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リアクション
第二章
・第二層
アーク第二ブロック、中央制御室。
「来たか」
アントウォールト・ノーツは、内部の魔力の乱れから侵入者の気配を感じ取った。
『アール、始末しろ』
『了解しました』
彼はすぐに『全能の書』アールマハトに命令を下した。
「なあ、爺さん……ってその姿じゃそれもおかしいか」
彼の仲間となっている駿河 北斗(するが・ほくと)が口を開いた。
「依頼達成したら、あんた俺に力くれるって言ってたよな」
「無論だ。今、その一部を使えるようにしてやってもいい。このアーク内に限るがな」
魔導力連動システムの魔力は、彼の意志によって自在に分け与えられるらしい。それは、システムと肉体が半ば融合しているから可能なのだ。
ノインが体現していたものとの違いは、そこだ。
「そいつは助かるぜ。けどよ、全部終わったらあの『全能の書』っての一ページ俺に譲ってくれね?」
交渉に出る、北斗。
「あれはシステムそのものだ。ページなどなくとも、全部が終わった時にはお前はもう力を手にしている」
魔力炉と全能の書本体が融合している以上、それを断片的にでも譲るのは難しいようだ。とはいえ、システムの魔力をどこでも自在に使いこなせるだけの力を彼は得れるのだ。
「どうしても、というのならアールの一部を直接組み込んでやろう」
それは術式として、という事だろう。それは彼の中に直接魔導書が入ってくるに等しい。
「手に入るってんなら、形は問わねえ」
この場は、とりあえず交渉成立だ。
そして北斗は制御室を出て、防衛体制に入った。
その姿を見届け、不敵な笑みを浮かべアントウォールトが呟く。
「征、お前の中にある記憶は私のものだ。早くここまで来い」
* * *
「転送完了。誤差0.04」
ノインによる転送が完了した。
PASDの面々がいるのは、第三ブロックの第二層だ。
「魔力干渉は微弱。だが、こちらから逆干渉するのも無理なようだ」
彼女は少しでも戦いを優位にしようと、魔力炉のコントロールを図っている。だが管理の全権が全能の書にある以上、魔導力連動システムの体現者である彼女でも、システムを乗っ取る事は出来ないようだ。
「我の力が完全だったならば……」
「ノインさん、頑張りすぎて無茶したらダメなんだからね!?」
その様子を見て、レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が声を上げる。以前、彼女は自分を犠牲にしてまで、『研究所』の中にいた者達全員を助けようとした事がある。もう、同じ事は繰り返させたくない。
「あと周くんはノインさんにセクハラしたら……どうなるか分かるわよね?」
「分かってる、分かってるからそう睨むなって!」
その様子をきょとんして見つめるのは当のノインである。ほとんど感情のない彼女には、二人のやり取りの意味がよく分からない。
「なあ、ノイン」
今度は周が口を開く。
「お前が無事な顔を見せてくれた時、すげぇ嬉しかったんだぜ? だから、絶対ぇ負けんじゃねぇ! 一緒に帰って、皆で色んな事取り戻していくんだぜ!」
「ああ」
ただ相槌を打ったに過ぎないほどそっけない口ぶりだ。それでも、ずっと無表情に強張っていたノインの表情が、微かに緩んだような気がした。
「システムをなんとか、ってんなら『全能の書』を探した方が良さそうだな」
「ですね。彼女に会えれば、もしかしたら……」
ノイン、周、エメ達は全能の書を探すつもりだ。
「エメ様、ノイン様、禁猟区を」
片倉 蒼(かたくら・そう)が二人に禁猟区を施す。エメもまた、蒼とリオンに対して同じように禁猟区を使う。
準備は完了だ。
「よし、行こうぜ!」
* * *
第二ブロック、第二層。
その区域に足を踏み入れた瞬間から、戦いは始まった。
通路の先には、白髪で紅眼の女性が立っている。
「早速、全能の書ですか」
リヴァルト・ノーツ(りばると・のーつ)が、歯を噛み締めた。
「警告します。直ちに司城 征、ならびに五機精を置いてアークを去りなさい。さもなくば……」
突如、通路に複数の機械仕掛けの兵士達が現れた。これまでの機甲化兵とは、少しばかり様子が違う。かといって、雛型ほどの存在感を出しているわけではない。さしずめ、機甲化兵・改といったところか。
「この場で消去致します」
手を振りかざすと、機甲化兵・改達が一斉に動き出した。全能の書は、そこからふっと姿を消した。
「素直に引き受けたところで、生かして帰す気はなさそうですね」
リヴァルトが剣を抜く。おそらく、答えがどちらであっても、邪魔な人間はここで皆殺しにするつもりだろう。
司城にしたところで、記憶を奪いさえすれば用済みとなる。ここまで来て引き下がる理由など存在しない。
「行くよ、みんな!」
エミカが紫電槍・改を構えて、駆け出した。
しかし、立ち塞がる機甲化兵も簡単には通してくれそうにはない。
「どっけぇぇぇええええ!!!」
槍を振るうエミカ。
その後ろから、機甲化兵・改に向けて閃光が起こる。サンダーブラストだ。
「俺達で道を開きます。先生達は、先へ!」
術を放ったのは御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。だが、彼一人ではない。
「こんな敵相手に消耗してはいけません。ここはわたくし達で抑えます!」
ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)もまた、サンダーブラストによる援護を行う。
雷電属性に弱いのは、量産型とも雛型とも共通のようだ。
「今のうちに!」
ほんの一瞬、機甲化兵・改が動きを鈍らせた隙をついて、最下層と最上層へ向かう者達が駆けていく。
その間にも、敵は走り行く者達を狙い始める。
「お主らの相手はわらわ達じゃ」
名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が氷術で牽制を行う。さらに、
「こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ」
トーマ・サイオン(とーま・さいおん)がマシンピストルによる銃撃で、敵の注意を彼らに向ける。
機甲化兵の攻撃対象を自分達に向けることによって、奥へ行く者達の時間を稼ごうというのである。
トーマが機甲化兵の気を引き、その間に真人と白き詩篇がサンダーブラストで、少しずつ機甲化兵の装甲を削っていく。
銃撃型の敵からの攻撃は、この場で彼らと共に留まったランツェレットがブリザードで封じていく。
そして隙が出来た機体に向かって、彼女のパートナー、シャロット・マリス(しゃろっと・まりす)が轟雷閃を繰り出す。
フロア全体を魔法で援護し、その中を掻い潜って直接攻撃を仕掛ける。
機甲化兵・改の弱点も他のものと変わらない。関節部の装甲は薄く、雷電属性の攻撃を繰り出したあとなら、そこを集中的に狙えばダメージを与える事が出来る。
もう一人のパートナーであるミーレス・カッツェン(みーれす・かっつぇん)がシャープシューターで星輝銃の照準を敵の関節に定める。
一発ずつ、確実に急所に打ち込んでいく。
「そこだ!」
次いで、トーマが轟雷閃を纏わせた銃弾を撃ち込む。その際も超感覚を用いて、死角からの攻撃に備える。
銃撃型の敵からの攻撃は、どこから来るのか常に気を配っていないといけないからだ。
「やはり動きを鈍らせれば、この数が相手でもいけますね」
敵の数は三。
こちらの広範囲攻撃であるサンダーブラストが使えるのは三人。機甲化兵の動きを封じるには十分な威力を発揮できる。
「敵も大分弱ってきました。そろそろ決めましょう」
真人、白き詩篇、ランツェレットが同時にサンダーブラストを発動する。三人分の電撃が機甲化兵・改を襲う。
煙を上げ、敵の動きは止まった。
「まだ安心は出来ません。中にある人工機晶石を」
それを完全に破壊しなければ、まだ倒した事にならない。ランツェレットがシャロットに目配せをし、胸部の装甲を高周波ブレードで破壊させようとする。
脆くなった装甲への一撃によって、体内の人工機晶石は砕け散った。他の二体も、復活しないうちに皆で協力してとどめを刺す。
「これで、ひとまずこのフロアは……」
「にいちゃん、まだだ!」
トーマが超感覚でいち早く銃撃の気配を察知する。
倒したと思った瞬間、さらに四体の機甲化兵・改がどこからともなく沸いて出たのだ。
「まだ来ますか。そう簡単にはいかないようですね」
休む間もなく、すぐに戦闘態勢を整える。
* * *
その頃、先頭を行く者達は分かれ道に差し掛かった。だが、まだ機甲化兵は残っている。
「ここは任せて、早く!」
機甲化兵に向かって、綾刀を抜いて斬りかかっていったのは、高塚 雅(たかつ・みやび)だ。
剣を持った機甲化兵の一撃を刀で受け止める。だが、敵の攻撃は彼女の予想以上に重い。それを何とか振り切り、得物を構え直す。
「さあ、私の刀で真っ二つにしてあげる!」
自信に満ちた声で、機甲化兵・改に向かって飛びかかる雅。
だが、彼女は他の者達と異なり、機甲化兵との戦闘経験もなければ、敵のデータも持っていなかった。
ただでさえこれまでの量産型以上に強い上、元々それなりの実力者ですら量産型一体を倒すのに三人がかりでなければいけないくらいなのだ。
後ろを振り返る。どうやら、一行は無事に先へ進んだらしい。
「……っ!」
すぐに敵の二撃目がきた。幸い、敵は一体しかいない。それでも、今の彼女には敵の攻撃を受けるだけで精一杯だ。装甲には傷一つつける事が出来ない。
彼女の刀が弾かれた。しかも、次の攻撃は避けられそうになかった。
「ったく、無茶してんじゃねーぞ!」
そこへ現れ、素手で機甲化兵・改の刃を打ち砕いたのはガーネットだ。彼女はそのまま跳躍し、敵にかかと落としを食らわせる。
「うらァア!!」
続いて拳で胸部装甲を破り、中の人工機晶石を破壊した。
「かっこつけるのもいいけどよ、少しは敵と自分の実力差を考えろ。死ぬぞ?」
ガーネットが一喝する。
だが、それ以上何かを話している余裕はなさそうだった。
「ち、随分たくさん沸いてきやがるぜ」
まずは二人で眼前に迫る数体の機甲化兵を倒す事が先決だ。
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