシリアが砦5、桐生ひなが砦6、ナナが7を攻めろ! 敵の砦は七つだろ。今日出撃可能な奴はそれだけか? 行くぞ! おお、モカ・ミュイ、お前は俺と来い!! ぶちぬこを七つに割れ。一人七匹で十分だろ?! 1ぴきはここの守備に置いておこう、あのひん曲がった根性の老いぼれどもも一応守ってやらねば可哀想だからな。さぁ、今すぐ行くぞ!!」 「ちょ、……まあちょっと待ってくださいよ。そんな攻め方もありませんよ」 「な、何〜〜〜……!?」 「少し、冷静になって待ってみてください。もうそろそろ成果が現れてくる頃です」 御凪は、自身あり気にそう答えた。 8-02 それ行けぶちぬこ、食い倒れ分隊! ヴァルキリー達は意見がまとまらず、軍を動かす気配がない。だがその間にも着々と敵は侵攻をしてきているのだ。 そんな中……ぶちぬこ隊長御凪の指令で行動を開始していた、 【ぶちぬこ隊、食い倒れ分隊】! その任務は、偵察および補給物資強襲。つまり、敵側の砦を探りに行き、途中、敵の補給隊を見つければ襲って奪ってしまおうというわけだ。 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)、桐生 ひな(きりゅう・ひな)、各々のパートナーとぶちぬこ14匹を連れた一隊だ。 御凪の言った通り、敵もハルモニア内地に入り込んでおり、前線には物資を運び込む必要がある。 ハルモニアに点在する砦の位置を聞くと、分隊は行動を開始。 隊の先手を行くファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)は、敵地に近づくとやがて敵部隊を発見した。これは、砦攻めのために内部に陣を張る部隊であり、数も多かった。ファルチェは、数名のぶちぬこに見張りを指示すると、自身はセシリアのもとへ走った。 「ふむ、ちと数が多いの」 「陣の位置は、把握しておいた方がいいですね」ファルチェは、敵陣の位置も地図に書き込んでおく。 敵陣営は幾個所かあり、となると、予想通り、そこに食糧等物資を運んでくる補給部隊に行き当たった次第であった。 規模は小さい。格好の餌食だ。 桐生ひなは、待機中寝ていたナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)を叩き起こす。 「くしくし、とうとう戦闘で御座りゅ。 敵は……にひひ、50程度じゃと? 少々物足りんの、じゃが仕方がにゃいからこの妾も付き合うとするのじゃよ」 睡眠中、魔乳の間にはさんでいた機関銃を取り出した。 木陰から、ファルチェが、すっと指示を送る。 「こくこくにゃ」「よし、ものどもゆくぞにゃ」 ぶちぬこどもが光学迷彩で敵部隊に接近すると……戦闘開始だ。 「ふっふっふ、命が惜しければその荷物全部置いていけじゃー!」 「えーいそれー私も火力でづばーん! ですー」 ぶちぬこのスプレーショットに慌てる兵に、セシリアのファイアストームが炸裂した。「おっと、荷物は私らのものになるわけじゃから、邪魔な兵だけ燃やすぞい」 ひなは、ハンマーで兵をふっ飛ばし、叩いて地面に打ち込んでいく。どん、どんっ。 「荒らすだけ荒らしてっ、強奪っ、ですー。遊撃隊ならぬ食撃隊なのですーっ」 ナリュキオジョカンはそんなひなにキスしたりおっぱいを揉んだりして、彼女を支援していたが、そのうちとうとう機関銃をぶっ放し始めた。「撃ち始めりゅと加減がきかんから、覚悟するとよいのじゃ、にひひ」 「きゃーですー」炎と機関銃の間を縫ってハンマーを振り回しながら逃げるひな。 敵は全滅した。 「大量大量、これでしばらくはお腹一杯じゃのう♪」 運べない分は、桐生ひなによってづばーんされた。 こうして彼女らは、見つけた補給部隊を襲いつつ、砦を回るハルモニア食べ歩きツアーを敢行して回った。 「あやつらこんな物食べているとは贅沢じゃな……」 「意外といけますね〜、せしせしもあーんするですー」 「む? あーん」 ファルチェは、二人の体重増加を心配したが…… オジョカンの方は、二人にどんどん食べることを進めた。 (ひなもせしーも明らかに食い過ぎでも妾は気にしないにゃ。寧ろ、此処はもっと食わせるべきじゃろうな。他の物が見て吃驚する位のまんまるべろんちょにしてやろー。次章の二人は重量級での行動になりゅ、とか凄くときめかぬかぇ? 色んな意味で歴史に名を刻むじゃろ、妾的には面白ければアリじゃが) 「ほれほれ、次の行動に支障が出りゅから二人で全部食べるのじゃ」 一週間ほど食べ歩きまるまる太った二人が砦の門をくぐってくるのを見て、御凪は作戦の成功を知った。 「やれやれ、実働部隊が優秀で大助かりですよ」 苦笑しつつ、胃薬に手を伸ばしている御凪であった。 8-03 モカ・ミュイ さて、敵前線に届ける補給部隊を襲っていたのはぶちぬこ隊の食い倒れ分隊だったが、ここに一人、更に敵地へ忍び込んでいくのは…… ぶちぬこ隊のおっぱいの大きな犬ネル・ライト(ねる・らいと)のようだ。 「私(わたくし)は、訓練は不得意ですので、独自に敵地に潜入し探ってまいりますわ」 隠れ身や、放浪の旅をしていたときの経験を活かし、敵に見つからぬよう、慎重に、しかし大胆に砦の付近にまで近づいたりしながら、回る。 すると、ある敵砦の近くで、 「!」 警備物々しい黒羊兵らの前を一人の少女と猫が通っていくのだった。そのあとから更に、うつむきながら無言の機晶姫が付いていく。 「なっ、何ですの?」 猫は、ぶちぬこだ。 「おい、子どもは帰れ!!」 黒羊兵に追い返され、こっちの方に歩いてくる一人の少女とぶちぬこと、うつむきながら無言で付いてくる機晶姫。 「ちょ、ちょっと……こっちですわ」 木陰から呼びかけるネル。 「……?」 少女らが何だろう、という顔してやって来る。 「ぶちぬこ隊に付いてきた(筈?)教導団のモカ・ミュイ(もか・みゅい)さん? ど、どうしてこんな敵地深くに?」 「えぇ。ぶちぬこさんと一緒に、迷子にならない程度のとこを観光しようって思ってねぇ。 ね、ぶちぬこさん」 「そうだにゃ。おれともかみゅいと観光にゃ」 うつむきっぱなしの機晶姫織畳 織(おりたたみ・しき)は、ずっと携帯のゲームをしているらしかった。それに夢中で、さっきから一言も喋らない。 ぶちぬこともふもふし合うモカ・ミュイ。彼女はこういうことがあると、教導団でもよかったなーと思っている。こ、こういうことって……? ぶちぬこが? もふもふが? と思うことなかれ、猫の兵力ともふもふの力は今や教導団第四師団を語る上で欠かせない。いや、それこそは第四師団のパワーの源と言ってよかった。 「あ、でもでも。観光して遊ぶだけじゃなくて、情報収集とかもできればいいなって。ね、織ちゃん」 織畳織も、ずっと携帯ゲームをしているかのように見えて、情報を聞いた際には、メモ帳に切り替えてメモってそれでまたゲームに切り替えていた次第なのだ。 ネルは無事、モカ・ミュイを保護して、引き続き、調査を続行した。 ネルは、砦に潜入し、軍事力や兵の数を調査。織畳織はメモ帳に記録。モカ・ミュイは、ぶちぬこともふもふ親交を深めつつ、付近の村にあたってみたが、ハルモニアに住む民のほとんどはヴァルキリー。彼らは皆、すでに北の砦や、更に奥地へと避難しており村に人は残っておらず、土地の外れの辺りに、抵抗力を持たない獣人などの村がほんの一つ、二つ残るのみであった。話を聞くと、彼らはすでに黒羊軍に恭順を示しており、土地の奪回は誰もが難しいと感じているようだった。しかし……まだ、奥地へ行けば、山に住む幾つかの種族はやはり黒羊軍を快く思っておらず、勝てる見込みがあるなら、ハルモニアの軍と示し合わせ決起も辞さない、と考える者たちの存在も示唆された。 |
||