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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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「なんだか、騒がしいなあ」
 しばらく走って、やっと落ち着いたココ・カンパーニュが、後ろを振り返ってつぶやいた。
 闇市ではこの程度の騒ぎは珍しくないのか、当事者以外はどこ吹く風だ。巻き込まれる奴が運がないとでも言いたげであった。
 ココ・カンパーニュが立ち止まってくれたので、後を追いかけてきた者たちがやっと追いついてきた。
「わけ……あっ……て、今は……ゼイゼイ……一人だ……が、甘、硬、黒、カリン党……参……じょー!」
 思いっきり息を切らせながら、カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)が口上を述べた。ポーズもつけるが、一人だけでは何がなんだかよく分からない。
「ええと……、ああ、前に一緒だったプロレス同好会の奴か?」
 カリン・シェフィールドの被っている赤いプロレスマスクを見て、ココ・カンパーニュが言った。
「そう、赤き闘魂……違うじゃん! これは変装なんよ。私たちは、正体を隠して、ゴチメイに協力する組織の者。だから……サインください」
 そう言うと、カリン・シェフィールドは唐突に色紙とサインペンをさし出して頭を下げた。
「なんだか、よく分からないけど、手伝ってくれるなら、まあ」
 首をかしげつつも、ココ・カンパーニュが色紙にサインする。そういえば、マサラ・アッサムたちもサインをねだられたとかで、ちょっとうらやましく思っていたのは内緒だ。
「やった、やっぱりリーダーのサインはリーダーがもらうべきじゃん」
 色紙を受け取って、カリン・シェフィールドが小躍りして喜んだ。
「ああ、ずるい。あたしも、あたしも」
 黒いメイド服を着た秋月 葵(あきづき・あおい)が、負けじとサイン帳を出してきた。
「前に、変なピエロに色紙破られちゃったんだもん。今度こそ、もらうんだもん」
「あー、はいはい」
 鬼気迫る秋月葵にのまれて、ココ・カンパーニュがサイン帳にサインした。
「変なピエロ……?」
 ふと思いついた心当たりを、カリン・シェフィールドは気づかなかったことにしてやり過ごした。
「もしメンバーが右手を見つけたら、私に連絡が来るから、すぐに教えるよ」
 気を取り直して、カリン・シェフィールドがココ・カンパーニュに告げる。
「私たちも協力します」
 近づいてきた伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、穏やかな口調で告げた。
「海賊にも、教導団にも、女王像の右手は渡さないよ」
 伏見明子の後ろにぴったりとつき従う九條 静佳(くじょう・しずか)が自信ありげにつけ加える。
「そりゃそうでしょう。キミたち、クイーン・ヴァンガードじゃないの。どのみち、女王像はすべて自分たちの物にするつもりなんでしょ」
 そうはさせるものかと、カリン・シェフィールドが言った。
「でも、あなたにとっても、女王像の欠片は必要な物なのでしょう?」
 半ばカリン・シェフィールドを無視して、伏見明子がココ・カンパーニュに訊ねた。
「ああ、今は、必要だ」
 きっぱりとココ・カンパーニュが答えた。
「だったら、まず君が使えばいい。今必要であるべき物は、今必要であるべき者の許へ」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が、人混みの中からすっと現れ出でて言った。
「俺たちは、必要がなくなったときに女王像の欠片を渡してもらえればそれでいいんですよ。クイーン・ヴァンガードの上の方は、それまで押さえておくと約束しましょう」
 樹月刀真の言葉に、伏見明子がうなずいた。
 どうやら、彼らの言葉は、彼ら自身から発せられたものであるらしい。
「信じられるのかしら。信用なら、私たちカリン党が一番じゃん」
 プロレスマスク集団のトップであるカリン・シェフィールドが、自分たちの怪しさは無視して言った。
「それは、命令かい?」
 ココ・カンパーニュが、樹月刀真に訊ねた。
「女王像の欠片を確保せよというのが命令ですが、すべて揃わなければ意味のない物を、焦ることもないでしょう。最終的に揃えばいいだけのことだと、俺は考えています」
「そうね。いらなくなったら、私たちにくれればそれでいいと思うわ」
 伏見明子が、樹月刀真に同意した。
「なんなら、高く買えるように手配しましょう」
 ちょっとおどけて、樹月刀真が軽くウインクをしてみせる。
「よし。契約成立だ。女王像の右手を探すのを手伝ってくれ。シェリルを呼び出すのに使い終わったら、協力してくれたお礼にあんたたちにやる」
 ココ・カンパーニュが明言した。
「で、なるべく高く買ってくれよな」
 すっと、樹月刀真の耳元に顔を寄せて、ココ・カンパーニュはささやいた。
「ああ、こんなとこにいたいた」
 人混みをかき分けるようにして、リン・ダージとチャイ・セイロンたちが現れた。
「残念ですわ。もう少しで、わんこの氷づけをお見せできましたのにい」
 本気で残念そうに、チャイ・セイロンがココ・カンパーニュに言った。
「もう少しで、あいつやっつけられたのにねえ」
 リン・ダージがつけ加える。
「いや、それはもう勘弁してやってあげてよ。私が勘違いしていただけなんだから」
「リーダーも、恋に恋するお年頃ですからねえ」
「なんだ、それは。とにかく、味方してくれるって奴は大事にしなきゃな」
 その場にいる学生たちをぐると見回して、ココ・カンパーニュはニッコリと微笑んだ。
「とりあえず、あたりをつけるとしますか」
 樹月刀真が、トレジャーセンスで周囲を調べてみた。
「うっ、範囲が広すぎたのか!?」
 まったく関係のない山の方から何かを感じて、樹月刀真が参ったという顔をした。
「刀真……だめ」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、がっかりしたように溜め息をつく。
「トレジャーセンスは、個人の価値観に左右されることがあるから、過信しすぎると逆に振り回されるかもしれないよね。特に、ここはお宝だらけだもん。そこで、サテライトシステムだよ」
 九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が、自慢げに言った。なんのことはない、パートナーの九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が空から女王像の右手を探すというだけなのであるが。
「もしもし、九鳥。首尾はどう?」
 自信満々で携帯を取り出した九弓・フゥ・リュィソーが九鳥・メモワールを呼び出す。
『はい、九鳥・メモワールです。今、ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)とお茶しています』
「ええと、九鳥……!?」
 何をのんびりしているのかと、九弓・フゥ・リュィソーがちょっと声を潜める。
「役にたってないようですね。だいたい、小さな女王像の右手を探すよりは、海賊の裏切り者や海賊たちその物を探した方が手がかりになりやすいというものです。さて、うちのウォーデンくんは何かつかめたでしょうか?」
 月詠 司(つくよみ・つかさ)が、九鳥・メモワールと同じように上空から捜索をしているはずのウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)に連絡をとった。
『人が多くて、まだ見つからんのじゃ。もしかしたら、テントの中とかにいるかもしれぬ』
「あなたのパートナーも、同じようなもの……と言いたいところだけど、それはある意味有用な情報ね」
 月詠司の携帯から漏れ聞こえてきたウォーデン・オーディルーロキの言葉に、九弓・フゥ・リュィソーが興味を示した。
「とにかく、隅々まで探せばいいってことよね」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、結論づけた。結局、人海戦術で探すしかないわけだ。
「あのー、前に変な言葉を拾っちゃったのですけれど……」
 九弓・フゥ・リュィソーのフードの中から顔を出して、マネット・エェル( ・ )がチャイ・セイロンに訊ねた。
「ヒラマルスウェンですかあ? それは、『運命に従う乙女』という意味になりますけれどお。曖昧な言葉ですねえ。そもそも、運命という言葉が、普遍的な意味をもつのかあ、特定の意図の下のものなのかあで違ってきますねえ。どちらにしても、そのアンクレットは、あまりいい物ではありませんわねえ」
 チャイ・セイロンは、いろいろと考えを巡らせながら答えた。
「リーダー、ちょっと御相談があるのですけれどお」
 チャイ・セイロンが、ココ・カンパーニュに声をかけようとしたときであった。彼女の背後から忍びよる影があった。
「危ない!」
 そばにいたリン・ダージが、思わず飛び出す。
 つるん。
「あっ、この感触は、がっかりな……」
 ココ・カンパーニュの代わりにリン・ダージのあるかないかの胸をつかもうとして手が滑ってしまった葛葉 明(くずのは・めい)が、がっくりと肩を落とした。
「ほーっほほほほほ、そうであろう、そうであろう。ぺったんこでは、揉みがいもないであるな。さあ、揉むのであれば、大人の女性である我の胸を揉むがよいぞ。特別に許してやるのだ」
 なんだか勝ち誇って、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、リン・ダージとどっこいどっこいの胸を突き出した。
「いや、つかめない胸に興味は……」
 残念なものを見るような悲しい目で、葛葉明がジュレール・リーヴェンディとリン・ダージのぺったんこをじっと見つめた。
「どこがぺったんこなのだ!」
 ジュレール・リーヴェンディとリン・ダージが声を揃えて叫ぶ。そのまま、二人は息もぴったりに葛葉明に飛びかかっていった。勢いのまま押し倒して、逆に胸を揉む……?
「なんじゃ、ぺったんこではないか」
「あたしたちと変わらないじゃない」
 今ひとつつかみきれない胸に、ジュレール・リーヴェンディたちが不満の声をあげた。
「ちょ、ちょっと、やめ……、くすぐったい。ああん♪」
 もみくちゃにされて、葛葉明が悶え苦しむ。
「やれやれ、あれはほっといて、みんなで手分けして探そう。時間がもったいない」
 ここでうだうだしていても時間の無駄だと、ココ・カンパーニュが一同をうながした。
「はーい、ジュレ、そこまでにしようよね」
 カレン・クレスティアが、ひょいとジュレール・リーヴェンディをかかえあげて言った。同様に、チャイ・セイロンも、リン・ダージを葛葉明から引き剥がす。予想外の反撃に倒れたままピクピクしている葛葉明をその場に残して、一同は散っていった。
「まったく、みんな、そんなにたっゆんな胸が好きなのかしら」
 ちょっと怒ってみせながら、秋月葵がチャイ・セイロンの豊かな胸をちらちらと盗み見た。
「さあ、どうなんでしょうねえ」
「関係ないわよ!」
 まだ怒って暴れているリン・ダージをかかえるようにして押さえながら、チャイ・セイロンが余裕で笑った。
「えーと。どうやったらチャイちゃんみたいに胸が大きくなるの?」
 おずおずと、秋月葵がチャイ・セイロンに訊ねる。
「えーと、あたしは何もしてませんけれどお。でも、前に読んだ本の一つに、コンロンの秘薬に胸の大きくなるものがあるということが書いてありましたからあ、葦原島に行けばそういう薬が手に入るかもしれませんねえ。でも、なにぶん、ずっと昔の話のようですから、ちゃんとした形で伝わっているかどうかあ……」
 あまり興味はないという感じで、チャイ・セイロンが言った。
「それ、面白そうな本……」
 本の話題に、漆髪月夜が興味を示した。
「ここで、同じ本、売ってないかな?」
「さあ、あるかもしれませんけれどお、ないかもしれませんしい」
 漆髪月夜とチャイ・セイロンの会話に、リン・ダージとジュレール・リーヴェンディと秋月葵がキランと目を輝かせた。
「その本は、あたしが見つける!」
 当初の目的を忘れて、三人が走りだした。
「だからあ、あるとは限らないとお……」
 チャイ・セイロンが釘を刺そうとしたが、すでに遅かった。
「うわ、なんだなんだ!?」
 先を争って走る三人に弾き飛ばされそうになって、新田 実(にった・みのる)が目を白黒させた。
「しまったあ。勝手にどこか行かないように縄でもつけておくつもりだったのにい」
 リン・ダージに逃げられて、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が頭をかかえた。
「まあ、リンらしいぜ。彼女がいると言うことは、チャイさんも……いたいた」
 新田実は、チャイ・セイロンを見つけて合流してきた。もう、リン・ダージたちはどこに行ったのか姿も見えない。
「追いかける?」
 ズィーベン・ズューデンが、チャイ・セイロンに聞いた。
「無駄ですわ。そのうち帰ってくるでしょうからあ、あたしたちは女王像の右手を探しましょう」
 チャイ・セイロンが答える。
「なんだ、そんな破片探してるのか? それより、なかなかワルプルギスの書が開けないんだ。この間、鷽騒ぎのときに開けたと思ったんだけど嘘だったし。だから、他にもっといい魔道書とかも探してるんだけど、何かお勧めはないかなあ。いちおう、なんとかセンサーも持ってきてるんだぜ」
 なぜかラブセンサーをブンブンと振り回しながら、新田実が言った。
「本……いいですよね」
 うっとりしたように、漆髪月夜が言った。
「このセンサー、意志のある者に反応するらしいから、生きている魔道書を簡単に見つけられるはずだぜ」
「それはどうでしようか」
 単純な新田実の考えに、思わずチャイ・セイロンたちが苦笑した。
「試せば分かるって。おっしゃあ、ミーに任せな。ほら、なんとなくこっちから反応がある気がするぜ。みんなついてきな」(V)
 いや、機械の動作で気がするはないだろう。
 それでも、新田実は自信たっぷりに歩きだし、とりあえずチャイたちもその後についていった。