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リアクション
(今回、章ごとに時間軸は閉じており、その都度初期化されています。また、かなり時間というものを無視した作りとなっておりますので、多少キャラの登場が不自然に見える箇所もあります。章の順番が時間順とは限りません。だいたい、一つ一つの章が、その魔道書を巡る一日の出来事といった感じでお読みください)
『今川仮名目録』
「ただいま、魔道書読書会開催中ですぅ。皆様、どうか御参加くださあい」
大谷文美が、大きな声を張りあげてまた司書さんに睨まれた。
イルミンスール魔法学校大図書室入り口脇の閲覧コーナーに作られた特別会場では、魔道書たちを、学生たちが思い思いに読んでいた。魔道書は媒体や内容ごとに大まかに分けられ、展示台のような専用の書見台の上に一冊ずつおかれている。そのそばには、何人かの魔道書たちが、自分の本体をお勧めするために立っていた。それらの書見台に取り囲まれるようにして、大テーブルが読書用におかれている。
「へえ。なんだか面白そうな本が並んでいるじゃない。普段読めない本も読めるっていうなら、これはまたとないチャンスよね」
同人誌即売会用の資料を探しに来た宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、迷わず読書会コーナーへと足をむけた。
「図書室の本の方はいいのですか?」
荷物持ちとしてついてきた湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)が、宇都宮祥子に訊ねる。
「そっちはそっちでチェックするけれど、こっちも面白そうだわ」
書見台の上の魔道書を物色しながら、宇都宮祥子が答えた。
「そうですか。では、私も何か読んでみることにしましょうか」
主に和書の方を物色している宇都宮祥子とは離れて、湖の騎士ランスロットは洋書の方を見に行った。
「これなんか、面白そう」
そう言って宇都宮祥子が手にとったのは、『今川仮名目録』であった。和綴じの古い本だが、これを同人誌即売会用の資料にしようというのであれば、宇都宮祥子の冬コミのジャンルは歴史系なのだろうか。
ページをたぐってみると、そこには駿河守護今川氏の定めた分国法というものが書いてあった。
「法は歴史の積み重ねの上にあると、伊藤博文はビスマルクに教えられたらしいけど、あの時代の場合は習慣や文化の集合体としての色合いが強いのかしら?」
「そのように、難しく考えんでもいいのどすえ」
宇都宮祥子のつぶやきに、そばにいた今川 仮名目録(いまがわ・かなもくろく)が、すかさず答えた。
「なんでしたら、今なら副読本として『小学生しゃかい〜いまがわかなもくろく〜』がついてきやはりますから」
そう言うと、今川仮名目録が、自ら手書きしたノートを手渡した。一所懸命作ったらしく、手書きの挿し絵なども描き込まれている。
「ああ。絵の資料としては、こういった物の方がいいかもね。法も面白そうだけれど、それが成立した時代の文化風俗みたいな、背景の方が役にたちそうだものね」
宇都宮祥子が、手渡された『小学生しゃかい〜いまがわかなもくろく〜』と『今川仮名目録』を見比べながら読み込んでいく。
「魔道書っていろんなのがあるのねぇ。どれが面白いのかな? 惑うわ」
キョロキョロとエントリーされた本たちを物色している茅野 菫(ちの・すみれ)の言葉に、凍りついた宇都宮祥子が、持っていた『今川仮名目録』をパタンと落とした。
「じゃあ、そっちはあたしが読んであげるんだよ」
落ちた『今川仮名目録』をひょいっと奪い取って、茅野菫が言った。
「うん、いい装丁だわ」
和綴じの綴じ代の部分を傷めたり折り目をつけたりしないように注意しながら、茅野菫が丁寧に読み込んでいった。
「へえ、大昔の法律書なんて読むのは私ぐらいのものかと思っていたけれど、意外にもカナを読みたいって人がいるんだ」
ちょっと感心したような、意外だという顔で、今川仮名目録のパートナーであるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が言った。
「あんたはんは、一度目を通しただけで挫折してしまいましたからなあ」
「古文苦手なのよ。いい機会だから、解説してもらってもいいかなあ」
「もちろんどすえ」
ローザマリア・クライツァールに言われて、今川仮名目録が口頭で本の内容を説明し始める。
「第八条 一 喧嘩之事、理非を論ぜず、両方共死罪に行うべし?」
「分かりやすく言いはりますと、喧嘩をしたら即、死刑ってことどす。おふたはんとも、次ん日には、首が胴からバイバイしてはりやす」
ローザマリア・クライツァールの疑問に、今川仮名目録がひょうきんなポーズをつけながら答えた。尼僧風の出で立ちの今川仮名目録がそんなポーズをとると、ものすごく違和感がある。なんだか、小学校の先生が受けを取ろうとしているみたいで、本当に社会の授業のようだ。
「へえ。面白そうだね。僕にも聞かせてもらえないかな。歴史って結構好きなんだ」
順番待ちをしていた神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、二人の間に混ざり込んできた。茅野菫がまだしばらくは本を手放してくれそうになかったので、ちょっと手持ち無沙汰だったのだ。
「ええ、もちろん、どうぞ」
神和綺人を混ぜて、今川仮名目録が話を続ける。
「仮名目録第十二条というのが、今で言うところの少年法どす。ふふ、よくできてはりますやろ?」
「なんですって!?」
今川仮名目録の解説を小耳に挟んだ宇都宮祥子と茅野菫がきらーんと目を輝かせる。少年という言葉に、なんだか反応したらしい。
「法律書、というか当時の俗習を知る上では貴重な資料よね。面白いわ」
あらためてパートナーの成り立ちを知って、ローザマリア・クライツァールが感慨深げにうなずいた。
「じゃ、僕の番ということで、読ませてもらうよ」
今川仮名目録の解説の方に興味を持った二人から本の方を受け取ると、神和綺人はゆっくりとそれを読み始めた。
「便利よね。資料として、一家に一人欲しいところだわ」
今川仮名目録の話を聞きながら、宇都宮祥子はつぶやいた。
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