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泥魔みれのケダモノたち

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第4章 ヒャッハー! 特攻だ!

「くそっ! また鬼たちがわいてきたぞ」
 エリカたちを取り巻くように次から次へと泥の塊から生み出される黒鬼の軍勢に、斎藤邦彦は舌を巻いた。
「恐ろしい相手ですね。この沼地を出ない限り、彼らの追跡を断ちきることはできないでしょう」
 パートナーのネル・マイヤーズは落ち着き払った態度を維持しているが、エリカの周囲の生徒たちは、「正直、もう限界」と感じてきていた。
「みなさん、私はまだ進みます! でも、限界を感じている方は、手遅れにならないうちに引き返して下さいね。私は大丈夫ですから」
 エリカもまた、疲れを声ににじませていたが、それでも気丈に前をみすえていた。
 そのとき。
「ああ? 何だ、お前ら。よく考えろよ、この鬼たちに襲われたからって死ぬわけじゃないんだぜ。何、びくびくしてる? 何、気落ちしてんだ? このシャンバラ大荒野に生きる蛮族たちにとって、この沼地は全く平和だっての。お前ら、本当にパラ実か? まあパラ実じゃない連中もいるが、パラ実の生徒が、たかだか全裸にされることをなぜ恐れる?」
 多くの生徒たちをひきつれ、エリカたちとは別の一派として沼地を駆けまわってきたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が、呆れたような口調でエリカと追随者たちに問いかける。
「ナガンさん! 黒鬼たちは怪力を誇っていますし、決して全裸にされるだけで済むわけではありませんわ!」
 エリカは、周囲の生徒たちを弁護するかのようにナガンに答えた。
「だからそれこそ、パラ実らしくねぇっての。喧嘩を恐れるな、全裸を恐れるな。おやっさんが言ってただろ? あいつらはマイナスエネルギーで構成されているんだ。力いっぱい啖呵を切って特攻すりゃ、きっと倒せるんだよ。負けたらどうする、ってそんなこと考えてたら蛮族はやってられねえぜ!」
 ナガンの力強い語りに、その場にいた生徒たち、そう、パラ実生からも、そうでない生徒からも、賞賛の声があがった。
「ナガン、お前のおかげで、闇に沈みかけていたパラ実魂に光を取り戻したぜ!」
「みんな、闘おう! ナガンに続け!」
 エリカの周囲で肩を落としていた生徒たちも顔を上げて、拳を振りあげる。
 ワー! ワー!
 ナガンもまた両手を振り上げて歓声にこたえると、こう叫んだ。
「と、いうわけでー! 奴らに襲われると全裸にされるというなら、いっそのこと、最初から脱いで突撃しないか?」
 えっ?
 ナガンの提案に、思わず息を呑む生徒たち。
 特に女生徒たちは露骨にひいた顔をみせている。
「どうした? 素晴らしい思いつきだと思わないか? 最初からノーダメージ確定で特攻するんだよ。恥ずかしがるのは、後からでもいい! そう思わないか?」
 しーん。
 水を打ったように静まりかえる生徒たち。
 だが、そのとき、ナガンの呼びかけにこたえ、さっそうと名乗りをあげた生徒たちがいた!
「いいぞ、ナガン! そいつは名案だ! 黒鬼たちも俺たちの覚悟をみて震えあがるだろうぜ!」
「俺たちは、全裸にされるなんて恐れていない。そいつを最初から証明してやろうぜ!」
 ナガンの周囲に、荒くれそのものといった生徒たちが次々に馳せ参じる。
 恐るべき荒野の蛮族たちは、自ら全裸になることも厭わないのである。
「よーし! そうと決まったらいくぞー!」
 ナガンは先陣を切って黒鬼たちに突進する。
「なんだコラァ! 死ぬ覚悟決めたか、文明人!」
 黒鬼たちが拳を振りあげてナガンに殴りかかろうとする。
「ヒャッハー! いくぞ、ホォォォォ!」
 気合とともに、ナガンは衣を全て脱ぎ捨てた!
 現れた裸身は、誰もが息を呑む精悍さを誇っていた。
 よくみると、沼地からたちのぼる瘴気がこりかたまっているのか、股間の部分がよくみえないが、それもまたある意味興奮をそそる光景であった。
「う、うおお!? 何だとぉ!? 自分から全裸になるとはぁ!」
 さすがの鬼たちも、ナガンの裸身に衝撃を覚えてたじろいだ。
「よくみろ! これがパラ実魂だぁ!」
 叫びながら、黒鬼に突進し、首に腕をかけて締めつけるナガン。
「ぬ、ぬううう! 愚かな! 自ら全裸になった程度で勝ったつもりとは! いいか、文明の汚れを捨て去る第一は、衣を脱ぎ捨てること! そして、野生の姿になったなら、次は! 闘争本能のままに闘うのだぁ」
 黒鬼たちは唸りをあげて、ナガンととっくみあいを始めた。

「面白ぇ! 次はオレだ!」
 ナガンに続いて、吉永竜司(よしなが・りゅうじ)が鬼たちの前に立ちはだかる。
「なに!? D級四天王の吉永か!」
 斎藤は顔をこわらばせた。
「おう、オレが吉永だ! ったく、ナガンのいうとおりだぜ。全裸が怖くてパラ実生なんてやってられるかっつうんだ! オレが黒鬼をボコにしてやるぜ。それで、非戦闘要員の女や、ただついてきてるだけの連中は即刻お帰りしな! 後はオレが全部やってやるからよ!」
 吉永は荒々しい口調でエリカたちにいった。
「何度もいいましたが、私はこのままでは帰りませんし、帰れません。吉永さんが黒鬼さんたちをやっつけてくれてる間に、ハムーザ3世ちゃんを探します!」
 エリカは吉永の筋肉ムキムキの身体を恐れる風もなく、堂々と言い放った。
「おう、確かに気合は入ってるな。だが、闘うことのできない癒し系のお嬢様が、この荒野の現実を前に何ができるってんだ? おう、みてみろ!」
 吉永は、己の制服に手をかけた。
「おう、黒い鬼野郎ども、このオレの縄張りでやりたい放題やってんじゃねえぞコラァ!」
 すさまじい声で怒鳴り散らす吉永。
「同じような口調だから、鬼と見分けがつかないよ」
 斎藤は呆れ顔だ。
 黒鬼たちは、吉永の理屈を超えた気迫におされながらも、負けるものかと声を張り上げる。
「んだぁ? トチ狂ってんじゃねえ、沼ができてからここは俺たちの縄張りなんだよ! もう1度小学校、いや幼稚園から勉強し直せこの脳足りんが!」
「だとコラァ!?」
 鬼たちの挑発に本気で怒ったのか、吉永の顔が怒りで真っ赤になった。
「面白ぇ、オレが何だかわからないなら、わからせてやる! おう、てめぇらよく見とけよぉ! これが四天王の闘い方だぁ!」
 ついに吉永は制服も、その下の下着も全て脱ぎ捨て、恐るべき裸身を露にした!
「吉永さん! そんな格好したら風邪ひきますよ!」
 エリカが超天然な発言をしたが、その言葉は吉永には聞こえない。
「おりゃああああああ」
 絶叫をあげながら、吉永は突進し、重い拳の一撃を黒鬼のあごにくらわす。
 ドゴォッ!
「あ、あべしんぞう!」
 割れたあごから血を噴き出させ、意味不明の戯言を吐きながら倒れる黒鬼たち。
 倒れてからその身体は砕け、もとの泥の塊に戻ってゆく。
「どしたどした! 続けていくぞ!」
 背後から襲ってきた黒鬼に、吉永は振り返りざま蹴りを繰り出す。
「おぐわ!」
 声にならない叫びをあげて黒鬼は倒れ、砕け散った。
「おりゃあ! 頭もオレに負けてっぞ!」
 吉永の頭突きが、黒鬼の額を割り、脳みそを巻きちらさせる。
「野郎、タマとったるわい!」
 黒鬼たちが次々に吉永につかみかかり、泥の中に引き倒した。
「なんじゃ、こんな泥が!」
 裸身が泥にまみれても、吉永の勢いは全く衰えることがない。
「死ねやコラァ!」
 顔を泥に押しつけられながらも、吉永は汚れた歯をむき出しにして叫び、つかみかかっている鬼たちをいっきに振り飛ばした。
「ぎ、ぎやあああああ」
 振り飛ばされた鬼たちは、吉永の尋常でない気迫を前にマイナスエネルギーを吹き消され、次々に四散していく。
「まだまだぁ!」
 泥の中に起き上がり、両の拳を打ち合わせてやる気満々の吉永。
 D級四天王の貫禄十分であった。