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リアクション
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「第六試合、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)選手対、デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)選手です」
「自主的二足歩行ドラゴニュートという変わり者という看板を背負い、もう何十年経ったことか。だが、我は生き方を変えぬ! 最強の魔術師を目指す者として、我はこの大会で大いなる一歩を踏み出すのだ! ……っと、まずは名乗りをあげるのが作法というものか。我は、デーゲンハルト・スペイデル。我が戦技、しかとその目に焼きつけたまえ!」
蒼空学園から参加のデーゲンハルト・スペイデルが、武舞台の上で堂々と名乗りをあげた。とはいえ、二足歩行のドラゴニュートなど珍しくも何ともないと思っているイルミンスール魔法学校の生徒たちはちょっときょとんとした顔をしている。
「行ってくるねっ♪」
そうコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に言うと、小鳥遊美羽が楽しげにピョンピョンとスキップを踏みながら橋を渡っていった。
いつも通りのミニスカートなので、そんなことをしたらスカートの中が丸見えになっちゃうとはらはらするコハク・ソーロッドを尻目に、小鳥遊美羽が高い武舞台の上にすっくと立った。
本来なら、下から見あげられたら大変な眺めになってしまうところだが、さすがにこのスライムの海の中でのぞきができる強者は誰もいなかった。
「みんなー、ありがとー」
武舞台の上で小鳥遊美羽が光精の指輪を填めた手を高く掲げると、スポットライトのように明るい一条の光がさして彼女の姿を照らしだした。
「さあ、蒼空学園のアイドル、美羽ちゃんが相手だよ♪」
手に持ったマイクで、小鳥遊美羽が闘技場中に響く声で名乗った。
「同じ学校同士とは。だが、手加減はせぬのだよ。我は基本を極めるのみ!」
デーゲンハルト・スペイデルが、簡略化された無駄のない動作で火球を放った。
「あなたにも、人生のスポットライトを! 私の歌で癒されて〜。ら〜ら〜ら〜♪」
小鳥遊美羽の歌と同時に、デーゲンハルト・スペイデルの背後から光がさしたが、バリアによってただのスポットライトと化してしまった。逆に、下から突きあげるようにした飛来したデーゲンハルト・スペイデルの火球はみごとに小鳥遊美羽のお尻に命中した。
「あちちちち……」
あわてて、小鳥遊美羽がめくれあがったスカートを押さえた。そのままのけぞるようにバランスを崩して武舞台から落下する。
「嘘でしょ、ごめん……。まだ一曲も歌ってないのにぃ〜」(V)
両手でスカートを押さえて落ちていく小鳥遊美羽を、バーストダッシュで飛び出したコハク・ソーロッドが、かろうじてだきとめた。衝撃に、コハク・ソーロッドの白い羽根が何枚か宙に舞う。その勢いのまま、ぎりぎりでスライムたちを避け、救護室に飛び込んでいった。
華麗な救出劇だったが、直後に救護室の中から小鳥遊美羽の悲鳴が聞こえてくる。だから、いったい救護室には何がいるんだ!?
「勝者、デーゲンハルト・スペイデル選手!」
★ ★ ★
「第七試合、カレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)選手対、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)選手です」
「頑張れ〜ルーツ! 応援してるわよ〜♪ ちゃんと、その勇姿をスケッチしてあげるからねぇ〜」
師王 アスカ(しおう・あすか)が、スケッチブック片手に、ルーツ・アトマイスに声援を送った。彼女自身は魔法が使えないため、今回はパートナーたちの応援に徹している。
「ううっ、なんでこんな大衆の前に出なきゃなんねーんだ……」
武舞台の上にしゃがみ込みながら、カレン・ヴォルテールが唸った。世渡りベタのカレン・ヴォルテールとしては、こんな人目のある舞台に出てくるというのは本意ではない。
「さて、いかせてもらうよ」
こちらも多少緊張しながら、ルーツ・アトマイスが氷術の詠唱に入る。
「冷たき女神の抱擁……彼の者を捕らえよ!」
ルーツ・アトマイスの突き出した手から、放射状に広がった冷気の束がカレン・ヴォルテールの右側から押しつつむように迫った。
「こ、こっちに来るな!」
バリアで弾け飛ぶ冷気に、半ばパニックになったカレン・ヴォルテールが、闇雲に火球を放った。
「燃えろ、燃えろ! 燃えろ!!」
正面に飛んでいった火球が、ルーツ・アトマイスの前面のバリアで弾かれる。
「なら、こちらも正面から……」
ルーツ・アトマイスが反撃する。
同時に、まだ興奮の収まりきらないカレン・ヴォルテールが頭上からルーツ・アトマイスに火球を降り注がせた。
「あ、これはもしかして、まずい?」
師王アスカがつぶやいたとおりに、連続して降り注いだ火球に、ルーツ・アトマイスがみごとにちゅどーんと吹き飛ばされた。
「まだまだ修行が必要みたいだな、次回頑張ろう」
そうつぶやきつつ、ルーツ・アトマイスがスライムに落ちる。
「あらら、負けちゃったか……。でも頑張ったねぇ、お疲れ様♪」
ダッフルコート一枚だけのちょっと危ない姿になったルーツ・アトマイスの姿を素早くカンバスに描き写しながら、師王アスカが言った。
「勝っちゃったか? あああ。ということは、また戦わないといけないんじゃないかあ」
武舞台の上で、へたり込んだカレン・ヴォルテールが頭をかかえた。
「勝者、カレン・ヴォルテール選手!」