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灰色の涙

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灰色の涙

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・武器庫


「まだ結構残っていますね」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は、前に来た時に訪れた武器庫に足を踏み入れた。その時のマッピングデータもあるため、転送後は一切迷わずここまで来れた。
 そのため彼女は、PASDが戦闘に突入した事をまだ知らない。
 銃型の魔力融合型デバイスを手に取り、パートナーの鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)とともに、すぐに制御室を目指して下っていく。アントウォールトに会うために。
 彼女達が出て間もなく、別の人達がそこを訪れる事になる。


「あーぁ。僕、肉体労働苦手なんだよなぁ」
 シオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)がぼそりと呟いた。
「うるさい。こっちはか弱いレディなの。ぶつくさ言ってると捨てていくわよ」
 彼を一蹴するのは、ミレイア・オールディック(みれいあ・おーるでぃっく)だ。
 第三ブロックに転送された直後、彼女達も直接武器庫を目指し始めた。そして、マッピングデータを参照にそこへ辿り着く。
「兵器は、ありますね」
 ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)が武器庫内を見渡す。まだ、大量の試作型兵器がそこには残されていた。
「出来るだけ多くを持っていきましょう。今の私達には力が必要です」
 三人で魔力融合型デバイスを手に取り、それぞれがPASDメンバーにそれを渡すため、別の場所を目指す。
 ファレナは最上層へ。
 シオンは最下層へ。
 ミレイアは戦う人達に直接渡しに。
「禁猟区はちゃんとかけておかないとね」
 ミレイアがファレナと自分に禁猟区を施す。シオンも、自分にそれをかける。
 その直後、三人が危険を感じ取った。
「これは、すぐに離れないといけませんね」
 そのまま、武器庫を離れ、各々の目的地を目指す。
 武器庫が見えなくなったあたりで、三人は何かが爆発するかのような轟音を聞いた。

            * * *
 
 ファレナ達が武器庫を離れたすぐ後に、その場所に足を踏み入れる者達だいた。
「こんな戦艦でも、落ちちまったら意味がねぇ。敵もそれが分かってるから、機関部を全力で死守しようとするさ」
「しかし、そうなると他の場所に割ける戦力は限られてくる、というわけですか」
 支倉 遥(はせくら・はるか)である。パートナーの伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)の発案により、狙いを機関部から武器庫へと変更した。
 この艦の場合は中央制御室もしくは魔力炉が機関部に当たる。当初はそこを目指し、敵の目を引きつけるつもりだったが既に戦力は双方へのルート上に割かれている。
 敵はPASDの動きを掌握している。ならば、そこからいきなり別の場所を目指す者がいれば、不審に思うことだろう。
「しかも、武器庫だ。あそこにある兵器は敵も使われたくねぇはず。俺達に気付いたら、嫌でも何体かは送り込んでくるだろうさ」
 一度それを使って雛型を撃退している遥達はその威力を知っている。製作者であるワーズワースの知識を持つアントウォールトも、当然の事ながらそうであろう。
「ザコか、さっきの白いのか……どちらにしても、こちらで引きつけておいた方が他の面子のためにもなりますね」
 前に来た時に武器庫の場所は把握した。最短経路を通り、遥達はその場所を目指して駆けていく。
「まだ、ちゃんと残ってますね」
 武器庫の中には、まだ試作型兵器が残されていた。遥やもう一人の契約者である屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)が超感覚での警戒を行うものの、ここまで特に敵の気配はない。しかし、
「――――!」
 空気が揺れる。
 同時に、衝撃波が遥達を襲った。
「ちっ、当たりか!」
 目の前に佇むのは、女だった。白い髪をなびかせ、紅の瞳がじっと見つめている。
「目標、確認。消去します」
 詠唱はない。全能の書がそう宣言した次の瞬間には、武器庫が消し飛んでいた。あまりにもデタラメ過ぎる破壊力だった。
「くそ、こんなのとまともにやりあっちゃいらんねぇ退くぞ!」
 藤次郎正宗が苦々しい顔をする。
「退路を確保せねば」
 ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が武器庫にあった人工機晶石を用いてライトニングブラストを放つ。その間に、かげゆは回収できた分の魔力融合型デバイスを持って走り始める。各所で戦う者達のために。
 だが、その瞬間に敵は三体の機甲化兵・改を召喚してきた。前方には全能の書、後方には機甲化兵・改。
「遥、兵器を使え!」
 藤次郎正宗の指示で、遥が銃型を、彼が刀型を起動する。この状況ではやむを得ない。
「まずは、そっちですね」
 退路の側にいる機甲化兵・改に向けて遥は引鉄を引いた。まるでレールガンが如く、弾丸は打ち出され、敵に機体をぶち抜いた。
 破れた装甲からは人工機晶石が覗いていた。遥の攻撃の直後、ベアトリクスがライトニングブラストで直接その人工機晶石を破壊する。
「次!」
 続いて二発目、三発目と残りの機甲化兵・改に銃弾を打ち込んでく。そうしている間に、かげゆが兵器を抱えたまま敵の間をすり抜けていく。
「捕捉完了」
 次の瞬間、光が収束し、遥達に向けてその奔流が一直線に差し迫る。
「うらァ!」
 藤次郎正宗が光の正面へと飛び出し、試作型兵器でそれを切り裂いた。光は二つに分かれ、直撃をなんとか免れる。
 その間に、遥とベアトリクスの二人は三体の機甲化兵・改の掃討を終えていた。
「目標、健在。攻撃を続行します」
 先ほどの光が無数に分かれ、光球を形成する。それらが次々に遥達に向かっていく。
「足止めにつもりですか」
 火力だけなら遥達の方が今は上だ。光球を避けながら、牽制射撃を行う。
 だが、攻撃はそれだけではない。
 全能の書の掌の上で、何かが渦を巻いて球体を形成する。そしてそれは強力な重力場を発生させながら遥達に迫る。その正体は――
「不味い!」
 即座に遥が試作型兵器の銃弾を射出し、藤次郎正宗が刀を振るう。それらの攻撃は全て黒い球体に吸い込まれて威力を失っていった。
 あらゆる物質を飲み込むそれは、ブラックホールのようなものだった。飲み込まれたら最後である。
「――!」
 が、その瞬間、球体が消滅した。その隙に、通路を走りなんとか戦線を離脱する。

(システムへの外部干渉有り。機能維持のため、術式を解除)
 黒い球体だけではなく、光も全て消えた。
 全能の書は表情一つ変えず、転移術式を発動する。
(該当データ有り。第四次計画被験体0073。現時点における最大の脅威と判断。これより殲滅を開始します)
 第四次計画被験体0073、それはただ一人真に魔導力連動システムを使いこなせた人物――ノイン・ゲジヒトである。
 全能の書は、弱体化してもなおシステムに干渉出来る彼女の「破壊」を最優先事項と判断した。
 アーク内におけるノインの魔力の発生源をサーチするも、完全に特定する事は出来ない。それだけシステムに影響を及ぼされているのだ。
(特定完了。推定誤差0.8)
 彼女のいる場所へ向けて、全能の書は飛んだ。