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リアクション
第17章 挑戦者の姿・7 環七西/24時半頃
「空警少年課環七対策本部、八街修史より各員へ。
環七北方面最大の暴走グループ“空狂沫怒苦霊爾夷(クウキョウマッドクレイジー)“はパラ実生による襲撃により壊滅。リーダー田向井玄を筆頭に、数十名を保護ならびに検挙した。洩れたメンバーは現在逃走中だが、“空狂沫怒(マッド)“によって今まで押さえつけられていた他のグループがその身柄を不当確保、暴行を加えに来る事案が予想される。
北方面担当者各位はいっそうの警戒と、他地域担当の者も可能であれば北方面への応援を願う。
暴走行為は紛れもない犯罪で、彼らによって誰かが傷ついたり苦しんだりする事は許されない。だが、だからと言って彼らがひどい目にあっていい事にはならない。
各員には思うところもあるだろうが、力の行使には慎重を期されたい。
思いのままに力を振るえば、それはただの暴力にしかならない」
環七西方面の市民公園の前。数人がバイクを停めて、ガードレールに寄りかかりながら腕組みをしたり、溜息を吐いていた。
桐生 円(きりゅう・まどか)、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)、アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)、宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)、七瀬 巡(ななせ・めぐる)らは、かれこれ二時間以上そこにいる事になる。
「来ないなぁ」
円が呟いた。
「来ませんねぇ?」
優梨子も呟いた。
「いつになったら来るんでしょう?」
歩も小首を傾げる。
――この台詞を何度繰り返した事だろう。
もうひとりが合流してくるのをずっと待っていたが、いつになっても来ない。
「あ」
不意に、アリウムが声を上げた。
「知らないうちに、派手な動きがあったみたいですよ?」
言いながら、銃型HCの画面を仲間に示す。
ニュースサイトの画面が、速報で“環七“の東と北で暴走族の大捕物があったことを伝えていた。
――とりわけ北の方では、“空狂沫怒苦霊爾夷(クウキョウマッドクレイジー)“が壊滅したらしい。集会に誰かが殴り込みをかけ、総長に電撃戦を挑んでこれを撃破。その騒ぎに近隣の警察やそれに協力する「契約者」、自警団が駆けつけて片っ端からメンバーを検挙。負傷者多数。
これらの動きがあった為、“環七“界隈の“暴走(ハシリ)“はずいぶんと大人しいものになっている。ただし、“環七“北方面では中小の“暴走族(チーム)“がお礼参りとばかりに、検挙を逃れた“空狂沫怒(マッド)“を狩りだそうとしている、云々――
「先越されちゃったねぇ」
円が深い溜息を吐いた。
「どこの誰かは知らないけど、余計な事してくれたなぁ」
「問題ありませんよ、もっと素敵な獲物が残っているではありませんか?」
優梨子が微笑む。
「“環七“を我が物顔で支配し、一声かければいくらでも仲間が集まってくる最強の“暴走族(チーム)“。その名は“警察“……“環七“を飛ばしていれば、向こうの方から来てくれるでしょう」
「えーと、それはお巡りさんに喧嘩売るって事?」
「怖いですか、歩さん?」
「うーん」
優梨子に訊ねられ、歩は小首を傾げた。
「自分から抗争の種を作るのは、どうかなぁ?」
「歩ちゃん、歩ちゃん」
巡が歩の袖を引っ張った。
「“ばいくにはゆめとろまん“が詰まってて、人はバイクに乗ったら“かぜになろう“とするものなんだよ。それを邪魔する“けーさつ“は、“わかもの“を押しつぶそうとする“わるいおとな“達なんだよ」
「……巡ちゃん、暴走族漫画読み過ぎ」
「さて、そろそろ行こうか?」
円が自分のバイクにまたがった。
「全員集合できなかったのは寂しいけど、ずっと待ってたら夜が終わっちゃうよ。『もう動くよ』ってメール、今送ったからさ。
んじゃ、サクッと“環七一周“やって、ボク達が“トップ“に立ってしまおうじゃないか。
“圃倭威屠裏璃夷(ホワイトリリイ)“、いざ“出っ発(デッパツ)“!」