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ハート・オブ・グリーン

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SCENE 22

「……畜生!」
 地上に逃れた和希は、拳で地面を殴りつけていた。
「よせ、和希。お前が荒れたところで時間は戻らない」
 それよりも生存者を捜せ、ガイウスはそう言い捨てて瓦礫を持ち上げ、埋まってしまった『心臓』入口を拡張するのである。
 ガイウスが歯を食いしばり、悲痛な表情をしているのを知って、和希は黙って彼に従った。
 生還した誰もが同じ気持ちだったろう。その後しばし、口を利く者はなかった。

 そこから二百メートルもいかぬ場所では、『心臓』で起こったことをまだ知らぬ本隊が進軍を続けていた。
 この日何度目かの、巨大植物の壁が彼らの眼前に立ちふさがる。
「梅琳隊長! もうじき『緑の心臓』ですよ! あと一息……がんばりましょう!」
 ネノノ・ケルキックが気を吐くも、異常植物は堅牢だ。銃弾を跳ね返し、剣の一撃でもわずかな傷しか付かない。
「やっぱりネノノ……『あれ』をやるしかないんじゃない? さあ、やろう、もう一度〜」
 具合はいくらか良くなったのか、レロシャン・カプティアティはアホ毛をつんつんと揺らしながらネノノをうながす。
「ま、またですか……あの技、名前からしてすごく弱そうなんですけど……」
「ほら、そんなこと言ってる暇があったら背負った背負った〜」
「くぅー」
 ネノノは諦めたようにレロシャンを背中合わせになり、そのままひょいと背負うと、凶暴にまで尖ったレロシャンのアホ毛を付きだした状態で駆け出した!
「グラップラーに不可能はない! さあ〜、技名を叫ぶんだよー」
「ろ……ロングアホ毛トレインッ!!
 特攻をかけるネノノの目に、熱いものがこみあげるのだった。

 作戦終了の報は、間もなくして一同に届けられた。
 ベースキャンプ撤収の手伝いをしながら、有栖川美幸は木々の間よりのぞく夕陽を眺めている。報告からまださほど時間が経っていないのに、もう周囲の密林は弱体化し、場所によっては枯死しはじめている。
「なんとか作戦も成功しましたね……とにかく」
 樹液ミストと汗でべとべとの肌を自覚しつつ美幸は言った。
「お風呂入りたいですよね……」
 ああ、と何気なく綺雲菜織は返答した。
「戻ればゆっくりと二人で入るとしよう」
「本当ですか?」
「嘘を言ってどうなる?」
 思わず顔がほころびそうになって、慌てて美幸は屈み込み、足元のワイヤー線を拾うふりをした。
(「そっか、菜織様と一緒に入る口実になりましたね、あの樹液のミスト……」)
 歩き疲れ戦い疲れ、酷く汚れたこの日であったが、美幸にとっては幸運な一日として終わりそうである。