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・魔力炉2


「く……幻影とはいえ、またも傀儡師に阻まれるのか」
 エヴァルトが苦言を呈する。
 攻撃手段は、まさに傀儡師そのものに見える。だが、物理攻撃では決して防げない。魔力炉から発せられている魔法なのだ。
「所詮偽者だっていうんなら……」
 ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が一種の賭けに出る。
「傀儡師くん、エヴァルトから聞いたけど、『必要とする者が現れたら、また会える』んだってね……ボクのボディを貸すから、応えてくれないかな!? 今度は、ボク達が君を雇うとか、そんな形で……!」
 幻覚を打ち破り、魔力炉を破壊するために、ロートラウトは傀儡師に呼びかける。夢幻糸は持っていないが、機晶姫を操る傀儡師に自分を委ねれば、最大限の力を発揮してくれると考えたのだ。
 だが、彼女に傀儡師が応える事はなかった。
「あてが外れたみたいだね」
 幻影の傀儡師が彼女をあざ笑う。
「夢幻灯篭――焔ノ調」
 幻が傀儡師の技を再現してくる。
「くそ……負けてたまるか!」
 エヴァルトはそれでも、耐え続ける。彼には何としても魔力炉を破壊しなければならない理由があった。
(俺は、アントウォールトも助けたいんだ!)
 彼は、敵のアントウォールトをも救いたいと考えていた。
 魔力炉を破壊すれば、今の彼は死ぬがそんな事は知るはずもない。ただ、アークのような戦艦を飛ばした彼に対し、思うところがあったらしい。
 とはいえ、魔力炉の本体が分からない以上、なかなか厳しい。
「攻撃パターンがまるで読めませんね」
 一方、小次郎はPASDの戦い方を伺いながら魔力炉の攻撃を分析しようとしている。
「小次郎さん!」
 パートナーのリースが護国の聖域で、魔力炉からの攻撃を和らげる。
 だが、今の二人に見えているのは、守護者ノインの姿だ。全盛期の彼女の力を完全に再現しているように見え、それを破るのは容易ではない。
 そして、ミューレリアもまた攻撃を躊躇っていた。
「ねえ、あそぼうよ?」
 幼い少女が迫ってくる。
 もちろん、その少女――『研究所』にいた時のモーリオン・ナインが幻だとは分かっている。
 だが、それでも幼い少女に向けて引鉄を引く事が出来ようか。
 自分に見えているのがべヒーモスならばどれほど良かった事だろう。
「例え幻でも、貴様がまだ立ちはだかるというのなら……始末する」
 風天が傀儡師の幻影を睨む。まだ、傀儡師への憎悪の念は消えたわけではないのだ。
 何度向かってこようと、滅殺するまでだ。
「いくぞ、風天」
 セレナが転軽杖を回し、魔力を強化する。その上で、ファイアストームを放つ。
「所詮はまやかしだ」
 本物の傀儡師ほどの強さはない。
 傀儡師の身体に向かって、風天が疾風突きを繰り出した。
 だが、それを幻影は傀儡師と同じやり方――束糸で防いでくる。
 しかし、それで終わるわけではなかった。
「――ッ!!」
 ライトニングランスで、束糸を破る。そのまま傀儡師の幻影を貫いた。
 
 パァン

 何かが弾けた音が響いたと思うと、ガラスが割れるように見えていた世界にひびが入り、散っていく。
 アークの中、魔力炉の姿が露になる。
 あとはそれを破壊するだけだ。
「あれを壊せばいいの?」
 皐月が中心にある、それを見つめる。
「幻がなくなったところで、まだ攻撃が止むようには思えないよねぇ」
 遠くから魔力炉を眺め、援護射撃の準備をする縁。
 そして、案の定というべきか、魔力炉の迎撃システムが働いた。
「近付くのも一苦労ね……くっ」
 ローザマリアが被弾した。
「はわ……しっかりして、なの」
 彼女に対し、エリシュカがナーシングを施す。
「前に一度攻撃を受けているのか、一部損傷していますね」
 菊が魔力炉の、前に破壊された部分を指摘する。
「ならばそこが狙い目か」
 ライザが言う魔力炉の弱点と思しきその部分を攻撃するため、彼女達は前へ出る。
「今なら、いけるぜ!」
 幻影が敗れた直後、ミューレリアが光学迷彩で姿を消した上で、バーストダッシュで一気に魔力炉の本体に駆け寄る。
 だが、魔力炉の迎撃システムは姿は見えなくとも彼女の位置を察知し、魔法を放ってくる。
 超感覚でそれを避けながら、銃型と刀型の魔力融合型デバイスを両手に構えようとする。だが、刀型の方はエネルギーが切れていた。
(エネルギー切れだってんなら……)
 彼女は跳躍する。空中で迎撃システムをかわしながら、魔力炉の本体まである程度近付いたとき、SPリチャージを刀型の方に流しこむ。
 もちろん、そのエネルギーでは動かない。だが、エネルギーが蓄積されたそれは、一種の爆弾のような状態だ。
「いっけぇぇぇええええ!!!!」
 刀型の魔力融合型デバイスを魔力炉の本体に思いっきり投げつける。
 それが魔力炉にぶつかる瞬間、銃型の引鉄を引いた。

 ドンッ!!!

 威力増強用の人工機晶石が組み込まれ、さらに出力が最大となっているそれの威力は、狂乱の藤堂 平助の一振りと同等かそれ以上の威力を秘めていた。
 刀型の魔力融合型デバイスを利用した爆弾。
 そして、最大出力の銃撃。
 その二つが合わさり、轟音とともに魔力炉から光が放たれた。
(やったか!?)
 迎撃システムの動きが鈍くなった。魔力の循環が弱くなっている証拠だ。
 魔力炉そのものはまだ破壊されていない。その中心には、一冊の魔道書が浮いている。全能の書の本体だ。
(まだ動くってなら、これがとどめだぜ!)
 次弾を魔力炉に向けて放つ。
 弾数そのものは少ないが、それら全てを使えば、魔力炉を破壊しつくせるはずだ。
 人工機晶石のストックなら、空京大学にまだあるはずだ。本体さえ残っていれば、まだこれを再利用する事も可能なはず。ならば、ここが勝負だ。
(これで本当に、最後だぜ!)
 全弾を魔力炉に向かって放つ。
 迎撃システムが停止し、魔力炉の中心にあった全能の書の本体が消し飛んだ。
 一部のページが燃え上がりながら爆風に流されていく。

 魔力炉が完全に破壊されたのだ。