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KICK THE CAN!

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KICK THE CAN!

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・空京フォーラム2


「来たか!」
 が鳴子に引っ掛かった音、加えて駐車場の残響。
 すぐさま朔は迎撃に出た。
 そしてその人物を捉えた。
(…………)
 じっと朔を見つめ、威圧していた。ツァンダーの仮面が。
 しかし、目が合ってしまったのがいけなかった。
(……あれ?)
 いつの間にか朔の姿がない。あるのはただの暗闇だった。
 動こうとするが自分がどこにいるのかも把握出来ない。
「椎名 真!」
 自分の名前が叫ばれた時、その身を蝕む妄執を受けていた事を実感した。幻覚を見せられている間に、仮面を剥がされて素顔がバレていたのである。
 その間に、缶へと攻撃を仕掛ける者がいた。
 六体のレイスが缶の周囲100メートル圏内を漂いながら接近していく。
 なお、別の人物が繰るレイスも合わせれば十体になる。ただふよふよと浮いている四体と、接近していく六体。どう見てもホラーである。
 が、レイスで缶を蹴る事は出来ない。
(行きますよ〜)
 それらを操るのは神代 明日香(かみしろ・あすか)だった。缶の近くの守備を怯ませている間に、接近していく。
 しかも、追い打ちをかけるかのように、
「く、どこにいるでありますか!?」
 その身を蝕む妄執。スカサハはレイスとアボミネーションによる畏怖に加え、さらに幻覚を見せつけられる。
 むしろ、見えなくなるが正解だった。
 明日香のかけた幻覚は、闇を見せるもの。それも視力を失った際の、本当に何も見えない状態。
 闇の中、どこから敵が攻めてくるか分からない上に、周囲にはレイスが漂っている。精神が崩壊しても何ら不思議はないだろう。下手に身体を傷つける直接攻撃よりもずっとタチが悪い。
 その間に、明日香は缶へと近付いていく。が、100メートル圏内が光術で照らされた。
(もう一人いますか〜。ならば速さで勝負ですぅ)
 黒檀の砂時計と封印解凍で、一気に缶目指して駆けていく。
 缶には氷術の壁があったが、彼女の力量ならば問題にはならない。スカサハ、そして缶のすぐ近くにいたミカヅキ、共に行動不能に陥っている。
 が、まだもう一人。
「蹴らすわけにはいかんのや!」
 軽身功を用いて、駐車場の車から車へと飛び移りながら、缶を目指す
 加速した時点では、社に分があった。だが、明日香はそれを上回る速さを見せる。
 時間にして一秒。それが名前を叫び缶を踏むのにかかる時間である。コンマ一秒すら遅れていたら、明日香が缶を蹴り飛ばしていただろう。
「神代 明日香!」
 ギリギリで、コールが成立した。
「あと少しでしたのに〜」
 この際、自分で缶を踏んだ時に倒しても負けなので、必死で缶を押さえつけたのだ。
 彼女は捕まりはしたものの、レイスは相変わらず漂い続けている。
 捕まった後、妨害してはいけないというルールはない。
 しかも、ここでさらに
「今度はグールか!?」
 レイスの次は、グールが缶へ向かってきた。しかも黒ゴスロリ。さらにあえて混乱を誘うためか、名札までついている。「まどか」とは書かれているが、さすがにアンデッドとの見分けはつくだろう。
 しかも毒虫の群れも一緒ときた。
 深夜にアンデッドと虫いや、蟲が押し寄せる様は、あまり詳細に言及してしまうとR指定をくらいそうなほどにグロテスクだ。 
「こなくそ!」
 ここはまだそれほど疲弊していない社が雷術を繰り出し、なんとかアンデッドを無力化する。
(近くにおるな)
 彼は、近くいるであろう術者を探しに、缶から離れ過ぎない程度に回る事にした。

            * * *

(もう少しなんだけどねぇ)
 パートナーが捕まってしまった瑠樹は、なんとかまだ捕まらずに隠れられていた。
(もう少し行けば圏内か……)
 裏口駐車場が見えてきた。光学迷彩のおかげで姿は見えない。そのまま圏内に足を踏み入れると、光学迷彩が解かれる。 
 隠れるのは停車している車の陰だ。だが、
(うわ、眩しっ!)
 光が発生した。光術である。
「あ、誰かいるー」
 その姿を千尋に発見されてしまう。だが、100メートル圏内、タッチは無効だ。
(せめてここで足止めしておくか)
 音が聞こえるため、自分の顔を確認しに守備の人がやってくるのだろう。
 これで、缶の周りから一時的ではあるが動ける守備がいなくなった事になる。
 カラスの鳴き声が空気中を伝わったのは、その時だった。ちょうどエリア4、空京大学の決着がつくのと同時である。
 
            * * *

 厳密に言ってしまえば。
 守備側が缶の前でずっと待機せず、定期的に動きまわらざるを得なかったのは、どこからともなく流れてくる子守唄が原因だった。
 スピーカーの録音であるとはいえ、効果はある。余程のメンタルがなければじっとしているのは難しい。
(さあて、いくわよぉ〜)
 用意は整った。
 オリヴィアの使い魔、カラスの合図で少女達が動き出す。
 まばらについていた空京フォーラム一帯の電気が急に落ち、完全な闇となる。
(やっとですね)
 絶対闇黒領域で夜の帷に溶け込んでいた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が目を瞑る。
 
 次の瞬間、大きな光が空京フォーラムの裏口駐車場を包み込んだ。

 アルコリアのパートナー、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が限界まで高めた魔力で、光術を放ったのだ。
(今ですわ!)
 そこから、裏口駐車場の缶を目がけて、四方から人が飛び出していく。
 その中の一人は、缶の近くのトラックに身を潜めた。
 だ。
 そこから子守唄を歌う。スピーカーのものと合わせて、一ヶ所に特定させないためだ。
(どこから聞こえてくるでありますか?)
 わずかばかり回復したスカサハが車の物陰を一つ一つ確かめていく。作戦は上手くいってるようだった。
 現在100メートル圏内に踏み入れたのは、歩、、オリヴィア、ロザリンドである。
「行かせるかッ!!」
 朔が圏内に行かせまいと、捕まえにいく。
 上を見上げる。
 空京フォーラムの屋上から駆け下りてくる姿があった。ミネルバである。
(一気に行くよ!!)
 パワードレッグと軽身功によって加速していた。
 缶の周囲は手薄な状態だ。このまま突っ切れれば勝算はある。しかも、彼女の仲間達もまた同時に動いているのだ。
 だが、守備側も甘くはない。徐々に減速する、ミネルバ。空京フォーラム周辺にはしびれ粉がまかれているのだ。
 それでも、加速は急に止まるわけではない。しかし、
(あれ、缶に着かないなー)
 こちらもまた、いつの間にか幻覚の中にいたのである。その間に、深く被ったゴスロリの帽子が脱がされ、タッチされる。
「ミネルバ・ヴァーリイ!」
 それでもまだ、何人も残っている。だが、それに対して朔の精神力もそろそろ限界だった。それほどにスキルを使っていたのである。
 幻覚は、見せられたあと一回。 
 本人は意図したわけではないが、ミネルバは守備側の要を疲弊させるのに一役買っていたのだ。
(いざ、ゆかん)
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が別方向から、加速ブースターで飛び出してくる。ミネルバからほど近い場所にいたようだが、こちらには朔は追いつけない。
 さらに、メモリープロジェクタ―を起動。駐車場にはこのエリアではないはずの攻撃の人間の姿までが映し出される。
 突撃をかけるのは、彼女だけではない。
 缶を踏みに駆け出している社。
 今全力疾走をして立ち向かっている中の、誰が一番早いかが勝敗を決める。

 かに思われた。

 かん、ころころ……

 間の抜けた音と共に、缶が倒れていた。
「蹴られた……であります」
 これは予想外だった。
「やったよー、アルママー」
 樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)である。迷彩塗装をした黒布を被って、完全に気配を絶ってゆっくりと近付いていたのだ。さらに、目晦ましの効果を上げるために、ビジネス地区一帯の電気を落とせるように細工したのも彼女だ。
 光の後、各所から攻撃陣が飛び出したために、その音で彼女の存在が完全にかき消されていたのもある。
 そうでなくとも、缶の周りにはレイスやらグールやらが倒れている。それら全てに気を払った上で、眞綾の気配も読み取るのは至難の業だ。
 だからこそ、ミカヅキも蹴られる寸前に飛び込んで直接攻撃に持ち込むという行動にも移れなかった。
 だが、問題はここからである。
「まだ、終わりじゃないであります!」
 スカサハの手が眞綾に触れる。相手の顔をちゃんと見て確認した上で、告げる。
「樂紗坂 眞綾!」
 エリア4で幸が気付いたルールの抜け道については、ゲーム開始前に守備側には伝達されていた。そうでなければ、このまま他エリアへの移動を許していた事だろう。
「あれ、つかまっちゃったー?」
 100メートル圏内という縛りがなくなったために、その場で捕まってしまう。缶が倒れても終わりでない、その事にいち早く攻撃側で気付いたのは最も缶の近くにいた歩だ。
(まだ捕まえられるんだね。この事を知らせないと)
 即座に携帯を手に取り、連絡を入れる。
 エリアを出るまで勝負は続くのだ。
 
            * * *

「曖浜 瑠樹!」
 そんなわけで、物陰に隠れて守備を引きつけていた瑠樹も捕まってしまう。
(そうだったのか)
 盲点をつかれたものの、説明されて納得する。
(ま、楽しかったし……オレ達はここまでだねぇ。マティエは眠っちゃってるかな)
 守備側は全員が捕まえに行くことが出来る。しかも、缶を蹴ろうと駆ければ疲弊するため、逆にここが要なのである。
 しかし、100メートル圏内が適用されなくなる、という事は当然、
(光学迷彩を使っても問題はないね)
 咄嗟にそれを使い、姿を隠して離脱する。使用していた加速アイテムもまだ有効だった。
 なんとかエリアからの脱出に成功する。
「逃がすかッ!!」
 駐車場から散って外へ出ようと図ろうとする者を、一人でも多く食い止めようとする。 だが、問題は後ろから迫っても顔が分からない事だ。黒ゴス服+夜というコンディションが、参加者のリストがあっても、判別しにくくしている。
 朔が、辛うじて視界に捉えた一人にその身を蝕む妄執を使用。それを使えるのも、この一回きりとなっていたが、なんとか足止めには成功する。
 正面に回り、顔を見る。
「オリヴィア・レベンクロン!」
 名前を叫ぶ。
 さらにもう一人の姿を発見したが、そちらには追いつけなかった。
 トラップにも期待はしていたものの、それらは既にロザリンドの手によって解除済みだった。
 突破するためのトラップ解除が、ここでも役に立っていた。
(あたしも行かなきゃ)
 駐車場の歩も、箒に乗って上空からエリア外に行こうとする。
 だが、
「な、あゆむん!?」
 あろうことかちょうど缶に戻る途中だった社と目が合ってしまう。
 飛び立つが先か、触れるが先か。
 歩が浮く方が早かった。しかし、社は軽身功を利用してジャンプする。
「七瀬 歩!」
 これがエリア2、最後の捕縛者だった。

エリア2:空京フォーラム――攻撃成功
      現時点で捕まっていない者:桐生 円(きりゅう・まどか)
                   ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
                   牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)
                   シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)
                   ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)