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KICK THE CAN!

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KICK THE CAN!

リアクション


後半戦


・空京大学2


「クライブ・アイザック!」
 蛍光ペイントを浴びたクライブは、あえなくに捕まってしまう。
 その時、カツンとコンクリートを叩く音が聞こえた。
(まだ他にもいますね。ピオス先生、手分けしていきましょう)
 幸とアスクレピオスが二手に分かれる。
(なんとか誘導は出来そうですね)
 メシエがその様子を物陰から見ていた。彼の放った小人がわざと物音を立てるようにしているのだ。
 そこへ一人の小人が現れた。彼の姿を見るなり通り過ぎていく。
(さて、このまま引き離しておければ……)
 が、そこまでだった。
 アスクレピオスが真っ直ぐ彼の隠れている場所まで向かってくる。
(まさか、なぜ分かったというのですか!?)
 小人の小鞄を持っているのは、彼に限った事ではない。守備側も放ち、偵察させる事だってある。先刻の小人は相手側だったのだ。
 一瞬とはいえ気を取られたのが運の尽きだった。
「メシエ・ヒューヴェリアル!」
 あえなく捕まってしまう。

(そろそろかな)
 空飛ぶ箒で上空を移動していた遠野 歌菜(とおの・かな)が、地上で陽導が始まった頃、動き出した。
(特に、幸姐さんを止めておかないとね)
 そのまま彼女は滑空していく。
「仮面ツァンダー・ソークー1、見参!」
 その声は、広く響き渡る。
「おや、てっきり講堂前に向かっていったと思いましたが……そちらから出てきたのなら好都合です!」
 仮面+男子制服という事もあるせいで、少し前に遭遇した陣と見間違う。
 すぐに歌菜を追いかける幸。
 まずはそのまま100メートル圏内ギリギリまで引きつけるのが狙いだ。なぜなら、
(100メートルライン付近、しかも内側にいればタッチは無効。缶を守ってる人も姿を見に動かなきゃいけなくなる!)
 ルールに則るなら、そうであった。
 振り返りざまに光術を放ち、動きを止めようとする。だが、顔を覆っている幸にはあまり効果はない。
(これなら……)
 次いで、ファイアストームで炎の壁を築き、一時的な妨害を図る。
(そのくらい、どうってことありませんよ)
 それでも距離は縮まり続ける。幸の特技には、追跡もあるのだ。
(まずはその仮面を取ってもらいましょうか!)
 小人の小鞄から取り出した小人を、歌菜の仮面に投げつける。
(まだ顔を見られちゃダメッ!)
 必死に手で押さえる。
 そうこうしているうちに、彼女は100メートル圏内に何とか踏み込んだ。
『こちら、島村。そちらにツァンダーの仮面を被った人物が侵入』
 幸は即座に伝達した。
(とはいうものの……)
 100メートル圏内で物陰に隠れている様は幸にも見える。ただ、その人物がじっと彼女を見据えているのは奇妙なものだ。その顔がヒーローの仮面であることも踏まえると。
(ここはアリーセさんに任せますか)
 幸は再び索敵に戻る。

            * * *

『そちらはどうですか?』
 文系学部の研究棟が立ち並ぶ区域で、樹月 刀真(きづき・とうま)は連絡を取り合っていた。ブラックコートを被り、物陰に隠れながら匍匐前進をしている。
『俺はスタンバイオッケーだよ。ただ、缶の前から微動だにしてない』
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が最初に応えた。彼はどうやらどこかの屋根の上にいるらしい。
『こっちも大丈夫だ。いつでも動ける』
 次に反応したのは如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)だ。彼ら三人で、ある作戦を決行しようというのである。
『ただ、守備側の人が来る気配がないんですよね』
 刀真が言う。
 ちょうど目の前には、敵の仕掛けた鳴子があった。
(隠れてやり過ごすのが正解なんでしょうけど……それじゃあつまらないですしね)
 彼はわざとそれを大きく鳴らした。
 その音は当然仕掛けた本人に伝わる。
 カオルだ。
(またかよ)
 彼はすぐ近くに隠れているはずのを追っている最中だった。
(だけど、捕まえられそうな方を優先だ)
 それでも垂を諦めなかった。その時、目の前に人影が現れる。エースだ。
「しまった、見つかったか!」
 わざと驚いたふうな素振りをする。無論、これもまたカオルを引きつけておくための作戦だ。
 光術。
 振り向きざまに目晦ましを試みる。
「危ねっ!」
 咄嗟に顔を伏せ、カオルはそれを回避する。そしてそのまま、エースに触れて叫ぶ。
「エース・ラグランツ!」
 二人が面と向かいあっている隙に、物陰からクマラが飛び出していく。
「行かせるか!」
 瞬間的に動くカオル。両者の距離はすぐに縮まり、彼もまた捕まった。
「クマラ・カールッティケーヤ!」
 だが、それによって取り逃がしてしまった者達もいる。
(とりあえず、音のした方が先だ!)
 すぐさま身を翻し、鳴子の鳴った地点へとカオルは駆け出していく。

(来ましたね)
 刀真が迫りくるカオルの顔を確認する。するとわざと姿を現し、走る。
(プロレスマスクか、でもあの体型、男である事に間違いないな)
 そのままカオルを引きつけるように、100メートル圏内目がけて突き進んでいく。
『行動、開始!』
 待機している二人に合図をする刀真。
(頼みますよ! 如月兄弟!!)
 決して二人は実の兄弟ではないが。あえて言うなら佑也(兄)、正悟(弟)だろうか。 それに呼応し、佑也が動く。
「幸、そっちに行ったぞ!」
 彼は刀真とは離れた場所に身を隠していた。缶を蹴りに走っていくところを守備側の一人、アスクレピオスに発見される。
 目の前には幸、挟み撃ちにされた。だが、
「入られてしまいましたか」
 佑也の位置は100メートル圏内だった。
(缶の位置は……)
 圏内とはいえ、まだ講堂前の缶は見えない。
(ん、猫?)
 ふと、猫の姿が目に留まった。通路の奥、講堂へ出ようとするには避けられない場所に、それらはいる。
(飛び掛かってきそうだ。缶の守りはビーストマスターか?)
 その読みは当たっていた。
(さあ、可愛い猫を痛めつけてでも缶を蹴りますか?)
 アリーセの作った最終防壁が、これだった。
 野生の蹂躙を行使すれば、猫達は駆けてくるであろう攻撃側の人間の妨害をするであろう。
(猫に飛びつかれてる間に、コートの下の顔が見れたらまずいな)
 あれも罠の類だと思いつつ、後退する。
(ならば外の二人を引きつけておかないとな)
 
            * * *

(なんとかここまで来れたぜ)
 垂との二人は、100メートル圏内に入り込んだ。
(まずはあの猫をどうにかしねーとな)
 彼女が繰り出したのは、ヒロイックアサルト「八犬士」だ。犬といっても、それは本物ではない。あくまでも彼女の魔力が具現化した姿である。
 それによって猫を逆に引きつける。
(おや、猫達が……)
 これにはアリーセも驚く。
 その隙に、一気に講堂前へと駆け出していく。

(攻めるみたいだから、なんとか守りの人を動かさないとねぇ)
 佐々良 縁(ささら・よすが)が缶の周囲を眺めつつ、その様子もまた覗いていた。
(頼むよ、百ちゃん)
 パートナーの著者・編者不詳 『諸国百物語』(ちょしゃへんしゃふしょう・しょこくひゃくものがたり)とともに、行動に移る。
(任せて下さいな)
 諸国百物語が氷術を唱える。
 次いで、縁が火術でその氷を霧散させる。
 これによって、缶の周囲に霧を発生させようとしたのだ。
(うーん、いまいちかねぇ) 
 確かに霧は出来たが、完全に視界を潰せるほどではなかった。
(まずはこれで様子を見て、と)
 その様子を、講堂の上から佐々良 睦月(ささら・むつき)が見ていた。
(ねーちゃん達はいい感じにやってるみたいだな。でもあの人は微動だにしない、か)
 それでもまだアリーセは動かない。缶から10メートル程度離れてはいるが、一瞬で詰まってしまう距離だった。
 その時である。
「来ましたね」
 薄い霧にいくつもの人影が浮かび上がる。
「メモリープロジェクタですか」
 それらは全部、朝霧 垂の姿だった。しかも、缶を蹴るのではなくまるでアリーセに攻撃を加えようとするかのように向かってきた。
 だが、缶を踏んだ状態になれば問題はない。
 しかし、その垂の姿は囮だった。
「そういうことですか!」
 死角から、朔が加速ブースターで飛び出してきた。
「夜霧 朔!」
 だが、一歩及ばなかった。
「朝霧 垂!」
 続いて、垂の名を呼ぶ。
「影まではごまかせませんよ」
 霧の中にある、一つだけ影のある鮮明な姿をピンポイントで捉えた。そのため、彼女も捕まってしまう。
 そして再び猫を配置し、攻撃に備えた。
 

 しばらくして。
(ここまで来れば、あとは缶を蹴るのみ!)
 が講堂へ向かって走り出す。
「おや、ヒーローともあろうものがか弱い小動物を押し退けていこうというのですか」  アリーセが猫を走り来る陣の前に飛び出させる。
「どけッ!」
 威圧して動きを止め、その隙にバーストダッシュだ。
 その彼とは向かい側の通路。
「もう一人!?」
 仮面ツァンダーソークー1が両サイドから攻めてくる。幻覚などではない。
「データ照合……一人は判明、もう一人は不明であります」
 リリ マル(りり・まる)が仮面の二人の正体を知ろうと資料検索の特技を生かすものの、分かったのは陣のみだ。
 男装している歌菜までは即座には見抜けないようだった。
(仕方ありませんね)
 缶を踏みにかかろうとするアリーセ。
 だが、両方向からファイアストームが繰り出され、缶の周囲に炎の壁が形成される。
(うおおおおお!!!)
 その機会を待っていたかのように。
 あるいはこれで完全に守備側全員が封じられたために。
 正悟が壁面を氷術で凍らせ、一気に滑り降りていく。その勢いは留まる事を知らない。
 が、ほとんど同じタイミングで飛び出したのは彼だけではなかった。
(……よっし。いくぜ!)
 屋根の上から睦月が飛び、そのまま奈落の鉄鎖の勢いに任せて缶に向かっていく。
 炎の壁も、上空はガラ空きだった。
 二人が缶に着くのはほぼ同時だろう。
 下手をすると激突しかねない。
(く、止まらない!!!)
 正悟はそのまま炎の壁に突っ込んだ。パワードスーツを着こんでいたために、炎に耐える事が出来たのだ。
 
 カーン!

 缶が宙を舞う。
 蹴ったのは正悟ではなく睦月だった。
 そして正悟はその勢いのまま、
(ヤバい!)
 缶を蹴った直後で地面にそのままダイブしかけた睦月を咄嗟に抱え込み、加速の勢いでそのまま一直線に闇の中へと消えていった。
(よくやった、睦月! あれ、でもどこへ行ったのかな〜?)
 缶を蹴ろうとしたのは縁からも見えていた。ただ、その姿はない。
 蹴られた事によって、エリア4は攻撃側が制圧した事になる。全員の携帯もしくは情報端末機にその旨が伝えられる。
(やったね! このまま他のエリアに移動して……)
 100メートル圏内にいる偽ツァンダー二人が動きを止めた。もうこのエリアに用はない。
 と、その時だった。
 アリーセの猫によって、二人とも仮面が剥がされた。顔が露わになる。
「な、何をするんや!?」
 虚をつかれたような顔をする、陣。
「七枷 陣!」
 携帯のアラーム音が鳴る。リストを見ると、彼は捕まったのと同じ扱いになっていた。続いて、歌菜に迫る。
「遠野 歌菜!」
 彼女もまた、捕まった。
 缶が倒され、終わったはずである。だが、それは違っていた。
「缶は倒れましたが、エリア内の守備はまだ有効なのですよ。試合はまだ終わってないのですから」
 
            * * *

 つまりはこういう事である。
缶が倒れたからといって自分達のエリアにいる人を捕まえられない、とはルールに記載されていませんよ!」
 幸が嬉々としてエリア内の攻撃陣に迫っていた。
 なぜこのゲームが、「エリア別」ではなく、全エリアを跨いでいるのか? なぜ攻撃側が缶が蹴られた後なら移動可なのか?
 その理由がこれだ。
 エリアの境界までなら、缶が倒れたとしても守備側は動く事が出来る。しかも、缶の半径100メートル圏内、というのは缶が倒れてしまった以上機能はしない。
 つまり、そのエリア全体でタッチルールが有効となる。ここからはどれだけ守備側が狩り、他のエリアを増員させないかが勝負だ。
 今、この時だけは缶蹴りではなく完全に鬼ごっこである。
「迂闊だった!」
 佑也も、幸を引きつけておくまではよかった。それによって確かにエリアの突破口を開くきっかけの一つとなったのだから。
「くくくっあははははははは!!!」
 笑いながら追ってくる幸。むしろ、缶が蹴られてからの方が本気であった。
(まずいな……)
 振り切ろうとしたものの、眼前にはアスクレピオス。挟み撃ちにあった。
「それじゃ、顔を見せてもらおーか」
 頭に被ったコートを引っぺがされる。
「はは、捕まえましたよ」
 さすがにもう逃げられなかった。
「如月 佑也!」
また一人、犠牲となる。
「さて、100メートル圏内にたくさんいらっしゃったようですから、まだまだ捕獲出来そうですね、あはは!」
 身を翻し、索敵に入る。
(まずい、幸姐ぇだ!)
 睦月の姿を探しつつ、エリア4から移動しようとしていた縁と諸国百物語は、あろうことか幸の姿を見つけてしまった。
(早く離れなきゃ)
 気付かれる前に、全力疾走してエリアからの離脱を図る。
 しかし、時既に遅しだった。氷術によって作られたらしき氷の壁に阻まれる。
 即座に火術をもってかき消すも、今度はそれによって自らの視界を封じる事になってしまう。その時間の内に背後に嫌な気配を感じてしまった。
「……っ!」
 とん、と何かが背中に当たるのを感じる。
「佐々良 縁!」
 続いて彼女のパートナーだ。
「著者・編者不詳 『諸国百物語』!」

            * * *

 刀真もまた、走っていた。
 今彼の顔にマスクはない。なぜなら、
(光条兵器ですか)
 任意で斬るものを選べる光条兵器の性質なら、マスクだけを薙ぎ払う事は可能だ。接触部分は、あくまでもマスクだけであるため直接攻撃にはならない。
 ルールの抜け道には缶を倒された直後、相手の反応を見て気付きこそしたものの、一歩出遅れた。それが顔を晒してしまった所以である。
(この事、他の攻撃陣は知ってるのか!?)
 歯を噛み締める。知らせようにも、逃げるだけで精一杯だ。
 だからこそ、彼は見落としてしまっていた。
(……っ!)
 蛍光ペイント。カオルが仕掛けたそれを浴びてしまう。物陰に隠れてやり過ごすのも難しい。
 さらに、鳴子にも引っ掛かる。
「追いつめたぜ!」
 健闘こそすれ、ここまでだった。
「樹月 刀真!」
 たまたまその様子を近くで見ていたアリアは、
(缶を倒しても捕まえられるの!?)
 状況を見て気付いた。
 むしろ、缶へ正面突破をかけるよりも、こうなった以上はエリアから出る方が難しい。
「!!」
 背後に気配を感じた。
(他に二人、厳しいけど、いくしかない!)
 むしろここで三人を切り抜けられれば、自分の力を知る事も出来る。
「もう一人いたか!」
 守備側に発見される。だが、彼女は落ち着いて行動に出た。
「タッチされなければどうという事はないわ!」
 幸いにも、研究棟群が多い場所にいる。
 まずは守備側三人を撒く事から始める。
 物陰に入る瞬間に、わざと光条兵器の閃光を繰り出す。その一瞬の間に方向転換、異なる方へ逃げたと思わせる。
 が、誰かしらは後ろからついて来ている。
(あと少し!)
 トラップや、進行方向先で起こる足止めの爆炎波をかわしつつ、寸でのところでエリア4の範囲を脱する事に成功した。

            * * *

 本校舎屋上。
(早くここを出た方が良さそうだ)
 悠司エオリアが示し合わせる。
 場所が場所なだけに、外へ出るのも苦労しそうだった。
「ここにも隠れてましたか」
 現れたのは守備側の人間であった。エリア4の攻撃陣の大半はもう捕まっている。缶もない今の方が守備側は自由が効く。
「逃げられるものならどうぞ」
 残念な事に、二人とも空飛ぶ箒を持っているわけではなく、かといって壁走りが出来るようなスキルも持ち合わせていない。
「高崎 悠司!」
「エオリア・リュケイオン!」
 もはや捕まるしかなかった。

 
 エリア4:空京大学――攻撃成功
      現時点で捕まっていない者:アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)
                   佐々良 睦月(ささら・むつき)
                   如月 正悟(きさらぎ・しょうご)