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空京暴走疾風録

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空京暴走疾風録

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第12章 Listen to Me  環七南/23時頃
 環七南地域の空域を巡回する茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)の暴走グループ対策は、独特のものだった。
 道路にしかけたザイルを「物質化・非物質化」で消し、暴走グループが来たら出現・「サイコキネシス」でぐるぐる巻きにまとめて縛って、“お縄“にしてしまうのだ。
「……不思議ですね。南方面では“醍堕郎子(ダイダロス)“が一番幅を利かせている、と聞いていたのですけど」
 それ以外の中小規模の暴走族は結構捕まるのだが――今し方も、“炉皇弩杭院(ロードクイーン)“とかいう名前のレディースを捕まえた所だった。
「さて――この子達をどうしましょう?」
 いいペースで検挙してはいるものの――捕まえたら捕まえたで、そろそろ衿栖も持て余し気味となっている。
 ザイルでまとめて縛り上げる傍から取り敢えず近場の交番に押し付けたりしているが、本来であれば検挙した暴走グループは環七所轄の警察署に連行して引き継ぐ、という形を取らなければならない。各交番の収容能力にも限界があった。
 また、少し前に「東」の方で大捕物があったらしく、現在は環七所轄の警察署のパトカーなり護送車なりが全て出払って、交番からの引き継ぎが出来ない状態になっていた。
(署まで直接送り届けるしかないでしょうけど……遠いんですよねぇ?)
 送り届ける手間はともかく、その間自分の持ち場ががら空きになるのが気になる。
 ザイルでぐるぐる巻きにした数人ほどの少女を、取り敢えず路肩に寄せた状態で少しばかり途方に暮れていると、
「……あのう、おまわりさん?」
と、声をかけられた。
 見ると、リネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)らが立って、こちらを見ている。
 その中のリネンが口を開いた。
「その……その子達、どこかに“連行“とか、しないんですか?」
「それなんですけどね……近場の交番が今いっぱいいっぱいで、連れて行くのもどうかな、と悩んでいた所でして」
「なら、おれ達が引き継ぐぜ」
 言いながら、フェイミィが自分の胸を叩いた。
「ただ警察署まで連れていきゃあいいんだろ? その程度の“お使い“ならやってやるぜ」
「本当ですか? あぁ、助かります。それではお願いしますね」

「……少し話さない?」
 リネンは“炉皇弩杭院(ロードクイーン)“の少女達の横の位置につくと、そう声をかけた。
 ザイルの拘束は外されている。彼女らのバイクは、フェイミーが自分の小型飛空挺でまとめて牽引する、という形を取っていた。
 少女達は、ただでさえ険しい目つきにさらに警戒の色を含み、リネン達を見返していた。
「……あなた達も“環七“一周を目指していた口かしら?」
 反応はない。
「……あんな大きな道路で思い切り走ったら。気持ちが良さそうね……けど、もっと大きな世界で一番を目指してみる気はない?」
「あたしも以前はさんざんやらかしたから、強くは言えないんだけどさぁ、もうちょっと人の迷惑とかってのを考えた方がいいとは思うよ?」
 ヘイリーが苦笑しながら言った。
「バイクは夢とロマンを載せている、って聞いた事がある。バイクが泣いてるよ。
 ……まぁ、ひょっとしたら、あんたらにとっちゃあ“環七“とか空京さえ、小さすぎる所なのかも知れないけどね?」
 台詞の中、少し持ち上げるような言葉を入れてみた。
「……どういう意味?」
 反応。食いついてきた。
「『空』飛んでみない? あたし達、“空賊“やっててね。イキのいいのを探してるんだよね」
「……近々……ちょっと大きな事やるつもり。“環七“なんか目じゃないくらいの……」
「派手な出入りになるぜ! “ゾク“同士の喧嘩なんか比べものにならないくらいのな!」
 頭上からヘイリーが叫んだ。
 ――ややあって。
 こちらに警戒の視線を向けていた少女達の眼に、別な光が宿った。
「……ふん」
 誰かが鼻を鳴らした。
「何言ってるんだ、あんた達?」
「結局さ、自分の手駒が欲しいだけだろ?」
「他あたってくんない?」
「誰かの都合で人のイノチ変な風に転がされちゃたまんないよ」
(――何だと!?)
 激昂しかけたフェイミーは、彼女達の眼や表情を見て心が凍った。
 眼の光は“軽蔑“の色、口元に浮かぶのは“嘲笑“の笑いだ。
 それは、フェイミーがかつて「信用できないオトナ達」に向けていたのと同じものだった。

「参ったな……」
 暴走グループらを警察署に引き継いだ後、フェイミーはぽつりと呟いた。
「あの子達にとっちゃあ、私達はもう“オトナ“の側なのかなぁ?」
「……こっちの話……全く聞く耳持ちませんでしたね……」
「こっちだって、あんなヤツらは願い下げだ! 『空賊』に来たらその日のうちに葬式出さなきゃならなくなるぜ! けっ!」
 ヘイリーが吐き捨てた。