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空京暴走疾風録

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第9章 暴走者たち・2 環七南東/22時頃


 坂を上って環七入りしようとしていた10数人ほどの“暴走族(チーム)“の前に、人影が立ちはだかった。
「……何だありゃあ?」
 その人影は、片手に提げていたポリタンクの蓋を開き、
(?)
 その中身を路面にぶちまけた。
(──!?)
 辺りに漂う揮発臭。エンジンオイル。それは、引力に従って斜面を下っていき、やがて“暴走族(チーム)“らのバイクに到達した。
 悲鳴、音――
 居並ぶバイクはたちまち転倒し、散った火花が引火したらしい、路面を覆ったオイルは炎上した。
「何だこりゃあ!?」
「あいつ……何考えてやがる!」
 突然の事に、“暴走族(チーム)“のメンバーは呆然と立ちつくす。その中には、腰を抜かしている者もいた。
 エンジン音が聞こえた。炎の彼方から、削岩機を持った人影が現れて、腰を抜かした者の前に仁王立ちした。
 コンクリート モモ(こんくりーと・もも)だ。
「……なんだてめぇは!? お、俺達“伐弩雷蛇亜(バッドライダー)““上等“切ろうってのか!?」
 次の瞬間、モモは削岩機の先端をメンバーの股下数センチの路面に突き立て、掘削を始めた。
 アスファルトを抉る音と振動、そして破片がメンバーに襲いかかった。悲鳴を上げたかも知れない。
 掘削が止み、揮発臭にキナくさい臭いが混じる。
「……『“上等“切る』なんて言葉は知らない……」
「……!」
「人と話す時は、分かるように話しなさい……」
「……は、はい……」
「二週間前……機晶バイクを盗もうとしたヤツがいる……」
「……え?」
「そいつは、人のバイクに悪趣味な水玉ペイントをして、ダッサダサなエビフライテールをくっつけたあげく、キーホールにドライバーぶっ刺したまま“放置(ホカ)“してバッくれた……
 あなた達ね?」
 熱を帯びた削岩機の先端が、メンバーの顔面に突きつけられた。
「違う! 違う! 俺じゃねぇっ!」
「あれは何!?」
 モモは眼で、横転するバイクの数々を示した。
 フロントカウルにはピンクの水玉模様が施されている。それは、この“暴走族(チーム)“のトレードマークらしい。
「あんな悪趣味なカラーリングをするヤツらがそうそうあちこちにいるわけないでしょ!? 隠すようなら“削岩機(こいつ)“でお前を抉り抜くッ!」

「空警少年課環七対策本部より各員へ。
 “環七“南東部にて自警団による過剰介入事案発生。
 近隣の警察および警察協力者は、現場に急行せよ。詳しい住所は――」
(お呼びがかかってしまったか)
「プラチナ、仕事だ。自警団の過剰介入が発生した」
 唯斗はそう言うと、レッサーワイバーンの進路を変えた。

 モモがメンバー全員を尋問して分かったのは、「犯人はこいつらではなさそうだ」という事だった。
 立ち去ろうとした時に紫月唯斗らが駆けつけ、モモ及びメンバーらは警察署に連れて行かれた。
「……バイクを、滅茶苦茶にされた……」
 モモは言った。
「だから、そんな事をしたヤツらを許せなかった……」
「そうね。そんなヤツらは許せないわね」
 紫月睡蓮はモモに答えた。
「でも、自分がひどい目にあったからって、他人をひどい目に遭わせていい事にはならないわ。復讐は、何も生み出さない」
「……じゃあ、私のバイクを傷つけたヤツらは罰を受けなくてもいいの?」
「バイクを傷つけられたり壊されたりしたらどんなに辛いか、一番よく知っているのはあなたでしょう? 同じ事を他人にしたら、あなたも“ヤツら“と同じになってしまう。
 あなたのやるべき事は、罰を与える事じゃない。あなたと同じ悲しみを誰にも味わわせないように、人を守る事だったのよ」
「……」
「守りましょう、あなたは“自警団“なんですから」