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幸せ? のメール

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幸せ? のメール
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第4章 休憩時間

『これは幸せのメールです。……』
「ふん。くだらない」
 休憩時間、人通りの激しい2階の渡り廊下でメールチェックを済ませた橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、独り言にしてはちょっと大きめの声で呟いてみせた。
「幸せだと? 他人にどうこうされて、それを幸せと感じるほど、俺の幸せは安っぽくはないんだ。こんなメールなど、消去してやる」
 凭れていた壁から離れる。
「行方不明上等。来るならいつでも来い。返り討ちにしてやるさ」
 静かに宣言し、立ち去る恭司の姿に、瀬島 壮太(せじま・そうた)は思わず拍手を送っていた。
「いやー、かっこいーなぁ、恭司は。
 じゃーオレもポチっとね」
 みんなの見ている前で、メール消去。
「……今ひっかかってくれたら楽なんだけどなぁ。そう簡単にはいかないか」
 だがこのことは、あっという間に広がるだろう。そうすれば1日待たなくても犯人は動き出すはずだ。
 早くもざわめき出した生徒たちの前、携帯をポケットに突っ込んで恭司とは反対の方向へ歩き出す。その手には、禁猟区の輝きを放つゴツめのシルバーリングが光っていた。

 全開した窓に両肘をついて、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は少し離れた3階の廊下からその光景を見下ろしていた。
「恭司のやつ、男前だねぇ。女の子ファンが増えること間違いなし」
 あの手があったか。俺もやるべきかな? メール来てないけど。
 そう考えたとき。
『うるさいわよ、エース』
 右腕に付けた銃型HCからルカルカ・ルー(るかるか・るー)の声が聞こえてきた。
『あなた、今どこにいるの?』
「俺? 西校舎3階の廊下。スマキになったやつが発見されたっていう現場の近く」
 くるり、回転して、人気のない廊下を見る。
 理科室、理科準備室、トイレ、etc。特別教室が連なるそこは、4時限目に使用するクラスがないため、だれも通る者はいない。床に座り込み、持ち込んだおやつに手を突っ込んでほおばっているクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)がいるだけだ。
『そっちは何か分かった?』
「ん〜。1時限の休憩と2時限の休憩で、それぞれ2〜3人ずつあたってみたけどね。言ってることがまちまちなんだよなぁ」
 スマキになった状態の人間を見たのは、実を言うとだれもいなかった。
 それはもちろんルミーナと生徒会メンバーたちの働きによるものだ。そして生徒会メンバーは揃って口が堅い。
 だが、それで言論封じに成功しているかといえば、そうでもなく。当のスマキにされた生徒たちの口は、めっぽう軽かった。
「部屋でさらわれたとか、帰宅途中でさらわれたとか、補習受けてた教室でとか。共通点は、みんなその瞬間が記憶にないってこと。暗い影が襲ってきたと思ったら意識が飛んで、気がつくと校舎の窓から吊るされていたんだってさ。
 あー、あと、男ばっかりだった」
 これは聴取していてホッとした点だった。エースとしては、女の子から全裸にスマキなんて話を聞き出したくはない。
『ふーん。それはよかったわ。ほかには?』
「はいはいはーいっ。オイラ、気づいちゃったもんねっ」
 エースの銃型HCに元気よくとびついて、クマラが得意気に言う。
「みーんな、何かしら友達なんだよっ。友人の友人とか、そのまた友人とかっ」
 エースは気づかなかっただろっ、へっへーんっ!
 褒めて! とばかりにふんぞり返るクマラをいいこいいこしてやるエース。
『どういうこと? 学校だからその可能性は高くてあたりまえじゃないの?』
 ルカルカに、エースは説明を始めた。

A「……そりゃ、俺もさ、バレバレの嘘ついたからしゃーないよ。でもBよりはマシだぜ。ありゃ吊るされて当然だよ」
B「まさかマジ吊るされるとは思わなかったからさ、シャレってあるじゃん? だって俺、べつに知られて困ることないし。たださ、どうせ叫ぶんなら派手な方がいいからさ、ちょっと面白く脚色しただけなんだよ。Cみたいなまるっきり嘘じゃないんだ」
C「Bのやつ、そんなこと言ってたのか。くっそー、親友だと思ってたのにッ。だってさ、だれだって大勢には知られたくないよなっ。友人ならともかく、全然知らない相手に知られたくないことだってあるよ。その点Dは…」

「こんな感じ。伝達ゲームみたいに、1人あたったら次のやつの名前が出てくるから、聴取するには楽だったけど」
『ふぅん…』
 実のところ、エースにはもう1つ、彼らの話で気になる点があった。
(ま、そっちはもう少し考えをまとめてからにしないとね)
「昼休みにもう少しあたってみるよ」
『分かったわ。気をつけて』
「そっちこそ。こっちの授業中いろいろ動けるのはいいけど、あんまり無茶はするなよ」
 彼女には、言うだけ無駄かもしれないけど。
 通信終了。
 もうじき4時限目が始まる。エースはクマラとともに自分の教室へ戻っていった。