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泥魔みれのケダモノたち

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第9章 全裸でバトル! パート2

「ぶきー! お前ら全員、ただで帰れると思うなヨー!」
 ダークキッコウの叫びが、沼地に響きわたる。
「ハムーザ3世ちゃん、待ってて。必ず助けるわ」
 全身泥まみれで毛皮の衣で胸と股間だけ隠しているエリカが、瞳の炎をきらきらさせながら気力をふるい起こす。
 だがエリカにしても、その周囲の生徒たちにしても、何か策があるわけではなかった。
 いくつかの策は試されたが、失敗に終わっている。
 しかし、希望がないわけではない。
 この沼地には、今回、エリカを追うかのように、多くの生徒たちが入り込んでいるのだ。
 潜在的な戦力、本当の強豪は、これから出てくるかもしれないのである。
 そう、荒野の蛮族たちの力は、こんなものではないのだ!
「ふう。やっと中心にきたぜ」
 黒鬼たちを蹴散らし、エリカの後から沼地の中心に向かっていたナガン ウェルロッドが、ついに姿をみせた。
 エリカたちとは別の動きをみせる彼とその仲間たちは、闘志に満ちあふれていて、失敗を恐れる風もない。
 彼らこそ、パラ実生本来の姿を伝えているといえる。
 まあ、パラ実生でない者もいるが、他校にも、パラ実生と魂の距離が近い者はいるのである。
「うん? 何だ、あのカメは。あいつがボスってわけか」
 ナガンは、ダークキッコウの巨体をみても、ひるむ様子さえみえない。
「黒鬼と闘って道を開いてくれた仲間も、裸で踊ったりしている仲間も、もうじきやってくる。それまで、俺たちもやってやるぜ! ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)! その荒ぶる魂を解放するんだ!」
 ナガンの合図で、ラルクが前線にたった。
 ラルクの眼前に待ち構えるのは、恐るべきダークキッコウ!
 毒の息を吹く巨ガメである!
「おう! ナガンの言うとおりだ! 脱がされるんだったら自分で脱ぐのみだ!」
 ラルクは、衣に手をかけた。
「何だコラァ! 図体でかけりゃ喧嘩も勝てると思いこんでるたわけかー!」
 ダークキッコウ周辺の黒鬼たちがラルクを襲おうと走ってくるが、ラルクは気にも止めない。
「ダークキッコウ! てめぇの思惑通りにはいかねぇ! いいか! いまからてめぇをぶっ殺してやるから覚悟しろ!!」
 ラルクは衣を脱ぎ捨て、全裸になった。
 筋骨隆々の肉体が、汗に濡れて輝く。
「うおおおおおお!」
 雄叫びをあげながら、ラルクは沼地をかける。
 そのたくましい足にはね飛ばされた泥が全身をまだらに染めあげても、全くお構いなしだ。
「ラルク、最高だぜ! 我もいま行くぜ!」
 ラルクのパートナーである秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)も、ラルクに続いて衣に手をかけた。
「おおお!! まさかこんなところで、たくましい裸をみられるなんざぁ、感激だ!! さあ、我のもみろ!!」
 闘神は全裸になり、ラルクにも劣らぬ肉体美をみせつけた。
「おうおう、いい筋肉ついた鬼がいるじゃねえか!! こいつはたまらねぇな!」
「闘神、お前には鬼の相手を頼むぜ!」
 ラルクが闘神に怒鳴り声で依頼する。
「言われなくてもわかってらい! さあ、鬼の野郎ども、かかってこい!」
 ラルクに続いて駆け出した闘神。
 ラルクは自分を襲ってきた黒鬼の攻撃をかわすと、ダークキッコウ目指してひた走ってゆく。
「いい度胸だ。俺らシカトしてっと血を吐くぞコラァ!」
 ラルクを追おうとした黒鬼たちに、闘神がつかみかかっていく。
「おらぁ! 筋肉と筋肉のぶつかりあいだ! 負けてられるかよ!」
 ちゅどーん!
 闘神に首を締めつけられただけで、黒鬼の身体が爆発した。
 ラルクも闘神も、全身が気迫の塊であった。
「さあ、勝負だ!」
「ぶきー!」
 ラルクとダークキッコウが至近距離でにらみあう。
「まずは、ここから!」
 ラルクは勢いよく腰を前に突き出し、泥にまみれた先端を誇示した。
「ぶき?」
「おら、お前の頭とどっちがでかいか、こっから勝負だ!」
「ぶきー! バカにしとんのかー! 人間のそんなものにサイズで負けるほど落ちぶれてはいない!」
 ダークキッコウはキレてしまった。
「どうかな? サイズでは確かに負けてるが、気迫はお前よりあるぜ、俺も、こいつもな! みろ、この硬さを!」
「ラルクさーん! そこが汚れてるといろいろ不衛生ですから、きれいにした方がいいですよー!」
 エリカがずれたアドバイスを送ってくる。
「おう、闘いが終わったら風呂で洗うぜ! さあ、前座はここまで! いくぞ!」
 ラルクは跳躍すると、ダークキッコウの頭部にすさまじい勢いの蹴りをくらわせた。
 ドゴォッ
「ぶきー!」
 叫ぶダークキッコウ。
「通じてないか? ならば、疾風突き!」
 ラルクの弾丸のような拳が雨あられとダークキッコウに襲いかかる。
「カメカメカメカメ!」
 甲高い鳴き声をあげて、ダークキッコウは手足と首を甲羅の内側にひっこめ、ラルクの拳を全て甲羅で防いでしまう。
「ふっ、やるじゃねえか! なら!」
 ラルクはダークキッコウの巨大な甲羅にがっぷりと組みついた。
「無駄じゃあ!」
 ダークキッコウは手足と首を甲羅から突き出すと、甲羅に組みついたラルクの肩に力いっぱい噛みついた。
「ぐ、ぐおおおおお!」
 悲鳴を噛み殺して、ラルクは腕に力を込める。
 ラルクの肩から血が一瞬しぶくが、その量は少なめだ。
「ぶきー! 筋肉がかたくて噛みきれん! なんじゃこいつは!」
 叫びながら、ダークキッコウはラルクを振りほどこうともがいた。
 そこに。
「我も参加するぜ!!」
 黒鬼を蹴散らした闘神もまた、ダークキッコウの甲羅に組みついてきた!

「よし、次はオレだ!」
 国頭武尊(くにがみ・たける)がダークキッコウとの全裸勝負に名乗りをあげた。
「オレの目的はひとつ! カメを倒して御礼にエリカからパンツをもらうこと!」
 サングラスの奥の国頭の瞳が、ギラッと光る。
 国頭は波羅蜜多ツナギに手をかけた。
「ぶきーっ! キサマも死ぬつもりかーっ!」
 ラルクと闘神に組みつかれたダークキッコウだが、闘志満々で国頭を睨みつける。
「カメェェェッ!! お前を倒しハム何とかを助け出し、御礼にパンツをもらうんだ! パンツ・オア・ダーイ! パンツ・オア・ダーイ! お前はパンツのために死ね!」
 ちゅどーん!
 国頭の気迫をモロにくらった、ダークキッコウ周辺の黒鬼たちの身体が爆発を起こす。
 そして。
「ぐわあああああ」
 ダークキッコウも悲鳴をあげる。
 どどどどどーん!
 ダークキッコウの甲羅にも小規模な爆発が起きたのだ。
「な、なぜだ!? なぜ、文明に汚された人間どもにこれほどの力が出せる!?」
「いくぞぉっ!」
 ズキューン、ズキューン!
 国頭は二挺拳銃を乱射しながらダークキッコウに近づいてゆく。
「くらえ、氷術!」
 国頭の放った術が、ダークキッコウの手足の一部を凍りつかせる。
「たあっ」
 隙ありと、ダークキッコウの甲羅の上によじ登る国頭。
「さあ、こっちに来い、ハム何とか! うわあっ」
 甲羅の上のハムーザ3世に手をさしのべたが、ダークキッコウが甲羅を揺らしたため、振り落とされる国頭。
「ハム〜怖いハム〜」
 ハムーザ3世はガタガタ震えるばかりで、自分から動くことはできないようだ。
「くそっ、何が何でも救出してみせる!」
 舌打ちすると、国頭はラルクたちとともにダークキッコウの甲羅に組みついていった。
「国頭さん、かっこいいです! パンツ・オア・ダーイ! パンツ・オア・ダーイ! ところで、誰のパンツが欲しいんですか?」
 エリカの質問が、沼地を吹く風の中に虚しく響きわたる。

「さて、そろそろ私も行かせてもらいましょう!」
 浅葱翡翠(あさぎ・ひすい)が決意を固めて、ダークキッコウに向かっていく。
「いいぞ、浅葱! いまこそ年齢偽証疑惑の真偽を証明するのだ!」
 ナガン ウェルロッドが檄を飛ばす。
「ナガン様のいったとおり、やってみますよ。脱げばわかるというのですね?」
 浅葱は、念押しした。
「うむ、そうだ。脱げばわかる、脱いでもわからないときはもうダメだ!」
 ナガンは力強い確証の意を伝えた。
「おう、兄ちゃん! なかなかいい度胸してるが、オレたちからみりゃ、中坊みてえなもんだぜ!」
 黒鬼たちが浅葱に絡んでくる。
「だから、私は13歳で、中1なんですよ」
 浅葱はムッとして答える。
「ああ!? ハッ、笑っちゃうな。自分で自分をガキ扱いにして、そりゃ何かの謙遜か!? そんなデタラメでオレたちをあしらったつもりになってんならお笑い草だぜコラァ!!」
 黒鬼たちは口々に怒鳴りたてる。
「んもう。何で鬼たちにまで疑われるんですか!」
 浅葱は心底怒りを覚えながら、衣に手をかけた。
「服を脱げば子供かどうかわかるというのなら、いいでしょう。いまここで、子供らしさを証明して差し上げますよ!! 亀さんたちに恨みつらみはないですが、蒼空学園中等部浅葱翡翠、御無礼つかまつる!!」
 浅葱は威勢よく服を脱ぎ捨てた。
「こ、これは!? う、うおおおー!」
 浅葱を知る者全員が叫び声をあげる。
 剥き出しになった浅葱の股間からみえるそれは、発育途上でまだ完全武装になっていなかったのである
「浅葱さーん、身体、きれいですねー!」
 エリカが感嘆の声をあげるが、どこか浮いていた。
「さあ、これが揺るがぬ証拠です!! どうです、かわいいと思いませんか? 自分でいうのも何ですけど」
 浅葱は胸を張った。
「ハッ! 本当に小さくて、たいしたことのねえ代物だぜ! わかったぜ! てめぇは中坊だぁ!」
 黒鬼たちは、浅葱の実年齢を認めた。
「そうだ、たいしたことないな! 同じ13歳でももうちょっと発育してるもんだしなー!」
 他の生徒たちも声をあげて、浅葱の実年齢を認めた。
「うーん、年齢偽証疑惑が晴れたのはいいけど、ちょっと複雑な気分ですね」
 小さいを連呼されたのが何となく気になったのか、浅葱は顔をしかめたが、これでいいのだと持ち直す。
「さあ、亀さん、行きますよ!」
「ぶきーっ! お前みたいな中坊に何ができる!?」
「『中坊』とは単なる学年であって、階級ではないんですよ! 行きます」
 浅葱はダークキッコウに突進すると、ラルクたちと同様、巨大な甲羅に組みついていく。

「さあ、次はあたしだね!」
 弁天屋菊(べんてんや・きく)がダークキッコウに挑戦の構え。
 黒鬼たちが速攻で弁天屋に絡む。
「なんじゃあ、任侠かぁ!? どこの組のもんじゃ!」
 バシィッ
 黒鬼が肩をつかもうと伸ばした手を、弁天屋は払いのけた。
「なに!?」
 弁天屋の強気に、どよめく黒鬼たち。
「ナガン! 脱ぐのは構わないけどね、背中の紋々までは脱げないからね!」
「おう! とにかく、いいもんみせてくれや!」
 ナガンは弁天屋に手を振った。
 弁天屋は衣に手をかけ、啖呵を切る。
「お控えなすって! 早速のお控え、有難うござんす。手前生国と発しますところは陸奥国は津軽藩、岩木川で産湯をつかい姓は弁天屋、名は菊、人呼んで弁天屋の菊と申します」
「弁天屋菊だと!? 野郎、ここは北国の人間が来るところじゃねえんだよ!」
 黒鬼たちはいっせいに吠える。
「ぶきー! キサマらはただ大口叩くだけで、実際には何もできんのだ! だいそれた自己紹介に何の意味がある? 自然に生きる者はみな、わざわざ自己紹介などしない。ありのままの姿をみてもらえれば、それが自分という存在の認識になるからだ! 自己紹介などという行為は、文明の汚れをまさに象徴する行為! 断じて許すわけにはいかんのだぶきー!」
 ダークキッコウは弁天屋に噛みつかんばかりの勢いだ。
「なるほど。てめぇにはハナっからわからねぇと踏んでいたがな! やはりそうか!」
 弁天屋は負けじとダークキッコウに舌鋒を向ける。
「だいたいてめぇ、文明がどうのこうのといいながら、そのしゃべってるセリフはなんだ! 言葉も文明の利器だぞ! 一貫性が無えのは勘弁ならないぜ!!」
 衣を脱ぎ捨てた弁天屋の背に、見事な弁天の入れ墨が重厚な雰囲気をかもしだす。
「はああああああ!」
 弁天屋は駆け声とともに、ダークキッコウに駆けていった。
「ちょっ、待っ、うがあああ」
 ちゅどーん!
 弁天屋とすれ違った黒鬼たちの身体から次々に炎があがる。
 任侠もまた、精神エネルギーをもたらすものなのだ!
「くらえ!」
 飛び上がった弁天屋が、ダークキッコウの額に拳を叩き込む。
 めりっ
 ダークキッコウの額が割れ、どす黒い血がしたたり始めた。
「ぶきー! こんなものがなんじゃいワレ!」
 血にまみれた顔を歪めてすさまじい叫び声をあげるダークキッコウ。
 どごっ
 ダークキッコウの短い手が、弁天屋の胸を打った。
「やるじゃないの! それでこそ闘い甲斐があるというものさ!」
 弁天屋は胸に響く激痛にも関わらず笑みを浮かべると、ダークキッコウの巨大な甲羅に手をかけた。
「さあ、あたしもやってやるよ!」