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なし

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蒼空学園へ

少年探偵と蒼空の密室 Q編

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少年探偵と蒼空の密室 Q編

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第四章 To Mega Therion(大いなる獣)


 蒼空の絆空京大会を途中で抜けだして、あたしとくるとくんは、天御柱学院にむかいました。
ラウール総支配人が、エッグマン空京タウンにまで迎えにきてくれたのです。
「お友達とゲームを楽しんでいたところを、申しわけありません。さるお方が、くるとくん、あまねさんとお会いしたいといいまして。私とおいでいただけますでしょうか」
「こちらこそ、切り裂き魔の事件もまだ解決していないのに、マジェステイックを離れてしまって申しわけありません。さるお方って、どなたですか?」
「マジェステイックの顧問メロン・ブラック博士です。マジェステイックの実質的な支配者であり、私の直属の上司といってもいいでしょう。博士は、天御柱学院で客員講師としてイコンの研究をしております」
「へぇ。その方がくるとくんに会いたがってるんですか。それにしても、メロン・ブラックとは、変わったお名前ですね」
「そりゃ、偽名でしょうから」
「え。なにか言いましたか」
「いえいえ、なんでもありません」
 ラウールさんは、ちょっとキザな感じがしますが、紳士的で、外見も素敵なナイス・ミドルです。けど、時々の、独り言が気になります。

 天御柱学院に到着したあたしたちは、応接室に通されました。
ラーウルさんは、どこかへ行ってしまい、くるとくんと二人きりです。そこへ入ってきたのは、墨死館事件で知り合った少女探偵さんでした。
「リリさん! どうして、ここに」
「うむ。くるととあまねか。おぬしらも元気そうでなによりなのだよ。リリが所長を務めるSW探偵事務所に依頼があったのだ」
 腰まである黒髪と鋭い目つきが印象的なリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)さんは、オカルト知識の豊富な魔女探偵さんです。
リリさんの横には、金髪縦ロールの麗しの少女騎士ララ サーズデイ(らら・さーずでい)さんと、もう一人、初めてお会いする、キセルを手にした花魁さん風の和服姿の色っぽい女に人がいました。
「君らと会うのは、二度めだな。君らと再会が事件のこの先の展開を暗示している気がするよ」
「わらわは、ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)じゃ。そなたらも探偵か。わらわは疲れた。後はそなたらで片付けておじゃれ。よきにはからえ」
 ロゼさんは、本当に疲れているようで、気だるそうです。
「くると、あまね、おまえらは、これを知っておるか?」 
 リリさんは、小さなビニール袋を取りだしました。
 袋には、黒っぽい砂のようなものが入っています。
「砂鉄、ですか」
「たしかに、見た目は、砂鉄じゃのう。それは、サイコ粒子。超能力に適応して変形する特殊な物質じゃよ」
 ロゼさんが教えてくれました。続けて、リリさんが、
「天御柱学院の外には、あるはずのない代物なのだよ。リリが調査したザンスカールのゲームセンターで発見したのだ。行方不明者のでた蒼空の絆の筐体の中に付着しておった。行方不明者はミケロ・チャリオット。赤いトサカ頭のチンピラ風の男で、パラ実生なのだ。サイコ粒子とは、普通、縁のない人間だろう」
「蒼空の絆のゲームメーカーに依頼された調査だが、筐体の安全性うんぬんよりも、もっと、ずっと、ヤバイは話につながっている気がするよ」
 リリさんとララさんは、目と目を合わせ、ニヤリと笑いました。
「ヤバけりゃヤバい仕事ほど、金になるのが探偵業であろう」
 リリさんの意見には、異論は挟みませんが、なにかが違う気もしないでもありません。
「超能力、イコン、とくれば、天御柱学院となる。ここのメロン・ブラック博士は、蒼空の絆開発チームの実質的なリーダーだそうではないか。メーカーに言って、早速、博士との面会の約束をとりつけてもらったのだよ」
「リリさん。あたしたち、ついさっきまで、空京のゲームセンターで蒼空の絆の大会に参加してたんですけど、そこでも奇妙なことがあったんです」

「イコンの遠隔操作による軍事行動か。うーん。人間消失もそうだが、超能力というか、どの件も妙に魔術めいている気がするのだが。人を消したり、ゴーレム、使い魔を操るのは、本物、ニセ物を問わず、大昔からの魔術師のやり方なのだ。それにな、リリは、メロン・ブラックの名前をどこかできいた記憶があるのだ」
「リリさん、博士を知ってるんですか」
「思いだせん。なにかが心に引っかかっておる。なんなのだ」
 あたしの話をきいたリリさんがうなっているところへ、再びドアが開きました。
「失礼します」
「こ、こんにちはあ」
「メロン・ブラック博士は、いらっしゃいますか」
 今度、入ってきたのは、これまで、あたしたちの捜査を何度も助けてくれたシャンバラ教導団の凛々しい女性軍人のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)さんと、頼りなさが個性の男の子、影野陽太(かげの・ようた)さん、それに、蒼空学園の制服を着たセミロングの髪の男の子です。
「クレアさんと陽太さんもきてたんですか。クレアさん、そちらの方は」
「くると、あまね、久しぶりだな。会うのが必ず事件がらみというのも、どうかと思うが。
たまたま、ここに一緒に案内されただけで、彼とは、私もさっきあったばかりなのだが、一応、紹介させていただくと彼は、セルマ・アリス(せるま・ありす)だ。我々、全員と同じく、蒼空の絆の噂を調査しているうちに、天御柱学院にたどりついたらしい」
「セルマ・アリスです。みなさん、よろしくお願いします。パートナーのミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)と、蒼空の絆について調べています。ミリィは今日はおいてきました。博士には、あれこれお聞きしたいと思います」
「姿は消してるけど、ワタシもいるけどね」
「しっ! 俺は、蒼空の絆事件のせいで、よく行くゲームセンターが閉鎖されてしまって。パラミタ各地でこの調子なんで、ぜひ、事件を解決したいんです」
 セルマさんは、クールな感じの人なんですが、上着のポケットからでている携帯のストラップが、本人に似合わない、かわいらしいゆるキャラのストラップで、ひょっとして、ああいう景品目当てにゲームセンターに行く人なのかな、とか思っちゃいます。
「俺は、蒼空の絆事件がなんとなく気になって、噂を集めてみたら、けっこうたくさん集まったので、開発者のメロン・ブラック博士に、ダメもとで質問状を送ったんです。そうしたら、会って話しがしたいって返事がきて」
 陽太さんは、噂を書いたメモをあたしたちにみせてくれました。

・イコンシミュレーター蒼空の絆のプレイ中に、ランダムで“電人EM”というネームの謎の対戦相手が乱入してくる。
・“電人EM”に敗北すると原因不明の刺傷を受ける場合がある。
・“電人EM”に勝利すると失踪する場合がある。
・“電人EM”と引き分けると特に何も起こらない。
・“電人EM”の正体は天御柱学院から来た幽霊。
・スコアがゾロ目の状態でゲームオーバーすると、コクピット内に毒ガスが充満する。
・スコアがゾロ目の状態でゲームオーバーすると、コクピット内がミキサーに変化してみじん切りにされる。
・失踪者は、天御柱学院の地下実験室で呪われたイコンのパイロット候補として監禁されている。
・失踪者は、天御柱学院の隔離施設内で人体実験の被験者にされている。
・蒼空の絆事件の黒幕は、イコンに隠された人工知能である。
・蒼空の絆事件の首謀者は、地底人である。
・蒼空の絆事件のキーパーソンはメロン・ブラック博士である。
・蒼空の絆事件の主犯格は、外宇宙の存在である。

“電人EM”は、プレイ途中で逃げたプレイヤーを家までさらいにくるのかしら。懐かしの江戸川乱歩「少年探偵団」のにおいがする噂です。
 後半は、アメリカの都市伝説風だわ。国家陰謀説がないのが惜しいわね。
「これらの噂がすべて事実だった場合、私は、今回の事件に対する見方をだいぶ変えなければならないな。電人EMとは、何者なのだ」
 クレアさんが真面目な顔でたずねます。
「俺にも、わかりません。謎の怪人でしょうか?」
「スコアがゾロ目のプレイヤーガスで殺した後、わざわざみじん切りにする理由が、理解できないな」
 冷静に、セルマさんがつっこみました。
 それは、やっぱり地下下水道に飼ってる巨大ワニのエサにするためじゃないの。または、工場でソーセージにするとか。
「あまね。なにをニヤけておる。リリがみたところ、これらはあながちデタラメとも言い切れぬぞ。事実、こうして陽太がここに招かれているではないか」
 あたしとしては、自分が開発した機械に関する、こんな噂を集めた、または、創造したかもしれない人の顔を見てみたくなる、博士の気持ちはわからないでもないです。
 コン。コン。
 ノックの音の後、事務員風の男の人が入ってきて、
「みなさん、お待たせしました。こちらへ、どうぞ」
 あたしたちは、メロン・ブラック博士がいる部屋へと案内されたのでした。

 カーテンが閉め切られ、甘い匂いの香が焚かれ、燭台の蝋燭の火が揺れている、薄暗い部屋です。
テーブルには、水晶玉と、人やら、動物やらの形の陶磁器の置物。
まるで占いでもするような神秘的な雰囲気の部屋で、あたしたちを迎えてくれたのは、ロボット技術の博士というイメージとは、程遠い、艶やかな黒髪、派手なライン、シャドウで目を異常に強調したメイク、年齢不詳、男女の性別もはっきりしない人物でした。
「ようこそ。メロン・ブラックです。みなさんとお会いしたかった。諸君には、自分に関する奇妙な疑念をぜひ、晴らして帰っていただきたい」
紫のルージュを塗った唇からは、深みのある低音が響きます。声は、男性ぽいな。
 博士は、ハンサム、というか、美女というのか、彫りの深い、目鼻立ちのはっきりした美貌の持ち主でした。
 しかし、奇妙な疑念もなにも、この人、いるだけですでに怪しいんですけど。自覚してないんですか。
 暗くて、細かいところは、見えませんが、フードつきのマントをはおり、首にはいくつものネックレス、手首にも複数のブレスレッドがじゃらじゃら、各指には宝石やら、文字の刻まれた指輪、額の中央にも頭にまいた飾りの宝石が輝いています。
 ビジュアルは、幻想小説の世界の魔法使いか、占い師、どちらにしても、怪しげな、という形容詞が先頭につくでしょう。
「博士。よい趣味じゃな」
 リリさん、ボソっと、なに言ってるんですか。
「シャンバラ教導団第一師団少尉のクレア・シュミットです。博士、お時間をおつくりいただき感謝します。さっそく、本題に入らせていただきますが、ヒラニプラにあるゲームセンターエッグマンヒラニプラ二号で、私の知人がケガしました。蒼空の絆で遊んでいる最中に、原因不明裂傷を負ったのです。軽傷でしたが、それでも、縫合の必要のある傷でした。知人は肉体以上に、精神的にダメージを負いました。蒼空の絆には、もうかかわりたくない、と言っています。お節介かもしれませんが、私は、ことの真相を知るために、製造メーカーにでむき、説明を求めました」
「彼らに、自分に話をききに行けと、言われたのですな。嘆かわしい。技術者たるもの、他人に設計、開発したものでも、己がかかわった機械について満足に説明もできぬになら、プログラムされた作業を繰り返す製造ロボットと変わらぬではないか」
「会社の見解として、原因は究明中であるとの御返事はいただきましたが、納得できず、なんなら法廷で責任の所在をはっきりさせようと、申しでたところ、ようやく、博士とのアポイントをとっていただけたのです。企業にも当然、責任はあるでしょうが、博士は、彼らに蒼空の絆の情報をじゅうぶんに伝えられたのですか?」
「クレア。きみは、自分が彼らに必要な教育をほどこしていないと、言いたいのかね」
「現状の会社の対応をみる限り、その可能性はある、と言わざるおえません」
 クレアさん、いきなり正面から、真っ向勝負です。
 もしかしたら、現実的で堅実なクレアさんは、このオカルト趣味まるだしの部屋に長くいるのが、イヤなのかな。
パチン。
 博士は指を鳴らしました。
「了解した。きみの見解に同意を示すわけではないが、自分にも不足はあったかもしれぬ。クレア。きみには、自分が彼ら、エンジニアたちに施したのと同じ教育を受けていただきたい。なに、時間は、とらさぬさ。簡略版だ。しかし、見たところ、きみの専門は、機械工学系ではなさそうだな。まず、私の説明の前に、助手から、概論をきいておいてもらおう。別室で一時間ほどだ。その後、私と二時間少々、話をしようか。お時間はあるかな」
「その話をきけば、蒼空の絆のことがわかるのですね」
「きみを自分のところに送り込んだ連中と、同等かそれ以上の知識は頭に入る。きみは、それを求めているのだろう」
「知識は、目的のための手段ですが、いいでしょう。お話をきかせていただくとします」
 博士が二度、手の平を叩くと、あたしたちをここに案内してくれた男の人が入ってきて、クレアさんとでていきました。
 クレアさんなら、平気でしょうけど、でも、心配です。
「次は、自分が指名させてもらうとするか。この部屋に見えない友達を連れてきたもの。招待された礼がこれとは、失礼きわまりないな。名乗りでなさい」
 見えない友達? 誰のことかしら。
「名乗りでなければ、残念だが今日はここまでとする」
「すいません。俺です。ミリィ。でてこいよ」
 セルマさんがそう言うと、彼の隣に、身長一メートルほどの、首にチェックのリボンをした、かわいらしいクマさんがあらわれました。
 ゆる族の人ね。
「ルーマは悪くないよ。ワタシは、ルーマを守ろうとおもって、姿を隠してたんだ。ごめんなさい」
 女の子の声です。
「先に言っておく、自分に魔法や超能力が通用すると思わないで欲しい。自分は、科学者ではあるが、魔法や超能力も科学の一環として、長年、研究してきた。気が遠くなるほど長く。セルマ・イルスくんとミリィ・アメアラさくん。きみらには、プレゼントがあるのだ」
 博士の手にはいつの間にか、ゆるキャラのぬいぐるみが。博士は、ぬいぐるみをセルマさん、ミリィさんに投げてよこしました。ぽんぽんぽんと全部で七個。
「俺が、ゲーセンのUFOキャッチャーで集めてたやつだ。なんで、博士がこれを」
「きみが自分に興味を持ってくれたように、自分もきみに興味を持った。だから、ここへ招いた。ホストがゲストに贈り物を用意しては、いけない法はないはずだ」
「ありがとうございます」
 セルマさんは、最後に渡された紙袋に、丁寧にぬいぐるみをしまいました。
「さて、セルマくんが自分にききたいのは、なにかね」
「はい。博士。この写真を」
 いったん、ゆるんだ表情をまた引きしめて、セルマさんは、テーブルに何枚かの写真を置きました。
「事件が起きている蒼空の絆のコクピットです。どこか問題はありますか? それと、これは実際のイコンのコクピットとの違いはあるのですか」
 複座式のシートと、何本かの操縦桿、びっしり並んだ計器類、今日、あたしが乗った蒼空の絆と同じです。
「どれも基本仕様通りだ。見たところ、特別な変更はほどこされていない。イコンと蒼空の絆のコクピットは、ほとんど同様だ。が、蒼空の絆の方が、イコンよりも未来形ではある」
「未来形?」
「蒼空の絆は、現行機そのものではなく、自分の考える今後のイコンのシュミレーターだ。現行機のシュミレーターは、当学院で訓練に使われている。蒼空の絆には、その先を行く機能を盛り込んである。セルマくんは、この話をくわしく聞きたいかね。ならば、クレアくんと一緒に説明をしようか」
「わかりました。そうさせてもらいます」
「ワタシもルーマと行くよ」
 セルマさんとミリィさんもいってしまいました。
 残ったのは、あたしたち二人と陽太さん、それにSW探偵事務所のみなさんです。
「あまね、くると、陽太、リリが先に話させてもらうぞ。参考になるはずじゃ。よく聞いているといい」
 リリさんは自信にあふれていて、ララさんは博士を見据え、身構えてる感じ、ロゼさんは眠そうです。
「SW探偵事務所の所長リリ・スノーウォーカーじゃ。メロン・ブラック博士。リリは、失踪事件の調査に行ったゲームセンターでこれを見つけたのだ」
 例のサイコ粒子の入ったビニール袋を博士に差し出しました。
「博士が開発者であることを含め、事件と天御柱学園の間には、並々ならぬ関係があると思われるのだよ。それから、リリは、博士の本当の名前を知っている。この部屋にきて、思い出したのだ。テーブルに置かれたタロット・カードが記憶を呼び起こしてくれた。メロン・ブラック博士。魔法や超常現象の専門家である、貴殿の正体は、電人EM」
 リリさん。違いますよね。
「そうだったんですね。噂は、真実だったんだ!」
 陽太さん、真に受けないでください。
「それを知られてしまっては、お手上げですな」
 両手を広げ、まいったのポーズをしないでください、博士。
「Vi Veri Vniversum Vivus Vici」
 リリさん、なに言ってるんですか。
「彼の名前だ。ラテン語なのだよ。意味は」
「われ、真理の力もて生きながらに宇宙を征服せり」
 博士は、そう言うと、口を閉じました。リリさんの言葉を待っているようです。
「リリ。彼は危険な存在すぎないか」
「世界最大と呼ばれた悪人様。わらわたちと取り引きする気は、あるのかえ」
 ララさん、ロゼさんは、博士を警戒している様子。
 あたしは、話が見えません。
「くるとくん。意味、わかる」
「「我が悪魔の兄弟の呪文」の監督が、信奉者だったはず」
 はい。はい。きくんじゃなかったわ。
「どんな人間にも、人に限らず、万物に過去、現在、未来がある。自分は現在は、メロン・ブラック博士です。しかし、自分の過去に興味をお持ちなのでしたら、同好の士と活動している団体へリリくんをご招待しよう。影野くんも、電人だの地底人だのに興味があるのなら、御一緒にいかがかな」
「闇が穢れとは限らぬのだ。呪いから得る力もあるのだよ。魔術をこころざす者ならば、誰もが一度は憧れる闇を覗いてみるのに、ためらいはしないのだ。博士、その団体の名は、ゴーデンドーンか、それとも東方聖堂騎士団とでも」
「これは、そんなに深い意味のあるお誘いなんですか。なら、俺、うううう、これは稀に見る大役です。お、俺がしっかりしなきゃ」
 リリさんも陽太さんも、お誘いを受けるようです。
「いまの組織に名前はまだない。自分としては、ある姫君のための親衛隊のつもりなのだが、姫様のお気に召さないようで、心苦しいところなのですよ。本部は、マジェステックにあります。ここでの用が済んだら、居城でもある、そこに自分も帰るので、あなたがたは先にそこに行って、仲間たちと歓談したりして、お持ちください。今夜は、楽しい夜になりそうで、うれしいですよ」
 リリさんたちと陽太さんも部屋をでました。博士の従者らしい、フードつきマントの人が、マジェステックの博士の居城まで、送ってくれるみたい。
 あたしとくるとくんを、博士は黙って眺めています。
「地球での十九世紀では、かの有名な名探偵は、すぐ側にいたのに、自分の存在を黙殺していましたがね。長生きをすると、人生は、デジャブとリミックスの連続になるようだ。名探偵。悪名。魔術結社。世紀末のロンドン」
「すいません。おっしゃってる意味が、わかりません。あと、お声が小さくて、よく、きこえないんですけど」
「他人の言葉を真に理解しようとするムダな努力は、早めに放棄した方が、実り多き生が送れると思います」
「はあ」
 くるとくんと博士に挟まれて、あたしは異星にきた地球人の気分です。
「こうして、ずっと、きみらを眺めて追憶に浸っていたいのですが、今日は、来客が多くてそうもいかない。それでは、この部屋をでて、次のスケジュールをこなすとしましょう」
「あたしたちは、帰っていいんですか」
「いいえ。これから、ゲストと食事会です。きみたちにも参加していただきます。自分は、着替えてからむかいます。それでは、数分後に、食堂で」
 どうして、この人とご飯を食べなければいけないのか謎すぎます。