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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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6.冒険者の酒場
 
 
「ここね、待ち合わせの場所は」
 基盤をかかえたデクステラ・サリクスは、サレン・シルフィーユの店の暖簾をくぐった。
 真っ暗な店内で、猫目を全開にさせる。
「ここに入っていきましたか。いったい何を買ったんでしょう。それにしても、予想通りとはいえ、二人ともはぐれてしまうとは……」
 後をつけていた安芸宮和輝が、一人でこっそりと店に入っていった。
「結局無駄足か。やれやれ、一休みして作戦を練り直すよ」
 散々歩き回ったココ・カンパーニュたちも、サレン・シルフィーユの店に入っていった。カレー屋は営業停止になっていたし、他にゆっくりとできそうな場所がなかったからだ。そのせいで、奇しくも、ほとんどの者が暗闇の中に集まることになってしまった。
「いらっしゃいッス」
 プロレスマスクを被ったカリン党ピンクこと、覆面居酒屋店主サレン・シルフィーユが、新たに入ってきた者たちを出迎えた。
「御注文が決まりましたら呼んでくださいッス。それから、カリン党謹製プロレスマスクも絶賛発売中ッス」
 サレン・シルフィーユはそう言うが、さすがにそんな物を買うような人間は……いた。
「ああ、これからどうしたらいいんだ……」
 プロレスマスクを被った元新米海賊が、テーブルの上で頭をかかえていた。
「どうかしましたか。ああ、あなたは……」
 すぐ横のテーブルにいた狭山 珠樹(さやま・たまき)が、プロレスマスクを被っている元ゴンドラ協会の会長を見つけて声をあげた。
「しーっ」
 黙っててくれと、元会長が懇願する。
 新規の店を集中的に探していた狭山珠樹であったが、さすがにこんな所で出会うとは予想外であった。
「まさか、こんなに落ちぶれてしまうとは。錦鯉の水槽は役にたたなかったのですか?」
「うん、全然だめだった」
 半分泣きながら、元会長が言った。
「そうですか。我にも少しは責任がありそうですわ。ここに少し持ち合わせがありますから、教導団に自首してやり直しましょう」
「もう、それしかないんだろうな」
 半ば諦めたように、元会長が言った。
「まだまだやり直せますよ。最近は、新しい学校もできていますし、いくらでも仕事はできるはずです。何かあれば、我に相談してきてください」
「うん、頑張る」
 狭山珠樹の手を握って、元会長は約束した。
「ああ、見つけた。新人ちゃん、こんな所に隠れてたのね。持ち逃げした女王像とかはどうしたのよ」
 偶然店の中にいたヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)が、元会長を見つけて叫んだ。「なんだってー!」
 ヴェルチェ・クライウォルフの声に、店の中にいた全員が、元会長の存在に気づいてしまった。
「さあ、女王像の右手が今どこにあるか教えてもらいましょうか」
 月詠司が、元会長に詰め寄った。
「物はもう売っちまっただよー。女王像の右手は、タシガンのストゥ伯爵とかいう人の使いの人にもう渡しちゃったよ」
「よりによってタシガンの伯爵ですって。まったく、そんな遠い所まで取りに行かなくちゃいけないの? だいたい、その伯爵って誰よ。ええ、どこに住んでいるの」
 ヴェルチェ・クライウォルフが、矢継ぎ早に元会長を問い詰めた。そんなことをしても女王像の右手が転がり落ちてくるわけではないのだが。こうも予定を狂わされたのでは、女王像の右手を手に入れる作戦は一から立て直しだった。だったら、情報は多ければ多いほどいい。
「よく分からないです」
「役にたたないわね。じゃあ、持ち出した他の品物はどうしたのよ」
「他の物は、適当な店に、バラバラに売っちゃってもう持ってないよー」
 泣きながら、元会長が答えた。
「やれやれ、そういうことか。まあ、女王像の右手以外、最低限必要な物は手に入れたからな。お前は用済みだ」
 シニストラ・ラウルスがきっぱりと言い放った。
「ひー」
 用済みという言葉を聞いて、元会長が悲鳴をあげる。
「もう用はない。とっととどっかに行っちまえ。お前は、海賊にはむいてなかったんだよ。だが、今度俺たちに手間をかけさせたら、容赦はしない」
 そう言い放つと、シニストラ・ラウルスはココ・カンパーニュたちの方を向き直った。
「さて、問題は、お前たちの方だ」
「当然、この場で決着をつけるわ!」
 アルディミアク・ミトゥナが、ココ・カンパーニュを睨みつけた。その耳元で、仄かに赤い光がゆれる。
「待て、シェリル、あんたはこいつらに欺されているんだ。思い出せ、私がつけた名を。私のことを。二人のことを!」
 ココ・カンパーニュが叫んだ。
 それを聞いて、思わずシニストラ・ラウルスが小さく舌打ちをした。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、きりきりと歩け。そこ、全員その場を動くな。売買に違法性がないか、すべてチェックする!」
 参加全隊を投入したジェイス銀霞が、闇市を順調に制圧していった。
 悪質な者は、容赦なく護送車に叩き込んでいく。
「手を抜くなよ」
 順調に手入れが進んでいっていると思われたとき、突然一つのテントが爆発で吹っ飛んだ。
 中から飛び出してきた海賊たちとゴチメイたちが、取り巻きの者たちを巻き込んで戦い始める。
「あいつらも押さえろ!」
 ジェイス銀霞が命令した。
「まずいわね。ここは退くのがよさそうよ」
 いつもの猫娘の姿に戻っているデクステラ・サリクスが、シニストラ・ラウルスに言った。
「そういうことだ。退け、お嬢ちゃん」
「嫌よ、私は……、私は……」
 何をしたいのかはっきりと言えず、アルディミアク・ミトゥナは呻いた。
「戻れ、アルディミアク・ミトゥナ!」
 シニストラ・ラウルスが叫んだ。渋々、アルディミアク・ミトゥナがそれに従う。
「来臨せよ、ジュエル・ブレーカー」
 星拳を呼び出すと、アルディミアク・ミトゥナはガーターリングから外したトパーズを光条に差し入れた。
「サンドウォール!」
 アルディミアク・ミトゥナが大地にむかって拳を振り下ろすと、彼女を中心にして激しい砂嵐が周囲に広がった。視界のほとんどが砂に阻まれて、みんな身動きできなくなる。
「待て!」
 追いかけようとしたココ・カンパーニュであったが、アルディミアク・ミトゥナの姿をとらえることはできなかった。
「しかたない、こちらもいったん逃げるよ」
 ココ・カンパーニュの言葉で、ゴチメイたちが翼や箒などでいったん上空に逃げる。
「やれやれ、今回は、騒ぎを起こしてから撤退までが短いな」
 阿吽の呼吸で上空にやってきていたジャワ・ディンブラが、ココたち全員を拾って飛び去った。
「逃がすな」
 ジェイス銀霞が叫んだが、まだ収まらない砂嵐のせいでそれもままならない。
「ちょっと、爆発物持ってるんだから、そんなに乱暴にしないで。あっ!」
 混乱の中、藤原優梨子が、せっかく買った手榴弾を風にさらわれた。ジャンク品だったせいか、あっけなく空中で自爆する。それが、混乱にさらに拍車をかけた。
「はははは、女王像の右手はいただいたわ」
 どさくさに紛れて手近な店にあった女王像の右手をつかんで余裕で逃げたメニエス・レインであったが、その右手にはだごーん様のサインがしっかりと刻まれていた。
「ふっ、正義の味方は引き際も心得ているのです。マナさん、後でいくらでもトイレに籠もらせてあげますから、少し我慢していてください」
「うー、ぽんぽん痛ーい。ばたんきゅー」(V)
 クロセル・ラインツァートが、マナ・ウィンスレットをかかえたシャーミアン・ロウとともに姿を消す。
 結局、違法な店を開いていた学生は、全員騒ぎに乗じて逃げてしまった。
「まあいい。これに懲りて、二度と変な店は出さないだろう。逮捕した者は徹底して絞りあげろ。保護した者は、調書に回せ」
 ジェイス銀霞が、すでに後処理に取りかかった。
「さあ、行くですぅ。ちゃんと保護してあげるですぅよ」
 パティ・パナシェは、自首してきた元海賊で元会長を優しくうながした。
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 双拳の誓い、折り返し点です。
 なんだか、今回、ゴチメイたちがあまり活躍していません。
 話がわき道に逸れっぱなしですね。キャンペーンを省略した分の情報が混じったせいもありますが、それでも双拳のストーリーにとって結構重要な情報がぎっちり詰まっています。
 ある謎はほぼ解明されつつも、別の謎が浮上したりしていますが、いちおうほとんどの謎は最後には解けるはずなので頑張ってくださいませ。当然、アクション次第では迷宮入りもありますけれど。
 さて、次回はいよいよ双拳の誓い4 虜囚 タシガン編ということになります。多分即座にガイドがでますのでちょっとあわただしいですが、後半は一気に話が進んでラストになだれ込みますので、よろしくお願いします。