リアクション
第III部 辿り着く先 第11章 旅行者達 シャンバラの地図を広げてみる。 教導団本校のある、ヒラニプラ。 その連なる巨大な山脈の、南の辺りを隠すように描かれている雲。 その下に……私達が今物語を紡いでいるヒラニプラ南部がある。 こんな山の奥に広がる、草原地方や、三日月湖や、砂漠、それに異端の地・黒羊郷。辺境の小国群、王家、冒険の書にも出てこない謎めいた生きもの達が暮らす谷…… 不思議なことだった。 まるで本当に、それは意図的に隠されているかのような場所。ほんの小さな土地に過ぎないようにも思える。こんな地図からも隠された、ほんの小さな土地で、これほど数々の出来事が…… そして、紛れもなくこの地で戦いは起こっていたのだ。 『南部戦記』文書。それは確かに今、私達の手元に残されている。 * 幾つかの記録にまたがってその名が記されている、ナナセ――。 この異郷の地に迷い込んだ元お嬢様だということが幾つかの記述で共通している。 …… 「うん。今日もいっぱい……歩いたよね……!」 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、ちょっとした旅行気分で、このヒラニプラ南部に入り、数ヶ月も諸国を放浪していたことになる。 数ヶ月もあれば、シャンバラ地方を巡るツアーだってできるかも知れない。 ときどき、夢のように思えてくることもあった……。 私は実はちゃんと百合園女学院に通っていて、こっちは夢の中の旅なのじゃなのかなあ? と思ったりする。 もちろん、人には会う。多くは、得体の知れない生きもの達や登録されてもいない種族だったりするけど。 でも知人や、他学の生徒にこれまで、会っていない。 もし、そうじゃなかったら……これが夢じゃなかったら、百合園、一学期分さぼってることになっちゃう……。 夕暮れ、へとへとになって、木陰に座り込む七瀬。 あーあ。これじゃすっかり本当にお嬢さまじゃないなぁ。進級できるのかしら……。と。教導団の人は、軍事が任務だから、これも授業の一環みたいなものなのかも知れないけど……? 教導団。立ち寄る町では、戦争の話や、教導団の話も聞こえてきた。 しかし、七瀬は話に聞いた、教導団が滞在しているという三日月湖地方からは随分離れた山間の地方に来てしまっており、このまま行くと南部諸国と呼ばれる地域に着くという。随分、色んなところを回った。黒羊郷の近くまで行ったこともあるし、少し前までは、砂漠を歩いていた。 「戦争に巻き込まれるのはいやだなぁ……でも、止めなきゃ!(教導団の戦いには、同じ百合園の仲間も参加しているって聞くし!) そう言えばどこかで、戦争を止めるためには、第三者の仲裁があることが一番だって授業で習った気がする……」 七瀬は、思う。確かに戦争の当事者同士は、最初は偉い人の都合で戦わされてるだけだけど、どんどんお互いを憎み合っていっちゃうもんね。 この負の螺旋は止めなきゃ! 第三者。 それは、一体何処に? この南部地方の内にあるものは全て、当事者。 ここを越えて、外へ出れば、例えば各校等は、こんな辺境地域に関わりはないし、知る由もないだろう。教導団でさえ、手を煩わせていることになるのは、北方の大きな戦争や、シャンバラ大荒野での戦いであった。確かに南部ではこうして、敵方の動きがあり、この土地の勢力を利用し争いを起こさせた。しかし、最初はどこまでのことがわかっていたのだろう。教導団上層は何を察知していたのか。少なくとも、南部に寺院の関わる動きがあり、乱の芽がある。それを摘み取らせに、辺境任務にあててきた第四師団を送り込んだという程度ではなかったか。女王器の話は、いつ聞こえてきたものだろうか。あの男・パルボンはそれを知っていた。それはしかし、もともとパルボンがヒラニプラ家ほどではないが土地に根差す豪族であり、独自に情報を仕入れたものかも知れなかった。とにかく、戦いはいつの間にかより大きく、というよりは深く、複雑なものになっていった。更に、随所で謎に満ちていた。この戦いの全貌を把握している者は、おそらくいないだろう。 ともあれ、これと関連性を持ちつつ、この戦いを俯瞰して見られる第三者がいるとすれば? それは一体誰なのか? 七瀬はまだ、この南部戦記を歩き続けることになる。 |
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