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リアクション
兵は詭道なり-08 静香のピンチ
教導団、砂漠の小国、吸血鬼国等が攻略を狙い、すでにその争奪の前哨戦とも言える戦いを始めている頃。
グレタナシァ国内には、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が入り込んでいたわけだ。
前回、グレタナシァとの取り引き商人の手形と服装を手に入れた宇都宮は、商売をしつつ、グレタナシァの高官に接触した。
怯えたような顔の、老いぼれた小さな男が出てきた。
「見ない顔じゃのぅ」
「ええ。いつもの商人は病でして、私が代わりです。手形もありますよ」
「ふむ、よし。何を商いに来たね? 武器か、医療品かね?」
「いえ。
この状況。実は、この度、最もよい商品を。教導団の情報です」
「ほう……。あちらの部屋で聞こう」
衛兵が立ちふさがり、固く閉じられた部屋で、情報の取り引きがなされた。
「三日月湖周辺にいるのは2千程。しかし教導団の総兵力は、7万」
ごくり。高官は唾を飲む。
「それが本当ならば……。
我ら辺境の国々に勝ち目はなかったということか」
もちろんこの奥地に全ての兵を入れることはできないが、次々援軍を送ることはできる。とは言え、戦争はここだけではないし、補給の問題もある。
だがこの数の差は脅威と思わせるに十分であった。
「教導団は新国家建設の後に、国軍になる立場なのです」
更に、北部ではゆる族との大きな同盟締結に成功(「着ぐるみ戦争」)、本国では古王国時代の兵器の開発に成功(「栄光は誰のために」)したことも述べた。
「今、時の趨勢は教導団にあり、か」高官は唸った。
「新生シャンバラ王国の女王候補ミルザムを擁立しております」
「うむ……我々は異端。しかし異端は異端で密やかにあればよかったのかも知れぬな。黒羊郷は……」
宇都宮が、す、と机の上に者を差し出す。
「これも商品か? むむ、同人誌ではないか、これは」
『同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)』だ。
「黒羊郷と一緒に滅ぶことはないと思いますけどー」
「むお、おお。喋った」
「そう」宇都宮は強調した。「表面上は、黒羊郷に味方したままで、兵は国外に出さない。教導団と戦闘しなければいいのです」
「しかし……」
静かな秘め事は、少女の姿を現す。
「お、おお?」
「これまで通り、黒羊側の国として振る舞えます。それに、教導団が勝っても、対立勢力とは見なされませんわ」
「……むう。しかし、果たしてそうか。我々は黒羊側に加担している。教導団は、我らを許すか?」
宇都宮は、頷いた。
扉から、こっそりと、いやらしい眼差しが覗いている。
「お、王……」
「うへへ。あの同人誌っ娘。いいのぅ」
*
城下の酒場では、
セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)と
湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)がちびちびと飲みながら、話をしていた。
「国の上層に取り入るには……基本はやっぱり、接待なんでしょうか? お酒?」
と言って、コップをからから回す、セリエ。「あ、これはジュースですよ。グレタナシァの葡萄酒、……じゃない、ブドウジュースらしいです」
「うむ。酒はやはり、ありだと思いますよ」
ランスロットも、葡萄酒飲みつつ、応える。
「今、グレタナシァには、黒羊軍やドストーワの兵も来ていますからな。彼らからも情報を得るべく、顔を広めるには手っ取り早い手段だ」
「あとー……は。
性的なのは一寸困りますよねぇ……静香さんが人間の姿でっていうのは……酷かなあ?」
「うむ。……」葡萄酒を飲み干し、ランスロット。「それも、ありかも知れん」
「えっ?」
ばたん。酒場のドアが開き、宇都宮が入ってきた。
「あ、お姉様。戻ってらしたのですね」
「静香は? まさか、売れたのでは……」
「……そのまさかよ。グレタナシァの王が、どうしてもその同人誌を譲ってくれと」
宇都宮は机に袋をどんと置く。大金だ。
「あの王。変態のようね」
「お、お姉様そんぁ。静香さんを売るなんて……」
「毎度のことだがどうしたものかってことになったな。……祥子? どうします」