リアクション
* 「カーリー(ゆかり)。見えたわね……あそこに、陣を張っている一隊があるわ」 パートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が言う。 街道がやや斜面になって、林と隣接しているところがある。そこに、およそ200程だろうか。 「敵……? 見たことのない旗ですね。教導団のものではない……か」 まだ、距離がある。 水原ゆかり(みずはら・ゆかり)は、目を細め確かめようとするが、はっきりとしない。黒羊の旗印でもないようだ。 「と、なれば」 「あたしが言ったように、盗賊団の線なら、二度と悪さができないよう徹底的にお灸を据えてあげればいいわね。政治的配慮なんて要らないんだから?」 「ええ。だけど、あの陣の立て方を見ると……」 「カーリーの予想した通り、オークスバレーに攻め入った南部諸国の一隊かしら」 街道を更に南東に向かえば、最南の方面に至る。どのルートでこちらへ入り込んできたのかまでは、計りかねるが。 「このまま行けば、相手に気付かれないわけにはいきませんね。 交渉に出てみましょう」 「もし、やっぱり盗賊かそれに類するものだったら、戦闘になるわ? 皆、ここからはよく注意して」 * さて、前回、輸送隊の護衛の大任に就くや、オークスバレーを襲撃し街道にまで進撃してきた敵部隊の攻撃を受けることになった、大岡 永谷(おおおか・とと)の一行。 逃げる部隊の最後尾にまで下がると、永谷はブライトスピアを振るい、ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)はブレードを抜き永谷を援護しつつ、敵勢としばらく打ち合った。パルボンリッターが、輸送隊の後方を固める。荷台から、光学迷彩で姿を消した熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が銃撃すると、敵は相手の戦力測りがたしと見えたのか、遠巻きになり、やがて、敵の後方から駆けてきた兵が、「草原地方より敵本隊が近付いているという。深追いはするな」と言い、一旦撤退していったのであった。 永谷らは、輸送隊をひとまずは守りきった。 「……ここはどこだ」 敵の攻撃を防ぐことを最優先にしていたので、永谷の護衛する輸送隊は街道を外れて先へ逃げ、草原地方の東の外れから南部諸国へ至る辺りの狭間に迷い込んでしまった。 林があちこちにあり、オークスバレーから流れてきている川の本流か支流かわからないが、水の流れが近くにある。 先、敵に襲撃されたように、状況がどうなっているのかも見えない。 敵は、オークスバレーの方面からやって来た。となれば、オークスバレーが恐らく敵に攻められ、もしくはすでに敵の手に落ちたか…… 街道にまで敵が来ていたということは、三日月湖の方にまで攻め上っているのかも知れない。 しかし、先ほど敵は確か、「草原地方より敵すなわち教導団の本隊が近付いている」と言った。 街道に展開するのはノイエ・シュテルン。彼らが来れば、敵とて…… 「トト〜。どうするのさ?」 「フィディ。福」 二人は、永谷をじっと見つめた。パルボンリッターもじろっと永谷を見ている。「……困ったな」 永谷は、まずは物資や兵を収容できるだけの、簡易の拠点を設営することにした。 敵は一旦は去ったものの、また同じように攻撃に晒されれば、輸送隊を守りきるのは、容易なことではない。付近に、逃げられる場所もないのだ。 「設営中に襲われるのがいちばん怖いから、作業中の警備をしておくね」 福は、パルボンリッターと一緒に、永谷の禁猟区のお守りを携え巡回した。 永谷は、川や林、丘など斜面になっているところなどを天然の遮断部分として用い、また、物見に使えそうないい位置にある高い木を見つけるなど、地形をよく見つつ指示を出した。 フィディは男手として、輸送隊隊員らと共に、木の柵を作り、永谷の指示した範囲一帯に立てていった。 「ペットめ……この見返りとして、あとで必ず調教してさしあげますから」 その日は、以降敵の襲撃の気配もなく、仮の陣は設営された。 「ふぅ。このくらいが限界かな」 「なかなか、いいものができましたね。ここで、わたくし達の暮らしが始まるのですね」 「え……」 「よし。トト、頑張ったもんね。食事にしよう、美味しいご飯いっぱい食べるぞ」 あまり、物資を減らしてはダメだぜ……輸送隊を守った意味がなくなってしまう。永谷は少し心配した。 永谷は福に少数を付けて、偵察に出した。「え〜ご飯は?」「あとで、だ」 パルボンリッターが見張りに付く。 夜も近付いている。フィディの目が光った。 「……。フィディは、怪我をしている兵の治療にあたってくれ」 「ペットの頼みとあらば、仕方ありませんね。しかし、あとでわたくしの部屋へ来るのですよ?」 「……」 永谷は色々と心配になってきた。早く、救助隊と合流せねば。 * 水原ゆかりは、街道沿いに陣を張る一隊に接触を持った。 相手は…… 「ドレナダ?」 南部諸国における一国であるという。 南部諸国か……水原はマリエッタと目を見合わせる。考えていた通り、そうであるなら、諸侯への交渉を成功させるための政治的配慮により(南部諸国にはノイエのメンバーが交渉に向かっているのだ)、戦闘は避ける方向で行かねばならない。 水原は、ドレナダの指揮官との話し合いに入った。 水原は、自軍に、南部王家の旗を掲げている。 「あれは……。何? 貴公ら、南部諸国の王子に雇われて、王家の軍となった、だと?」 「本国に撤退するなら、攻撃はしないと約束します」 どうやら、輸送隊を陣中に捕らえているといった様子はない。 「あくまで、戦うなら受けて立ちますが、その場合、貴公と貴公の主の諸侯は朝敵になりますよ?」 「教導団め。今や、人形と過ぎなくなった南部諸国の王子を担ぎ出したのか。それがいかほどの力になる。 南部の列強と、更にパラ実と結んだ黒羊に対し、王家を旗印に南部諸国をまとめ、同盟を組み抵抗を試みるつもりかな?」 しかし、今回はオークスバレーに攻め込んだ南部諸国の一国は、そのまま大人しく撤退することとなった。本国(南部諸国)の方で起こっていた事件によっても、ここで事を荒げることなくまずは急ぎ撤退する必要があった。 水原は、部下に攻撃を厳禁し、安全な通過を保証した。 彼らが輸送隊を捕らえていたなら、交戦の可能性は高かったろうが、捜索したところ、大岡は見事輸送隊を守り、敵陣のため身動きを取ることができないでいたが、付近に陣を敷いて持ちこたえていたのだった。水原隊はここに大岡らの輸送隊を救助することが叶ったのである。 |
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