リアクション
* 「心に花は咲いているのかパーンチ!!」 「ひ、姫?! 何を?」 周囲に亡霊のようにぼんやり立ち尽くす、撲殺寺院の者らの右頬を、開口一番、ぶん殴る! 全員分の右頬を、ぶん殴る。 「姫……!!」 「殴られたのは久しぶりか! 撲殺寺院の者が殴られもせず、こそこそと! 目をさますんだ!」 カッティの背中に、炎が見える。 カッティは怒っている。カッティは、燃えている。 「あたし達の教祖の教えも忘れたの? "右の頬を打たれたら左の頬をも向けなさい"だよ!」 まだ亡霊のように立ち尽くす、メンバーらの今度は左頬をぶん殴る、よ! 「拳に愛を握りしめろフック!」 「そうか、姫は……姫は……」 アィヲジョーロも、拳を握り締めた。 「皆! 私達の姫、カッティ・スタードロップが帰還したのだぞ。立ち上がるのだ、姫は」 カッティは全員の頬を殴り、そのままアイヲジョーロの左頬もぶった。「ぶっ!」右頬もぶん殴る。ぶっ飛ぶ、アイヲジョーロ。 「宗教とは人を幸せにするためのもの。翻って見てみなさい、自分たちを。一度負けたからって蜂起もせずに引き篭って。 それで幸せなのかい!?」 カッティは一旦言葉を区切り、一息付く。 「……」 亡霊からは、ブーイングが起こった。アイヲジョーロからも、ブーイングが起こった。 カッティは、わかったというように、腕を組んで仁王立ち。 「わかった。あたしを殴りなさい!」 5-04 我ら撲殺寺院 殴るとは他人と関わるってこと。 心をさらけだしてみろ! 吠えろ、狼のように! ――カッティは、そう言いたかった。撲殺寺院の教え、それが…… 殴り合ったらダチ! 一緒に、一緒に幸せ掴もう! 「姫……」 「……」 亡霊達は、霧の中に、消えていく。 「わかってたよ」 「姫。姫……ぇぇ、……く、うっうっ」 撲殺寺院は滅んだ。 もう、ここには誰もいないのだ。 「姫の、姫の帰還だァァァァ!!」 アイヲジョーロは声の限りに泣き、打ち倒され、風になびいていた撲殺と書かれた旗を、廃墟に掲げた。 「泣きなさいよ。アイヲジョーロ」 「ウワァァァァン」 * 「や、やっと、追いつきました」 グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)が追いつくと、二人は、暗い霧の中にたき火をたいて、暖をとっていた。 「……暗いですわね」 十四世も腰掛けて、しばらく二人と同じように、消えそうなたき火に温まった。 やがて、火は消えた。 火の中に、撲殺の文字も消えた。 でも、撲殺の火は消えない。 カッティの背に、再び炎が燃え始める。アイヲジョーロの背にも、炎が。 「ちょ……。い、いえ何でもありませんわ。 ……では、参りましょうか?」 グロリアーナが立つ。二人も、立つ。 「我ら撲殺寺院!」 「へ? わ、わたくしもですか……」 十四世も、拳を握り締めた。「お、おう……!」 * ざっ。ざっ。 霧の中を進む三人。 険しい山影と、廃墟の影だけが、不鮮明な遠景として虚ろうていく。 やがて、旗が見え始めた。 黒羊旗だ。 ぽつぽつと、霧の中に、動く姿が見えてくる。今度は、亡霊ではない。敵兵……黒羊兵だ。 「敵襲!」「敵襲!」 「将軍! 敵が、我らの陣地に……!」 身構える、カッティ、アイヲジョーロ、グロリアーナ・イルランド十四世。 「来たかぁぁ。撲殺の生き残りめ、まだ凝りもせず、やって来おったのかぁぁぁ。 三騎? たった三騎だと。笑わせてくれる。 黒羊の将グレドロラルゴ(ぐれどろらるご)。これで返り討ち……返り撲殺してくれらぁ」 武器はゴーデンダッグだ。 「ま、こんなこともあろうかと空飛ぶ箒を二本くくりつけた突撃用段ボールを作っておきました。空を飛べば敵将のもとまでいけるでしょう」 十四世は、カッティを発射した。 「やァ! 我こそは、撲殺の女王カッティなり!」 ルミナスグローブ! 「く、くヮッッ!?」 敵将の目が光に眩む。 「うヌ。おのれぁぁ!!」 グレドロラルゴの振るう鎖を交わし、その懐に飛び込んだ。コークスクリュー!! 「だ、かぁぁぁぁ」 敵将の巨大な体が、霧の中に沈んだ。 「将は討たれた!」 アイヲジョーロが叫ぶ。 黒羊兵は逃げ散る。 カッティは、投降兵を受け入れた。 * その頃、イレブンは…… 禅を組み続けていた。 意識を無へと、そして身体だけが残る。 イレブンは、見た。ボクシングする女の子の姿を。それがイレブンの最後に見たイマージュであった。 ――撲針愚寺夢(ボクシングジム)…… 今、この地で、カッティの新たな布教活動が始まろうとしていた。 アイヲジョーロも、気合満々。 十四世、「……。次は、え? ハヴジァまでロードワークですか!?」 * さて、本来ならば、教導団本営を離れて、この砂漠や、そこにある見知らぬ国等、辺境の方々を旅していた者達が、いた。まだ、そのことが語られねばならなかったが…… 彼ら、彼女らは、何処へ辿り着き、何を目にした。 ある者は亡霊に出会ったかも知れない。ある者は、亡霊のように映ったかも知れない。 ある者は、夢を見たかも知れない。 ある者は、夢に迷い込んでしまったのかも知れない。 時は戦乱。 教導団は、苦戦を強いられている。 しかし、その中で自分だけの旅に出て、自分だけの戦いを戦うそれもまたいいだろう。 パラミタへ来た生徒達は、それぞれに成長していく。 辿り着く先……それは何処だ。 |
||