First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last
リアクション
第2章 お嬢様は変態を連れて 1
入り組んだサンドワームの巣を、冒険者たちは案内人に従うままに進んだ。案内人のサンドワームは、ときどき子ワームのことを気にかけながら、冒険者たちを連れ進んでゆく。
どんどん奥へと進むと、次第にそこはサンドワーム――つまり巣の主でなければ分からぬほどに複雑化していった。しかし、マルコたちにとっては複雑であっても、サンドワームにとっては自分の庭である。迷う様子もなく、順調に地を這いゆく。
やがて、暗がりだった巣の奥に、ほのかな明かりが見えてきた。
「あれは……?」
誰かがそう呟いたそのころ、サンドワームの歩みが止まった。
どうやら、ここが案内の終着点らしい。サンドワームの脇から、その場へと進み出る一行。そこには、彼らの探し求めていたものが煌々と輝くように生えていた。
「太陽のキノコ……!?」
目を見開いたマルコたちは、恐る恐るキノコに近づいていった。
天井の小さな穴から降り注ぐのは、どうやら太陽の光のようだ。それに照らされるキノコは、鏡のように光を反射して神々しく輝いていた。まさしく――『太陽のキノコ』である。
「お……おおおぉぉ!」
「こ、神々しいであります! 流石太陽のキノコであります!」
マルコの口から思わず喜びの声が漏れ、子幸もその美しさに見惚れていた。
ガセかもしれぬと疑っていたものが、本当にあったのだ。マルコにとっては、探し求めていたお宝である。喜びも計り知れないだろう。
「やっぱり太陽のキノコはあったんじゃ! いやー、すごいわぁ!」
早速マルコがマルコが手を伸ばした――そのとき。
「ヒャッフー!wwwwwwww ハハッ!wwwwwwwww」
なにやら甲高い声をあげて、赤いキャスケット帽が飛び込んできた。
「キノコ、スッゲwwwwwwケハハハwwww伝説ってマジ空気読んでるwwww」
意味の分からないことを口走りながら、どこかの配管工さながらにぴょんぴょんと飛び跳ねるキャスケット帽。マルコが取ろうとしていたキノコの前に現れて、ケタケタと笑った。
「な、なんじゃ、こいつ!」
「あれだよなwww伝説のキノコってwww1アップするんだよな、食うとwww」
どうやら話は通じないようだ。
キャスケット帽は暴れまくると、やがてキノコを奪おうとして手を伸ばしてきた。
「わ、ばか……」
それを慌てて止めようとしたそのとき――ガン!
「あー、ようやく見つけました」
巨大な日記帳のようなものでキャスケット帽を殴りつけて、ぼんやりとラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)がつぶやいた。日記帳で殴られたあとからは、ぷくっとたんこぶが。
「すみません、お騒がせしましたー」
気絶したキャスケット帽――クロ・ト・シロ(くろと・しろ)を担ぐと、ラムズは退散していった。
「な、なんだったんじゃ一体……?」
「ま、まあ、とりあえずはキノコが見つかってよかったな、マルコ」
キャスケット帽のことはなかったことにして、エースはマルコをねぎらうと自身も太陽のキノコへと近づいていった。
「これが太陽のキノコか……確かに、名前のとおりって感じだな」
「ここは……サンドワームの寝床でしょうか?」
エオリアは地図を描きながら、あたりを見回した。端のほうには、サンドワームの排泄物らしきものがちらほら見える。どうやら、それらの環境が太陽のキノコを育てる要因になっているようだ。
デジカメで太陽のキノコを撮影するエースの横で、レイチェル・ロートランドが周りの土をすくいあげた。彼女の横では、大久保 泰輔が湿度を観測している。
「排泄物が肥料代わりですか……」
「湿度は結構高いんやなあ。やっぱり、菌を育てるためやからか」
調査と研究は、依頼を受けたときの交換条件の一つである。それに、栽培されるようになれば、料理人としても嬉しいことだ。マルコは、エースたちの調査が終わるまで、料理のプランを練っておくことにした。
中心にいる佐々木 弥十郎が、ひとまず一つだけ引き抜いたキノコを軽くかじってみる。
「ふむ、毒はなさそうだね。これは……香りを逃がさない料理がいいかなぁ」
「香りを逃がさない料理か。俺は日本料理でも作るかな。炊き込みご飯とかお吸い物とかさ」
「日本料理?」
本郷 涼介のプランに、マルコがいぶかしげな声をあげた。
「なんだ、マルコ知らないのか?」
「聞いたことはあるんじゃが……作ったことはないな」
「ま、日本料理は俺に任せといてくれよ。なんなら、教えてやるよ」
「ほんとか! そりゃあ楽しみじゃ!」
料理人とはいえ、それぞれに得意不得意があるものである。ましてや、マルコは地球人ではない。地球の料理はいまだなじみのないものもあるだろう。
「じゃあ、私はビーでも作ろうっかな」
「ビー? おお、ヴァイシャリー料理か。通じゃのう」
弥十郎のパートナーである真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)の提案に、マルコが感嘆の声をあげた。ビーと言えば、ツミレ状の具材を生地で挟み込んで蒸す、ヴァイシャリーの古き良き料理だ。具の上にソースをかけるため、そちらでアレンジをほどこすこともできる。
弥十郎の影に隠れてあまり目立たぬが、西園寺も立派な料理人である。選ぶ料理も面白いところを選んでくる。
「ソースはどんなのがいいかなぁ?」
「そうじゃなぁ……せっかくだからキノコソースでいきたいところじゃが……となると具からキノコはのけるか?」
二人はどうやら共同でヴァイシャリー料理を作るようだ。
うんうんとうなって料理プランを練る二人。試行錯誤が繰り返されるそのうちに、エースたちは観察を終えたようだった。
「あとは帰ってからにしましょうか」
「そうだな。マルコー、もうそろそろ引き上げ――」
「おーっほっほっほ! そこまでですわ!」
エースがマルコを呼んだそのときだった。突如、彼の言葉を遮って、高笑いする女性の声が聞こえてきた。
声が聞こえてきた背後に振り返る冒険者一行。
その瞬間には、マルコたちが回収しようとしていた太陽のキノコは、突然の風に奪われてしまっていた。
「なっ……誰だ!」
そこにいたのは、いかにもお嬢様といった格好の金髪美女を筆頭にした、なにやらアンバランスな集団だった。お嬢様――麗華・ビューティールドに、エッツェル・アザトースがキノコを手渡す。
「ちょ、ちょっと、それはマルコさんや自分たちが先に見つけたんッスよ! 奪うなんて卑怯ッス!」
「……これも仕事ですので」
お嬢様の横暴な言い分に、たまりかねてシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が反撃へと吼えた。が、むしろそれはお嬢様を増長させる結果になったらしく。
「おーっほっほっほ。わたくしの名は麗華・ビューティールド! この世の珍しいものはみんなわたくしのものですわ!」
「よっ! お嬢様、すばらしいジャイアニズムです!」
「……さすが」
隣にいる部下らしき美青年と無口な少年は、麗華の声に合いの手を入れる。お嬢様のむちゃくちゃな言い分に腹が立ったのか、セルファ・オルドリンが正論過ぎる反論を口にした。
「ちょっとあんた、なに馬鹿なこと言ってんのよ! そんなに欲しけりゃ分けてくださいって言えばいいじゃない! 勝手に横から奪っていこうなんて、そんなの許されると思ってんの!」
「ふん。ビューティールド家が欲しいといえば、それがルールですわ。むしろそちらこそ、分けてくださいとおっしゃるべきなんじゃありません! あら、でもあなた程度の庶民でしたら、キノコの味も分からないかもしれませんわね」
「……な、なんなのこのムカつく女〜!」
相性が悪いとはこのことだろうか。
いかにも馬鹿にしている口調で笑ってみせた麗華に、セルファの怒りは頂点へと達する。
「マルコ! 真人! さっさとキノコを取り戻すわよ!」
「お、おう!」
キノコというより自分の悪口への恨みのほうが勝っている気がするが、セルファの声を合図にキノコの争奪戦が始まった。――かと思ったら、そこに再び声がかかる。しかし今度は、ヒーロー然とした声高らかな叫びだった。
「待ちなさい!」
ぴたっと止まった争奪戦の間に、ババン! とどこからかスポットライトが照らされた。そこにいたのは、麗華お嬢様たちに負けず劣らずの奇抜な集団――ヒーローのコスチュームに身を包む者たち。
「除夜の鐘の音が響き、なんと今年はうさぎ年!」
ビシッ――と真っ先にポーズを決めたのは白いコスチュームにウサギ耳。バニー☆フォーのリーダーはるホワイトこと霧島 春美(きりしま・はるみ)だった。続けて。
「バニーイヤー&メンバー増えてパワーアップ!」
ホワイトの右側で、ディオイエローことディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が、ポーズを決めた。逆側では、なにやらぼそっとピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)がつぶやく。
「えっと、この世界は干支ずれてなかったっけ?」
「細かいことは気にしない傍若無人なキューティバニー!」
最後に、先日新しくバニー☆スリーに加入した新メンバー、ニャンオレンジこと超 娘子(うるとら・にゃんこ)が気合を込めてポーズをとった。猫なのになぜバニーに? というツッコミは誰しもが頭に思い浮かべるだろうが、細かいことは気にしない。正義の味方は猫でもウサギでも味方なのだ。
全員が思い思いの言葉とポーズを決めて、最後にはるホワイトの合図とともに、バニー☆フォーは集合ポーズを構えた。
「正義と愛が合い言葉! バニー☆フォーただいま参上!」
ババン!
ディオイエローの仕組んだBGMが、背後から音を鳴らす。こうして、ついに正義の味方バニー☆フォーが登場した。
ということは――
「な、何ですのあなた方は!?」
明らかに悪役らしき麗華は、慌ててバニー☆フォーを指差した。
はるホワイトはすぐに状況をキュピンと把握し、麗華たちへ宣言する。
「出たわね、悪の集団! 人様の見つけたお宝を勝手に横取りしようなんて、そうは問屋がおろさないわ! 私たちバニー☆フォーが正義のおしおきをしてあげましょう!」
こうなってはもはや正義と悪の対立であった。
しかも、麗華のもとには面白いこと大好きなシオンとまゆりという二大トラブルメーカーがいる。
「ふふん、出たわねバニー☆フォー! 今日こそはお前たちに引導を渡してくれる!」
「あれ、顔なじみですか?」
「もちろん、初めてよ!」
司の質問に、自信満々にまゆりは答えた。
呆然とする司。そして、彼が自分の身体を見下ろすと、なぜかシオンはいつの間にか悪役の下っ端みたいな黒いコスチュームを彼に着せているわけで。
「シ、シオンくん、これは……!?」
「さあ、やっておしまい!」
「だっはぁ!」
蹴り飛ばされた司を筆頭にした麗華の部下――といっても、ロウとニートに司ぐらいのものだが――たちと、バニー☆フォーの交戦が始まった。
First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last