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リアクション
★ ★ ★
「第十三試合、アルシェナ・サイフィード(あるしぇな・さいふぃーど)選手対、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ選手です」
「さて、クリムはあっさり相討ちだったけど、ベルは頑張れるかな」
ちょっと余裕をもって、駿河北斗が試合を見守っていた。
「ふっ、このあたりで、実力の差をはっきりとさせておくべきね」
すでに敗退しているクリムリッテ・フォン・ミストリカ以下になることはないとしての余裕からか、自信たっぷりの様子でベルフェンティータ・フォン・ミストリカがつぶやいた。
「……畏れなさい、氷の女王の棺からは誰も逃げられない」
ほとんど見えないほどの細かな氷の霧を放って、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカが言った。だが、いかに細かくとも、バリアに阻まれてしまう。アルシェナ・サイフィードの背後のバリアが、霜がついたように一瞬曇っただけであった。
対するアルシェナ・サイフィードは、雷球をベルフェンティータ・フォン・ミストリカの下から浮きあがらせて攻撃した。
「ちょっと、光の聖霊が雷術なんて、反則じゃないの!?」
アルシェナ・サイフィードの攻撃を見て、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカが難癖をつけた。
「それでは、あたりまえすぎで面白味がありませんから。どうか、この術で負けてください」
「負けたりなんかしないわ」
淡々と言うアルシェナ・サイフィードに、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカが言い返した。
ベルフェンティータ・フォン・ミストリカは、敵を凍りつかせる氷の霧をなんとか相手の周囲へ届けようとするのだが、正面からも頭上からも、魔法が入り込む隙はなかった。その間にも、アルシェナ・サイフィードの雷球が、頭上と正面で激しい閃光をあげた。
「てこずってるなあ」
呑気に、駿河北斗が感想をもらす。
「今度こそ!」
ベルフェンティータ・フォン・ミストリカが、今度は左からアルシェナ・サイフィードを攻めた。
アルシェナ・サイフィードの方は、落ち着いて敵の背後へと雷球を誘導する。それが命中した。
「しまった……今日は調子が悪かったのよ、そうに決まってるわ……」
痺れながら、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカがスライムの中へと落ちた。幸いにして、普段着のブラウスとフレアスカートはスライムに分解されることはなかったので、すっぽんぽんはまぬがれる。
「やりましたよ、勝ちまし……」
喜んで小躍りしかけたアルシェナ・サイフィードの身体が、半ば凍りついた。いつの間にかに、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカが忍ばせた冷気に周囲を囲まれていたのだ。彼女の動きと共に過冷却状態であった大気宙の水分が、一気に彼女の身体に張りついて凍らせたのである。
「勝ったんじゃ……」
動けなくなったまま、アルシェナ・サイフィードが、ぽっちゃんとスライムの中に落ちた。一糸纏わぬ自然の姿に戻ると、アルシェナ・サイフィードはスライムに運ばれていった。
「両者、相討ち!」
★ ★ ★
「第十四試合、玉藻前選手対、ミツキ・ソゥ・ハイラックス(みつき・そぅはいらっくす)選手です」
「さて、今度も軽く勝つとするかな」
調子に乗っている玉藻前が、再び絶対暗黒領域で闇を周囲にまとわりつかせ、炎の九尾を顕わにした。
「パラミタで生き残るためには、ここで勝たなきゃいけないのよね」
とりあえず、銭湯摩抱晶女トコモに吹き込まれたことを真に受けたミツキ・ソゥ・ハイラックスが、気合いを込めてつぶやいた。とはいえ、どこかから回りしているような気もする。
「ええと、とりあえず、基本中の基本、火術を使えばいいのよね。えいっ」
「我が一尾より炎が出(いずる)!」
ぽよよーんと小さな火球を放つミツキ・ソゥ・ハイラックスに、玉藻前が激しい炎の流れを繰り出した。正面から激しく火流が襲いかかったが、バリアによって弾かれてしまった。
「ならば次は……」
すぐさま次の攻撃に移ろうとした玉藻前の背中に、背後からぽよぽよと飛んできた火球が命中した。
「えっ!?」
あまりに想定外の出来事に、玉藻前がよろけてそのまま武舞台から落ちた。
攻撃に夢中になっていて、防御するのを完全に忘れていたのである。
「ふっ、負けたか。我もまだまだだな……」
潔くスライムに落ちた玉藻前が、振り袖が解けてすっぽんぽんになる。だが、絶対暗黒領域のため、変な風にぼかしが入っていた。
「あの馬鹿、無意味に恥ずかしい負け方を……」
思わず、樹月刀真が反射的にブラックコートを投げかけようとしたのだが、中に隠れていた漆髪月夜に引っかかって、バルコニーの手摺りに倒れ込んだ。
「刀真……何してる!」
「うわーーーーー!」
あわてて漆髪月夜がつかまえようとしたが果たせず、樹月刀真はスライムの海に落下した。
「何か事故があったようですが、下はスライムですから無事のようです。とはいえ、危険ですから、観客のみなさんはくれぐれも身を乗り出したりしないようにお願いいたします。落下しますと、あのようになりますので」
シャレード・ムーンが、すっぽんぽんで一緒にならんで流されていく玉藻前と樹月刀真をさして言った。さすがに、これは絵的にまずい。
「ナイス、ミツキちゃん!」
とりあえず、銭湯摩抱晶女トコモだけは喜んでメモリープロジェクターにすべてを記録したようである。
「勝者、ミツキ・ソゥ・ハイラックス選手!」
★ ★ ★
「第十五試合、愛海華恋選手対、エイム・ブラッドベリー選手です」
「華恋、頑張れー! 諦めなければ、絶対勝てるよー」
白波理沙が、愛海華恋に声援を送った。
「うん、また頑張るよー」
手を振って、愛海華恋が応えた。
「ふふ、今度も勝ってしまいそうですわ。そうしたらつまらないですわね。ふぁーあ。さて、最初は正面ですわね。えーい」
一回戦を突破したエイム・ブラッドベリーが、愛海華恋にむかって火球を放った。
「ひっ、火? ひ〜!! 火はだめー、燃えちゃう、燃えちゃう!」
正面からまっすぐ飛んでくる火球を見て、愛海華恋がパニックになる。魔道書である彼女にとって、火は天敵以外のなにものでもない。
あわてて氷術で雪玉を正面に投げつけると、愛海華恋は火球を避けて自ら武舞台から飛び降りてしまった。ドボンとスライムの中に落ちてあっけなくすっぽんぽんにされる。
「あちゃあ、やっちゃったわ……」
あれあれと、白波理沙が頭をかかえた。
だが、エイム・ブラッドベリーの方も、顔に直撃を受けてふらついていた。
「ま、前が見えません……」
顔中雪だらけにしたエイム・ブラッドベリーが、迂闊に動き回って武舞台から足をすべらせた。こちらも、そのままスライムの中だ。だが、浮かびあがってきたのは、中身のない鎧のパーツだった。間一髪で、魔鎧形態にチェンジしてすっぽんぽんだけはまぬがれたらしい。
「両者、相討ちです!」