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少年探偵と蒼空の密室 Q編

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少年探偵と蒼空の密室 Q編

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1. 第二章 「蒼空の絆」空京大会 

ミステリ小説を読んでいると、あたしは、たまに、こんな疑問を感じる時があります。
事件が起きるから名探偵が必要なのか、名探偵が存在するために事件が必要になるのか、みなさんは、どちらだと思いますか?
 あたしとくるとくんがパラミタで遭遇する事件の数々も、もし、くるとくんがパラミタにいなかったら、起こらなかったかも、各学園から応援にきてくださる探偵のみなさんがいなかったら、犯人は張り合いをなくして、犯罪を犯さなかったのでは? なんて、ネガティブに考えちゃったりして。

 マジェスティックをいったん離れて、あたしとくるとくんは、空京のゲームセンターにむかいました。
 ここ、エッグマンー空京ミッドタウンは、空京一の広さを誇るアミューズメントセンターで、その広さはなんと、ドーム型野球場空京ドームのグランド部分とほぼ同じだそうです。最大収容人数約二万人、一万三千平方メートルだとか。
 ゲームセンターに、カラオケ、スポーツジム、ボウリング場、フットサル場、スキューバダイビングプール等々、場内には娯楽施設がたくさんあります。
 今日、これからここで第一回オープントーナメント蒼空の絆空京大会が行われるせいもあってか、人もすごくいっぱいいて。
「こんなに人がいたら、大会中に犯罪が行われたとしても、あたしたちだけじゃとても見つけられないわ」
「ブラックサンデー」
 あたしの隣でくるとくんが、またわけのわからないことを言っています。
「スーパーボール開催中のスタジアム上空で飛行船を爆発させて、数万人の観客の皆殺しを計画するテロリストの映画」
ご存知ない方もいるかもしれないので、簡単に説明しておきますと、あたしの遠い親戚で虚弱児の少年探偵弓月くるとくんの推理方法は、目の前の現実から連想する、過去にみた映画に関する知識、記憶を糸口に、現実の裏の隠された事実を突き止めるという、通称(あたしが勝手に名づけました)映画推理です。
 学校よりも病院に行く回数が多く、ホームシアターで毎日、多い日には一日に四、五本も映画をみているこの子らしい現実把握方法なんですが、正直、将来が、だいぶ心配です。
「縁起でもないこと言わないでよ。たしかに、あんたに届いた手紙は、犯行予告っぽかったけど、まさかテロなんて。きゃ。きゃあ」
「ヒャッハア〜。今度こそ一緒にお楽しみと行こうぜ。おっと、今日はなにかさわり足りねぇ。胸の方もいっておこうかあ〜」
 背後からあたしのお尻を素早く二度もなでて、なおもふてぶてしく、逃げも隠れもせずにあたしの前で、いやらしい笑みを浮かべている、モヒカン刈りのこの人は。
南鮪(みなみ・まぐろ)さん! あなた、ここでなにしてるんですか。まさか、女の子たちに無差別で痴漢しまくってるんじゃないでしょうね」
「細けぇこたあいいんだよ。あまねェ。とりあえず、久しぶりだ。胸をさわらせてもらうぜ」
「なに言ってるんですか。ダメです。他の人も大勢いるんですから、まず、その、両手の指を動かして、空気をもみもみするのをやめてください」
 どうしよう。前に一緒に事件の捜査? をしていて知らない人ではないけれど、警備員さんを呼んだほうがいいのかしら。
「やあ。古森あまねさんと弓月くるとさんだよね。こんにちは。ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)だよ。おぼえてくれてるかな。二人とも、蒼空の絆の大会をみにきたの。それとも、参加するの」
 鮪さんの対応に困っているあたしに近づいてきたのは、ピンクのポニーテールが似合う、褐色の肌のお兄さん、ケイラ・ジェシータさんでした。
「ケイラさん。あの、ちょっと、いま、あたし、困ってて」
「なに、なに、どうしたの。あ」
 鮪さんを指さし、ケイラさんの表情が曇り、凍りつきます。
「ヒャッハア〜。ケイラぁ〜。おまえと俺は、見えないモミ殻の糸でつながってんだよ。会いたかったぜ。ここで、あまねと一緒にお楽しみしようじゃねえか。三人で、お揃いのモヒカン刈りにするのは、どうだ。今度こそは、男だとか言ってもごまかされないぜ」
「女装はしてても、自分は、ホントに身も心も男なんだけどな。南さんには、どうしても信じてもらえないみたいだよね」
 え。え。え。
 ケイラさんと鮪さんには、因縁があるんでしょうか。鮪さんの行動パターンから、容易に想像がつきますけど。
 鮪さん。男女の見境もなしなんだ。ある意味、博愛主義者ですね。
 鮪さんだけノリノリのハイテンションで、あたしとケイラさんは、途方に暮れてて、周囲の人たちはあたしたちを遠巻きにして、見て見ぬフリで通りすぎてゆく。お楽しみとは程遠い状況です。
 じりじりと距離をつめてくる鮪さん、そこへ、抜き身の日本刃が振りおろされ、
「この大うつけが! おぬしが、そのような狼藉を働いていては、わしが事件の検分をする前に、ここから叩きだされるだろうが。その程度の道理も、わからぬのか」
「信長ァ。いきなり、得物を振り回しやがって、この卑怯者が、アブねぇーじゃねえか。俺の首が切れたらどうするつもりだ。なにが楽市楽座だ。自分のパートナーを大切にしやがれ」
 信長って、楽市楽座の、本能寺の、織田信長(おだ・のぶなが)さんですか。
 歴史上の偉人の彼が、鮪さんのパートナーだなんて意外です。
 言われてみれば、長髪を後で一つに束ねていて、髪型は違うけれど、学校の歴史の教科書にのっていたのと同じ、目の細い神経質そうな顔をしています。鼻の下にお髭もあるし。
「首が落ちれば、おぬしが死ぬだけじゃ。この役立たずめ。どうせ、検分でイコンに乗るついでだ。わしは試合に出場するのじゃ。天下を獲る。優勝するぞ。ついてこい」
 信長さんは、刀の切っ先を鮪さんの喉元に突きつけ、強引に、力づくで、どこかへ連れていってしまいました。
 仲間うちのおふざけか、パフォーマンスだと思われているのか、信長さんを取り押さえる人は、誰もいません。
「とにかく、よかったですね。ところでケイラさん、信長さんが事件とか、検分とか言ってましたけど、ここでなにかあったんですか」
「事件ねえ。蒼空の絆事件じゃないかな。ほら、噂になってるやつ。ハイスコアをだすと天御柱学院にスカウトされて強化人間に改造される、とか。協力プレイで高い戦果をあげると運命の赤い絆で結ばれる、とかさ。他にもいろいろあるけど」
 ふうん。
 その程度の噂なら、わざわざ事件と呼ぶほどではない気がしますが。
「ケイラさんは、噂の真相を調べにきたんですか」
「ううん。話題のゲームを一度、プレイしたいなって。大会なら、上手な人のプレイも見られそうだし。古森さんたちはどんな目的でここへきたの。それこそ事件でもあったの」
 あたしが返事をする前に、おなじみのみなさんたちとその仲間の人たちが集まってきて、あたしたちをぐるりと囲みました。
以前に一緒に捜査をした、薔薇の学舎にはめずらしい普通の感じの男の子、清泉北都(いずみ・ほくと)さんと、パートナーのちょいワルっぽい吸血鬼ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)さん。
サングラスがトレードマークの大人な雰囲気の冒険者レン・オズワルド(れん・おずわるど)さんと、初めてお会いするパートナーの機晶妃、コロ付きの人型鉄棺? 鉄の処女に入っているメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)さん。
 それから、初対面の方たちは、
「蒼空の絆の製造メーカーから、冒険屋ギルドに依頼がきたの。噂の真相を調査して欲しいって。それで、私とルイ姉は、冒険屋の代表のレンさんたちとここへきたのよ。噂の真相については、だいたい推理ができているわ。もう少し聞き込みをして裏づけを取りたいところだけれど、犯人は、蒼空の絆を利用してプレイヤーを電脳空間に誘い込んでいるのよ。パイロットの選別をしている可能性が高いわ」
「フリッカ。まだ、みなさんとのあいさつもろくにすんでいないのに、推理を披露するのは早すぎませんか。あまねさん。くるとくん。みなさん、はじめまして、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)のパートナーのルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)です。フリッカともども、どうぞ、よろしくお願いしますね」
 いかにも頭の回転の早そうな赤い髪の女の子、フレデリカさんとパートナーのはかなげな美人さんのルイーザさん。彼女たちはレンさんの仲間なのね。冒険屋ギルドか。レンさんはそこの代表だったんだあ。どうりで、貫禄、迫力があるわけです。
「蒼空学園のクイーン・ヴァンガード樹月刀真(きづき・とうま)です。少年探偵のくるととその助手のあまねですね。俺も、パートナーの、パラミタのホームズ漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)のワトソン役として、蒼空の絆の調査にきました。月夜は別方面で調査をすすめていてここにはいません。いま、こうして集まっている面々は、みんな、蒼空の絆の都市伝説を調べにきているのですか」
 ショートの銀髪の刀真さんは、黒のロングコートをはおっているのに、涼しげというか、冷ややかな雰囲気の青年です。
「都市伝説と言うが、事件は現実に起きてるぜ。俺は、紫月唯斗(しづき・ゆいと)。葦原明倫館の生徒だ。俺の仲間は、蒼空の絆のコクピットから行方不明になった。俺はその仲間、レインを必ず助けだす。今日の大会では、事件の手がかりが得られるのではと思っている」
 顔の下半分を黒い布で覆い、赤い襟巻きした忍者スタイルの唯斗さんの横には、女の子が二人いて、片方が白いドレス、もう一人はロリータ風のワンピを着ています。
「我はシュペルディアが姫! エクスである! 唯斗と協力してレインを見つけるぞ。 みなのもの、力を貸してくれるな」
 白いドレスの子は、そう言うとルビー色の大きな瞳で、この場にいる人たちをぐるりと見回しました。
 特に異を唱える人はいませんが、
「あのお、お姫様。お名前はエクス様でよろしいのですか」
「おぬしが古森あまねだな。わらわの名は、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)じゃ。エクスと呼んでかまわぬぞ。わらわと共にたくらみを暴こうではないか」
 エクスさんは、にっこりとほほ笑みました。素直でまっすぐそうな感じの人です。
「事件の捜査でもなんでも、私は、唯斗兄さんやエクス姉さんと一緒にいたい、です。エクス姉さんのお手伝いをしてますので、みなさん、よろしくです。私は、紫月睡蓮(しづき・すいれん)です」
 睡蓮さんは、スカートの裾をつまみながら、頭をさげ、かわいらしくあいさつしました。
「君の仲間のレインって、蒼空の絆の凄腕プレイヤーの女の子だよね。たしか、他のプレイヤーとチームを組んでよくプレイしていて、ゲーマーの間じゃ有名だった」
 天御柱学院の制服を着た、腰まであるピンクのロングヘアーが目立つ男の子が、唯斗さんに尋ねます。
「チーム名はテンペスト。レインは、近中距離ガンナーで、相棒のレイヴンは近接特化のアタッカー。そして、レイブンは、蒼空の絆をプレイする時の俺のPN(プレイヤーネーム)だ」
「レイブンの正体は、紫月唯斗か。トップ・シークレットを聞いちゃったかな。つまり、君は行方不明になったゲームの世界での相棒を探してるわけか。
奇遇だね、レインは僕のパートナーの友達なんだ。僕もパートナーと一緒にレインを探している。彼女を見つけるハッピーエンドは、もう予約済みだけどね。
僕は山田桃太郎(やまだ・ももたろう)。世界に求められる美しさを持つ罪な存在さ。事件の華麗な結末のために、みんなと仲良くしたいんだ」
「バカ太郎の戯言は、適当に流してきいてくれ。あたしは、こいつのパートナーのアンナ・ドローニン(あんな・どろーにん)だ。あたしがレインと友達なのは、本当だぜ。どこのどいつか知らないが、ダチをさらわれて黙ってられるかよ。そうだろ、紫月唯斗」
 アンナさんは、おそらくロシア系の、色白で細身の女の子ですが、口調が荒っぽく、目つきも鋭いので、まるで、唯斗さんにケンカを売ってるみたいです。
「護りたい人を護り助けたい者を助け、その他を無視して敵は殺す。それが俺のやり方です。唯斗やアンナには悪いですが、俺は事件全体を捜査するのであって、レイン個人を特に助けたいとは思いません」
 唯斗さんがこたえる前に、刀真さんが平然とそう言いました。
「まーまー、そんなきびしいことを言わずに、捜査協力とかしょうじゃないの。ね」
 重くなりかけた場の空気を読んでか、桃太郎さんが刀真さんに語りかけます。
「きびしい、と言われても、俺は俺ですから」
「そーか、そーか、俺流じゃ、しょうがないよな。譲れないよなあ、うん、譲れないよ。って、僕は、誰の味方なんだろうか?」
「知らねえよ。バカ太郎」
 アンナさんが桃太郎さんをにらみつけました。
「ボクは子供だから、みんなのお話は難しくって、よくわかんないんだけど、みんな、ここで、蒼空の絆を調べたいってことだよね」 
 小学生くらいの男の子が、かわいらしく首を傾げています。
「ボクはラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)御空天泣(みそら・てんきゅう)のパートナーだよ。ボクらは、天御柱学院の生徒なんだ。蒼空の絆の中にいた人が消えるとか、ケガをするとかって言う噂をきいて調べにきた。そうだよね、天泣」
「あ、ああ」
 ラヴィーナさんの隣にいるメガネをかけた男性、御空天泣さんは、視線を床にむけていて、しゃべるのがつらそう。シャイな性格なのかな。体調でも悪いのでしょうか?
「天泣はゲームセンターにくるのも初めてで、人と話すのも得意じゃないんだ。ねえ、噂の真相を知るためにも、ボクは蒼空の絆に乗るつもりだけど、みんなはどうするの」
「そうだな。個々の思いに違いはあっても、ここにいるみんなは、することは同じ。蒼空の絆の調査だ。協力とまではいかなくても、互いに邪魔をしあわないように調査前にできる範囲で手の内を明かしておかないか。これで、情報の共有ができれば、余計な手間がはぶけたりするだろうし」
「あたしは、益田椿(ますだ・つばき)。この榊孝明(さかき・たかあき)のパートナーなの。いま孝明が言ったみたいに、みんなと情報の共有がしたいな。ダメ? いいでしょ。じゃ、キマリね」
 孝明さんは勉強ができそうな知的な感じのメガネの少年で、椿さんはやんちゃな雰囲気のする女の子です。しかし、胸が大きいです。
「提案だけするのもなんだから、俺からみんなに提供したい情報がある。俺は、天御柱学院のパイロット科の生徒なんだが、先日、イコンの訓練中に事故があって、俺と一緒に訓練に参加していた同級生とパートナーが亡くなった。それが、とても奇妙な事故だったんだ」

「イコンの構造上、そんなことはありえない気がします」
 孝明さんが話し終えると、天泣さんがぼそっとつぶやきました。
「孝明の話を事実と信じるとして、蒼空の密室バラバラ事件か。ずいぶんきなくさくなってきたな。この話は、公にはなっていない。つまり、現時点では、天御柱学院の秘密というわけだ」
 レンさんの言葉に、孝明さんは頷きました。
「俺は、蒼空の絆の噂との共通点の多さが気になっているんだ。どちらも根本にあるものは同じではないのか」
「普通に、大会を楽しみにきたあたしは、どうすればいいのかな。くるとくん教えてよ」
 ゲームの作戦会議でもしているのかと思って、この一団によってきた湯島茜(ゆしま・あかね)さんは、さすがに困ってるみたい。そりゃ、そうよね。
 行方不明とか、バラバラにされるとか。
「「十三日の金曜日」「ファイナル・デッドコースター」「スクリーム」米国のティーンズむけのホラー映画には、必ず、状況を楽しみにきただけなのに、事件に巻き込まれる登場人物がいるよ。それは女性の場合が多い。だから、ここにも茜さんの居場所はあると思う」
「あんた、なに言ってんのよ。不安をあおってどうすんの」
 あたしは、マイペースすぎるウチの探偵小僧の頭をはたきました。
「僕も蒼空の絆に乗るよ。なにが起こるかわからないけど、ヤバくなったら、ソーマにフォローしてもらうつもり。薔薇の学舎の近くのゲームセンターだと、噂のせいか、蒼空の絆を置いてある場所がもうほとんどないんだ。噂が気になるからね。真実をたしかめたいよ。今日はオープン参加の空京大会だから、いろんな情報が集められる気がして、ここへきたんだ」
「俺はとりあえず聞き込みな。ナンパではないぞ。北都になにかあれば、必ず助けるし、おまえらの誰かが目の前で困ってても、たぶん見捨てはしないと思うぜ。おい。いまの場内アナウンス、聞こえたよな。大会にエントリーするやつは、そろそろ申し込みをすませた方がよさそうだぞ。初心者歓迎だそうだ。みんなで、ぱあーっと行こうぜ」
 いつものように飄々としている北都さんと、イケイケで、でも、どこまで頼りにしていいのか? なソーマさんです。
 あたしも、いまのうちに、みなさんに手紙のことを話しておいた方がよさそうね。
「ちょっと、みなさん、聞いていただけますか。あたしとくるとくんは、少女惨殺事件の調査で、マジェステイックのホテルに泊まってるんですけど、今朝、起きたら、ドアの下にこんな手紙が挟まってて」
 あたしは、指紋がつかないように手袋をしてから、一枚の便箋を取りだします。

名探偵へ。蒼空の空京大会で実験公開 A・C

「これしか書かれていません。くるとくんのところには、よくいたずらメールや手紙も届くんですが、気になったので、一応、ここにきてみたんです。あたしたち、A・Cという人に心当たりはありません」
 手紙を眺め、みなさんは黙ってしまいました。

◇◇◇◇◇◇◇
 
大会は、場内の全二百五十台! の蒼空の絆を使用して一斉にスタートしました。
 予選である一回戦は、A〜Eのブロックに分けられて、各ブロックから成績上位の五十台、計二百五十台が本戦へと進みます。
 調査メンバーでは、北都さん、レンさん、フレデリカさん、唯斗さん、ラヴィーナさん、それにケイラさんと茜さんが大会に参加。
ソーマさん、メティスさん、ルイーザさん、刀真さん、エクスさん、睡蓮さん、桃太郎さん、アンナさん、天泣さん、孝明さん、椿さんは、聞き込みや見張りをしたりして、外側から噂を調査する感じ、だったのですが。
 蒼空の絆は、一人プレイもできるけれど、イコンと同じく一機を二人で操縦するのも可能、というわけで、初心者のケイラさんと茜さんには、本物のパイロットの桃太郎さんと孝明さんが、ラヴィーナさんにはパートナーの天泣さんが、同乗することになりました。
 ものは試しってわけで、くるとくんとあたしも二人で一台に乗って出場します。
 そうそう信長さんもソロプレイで出場してます。鮪さんの姿が見えないんですけど、大会コーナーのあちこちで女性の悲鳴があがってますから、なんとなくなにをしてるかは想像できますね。捕まるのは時間の問題かな。
 試合のルールは簡単で制限時間内に敵をたくさん倒した人の勝ちです。機体にダメージを受けて、撃墜もしくは行動不能になってしまったら、失格。
 仲間との協力プレイはOK、だそうなのであたしたちは全員で同じブロックに入れてもらって、ボイスチャットで連絡を取り合いながら、チームとして戦います。
 さあ、ゲーム開始!

「なにこれ。蒼空の絆って、いつもこうなの」
 北都さんの言葉は、チームのみんなの気持ちを代弁している気がします。
 あたしたちのチームは、敵の前線基地を壊滅させる大戦果をおさめ、一人の脱落者もなく、無事、本戦へとコマを進めたのですが。
「イコン対イコンじゃないんだね。戦闘機や戦車はまだしも、兵隊を踏み潰したりするのはさ。いくらゲームでも。自分、本戦は辞退しようかな。楽しくないよ」
 ケイラさんも不満顔。茜さんはハンカチを口もとにあててます。
「あたしは、燃料施設を破壊した時にそこにいた人が火だるまになって死んでくのをみて、気持ち悪くなって、操縦はほとんど孝明くんにお任せだった」
「俺はいままで何回となくこのゲームをプレイしてきたが、今日のバージョンははじめてだ。通常は、イコン対イコンの対戦ゲームだ。さっきのステージでは敵側のイコンは一機もでてこなかったな」
唯斗さんも納得できない様子です。
「僕は、もともと必要最低限しか攻撃するつもりはなかったんだ。だから、回避行動とみんなを狙ってくるミサイルを落としたりしてたんだけど、これ、遊びぽくないよね」
「映像もリアルすぎるし、イコンを遠隔操作して、本物の作戦行動を経験した、みたいな」
「本当に戦争で人を殺すとこんな感じなんだと思うなあ。天泣はプレイの途中から顔が真っ青になってたんだよ」
 北都さんとフレデリカさんの会話に、ラヴィーナさんが相槌を打ちました。
「僕はここへきてよかったよ。蒼空の絆には、たしかに問題がたくさんありそうだね」
「圧倒的な戦力差を利用して最小限の時間、被害で敵を殲滅。作戦としては悪くなかった。でも、後味が悪すぎる。ようするに虐殺だからな。蒼空の絆の開発者への質問が、どんどん増えてくぜ」
 桃太郎さんと孝明さん、二人のイコンパイロットが頷きあいます。
「くるとくん。そう言えば、あんたがゲーム中に言っていた映画のタイトルは、なんだっけ」
「「スター・ファイター」と「エンダーのゲーム」」