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リアクション
★ ★ ★
「本当に、みんな好き勝手なんだもん。ねーさまはねーさまで、また迷子になっちゃうし……」
困ったように、久世 沙幸(くぜ・さゆき)が言った。闇市は結構な人の賑わいで、いつの間にか藍玉 美海(あいだま・みうみ)を始めとする何人もの姿が消えている。もっとも、世界樹での一件といい、藍玉美海が迷子になるのはいつものことではあるのだが。
「こういうときこそ、携帯という文明の利器が役にたつんだもんね」
姿を見失ったら、すかさず携帯で呼び出した方が手っ取り早いと、久世沙幸も学習していた。さっそく携帯をかけようとしたところへ、逆に藍玉美海の方からかかってくる。
『ええと、今、食中毒とかで騒いでいる出店の前あたりですわ。はい、まっすぐですわね。まったく、わたくしからはぐれて迷子になったらだめですわよ。今参りますわ』
迷子になったのは久世沙幸の方だと藍玉美海は一方的に決めつけると、さっさと携帯を切ってしまった。はたして、ここまでやってこられるのかは五分五分といったところだ。
「ああ、切っちゃったんだ。いいもん、来なかったら、またかけるんだから」
どのみちそうなるだろうと思いつつ、久世沙幸は、はたとあることに気づいた。
「そうだ、電話をかけてみればいいのよ。シェリルに電話してみて、アルディミアクが出たら、二人は同じ人なんだもん」
いちおう、シェリル・アルカヤの携帯電話をアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)が手に入れているという可能性もあるが、確かめてみる価値は充分にある。
「ねえ、かけてみてよ」
「うーん、そう言われても……」
久世沙幸にせっつかれたココ・カンパーニュであったが、どうにも乗り気でない。
「なんとかしないと話がこじれたままだ。早くけりをつけてもらいたいものだな。毎度とばっちりを受ける身にもなってほしいぜ」
ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナの戦いに巻き込まれて酷い目に遭った白砂 司(しらすな・つかさ)が、ちょっときつい口調でココ・カンパーニュに言った。
「まあまあ、司ったら、そんな言い方をするものではないですよ」
やんわりとサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が横から注意する。
「でも、星拳の持ち主であるシェリルさんには会ってみたいですね」
「そう、それだよ。二人の話がかみ合わないのは、そのシェリルの部分だ」
サクラコ・カーディの言葉に、白砂司が思い出したようにココ・カンパーニュに詰め寄った。
「今地球にいるんだっけか。光条兵器が呼び出せるんだから、携帯で連絡はとれるだろう。そばにきてもらえば、光条兵器の時間制限に縛られることもなくなるぞ。今のままじゃ、戦いが長引いたら、圧倒的に不利だ」
白砂司に言われたココ・カンパーニュは、何かを思うように両腕の黒いシルクのガントレットに被われた手首のあたりをしきりにまさぐっていた。
「キマクで言っていたように、アルディミアクが本当にシェリルなのなら、はっきりとさせてもらわなければ俺としてもどうしていいか困る。それは、他のゴチメイたちも同じじゃないのか?」
「分かった。出るって保証はないけど……」
やっと、ココ・カンパーニュが重い腰をあげた。
ココ・カンパーニュとしては、パートナーであり、姉妹の契りを結んだシェリル・アルカヤから何度も電話がかかってきたことは過去にあった。ちょうど、彼女がパラミタにあがってきてまもなくのころのことだ。
だが、理由はどうあれ、ココ・カンパーニュがシェリル・アルカヤを地球に置き去りに近い形で残してきたことは事実だ。それが負い目となって、ココ・カンパーニュはその電話に出ることができなかった。しばらくは、コール音がする度にびくびくしていたものだ。そのため、ココ・カンパーニュはシェリル・アルカヤの番号を着信拒否にしていた。だからだ。今さらどうして連絡がとれよう。だが、状況はそう言ってもいられない。
意を決すると、ココ・カンパーニュは携帯でシェリル・アルカヤを呼び出してみた。
だが、呼び出し音はするものの、いくら待っても誰も出なかった。
「やっぱり……。だから、電話は嫌いなんだ」
そうつぶやくように言うと、ココ・カンパーニュは携帯を切った。
しっぺ返しだ。自分がした仕打ちを、今返されている。
「結局、今は分からずじまいか。それならそれでしかたない。お前とアルディミアクのどちらを信じるかと問われれば、俺はお前だと答えるだろう」
白砂司は、きっぱりと言い放った。
「でも、よく分からないことがあるですぅ〜」
神代 明日香(かみしろ・あすか)が、割って入った。
「星拳のことですけれどぉ。敵が、星拳をほしがっているのならぁ、なぜ、ココさんを狙うのですぅ? 星拳を手に入れたいのであれば、シェリルさんを狙えばいいんじゃないんですかぁ?」
神代明日香の言うことも、ある意味はもっともである。
ココ・カンパーニュのパートナーであるシェリル・アルカヤが、彼女以上の使い手であるのならば話は別だが、普通に考えれば剣の花嫁の方を殺して光条兵器を分離させてしまった方が簡単だ。
「それができない状態にあるということか」
白砂司がつぶやく。
「つまり、シェリル・アルカヤの所在がまったくつかめないでいるのか、あるいは、すでに手中に収めているのでその必要がないかだ」
「ココの言うとおりに、アルディミアクがシェリルなら、ココだけを狙う説明にはなるな」
「だとしたら、何人かの十二星華に見られたように、洗脳されていた可能性もあるわね」
ヘルメス・トリスメギストス(へるめす・とりすめぎすとす)が、ふらふらとどこかへ行ってしまったノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)のから預かっていた十二星華プロファイルをひもときながら言った。
「それだよ、それ。きっとシェリルは……」
ぱっと面(おもて)をあげてココ・カンパーニュは言いかけたが、途中でちょっと口籠もってしまった。
「あらまあ〜。だとしたら、リフルさんのときのようにぃ、何か洗脳のアイテムを身につけているのかも〜」(V)
「でも、どうやってそれを見分ける」
思いついたように言う神代明日香に、白砂司が訊ねた。
「そうですね。たとえば、ルーンであれば、ニイドの文字を刻んで束縛の呪(しゅ)をかけたりしますが……」
ルーン学科らしく、ヘルメス・トリスメギストスが一つの方法を口にする。
「それを見つけて破壊する必要があるというわけか。だが、小さなアクセサリーなどだったら、探すのは難しいぞ」
「ええ。身体に刻み込まれている場合もあるでしょうし……」
うーんと、白砂司とヘルメス・トリスメギストスが頭を悩ます。
「なあに、いざとなったら、ひんむいてでも、すべての怪しい物を外させるしかないだろう」
あっけらかんと、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が言い放った。
「やっぱり脱がせたいんだ……」
その言葉に、ココ・カンパーニュが耳まで真っ赤にする。
「いや、そういう意味じゃなくてだなあ」
しまったと、ラルク・クローディスはあわてて弁明を始めた。
「誤解を解いてくれよな。おっさんはパンツビデオは興味ねぇし、それに男好き……ってのは認めるがそれは恋人に対してだからな!」
「男好き……やっぱり変態なんだ……」
ぶるぶると肩をふるわすと、ココ・カンパーニュは闇市の人混みの中へとかけだしていってしまった。あわてて、幾人かが後を追いかける。
「おい、誤解だって。拳で語り合えば、きっと分かるはず……」
後を追いかけようとしたラルク・クローディスであったが、マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)の剣に行く手を阻まれた。
「言いましたわよね。リーダーを泣かせたら切り刻むと」
マサラ・アッサムの後ろから近づいてきたペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が、すらりと背負っていたフランベルジュを抜いた。
「まあ、リーダーも似たような脳筋で気が合うと思っていたようですけれど、これで目が覚めたでしょう」
思春期の娘を持つお母さんの視線で、チャイ・セイロンが言った。
「じゃあ、もう蜂の巣にしてもいいよね」
スカートの中にごそごそと手を突っ込んでハンドガンを取り出しながら、リン・ダージ(りん・だーじ)が言った。
「いや、まずはみじん切りがいいですね」
「灰にしてしまえば、そんな手間もかかりませんわ」
にじり寄るペコ・フラワリーを制して、チャイ・セイロンがニッコリと言った。
「待て、すべて誤解だ!」
「それは、ナラカに落ちてからゆっくりと解く算段をすればいいことです」
ペコ・フラワリーが、大剣の切っ先をラルク・クローディスの胸にむけて構える。
「まずい……」
まさに絶体絶命であった。そして、思わず出た、耳と尻尾が……。
「きゃー、何これ、ふわふわー。もふもふしたい」
リン・ダージが嬌声をあげる。
「今だ!」
ペコ・フラワリーたちが一瞬呆気にとらわれた隙に、ラルク・クローディスは脱兎のように逃げだした。超感覚を全開にして、人混みの中を、誰にもぶつからずに一心不乱に逃げていく。
「まあ、元気のいいわんこですわあ」
すっと、チャイ・セイロンがステッキをあげた。
必死に逃げるラルクを追いかけるようにして、アイスニードルが槍のように降り注いだ。カカカッと小気味いい音をたてつつ地面に突き刺さる。巻き添えを食らいそうになった通行人から悲鳴があがった。
「どうしてこうなった!? いつかちゃんと誤解は解くぞ」
叫びつつも、身体をかすめるようにして飛んできた氷の槍に、ラルク・クローディスはぺたんと耳を頭に伏せた。
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