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リアクション
★ ★ ★
「第十八試合、蒼灯 鴉(そうひ・からす)選手対、キネコ・マネー選手です」
「きゃー、鴉、ルーツの分まで頑張ってー」
カンバス片手に、師王アスカが声援を送る。
「面倒くせえなあ。だいたい、俺は魔法が苦手なのに……。そこのでぶ猫、早く済ましちまおうぜ」
「誰がでぶ猫ですら。目に物見せてやるですら!」
「煩わしいな、さっさと消えろ!」
蒼灯鴉が、問答無用でキネコ・マネーにむかって光術を放った。
「これでも食らうですら〜!」
かかえている千両箱に手を突っ込んだキネコ・マネーが、小判型の光弾を手裏剣のように蒼灯鴉に投げつけた。
ほとんど同じ射線を描いて、蒼灯鴉の右側とキネコ・マネーの左側で光弾が弾けた。
「勝つか負けるかしろよ、この愚図!」
「勝つか勝つしかしないですら!」
今度は蒼灯鴉の左側と、キネコ・マネーの足許で光弾が弾ける。
「面倒くせー」
「だったら早く負けろですら!!」
キネコ・マネーの正面と、蒼灯鴉の頭上で光が弾ける。
「いいかげんに……!」
二人が声を合わせて叫んだ。だが、最後まで言えないうちに、右から光弾を受けたキネコ・マネーが武舞台の外にはじき出された。
「そ、そんなー!? ですらー」
どっぼんと、体格に見合った派手なスライム飛沫をあげて、キネコ・マネーが落ちた。だが、すっぽんぽんになったところで、ゆる族では外の着ぐるみには変化はない。
「はっ? 勝っちまったのかよ」
バリアに防がれた淡い光を下から受けながら、蒼灯鴉が呆然としたようにつぶやいた。
「やった〜!さすがだわぁ♪」
蒼灯鴉の心情も知らず、師王アスカが小躍りして喜んだ。
「勝者、蒼灯鴉選手!」
★ ★ ★
「第十九試合、アリアス・ジェイリル選手対、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)選手です」
「やっと出番のようだ」
イーオン・アルカヌムが、ずっと暖めていた椅子を離れた。
「それにしても、フィーネがこういう大会に参加しないとはな」
「乙女が柔肌を晒す機会を作るわけにもいくまい?」
フィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)が、悪戯っぽく笑って見せた。
「まあいいが。俺の相手はと……」
イーオン・アルカヌムが敵の姿を捜すと、すでにアリアス・ジェイリルは武舞台の上に立っていた。
「さて……」
地獄の天使で鉱石のような燦めきを持つ翼を作りだすと、イーオン・アルカヌムは武舞台までそれで宙を飛んでいった。
音もなく武舞台に舞い降りると、イーオン・アルカヌムが紅の魔眼を発動させた。
じっと値踏みするようにアリアス・ジェイリルを見つめる。
白い翼を広げた痩身の守護天使は、大剣を杖のように床に突き立てたまま、静かにたたずんでいる。いかにも剣士という感じだが……。
「さあ、踊ろうか」
すっと横をむいたイーオン・アルカヌムの身体が、突然見えなくなった。すぐ前に、暗黒の滝が現れたのだ。虚空からあふれ出るような暗黒が、流れとなって落ち、そして逆巻いてアリアス・ジェイリルの方へとむかって行った。
正面から押し寄せた暗黒が、バリアという堤防にあたって跳ね返される。
「ルーメン……」
自らの羽根を一つ抜き取ると、アリアス・ジェイリルが唱えた。指先にはさんだ羽根が銀の光につつまれる。すっと、アリアス・ジェイリルがそれを投げた。一条の銀光となった羽根が、矢のようにイーオン・アルカヌムの正面のバリアにあたって弾けた。
「魔法は本来、あまり得意ではないのですが……」
そう言うと、アリアス・ジェイリルが、もう一本羽根を抜き取った。
「面白い」
自分とは正反対とも言える魔法の質に、イーオン・アルカヌムがほくそ笑んだ。
今度は彼の足許から流れる水のように広がっていった闇が、アリアス・ジェイリルの足許から噴きあがった。だが、その足に触れることもなく、バリアによって四散していく。
「あーあ、運のない奴め」
ふとフィーネ・クラヴィスがつぶやくように言った。
放たれた銀の羽根が弧を描いて左側からイーオン・アルカヌムにあたった。燦めく銀の光が、周囲でパチパチと弾ける。
それに押されて、イーオン・アルカヌムが倒れた。そのまま、武舞台から落ちていく。
「やはり、勝負の女神というのは気まぐれだな……」
ドボンとスライムに呑まれたイーオン・アルカヌムが、すっぽんぽんにされて救護室へと運ばれていった。
やれやれという感じで、フィーネ・クラヴィスが救護室へとむかう。
「勝者、アリアス・ジェイリル選手!」