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第三章 聖者の行進
「お、雪か」
 空を見上げたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は顔をほころばせ、おやと首を傾げた。
 雪が降ってるけど、見あげた空はお日様ピカピカいいお天気で。
「それに、こんなに暖かいのなら普通、雪じゃなくて雨が降るハズだろう……?」
 不思議に思い辺りを見回してみると、何やら森の方が白い。
 白く凝って雪が渦を巻いている……周辺とは一変して、異常な光景だ。
「なんだあらぁ、面白そうだから行ってみよっ」
 そんなわけで森に向かったアキラだったが、いざ目の前にすると口元を引き結んだ。
「雪はすごいし、ヘンな異音が聞こえてくるし、面白がってる場合じゃないな、何とかしなければ」
「これ、ただの吹雪じゃない」
 そこでアキラが出会ったのは、樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)
「うわっ本当。何と言うか、こう……普通に降らないかな、雪」
「んー、今年もせいれいさんが来て……なんか様子が変なの?」
 そしてアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)天穹 虹七(てんきゅう・こうな)だった。
「せいれい……精霊が、変?」
「うん。せいれいさんが、っていうか、くーきが変。魔力がぐるぐるうずまきさんなの」
「魔力の濃度が高いですね。それで精霊が苦しんでいるのだと思います」
 虹七と白花の切迫した様子に、アリアと刀真は視線を交わし互いの気持ちを確かめ合った。
「どちらにせよ、行ってみないとだよね。放ってはおけないよ」
「同感です」
「んじゃ、気を引き締めて行きますか」
 そうしてアキラもまた一緒に森へと足を踏み入れる。
「うー寒いの……」
 トナカイのスズちゃんに抱きつく虹七。
 ルルナ捜索班と出会い行動を共にする事になるのは、この直後の事だった。
「虹七ちゃん!」
「あ……夜魅……ちゃん」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)とパートナーである蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)は、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)と共にルルナを探しに来ていた。
「刀真さん達も気付いたんだね」
 白花と夜魅を見つめ、朱里は不思議な感慨を覚えた。
 話を聞いた時、思ったのだ。
 ルルナは、昔の夜魅を思い出すと。
「寂しくて誰かに甘えたいのに、人との距離の測り方を知らず、結果的に迷惑をかけてしまう。でもそれは彼女が決して『悪い子』だからじゃない」
 ただ、それを本人が知らないだけなのだと。
 だからこそ朱里はかつて夜魅を責めなかった。
(「それに、あの件がきっかけでお互いの気持ちに気付いたし……ね」)
 チラと傍らの愛する人を見上げれば、同じ事を思い出していたのか、優しい微笑みが返ってきて、朱里の頬がほのかに染まった。
 そして、思う。
 ルルナもまた責めない、責める必要なんてないのだ、と。
 必要なのは責める事じゃない、抱きしめて教えて上げる事なのだと。
 だから。
「ルルナちゃん、早く見つけて上げようね」
 限りない願いと決意を込めて、朱里はアインと頷き合った。

「【冒険屋】への依頼って事で、ルルナちゃんの捜索をするよ。報酬はそうだね…クリスマスパーティに私も参加させて貰えればいいな。ほら、私自身が助けに行った子が笑顔でいる所を見れたらきっと嬉しいしさっ」
 そんな風に照れ笑いと共に捜索に加わった琳 鳳明(りん・ほうめい)
 その報酬を貰う為、吹雪の只中に飛び込んだ琳はちょっとだけ途方に暮れていた。
「……さ、さぶいよ!?」
 視界を埋め尽くす白銀もさることながら、身体に叩きつけられる吹雪が半端なく寒かった、てか冷たいんですけど!?
「い、いやいや。教導団の行軍訓練に比べればこのくらい……。何より、ルルナちゃんはこの吹雪の中迷子になってるんだしね。が、頑張るよっ」
 凍えないためにエンデュア&心頭滅却で寒さを凌ぐ琳……というよりこれは我慢だね☆
 と、そんな琳の目の前に現れる者があった。
「迷える雪の旅人よ、こんにちは。雪だるま王国女王、赤羽美央です」
「雪中の迷い人よ、こんにちは! 我ら雪だるま王国がお手伝いできることはございませんか?」
 それは【雪だるま王国】女王たる赤羽 美央(あかばね・みお)と、美央に従う【雪だるま王国騎士団長】クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、そしてクロセルのパートナーである童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)魔鎧 リトルスノー(まがい・りとるすのー)だった。
「コントラクターといえども、この猛吹雪の中を進みゆくのは危険です。でもご安心を。雪だるまの加護がある私たち雪だるま王国が来たからには、もう大丈夫なのです」
 美央の雪だるまの御加護……アイスプロテクトが、寒さに対する耐性を上げる。
「ありがと、助かるわ」
 素直に礼を述べつつも、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は一行の中ではかなり元気だった。
 小さな身体ながら、雪だるま王国女王近衛隊隊長としては、弱音なんて吐いてられないのだ。
「それにしても全く……暴走するような設計してんじゃないわよ」
 弱音の代わりにもれるのは、ぼやきだ。
 唯乃は以前、雪を降らせる機械を作った事がある、のだが。
「少なくとも機械側の問題で暴走はしなかったわよ……まぁ、アレはかなりローテクだったけどね」
「主殿?」
 唯乃の胸元……霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)の声にクールダウンしてから、唯乃は溜め息をついた。
「なんにせよ、止めないとねぇ。可哀相だけど、人に害を成す機械はダメなのよ」
「うん、でもこう雪が激しいと、地図とか地形情報もあまり役に立たないね」
 逸る主を宥めるように、シンベルミネは小さな小さな身体に似合わぬしっかりした声で告げた。
「そこは皆で助けあうでござる」
 スノーマンは言って、【凍てつく炎】を掲げた。
「雪の精霊は、拙者達の大切なパートナーでござる。そんな彼らの一大事に黙っている事はできないでござるよ」
 スノーマンの言葉はそのまま、クロセル達の気持ちであった。
「雪の精霊を助けるのは、我ら雪だるま王国の使命ですから」
 だからクロセルは歯を食いしばり進む者達を力づけるよう、胸を張って宣誓する。
「ここは雪のスペシャリストである雪だるま王国に、ド〜ンとお任せあれ!」
 その言葉に誇らしげに頷き合う雪だるま王国の面々。
 彼らは盾となり道なき道を切り開いていく。
 そしてスノーマンの【凍てつく炎】は吹雪の中、灯火となりて皆を、その苦しい道行を照らし導くのであった。
「ママ、大丈夫?」
「あまり無理はしては身体に障ります。よろしければ、こちらにどうぞ」
 身重であるコトノハを案じる夜魅、気付いた美央は自らの乗り物……かまくらへと誘った。
「それにしても……」
 皆の後をかまくらで追い掛けながら、美央はふともらした。
「魔法とかで雪を降らせて雪だるまを作っている私達が言えることではないのですが、予定調和な雪はこういう日には向いてないと思いますね」
 精霊が降らせたい時に振らせる、それが自分達には予想ができない自然の摂理だ。
「朝起きれば外が銀世界だったり、特別な日に雪が降ったりする奇跡。予想のできない自然のお化粧に、びっくり。それが雪が降って楽しい理由だと思います……予定調和な積雪だと、その驚きが減っちゃいますよね」
「そうでスノー! わざわざホワイトクリスマスを演出しようとするから、こんな事になるんでスノー!」
「……あぁ、それは確かにそう、ですよね」
 聞き取ったらしいクロードは、成る程と首肯した。
「子供達の為に、あの方が出来なかった分まで子供達を喜ばせたくて……でも」
 いつでも自分は失敗する……自嘲はどこか悲しく、凍えた空気を震わせた。
「機械が暴走してしまったこと自体は、もう終わってしまったことです。ですから、重要なのは今……これからどうするかだと思います」
 そんな空気を払拭するかのように、翔はクロードにそう告げた。
「せーれーさんが苦しんでる」
 そして虚空を眺め、夜魅と虹七はその表情を曇らせていた。