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リアクション
第五章
・扉の前
「みゆう、この先に誰かがいるよ」
リン・リーファ(りん・りーふぁ)がパートナーの未憂に告げる。ディテクトエビルに反応がある以上、相手は害意を放つ何かだ。
「司城先生、気をつけて下さい」
一般人である司城を見遣る未憂。
眼前には、中央制御室の扉が見えてきた。扉は氷術で凍らされており、その前には二人の人影がある。北斗とパートナーのベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)だ。
「悪いんだがここは通してやれねえ。無理通すなら道理は捨てるつもりで来な」
北斗が言う。
彼の手には、強化光条兵器、ブライトグラディウスが握られている。完全に戦闘態勢は整っていた。
「俺達はこの先に行かなければいけない。望むところだよ」
如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が光条兵器を構える。この先にいるアントウォールトと対峙するためには、どうあっても押し通らなくてはならない。
北斗が軽身功を利用し、飛んでくる。初撃を受け止めたのは、正悟だ。
「みんな、目を瞑って!」
北斗が向かってくるのと同時に、司城が叫ぶ。
そのすぐ後に、最大光量の光術がくる。術を放ったのは、気配を殺していた北斗のもう一人のパートナー、クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)だ。
「外した?」
光が発せられる瞬間に目を閉じていた事で、PASD側が目晦ましを食らうのを何とか避ける事が出来た。
「いくよ。ここを突破しないとね」
秋月 葵(あきづき・あおい)が司城の前に立ち、ラスターエスクードを構える。オートガード、護国の聖域、ディフェンスシフトで防御を固める。後衛の司城達に攻撃が及ばないよう、護ろうとする。
「ふん、邪魔をするなら容赦はせんぞ」
フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が禁じられた言葉で魔力を高める。
「二人とも、私がフォローします。任せて下さい」
エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)がパワーブレスを葵らに施す。
ここで時間を取られるわけにはいかない。
(まったく、私はこの件には関係ないというのに……)
苦々しく思いながらも、ベルフェンティータがPASDの面々に向かってアシッドミストを放つ。
その水滴が付着すると見るや、氷術でそれを凍らせようとする。
しかし、
「今だ、火術を」
司城が指示を出したのは、ちょうど彼女が氷術を繰り出そうとした瞬間だった。
(私達の攻撃が読まれてる?)
その間に、クリムリッテがギャザリングへクスで魔力強化を行っていた。準備が整い、今度は火術を放とうとする。
「次、氷術!」
司城の言葉のもと、その術を使える者が即座にそれを放つ。
「あの人、こっちの魔法を感知している? いえ、間違いないわ」
クリムリッテが僅かに表情を歪める。自分達の魔力から、次の行動が読まれていると感じたのだ。
「司城先生?」
その様子に、仲間も不思議そうな顔をする。
「弱い者には、弱いなりの戦い方があるんだよ」
その言葉に納得がいったのは、イルミンスールで司城が汚染された魔力を読んで暴発させた事を知る葵やリリエ達であった。
司城は気や魔力の流れや変化を読む事に長けているらしい。だからこそ、それを生かして指示を出せるのだ。
自身は魔法を使う事は出来ない。出来る事といえば、他人の魔力を利用して反唱を行ったりする事くらいだ。イルミンスールでやってのけたのは、その応用に過ぎない。
「悪いが、行かせてもらうよ」
正悟が北斗を即天去私で吹き飛ばす。
「まだだ!」
が、軽身功で壁にぶつかりそうになっても即座に態勢を整え、再び構え直す。
「魔力が読めても、これは分からねえだろ?」
アルティマ・トゥーレを繰り出す、北斗。
今度は、正悟ではなく別の人物へと目標を移す。
「……!!」
ジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)が彼の攻撃を受け止める。冷気に対しては、即座に火術で対応した。
そして、北斗に対してサンダーブラストを放つ。対機甲化兵で使ってはいたが、とにかく相手をしびれさせて行動不能にするのがいいと考えての事だ。
「生憎、それほど効かないぜ」
北斗はシルフィーリングを二つ装備する事で、雷電属性に対して耐性を得ていた。
「じゃあ、避けられない魔法ならどうかしら?」
ベルフェンティータがPASDに対してサンダーブラストを放つ。広範囲の魔法なら、読まれていようが関係はない。
「みんなを、まもるです!」
ヴァーナーがラスターエスクードを構え、サンダーブラストを防ぐ。葵達の分とも合わせて二枚の盾で、なんとか司城達へ当たるのを防いだ。
「キリがねぇな」
PASD側と、北斗達の力は拮抗している。
「皆さん、これを」
そんな時、シオンが試作型兵器を持って現れた。それを、戦っているPASDのメンバーに渡していく。
しかも試作型兵器を配って回っていたのは彼だけではない。かげゆもまた、各層の人達に渡していたのだ。
「……これ、最後の一つ」
渡すや否や、上層へと戻っていった。おそらくパートナーと合流するのだろう。
「それじゃあ、使わせてもらうよ」
正悟が試作型兵器を手に持ち、起動する。
「まずいぜ」
さすがに北斗もそれは防げない。
正悟の攻撃は、中央制御室の氷を吹き飛ばした。
「あれを破壊しないと」
ベルフェンティータが試作型兵器に照準を定めて、サンダーブラストを放つ。
「く……!」
だが、それだけでは壊れない。そこにクリムリッテが雷術を重ねようとする。
「そうはさせんぞ」
アントウォールト側の三人に対し、無銘祭祀書とエレンディラが同時にサンダーブラストで応戦する。
雷同士、しかも威力の大きい方が打ち勝ち、敵の攻撃を防ぐ事に成功した。
「くそ……こうなったら仕方ねえ」
北斗が、賭けに出る。
「プロってな、例え失敗でも仕事は最後までは見届けるもんだ。そう信じる……だから!」
呼びかけるように、天を仰いで叫ぶ。
「調整不足じゃあるだろうが、この身体、使っていいぜ傀儡師!」
だが、何も起きなかった。
傀儡師は前に倒され、しかも本体からの連絡が途絶えている。それに加え、傀儡師は人間を操る事は出来ない。
「く……そ」
三人にはもはや成す術はなかった。
試作型兵器の威力の前にはどうしようもなかったが、その攻撃が直撃する事はなかった。
「相手が人なら、こうすればよかったね」
ヒプノシスで葵が追い詰められた三人を眠らせた。これにより、相手を殺すことなく、アントウォールトの最終防衛ラインを突破出来たのである。
だが、問題はここからだ。
おそらく、アントウォールト本人はこれまでの敵よりも強い。心して掛からなければ、やられるだろう。
「ノーツ博士……いや、先生。これで終わりにしましょう」