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リアクション
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「第十一試合、セシリア・ファフレータ選手対、アリアス・ジェイリル選手」
「さあ、まだまだ私が蒼空学園、しいてはイルミンスールを含めても一番の魔女だということは疑いがないのじゃ。ほら、かかってくるのじゃあ」
勢いに乗るセシリア・ファフレータが、元気よく名乗りをあげた。
「それは、イルミンの者としては聞き捨てなりませんね」
身体をつつみ込むようにしてたたんでいた翼を一気に広げてアリアス・ジェイリルが言った。彼女の周囲に、幾枚かの羽根が落ちることなくたゆたう。
「あーあ、無駄に挑発して。どうなっても知らないぞ」
新しく買ってきたオレンジジュースをストローでちゅうちゅうしながらエルド・サイファルがつぶやいた。
「まっ、おねーちゃんのことだから、せこい手を使ってでもきっと勝つよ」
エルド・サイファルに買いなおしてもらったオレンジジュースをちゅうちゅうしながらミリィ・ラインドが言った。
試合が始まる。
「よし、さあ行くぞえ! ……降り注げ我が魔力!」
降り注げと言いながら、セシリア・ファフレータが真下から凍てつく炎をアリアス・ジェイリルにむかって放った。
「グラキエス」
落ち着き払ったアリアス・ジェイリルが、宙にある自分の羽根を一つつまみ取ると、バリアで弾かれた冷気をすくい取るようにしてその羽根に移した。ヒュンと放たれたその羽根手裏剣が、クルンと曲がってセシリア・ファフレータの足許のバリアを凍りつかせる。
「引っかからぬか、つまらぬのう」
本当につまらなそうに、セシリア・ファフレータが言った。
「イグニス!」
新たな羽根を手にとったアリアス・ジェイリルが、それを炎につつんでセシリア・ファフレータの右側に投げつけた。
「ならば今度は左からじゃ!」
嘘である。右から凍てつく炎がアリアス・ジェイリルに襲いかかった。
「ありゃ!?」
その結果を見たエルド・サイファルがストローから口を離してぽかーんとした。
「相討ちだよね……」
ミリィ・ラインドも唖然としている。今の攻撃で、二人共吹っ飛ばされてしまったのだ。
「無念です……」
スライムの上で、大の字になりながらアリアス・ジェイリルがつぶやいて気を失った。下着姿にひんむかれてしまっている。だが、見た目は美人なのに、下着は驚くほど地味なスポーツタイプだ。
「弱点を見抜くとは、みごとじゃああああああ!!」
叫びながら、セシリア・ファフレータがポチャンとスライムに落ちる。
「こ、これは……べとべとしてぎもち悪い……。水着を着ていてよか……ぶくぶくぶく……」
思いっきりもがきながら、セシリア・ファフレータがスライムに沈んでいった。
「ううむ、誰得か分からない負け方だな」
「そんな、一応おねーちゃんも恋する乙女なんだし、そこまで言わなくても……」
あーあと落胆するエルド・サイファルを、ミリィ・ラインドがつついた。
「とりあえず回収しにいくか」
ミリィ・ラインドをうながすと、エルド・サイファルは救護室へとむかった。
「両者、相討ち!」
★ ★ ★
「さあ、第三回戦も最終試合となりました。ナナ・ノルデン選手対、東雲 いちる(しののめ・いちる)選手です」
「お手合わせ、よろしくお願いいたします」
再び空中を駆け下りてきて、ナナ・ノルデンが東雲いちるに挨拶をした。
「なんだか相手は強そうであるよなあ。すでに何人か撃破してきているのであろう。自分の実力を知るいい機会とはいえ、いちるは勝てるのであろうか」
もの凄く心配そうに、ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)が周囲に言った。
「まあ、負けたらすっぽんぽんだそうだから、後でこの上着持っていってやれよ」
ほいと、ノグリエ・オルストロ(のぐりえ・おるすとろ)が用意しておいた着替えをギルベルト・アークウェイに手渡す。
「すっぽんぽんだとぉ」
聞いていないと、ギルベルト・アークウェイが叫んだ。
「くっ、失態だ……。いちるは、ちゃんと水着かなんか着て行ったのか? というか例え水着といえど他の男に肌を晒すなど俺は!!」(V)
「まあまあ、少しは落ち着けって。だからこそ、着替えを持ってきてやったろ」
頭をかかえるギルベルト・アークウェイに、ノグリエ・オルストロが服を押しつけた。ちゃんと下着一式までそえてあって、さらにギルベルト・アークウェイが妄想であたふたする。
「あら、ギルベルトはいちるが負けると思っているのかしら?」
エヴェレット 『多世界解釈』(えう゛ぇれっと・たせかいかいしゃく)が、信用していないのねと軽くギルベルト・アークウェイを見据えた。
「何だかんだ言って水着姿が見たいとか? 私? 私はもちろん見たいわ。ふふっ、いちるの恥じらう姿もかわいいでしょうね……」
何か別の妄想をして、エヴェレット『多世界解釈』が頬を緩ませた。
「落ち着け、落ち着くんだ俺。いちるが勝てばいい。そう、いちるが勝てばいいんだ。いちる負けるなよ!」
なんとか自分を納得させると、ギルベルト・アークウェイがノグリエ・オルストロから手渡されたした機をしっかりと握りしめて立ちあがった。
「頑張れ、いちる、応援しているぞー」
あまりにもいっぱいいっぱいで、ギルベルト・アークウェイは自分が何を握りしめて応援しているのかも分からないようだった。
「こちらこそよろしくお願いします」
そんな外野のドタバタなど知らずに、東雲いちるはナナ・ノルデンにお辞儀をしていた。
「じゃ、ナナ・ノルデン、参ります」
試合開始と共に、ナナ・ノルデンが、ドラゴンアーツで圧縮した火球を前面に押し出した。
「光よ、我が障害を打ち払え!」
東雲いちるも、手を高く掲げると、光球を頭上からナナ・ノルデンにむかって落とした。
次の瞬間、両方の武舞台の上で、ちゅどーんと爆発が起こって二人共スライムの海へと投げ出される。
とりあえず二人共普通のメイド服と水着を着ていたようではあるが。
「うわあああ」
パニックになったギルベルト・アークウェイが走りだした。
「だから、この毛布は私専用の対女の子アイテムだと申しているんです!」
「いや、こういう物こそ、公共のために使うべきで……」
何やら、クロセル・ラインツァートと椎堂紗月が毛布を巡ってもめている。
「その毛布、もらったのだよ!」
「あっ!?」
有無をも言わさずにその毛布をひったくると、ギルベルト・アークウェイが東雲いちるとナナ・ノルデンの上に放り投げた。
「また、私の出番が……」
またもやタイミングを逸してしくしくするクロセル・ラインツァートであった。
「両者、相討ち!」