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ハート・オブ・グリーン

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ハート・オブ・グリーン

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SCENE 21

 だが『鋼鉄の獅子』の参戦も、状況を変えるには至らなかった。いつの間にかファイを含むその場のメンバーは植物に再度包囲され、アイアンゴーレムの猛攻にさらされている。
「苦シイ? 怖イ? アハハハハ、アタシは楽シイ♪」
 すべての元凶はクシーだ。圧倒的な戦闘力で、あらゆる試みを無に帰していた。
 されど、まだ諦めるには早い。
「随分やるみてぇじゃねぇか! ……だが、いや、だからこそ、真剣にならなきゃな! 邪魔するぜ」
 威風堂々、そこに大股で割り込んだのは、なびく学ラン、バンカラ学帽、姫宮 和希(ひめみや・かずき)の勇ましき姿だ。
「そこのお前!!」
 一喝だけでクシーを止められるのは、天下広しといえど和希の他にいないのではないか。そう思わせるほどの大音声だ。その声が呼んだのか、地下に突風が巻き起こり、学ランが煽られてはためいた。紅い裏地がバサバサと躍る。
「What!?」
 クシーだけではない。ゴーレムも、植物も、凍り付いたように動きを止めている。
「クシーだか串焼きだか知らないが、お前も『クランジ』ってこたぁ、そこのファイスの姉妹なんだろ!? 姉妹で殺し合うなんて間違ってる!
 これ以上ないほどの正論である。正論が『力』を持つのは、それに恥じぬ真っ直ぐな人物が口にしたときに限らる。簡単なようでその実、扱うに難いのが正論であるといえよう。この和希が、正論を述べるにふさわしい人物であるのは言うまでもない。
「そういうことだ」
 ドラゴニュートの巨漢が、和希を支えるようにその背後に立っていた。彼はガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)、和希に被せるように声を荒げる。
「クシー、良い素体を持っているのだ。もう少し淑やかにすれば放っておかない輩も多いだろうに。ここで心を入れ替え、人並みの幸せを送ってみるのはどうだ?」
 だが運命の皮肉、彼らの言葉は、ファイスにも大きな影響を与えていた。
「……姉妹……本機も、クシーと同じ」
 続く展開は、まるでクシーの予想の外だったに違いない。
 半壊状態ながら目覚ましい機動力、ファイスは一気に跳躍し、自身の姉妹を抱きしめたのである。しかも彼女を抱いたまま走り続ける。
「ファイス!」
「ファイスちゃん!」
「よせ、ファイ!」
 多くの声を背に浴びながらも、機晶姫Φは足を止めない。大型トラックを上回る勢いで、奔る。
「本機は、クシーを非難できない。この手は……殺した研究員の血に汚れている。姉妹である『Τ』もこの手にかけた……」
「あ、R U……」
 押し返そうとするクシーだが気合い負けしている。体は『く』の字に折れ曲がり、首はのけ反り、強制的に背後を向かされる。
「がッ!」
 クシーの顔面が壁に突っ込んだ。壁は、まるで発泡スチロールでできているかのように簡単に砕けてしまう。壁が脆いのではない。ファイスの突進力がそれほどに強いのだ。
 大きな水柱が上がった。二人のクランジは壁を突き破り、その向こうにあったプールにもつれ合って落ちたのである。溺れる者がそうするように、無闇に腕足を振ってクシーはファイを剥がそうとする。
「放セ!」
「……汚れきった本機も……クシーも……人並みの幸せなど……」
「コノ!」
 クシーは拳を固めファイスの頭部に何度も叩きつけるも、締め上げる力は強まりこそすれ、何ら弱まることが亜狩った。
「ヤメロ!」
 この日初めて、クシーの表情が恐怖に歪むのが見えた。クシーは、ファイスが何をする気かもう理解していた。
「干潟星雲はいて座の散光星雲……地上から見える光は、3900年ほど過去のものになる……」
 夏祭りの夜、小尾田真奈から伝えられた知識をファイスは話しはじめる。
 誰に向かって話しているのだろう。その瞳にはもう、光がない。
「ヤメ……」
 クシーの声が唐突に途絶えた。二機が水中深く潜っていったからだ。

 次の瞬間ファイスが自爆し、クランジの姉妹は閃光と轟音の中に消えた。