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リアクション
9-05 勅命
最南の地到着を前にして、ここに対峙することとなった二者。
「教導団が南部王家を守ると口にしているのを実際の態度で示してもらうぞ」
教導団使節の船に乗り込んだ鯉オットー・ハーマンが、そっと優しく王子を確保する。
「こ、こら鯉。いつの間に乗り込んだ?
勝手なことは許されんでありますぞ。ライラプス、戦斗機動(コントバット・マニューバ)!!」
ライラプス・オライオン(らいらぷす・おらいおん)が、剣の柄に手を……
「戦斗機動、了解(コピー)……いえ、主(あるじ)。私達は外交に来たのですよ?」
「そ、そうだったな。しかし、あの者達、武装を解かぬまま現れるとは。
そうだ。そちらこそ、どうやらこれが目に入ってはおらぬようでありますな?」
昴は指差す。船に掲げられている旗には、南部王家の旗印。
「我々教導団は、王家に要請を受け、傭兵として雇われたのであります。
今や、教導団が、南部を統べる王家の兵となったのですぞ?!」
向かい合う船から、南部の諸侯らが睨み付けてくる。
マーゼンが前に出てきた。
「ええぃ南臣光一郎。茶番はこれまですな」
マーゼンは急いで書状を読み上げた。ここには、どうやら全諸侯が揃っておるようだな。王子もいる。順序が狂ったが、ちょうどよい。
「王家からの勅命である」
「勅……」
「諸侯らに、オークスバレーへの再出兵を正式に宣言致す。
よいか。パラ実南西分校と黒羊軍を追い払ってくれるならば、基地の使用継続を条件に、オークスバレーを南部領と認める!」
「南部領?」「どういうことか。我々、南部諸国に分け与えられるということかな?」
「その通りである」
マーゼンは諸侯を見渡す。彼ら大部の関心事は、己の保身それに利益である。奴らの領土欲を駆り立てるにこれで十分の筈。目の色が変わったと見える諸侯もいる。しかし、まだ多くの者の考えは読めない。黒羊軍を恐れている者もいるのだ。
「だから、教導団が南部王家を守ると口にしているのを、実際の態度で示してもらうぞ」
オットーが二度言う。
「鯉。まだおったのか」
「おう、おうおう」
眼光鋭く、睨み合うマーゼンとオットー。
「え、えー。それから、南臣光一郎。貴殿については、王家の執政に任ずる」
昴が読み上げた。
「勝手にしろじゃん?
いいだろう。教導団の案に乗りたい者は、教導団に従うじゃん?」
光一郎は、親教導派の四国を教導団側に合流させた。
「他の者は、従わんのか?」
「……」「……」「……少し、話し合いがしたい」
教導団め、といった目つきで、尚、睨み付けてくる者もいる。
反教導団の姿勢を変えない連中には、王家への反逆を理由に粛清を……マーゼンはそう考えていたが、この場ではそうもいかんか、と考え直した。武装したままやって来るとは。
ともあれいきなり込み入った状況になったまま、教導団の外交使節は最南の地に足を踏み入れた。
黒羊郷からの使者も、到着したようだ。
南臣はひとまず、教導団外交使節を連れ、国へ戻る。
「さて、光一郎……つ、月夜? お、おう(ぽッ)お、おう(ぽッ」
*
いよいよ、南部での交渉が始まる。
昴の宿泊する部屋。
「ライラプス。いよいよだ。(どっきどき。)
僕は、諸侯との話をすることになる。ライラ、民衆の方は、頼む」
「ええ。主。
"教導団を受け入れたオークスバレーや三日月湖がどれだけ豊かになったか"。
"これこそ秩序に基づいた反映"……」
「うん、うん」
「……"即ち、教導団が望むのは服従や改宗ではありません。友好です"」
「完璧だな!」
「了解(コピー)。
あとは、彼ら南部諸国が、黒羊郷に味方することのメリットがあるないを、私なりに説きます」
「ふふ、ふ、ふ。これで僕の南部外交における功績が認められて……むふ。
これで階級がアッ」
「主」
「ライラプス?」
「交渉をスムーズに進められるよう、身だしなみはきちんと。
その、ムサ苦しい髭は排除して頂きます。主も教経卿も」
「む、むぅ」船旅の間に不精髭が伸び放題になっていた昴。
「わ、わしもかぁ……そんなぁくくっ」