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リアクション
10-06 峡谷に再び、戦の予感
隠密行動に長けた少数の部下を連れて、オークスバレーに潜入したジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)。
彼はひそかに、教導団の生き残りや、支配下にある集落の民達と接触していた。
彼はまた、密書を携え、幾つかの場所を行き来している。
「一回や二回戦いに負けたくらいで落ち込むな! 教導団の兵士なら、生きている限り戦え!」
敗戦で意気消沈している兵らに、喝を入れて回る。
接触は叶ったものの、支配下の村や砦の付近に囚われになっている者も多く、助け出すことまでは難しかった。集められた敗残兵は、決して多くない。負傷兵がほとんどだ。フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は彼らを、敵の目に付かないところにまで、避難させた。
フィリシアはまた、プリモ温泉との間を何度か行き来していることになるのだが。
ジェイコブは自らも、少数精鋭の部下と共に、集落に散っているパラ実勢への襲撃を繰り返した。意気消沈する同胞に自信を取り戻させるため、何よりもオークスバレーの人々に教導団の健在をアピールするため、である。
僅か数名の敵が、あちこちに散っている部隊のところに現れては襲撃するため、パラ実はなかなかこれを捕らえることはできなかった。
「いいか、無理はするな?」
パラ実の行いに不満を募らせている民には、そうして軽挙を戒める一方で、ソフソ・ゾルバルゲラ両指揮官以下行方不明中の将兵の捜索・保護をできれば、と依頼した。
温泉では……
「そう、ジェイコブ……。上手くやってるみたいね?」
香取と水原が温泉に浸っていた。
ところで、ソフソ、ゾルバルゲラ両指揮官も、すでに温泉に浸っていた。宇喜多が彼らの捜索を出し、見つかるとここへ呼び迎え入れていたのだ。
「ほら、こちらですぞ両指揮官」
「お、おお」「ここ、これは」
宇喜多が、指揮官二人を絶好のポイントに案内した。そこからは、香取と水原がすっかりよく見えた。
「プリモ温泉でのぞき部シナリオが開催されるときのためのものです」
「ふむ。これはよく見える」「そのシナリオガイドには、わしら三人で出よう」
「オッサン達。何してるんですぅ?」
「うおっ」「いいい、いつの間に?」
プリモ温泉仲居長のバート・シュテーベン(ばーと・しゅてーべん)。
この温泉の精霊――地祇である。
宇喜多はプリモ温泉をよく守りきったが、プリモ温泉の女中達を宇喜多の手から守ってきたのが、この精霊バート・シュテーベンであった。
「この温泉の地祇たるわたくしの目を逃れることはできないですよぉ」
バートはオッサン三人を摘み上げた。
「そこにいるオトコもですぅ!」
「ば……馬鹿な。オレの隠密がばれるとは」
床の下からジェイコブが出てきた。
「フィリシアに連絡を取りに来ただけだ。お、オレが水原や香取の裸など覗くか!」
ともあれ、こうして一旦プリモ温泉に集ったノイエの面々は、奪回作戦についていま少しの話し合いを持った。
ジェイコブを冷たい目でじーっと見る浴衣姿の香取と水原。
「お、おい。……どうしたんだ一体?」
「さあ……」「ねえ……(自分に聞いてみればぁ)」
「あの……」
「コホン」
そこには、麻生 優子(あそう・ゆうこ)の姿もあった。同じく冷たい目でジェイコブを見つめている。
「……も、もしかして女中に何か聞いたか?」
「では、始めましょう」「そうですね。ジーベックさんは何と?」
「ええ、ジーベックはこう言っていたわ」麻生優子は説明する。「奪回作戦については、当面はプリモ温泉の防衛と兵力の再結集、そして」
ジェイコブの方を見る。
「お、おう。何だ」
優子はジェイコブに耳打ちする。ここは、真面目なところです。香取、水原もわかっている。
「ふっ。任せな」
「ええ。では……に留め、今、外交使節が行っているであろう南部勢力軍の再出兵が決まり、かつ、この峡谷での我々の工作の影響が現れるのを待って、本格的な反攻作戦を開始すべき、とのことよ」
皆は、頷く。
こうして、オークスバレー奪回のための準備は着々と進みつつあった。
*
「ヒャッハー。これ見ろや。間違ってオレのとこに届いたんだ。
ドレナダ宛ての手紙だぜ。送り主は……教導団本営の
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)少佐?
"補給物資の支援、感謝する"だと?」
「ヒャッハー? どういうこったぁ?
南部の奴ら、教導団に寝返ったのか? もしや撤退していったのもそれで? だったら許せねぇぜ」
エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)はその様子を見て、にやりと微笑んだ。ほんとは派手に喧嘩してやってもいいんだけど……ノイエに策略もあるようだし、次回だな。と、拳を鳴らす。
「しかし、南部諸国はこぞって、オレ達に服従を誓った筈だぞ」
更に、ここへ、あの男から手紙が届いたというわけであった。「……南臣、だと?」