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KICK THE CAN!

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KICK THE CAN!

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・中央公園1

 
 ビジネス地区で働く者達にとって憩いの場である空京中央公園。ここは自然と都市の景観が調和している、計画的に整備された場所である。
 今回の缶蹴りにおいては、敷地面積だけでいえばこのエリア3は空京大学に次いで広い。それでいて、公園なだけあって障害物が少ないのが特徴だ。
「いいかい、みーちゃん」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)はパートナーの柳尾 みわ(やなお・みわ)にある事を言い聞かせていた。
「いきなりぴかって何か光るかもしれないけど、危ないものじゃなから大丈夫」
「うん、わかった。それで、こんなところ連れてきたのはいいけど、あたしは何をすればいいのよ?」
 みわは缶蹴りのなんたるかは分かっていないようだ。
「実は、あの缶の中には煮干が入ってる、でも普通には出てこない。蹴ると蓋が開いて煮干が出てくるよ。美味しい煮干だから誰かに見つかったらとられてしまうかもしれない」
 煮干し、という言葉にみわがぴくりと動く。そこはさすが猫の獣人というところか。
「俺が皆をひきつけておくからその隙にそっと近付いて思いっきり蹴るんだ」
 これが、カガチが缶を倒すための作戦であった。
 開始早々見つかりそうな100メートル圏内ギリギリのベンチの裏に隠れていたのは、陽導しやすくするためだ。
 みわが猫化し、近くの生け垣に身を潜めるのを確認すると、ツァンダーの仮面を被る。
(おっと、向こうさんも集まった。ってことは始まるみたいだねぇ)
 その場所から守備側の人間を確認する。

「守備全員が所定の位置についたらスタート、じゃったな。いろいろ仕掛ける時間があるのは有難いものじゃ」
 公園の中心、噴水前。そこにファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)がいた。
「それにこのエリアは、他よりも攻撃の人数が多いみたいだな。面白い、それでこそ捕まえ甲斐がある」
 彼女と同じく公園の守備に当たる毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が不敵な笑みを浮かべている。
「罠はあらかた仕掛け終わったぜ。と、全員揃ったからスタートになっちまうか」
 と、ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)。彼は段ボールを片手に100メートル圏外へと踏み出す。
「じゃ、仕留めに行くか」
 大佐もまた、外へ向かう。
「んふ、精々攻撃側には足掻いてもらうとするかのう」
 禁じられた言葉とヒロイックアサルトで極限にまで高めた魔力でファタが氷術を繰り出す。
 噴水の水。それらを使い、半径100メートル以内を氷の迷宮へと変えた。トラッパースキルと魔法の併用だ。
「じゃあ、もう少し固めようか」
 水神 クタアト(すいじん・くたあと)もまた氷術を使う。それにより、缶そのものも氷の壁で覆われた。ただし、缶を踏めるようにコの字型になっている。
「氷術使える者が多いと助かるのう。よし、仕上げじゃ」
 アシッドミスト。缶の圏内が霧で覆われ、氷の壁を視認しにくくする。
「マスター、ジェーンさんは何をすればいいでありますか?」
 ファタのパートナー、ジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)が聞く。
「好きにすればよかろう」
 その言葉によって、彼女は加速ブースターで圏外へと飛び出して行った。
「さあて、このエリアを攻略出来るものはいるのかのう、んふふ……」
 噴水の縁に腰かけ、悪戯に笑うファタ。
 
 (……そんなのアリですか?)
 カガチはその光景に目を見開く事となった。
 氷の壁と、アシッドミストによる霧。もはや陽導とかこっそり近付くとかいうレベルじゃないと思い知る。
(どうしたもんかねぇ……)
 一人でどうにかなるものではなさそうだった。

 かくしてドS揃いの守備による、今回のゲーム中最も激しい攻防がこのエリアで繰り広げられようとしていた。

            * * *

「ハーハッハッハッハッハ!」
 開始直後、中央公園に高笑いが響き渡る。
(おいおい、いきなり堂々と出てくるか、こういうゲームで)
 守備側の一人、ヴェッセルが戸惑う。始まったと思いきやいきなり出てくるなんて、型破り過ぎる。
(いや、これは陽導なのか?)
 そう邪推せざるを得ない。
「瞬着! KANKERIに命を掛ける男! パラミタ刑事シャンバラン!」
 神代 正義(かみしろ・まさよし)がいたのは、時計台の上だった。公園のオブジェの中で最も高いそこで、変身ポーズを決める。
「秘密結社KICK THE KANめ! 世界中のKANを盗み子供達からKANKERIをさせないと企んでいるんだな! そうはさせん!」
 なぜか缶の発音がCANではなくKANである。
(えーと、とりあえずタッチして名前を叫べばいいんだよな?)
 とりあえずシャンバランの言葉は流して、彼を捕まえようとする。陽導だろうと、公園の守備にはかなりの人数がいるし、缶の周囲の守りは完璧だ。
「とうッ!」
 正義――シャンバランは時計台から跳躍し、地上に着地。そのまま缶を目指していく。だが、時計台から噴水までは直線距離にしても500メートルはある。しかもその間には守備側の仕掛けたトラップの数々、加えてヴェッセル本人。
 しかしシャンバランは物陰を利用しながら進んでいく――罠にかかる様子もなく。
 女王の加護がこのヒーローをトラップから遠ざけさせていた。
(ち、こうなったらやるしかねーか)
 隠れ身で身を潜めた状態から、短刀を投げてシャンバランの直線上のトラップを発動させる。この場で捕まえるつもりではあるものの、念のため他の守備側の人にも連絡を入れた。
『今、シャンバランが缶に向かって走ってる』と。
 そんな様子をもう一人のヒーローが上空から眺めていた。
(シャンバラン、まさかいきなり正面突破を狙うとは……)
 仮面ツァンダーソークー1(本物)こと巽は、空飛ぶ箒に立ち乗りしながら缶を目指している。
 が、噴水前の状況が分からない。その辺りが霧がかっているためだ。
(少々厄介ですね。ティアが上手いことやってくれる事を願いますよ)
 今はまだ迂闊に近付けない。上空だからといって安全である保障はないのだ。威嚇での雷術が降ってこないとも限らない。
 彼のパートナーであるティアは地上から缶を目指している。とはいえ、いくらブラックコートで気配を絶っていても、罠相手では効果がない。
(なあに、これー!?)
 ぷつん、とワイヤーが切れる音がしたかと思えば、身体に何かが纏わりついていた。網にでもかかったのだろう。
(でもこのくらいなら……)
 光条兵器を取り出し、網を破る。しかし、身体が思うように動かなかった。しびれ粉がびっしりと付着していたのだ。
(かかったな)
 仕掛けた当人、大佐がそれを感じ取り、彼女に差し迫っていた。
 
            * * *

 公園で一番高い場所は時計台の上だが、二番目に高いのは公衆トイレの建物の上である。デザイナーズ仕様だけあって、無駄に凝った造りとなっているから、隠れるのにも都合がよかった。
(缶の周囲は霧と氷の迷宮か。簡単には突破出来そうにないな)
 虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)はその場所で、エリア3の攻撃側に回って来た連絡内容を確認した。送り主は一部始終を目撃していたカガチである。
『まずは壁を壊す事が先決だが、どうする?』
 涼は事前に示し合わせていたメンバーと作戦相談をする。
『自分達もまだ缶が見えるまで辿り着いてないんです』
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)から返答があった。彼の側にはルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)もいるとのこと。
『至るところに罠が仕掛けられてまして。地上はろくに足の踏み場もないくらいですよ』
 いくつかは破壊しましたが、とザカコは付け加える。
『分かった。気をつけてくれ。思っていたよりも缶を倒すのは骨が折れそうだからな』
 一旦連絡を切る。

(どうします? 100メートル以内が一番大変そうですけど……)
 物陰でクライスが呟く。隣にはザカコがいる。
(いえ、そこは実は問題じゃありませんよ)
 ザカコはさほど憂いていないようだ。
(複雑な防衛網にこそ、単純な一点突破が効果的ですよ。だからこそ、100メートル圏内に入った時が勝負です)
 彼には勝算があるようだった。
(だからこそ、今の状況を脱しないといけませんね)
 ルースの表情は硬い。それもそのはずである。
 隠れたと思ったら、その場所にしびれ粉が撒かれていたのだ。幸いな事にここに追っ手はまだ向かっていないが、早く動かなければ三人まとめて捕まってしまう。
(ルカルカさんはどんな感じなんでしょうか?)
 上空待機しているはずのルカルカ・ルー(るかるか・るー)に連絡してみる。
『見つかってはいないけど、霧のせいで缶の周りが全く見えないわ』
 とのことだった。
(この場は他の方との協力も必要ですね)
 おそらくエリア攻略のためには、自分達五人だけでは足りない。それだけ、守備側の守りは徹底していたのだ。
(トラップ対策と陽導と突破口作り。やることは山積みですね)

            * * *

(どうしたものかのう……)
 公園上空。ルカルカやツァンダーのように空から缶を狙う者が、このエリアに関しては多かった。
 御厨 縁(みくりや・えにし)もその一人である。彼女は空飛ぶ箒の後ろにパートナーの伊達 藤五郎成実(だて・とうごろうしげざね)を乗せていた。
(さっき入った連絡だと、霧の中にはさらに氷の壁があるとか。せめてそれが壊れればいいのじゃが)
 彼女は100メートル圏内ギリギリを飛んでいる。ただ、ぼんやりとしか霧の中は見えないため、本当に壁があるのかは判別がつかないのだ。
 一度視野を広げ、公園全体を見渡す。
(隠れ身か何か使っておるせいか、どこに守備側の者がいるのか分からんのう。ただ、全員がそのスキルを持ってるとは限らんし、だとすれば)
 缶の周囲の防御に集中している。そう結論づける。
(どうするの? さすがにずっと飛んでるってわけにもいかないし)
 縁の側を飛んでいるシャチ・エクス・マシーナ(しゃち・えくすましーな)が言う。その後ろにはサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)が乗っていた。
(他にも空から攻める者がおる。しかも、地上とは違って空には攻撃が届かぬようじゃ。下で誰かが陽導しようと考えておるから、その隙を待て)
 そうでなくとも、シャンバランが無意識に守備側の人間を一人引きつけてくれているのだが、それには気付いてないようだ。
 しかし、気付いてないのはそれだけではなかった。
 空飛ぶ箒は、本来一人用である。それに長時間二人で乗っていたらどうなるか。動きは鈍くなり、少しずつ高度も落ちていく。
 そして、

(……ッ!!!)

 雷術である。二本の箒の間に稲妻が落ちた。
「乗ってる人は狙っちゃ駄目だったね。あくまでも僕が狙ったのは箒、だよ」
「でも当たっちゃったら反則取られるかもしれないので、気をつけましょうよ」
 クタアトとプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)がそのような事を口にする。特に主審からお達しがないので、セーフなようだ。
「上空に二組、ですか。もう少し入り込んでいれば缶を踏んで終わりでしたのに……顔が分かってれば、ですが」
 さすがに夜の闇で上空にいる人間の顔までは判別が難しいようだ。
(今のは攻撃にならんのか? 審判よ!?)
 縁は聞こえないように呟いた、はずだった。
『今のはあくまでも威嚇なので、セーフです』
 携帯電話の画面に主審からのメッセージが表示される。一体どこから見ているというのか。
(ぬう……)
 腑に落ちないが、審判の言う事には従うほかない。
(まずは一度態勢を立て直さねば)
 一旦雷術の射程と思われる距離から離れる。
 その間に、100メートル圏内にほど近い場所から光が上がったのを見た。
(まあ、こんだけ近いんならやるだけやってみるかねぇ)
 自分以外の攻撃側の実情を知ったカガチが動き出した。目の前に氷の迷宮があるとはいえ、すぐ近くまで誰かが迫っていたら守備側も動き出すだろう。
(さあ、ヒーローお出ましといこうじゃないか)
 偽者ではあるが。
 大柄な仮面ツァンダー(二人目)が公園に出現した瞬間だった。ちなみに大柄(一人目)は空京駅にいたりする。
 
            * * *

「さて、では行きますかー」
 エリア3の芝生広場の辺りで、神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)を装着して、地中へと潜った。缶蹴り開始時間とほぼ同時の事だった。
 中央公園は土の地面と、舗装されたコンクリートの地面が混在する。そのため、かなり深い場所を進んでいく。勿論、配管等を傷つけないようにする事も考えて。
 噴水広場の周囲は人工芝の地面だ。それは噴水を中心として20メートル以内とそれほど広くないが、むしろそれは彼女にとってはいい方向へ働いた。
 地中から缶を狙おうという者は他におらず、しかも上手くいけば缶を地下から弾き飛ばす事も出来るからだ。
 
 本当の勝負は、ここから始まる。