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リアクション
・魔力炉1
その空間は、『闇』だった。
「ここが、魔力炉のはずです」
小次郎がダークビジョンで中を見渡す。だが、暗闇を見通せるはずなのに、一切室内の様子が把握できない。
まずは下手に動かず、様子を見ることにする。
「ダークビジョンが通じないという事は、結界の類だろうな」
白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)がそう判断する。
次の瞬間、
「――――!!」
急に光が起こった。
「ここは、一体……?」
九条 風天(くじょう・ふうてん)が周囲を眺める。
そこは、草原だった。どこまでも広がる。
「風天、これもおそらく結界だ。ここはアークの中、それも魔力炉だ」
しかし、入って来たはずの扉は見当たらない。
おそらく、これが魔力炉の防衛システムの一種なのだろう。
草原から、大樹が生え、それが人のように歩き始める。
「見た目に騙されるな」
セレナがサンダーブラストを浴びせる。すると、樹が苦しそうに呻きだす。
「なるほど、機甲化兵ですね。しかし、こうなると弱点がどこかは分かりにくいです」
魔力炉の結界の効果で、幻覚を見せられているのだろう。
ただ、システムも他の対処に回っているせいなのか、侵入した者達が互いに姿を見紛う事はない。そこまでは働いていないのだろう。
風天はいつもの機甲化兵の姿をイメージする。
それに目の前の歩く大樹を重ねる。
そして近付き、ライトニングランスを繰り出す。二刀の構えから打ち出されるため、実質は四連撃だ。
彼の攻撃に合わせて、セレナが再びサンダーブラストを放つ。
大樹が音を上げて、倒れる。
同じ要領で、他の敵も葬っていく二人。
「魔力炉の本体を探すには、この幻覚を何とかしないといけないわね」
ローザマリア達も、この部屋に入り込んだが、肝心の魔力炉の姿を認められないのでは、作戦の実行しようがない。
「どこから発せられているか確かめる必要があるだろうな」
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が言う。だが、攻撃しようにも大草原と樹人しか見えない以上は、幻覚を発生させている原因を潰すのは難しい。
「どうやら、さっきの機械が樹に見えてるようね」
樹人が機甲化兵・改であるのは、風天達の戦い方から分かった。
「ならば狙うは――そこ!」
関節部らしき箇所に、気絶射撃を行う。巨獣狩りライフルなだけあって、雷電属性を持っていなくとも、弱点を狙えばそれなりに効果はある。
それに合わせて、上杉 菊(うえすぎ・きく)もサンダーブラストを撃つ。
戦っている間に、景色が一変した。
今度は、アークとは異なる遺跡のような場所に見える。
機甲化兵・改はもういない。
「今度は、何が出てくるんでしょうか?」
まだ魔力炉の姿を確認出来ない。
――夢幻灯篭
その時、風天の耳に聞き覚えのある声が響いた。
「――傀儡師!」
それは、前にこのアークで倒したはずの傀儡師の姿だった。
「おや、君にはその姿に見えているんだね」
人を食ったような口調で、言い放つ。
「おそらく、こいつも幻覚だ。どうやら人によって見えているものが異なるらしい」
この場にいる者の反応は、各々で異なる。
「傀儡師……まだ生きていたのか?」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)には風天と同じで、傀儡師が見えているようだ。
(これはどういうことなんだ?)
ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)の眼前にいるのは、十歳くらいの少女だ。黒いゴスロリ衣装に、長ウェーブがかった金髪。
かつて『研究所』の最上層で見た、ベヒーモスと一緒だったあの少女だ。
もちろん、これも本物ではない。モーリオン・ナインはもはや少女の姿ではないのだから。
だが、周りの反応が異なる事から、おそらく見えているものは違うだろうと考える。
さらに、平助達と戦っていた者達もこの幻覚の空間に足を踏み入れる。
「なんで、ここに……そんなはずは」
陣が口を開いた。
「どういう事だろうねぇ、これは。どっちにしてもマズい気しかしないよーう」
どうやら縁も陣と同じものが見えているらしい。
「まずは、この幻覚を破らなければ、魔力炉本体を攻撃するのは難しいですね」
小次郎が呟く。
『研究所』の、とりわけ魔道書のあったスペースにいた者達は、見えているものが共通しているのだろう。
小次郎の前にいるのは、無貌の仮面を被り、片手には魔道書を持っている。
それは、PASDの全身であった旧調査団を苦しめた「守護者」としての、ノインの姿であった。
おそらく、ここにいる者達にとっての、これまで出会ってきた強敵の姿を見せられているのだろう。魔力炉に打撃を与えるには、それを乗り越えなければならない。
魔力炉の防衛システム自体が扱うのは、魔法のはずだ。だが、幻覚の中にいる以上、実際がそうであっても、目に見えている敵の戦い方が再現される事だろう。
これを乗り越えなければ、魔力炉を破壊することは出来ないのだ。