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第1回魔法勝負大会

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第1回魔法勝負大会

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    ★    ★    ★
 
「第十八試合、カディス・ダイシング(かでぃす・だいしんぐ)選手対、赤羽 美央(あかばね・みお)選手です」
「よ、よろしくお願いしますね……。ぐは、げは……」
「大丈夫でしょうか、カディス・ダイシング選手、戦う前からすでにふらふらしています。ああ、今、武舞台にむかう途中で橋から足を踏み外しそうになった、危ない」
 思わず、シャレード・ムーンが実況してしまうほどに、カディス・ダイシングは危なっかしい。
 本人はエリザベート・ワルプルギス校長の期待に応えるべく、そして自身の魔法の限界を見極めるためにやる気は満々なのだが、その前に本人の体力の限界が訪れてしまいそうだ。
「これは、戦わずして勝ったようなものですね。確かにウィザードの魔法は強力ですが、魔法を使うには強靭な体力も必要ということをあらためてお教えしましょう」
 言うほどにがっしりとした体格ではない、むしろ華奢な身体つきにも見える赤羽美央であったが、こちらは自信に満ちたしっかりとした立ち姿をしている。
「ちょっと寒いかもしれませんが、我慢してくださいね?」
 青い顔をしたまま、カディス・ダイシングが氷術を放った。
「生半可なパラディンでは使えないホーリ!」
 構えた槍を勢いよく突き出して赤羽美央が叫んだ。槍の先端から発射された光球が、その槍の動きに合わせて軌道を変え、真上からカディス・ダイシングにむかって落下した。だが、残念ながらバリアによって防がれる。
 対して、カディス・ダイシングの放った冷気は、ひょろろ〜っと迷走したあげくに、やっと赤羽美央の後ろのバリアにあたってあっけなく消え去った。
「げほげほっ……。一撃で倒せないとつらいのですが……」
 カディス・ダイシングが激しく咳き込む。はたして、最後まで無事に戦えるのだろうか。
「寒いですから、少し暖まりませんと……」
 自身も暖まろうというのか、カディス・ダイシングが火球を生み出して打ち出した。ひょろろ〜と人魂のように飛んでいった火球が、赤羽美央の左側のバリアにぶつかって弾ける。飛び散った炎を振り払うかのように、コキュートスの盾を一振りした。すぐさま、もう一度飛竜の槍を突き出して光球を放つ。今度は下から上へと、光球が移動した。
「ぐはあ。ああ、世界が……回って……いま……す」
 強い光をまともに食らったカディス・ダイシングが体調不良レベルマックスとなってよろけた。そのままふらふらと武舞台から落下する。
 ポチャンとスライムの海に落下し、カディス・ダイシングが水着一丁のやせた裸身を晒した。
「さすがに、パラディンの格は他とは違いましたね」
 赤羽美央が槍を突きあげて勝利宣言した。
「勝者、赤羽美央選手!」
 
    ★    ★    ★
 
「第十九試合、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)選手対、天城 紗理華(あまぎ・さりか)選手です」
「絶景絶景♪ そいではよろしくお願いします」
 ひょいひょいと橋を渡っていったルカルカ・ルーが、武舞台の上から周囲を見回して言った。
「どこが絶景よ。ぜーったい、スライムなんかの餌食にはならないわよ……。だいたいなんで私がこんなとこに……」
 ぶつぶつとつぶやきながら、天城紗理華が軽く悪態をついた。本人は参加申し込みをした覚えはないのに、いつの間にかエントリーされていたのだ。
「いくわよ。ホーミングレーザー!」
 イルミンスールの杖を突き出して、ルカルカ・ルーが叫んだ。杖の先から発せられた強い光が、ぐるりと回り込んで天城紗理華の後ろのバリアにあたって、見えない障壁を照らした。
「ケーナズ!」
 天城紗理華が、空中に<のサインを描いて火球を生み出した。クルリと時計回りの弾道を描いた火球が右側のバリアに弾かれる。
「は〜、ドキドキするね。これ」
 バリアで弾かれると分かってはいても、至近距離での爆発は心臓に悪い。ドキドキした胸をそっとなで下ろすと、ルカルカ・ルーが再び杖を構えた。
「あらあら、いろいろな魔法が飛び交うのね。次はなんの魔法なのでしょう」
 観戦していたニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)が、のんびりとした口調で楽しそうに言った。
「アイスミサーイル!」
「ハガラズ!」
 Иを描いた天城紗理華からも、氷塊が打ち出される。
 天城紗理華の右側と、ルカルカ・ルーの正面で氷が弾けた。
「まだまだ。サンダーボルト!」
「ソーン!」
 今度は天城紗理華の下方と、ルカルカ・ルーの背後で雷光がスパークをあげた。
「まあ、綺麗」
 思わず、ニケ・グラウコーピスが拍手する。
「拮抗した勝負ですね」
 ちょっと心配になってこっそりと様子をのぞきにきた大神御嶽がつぶやいた。
「ちっ、なかなかやるですら」
 こっそり天城紗理華をエントリーした犯人であるキネコ・マネー(きねこ・まねー)が、小さく舌打ちする。派手な敗退を期待していたのだが、これではうっかりすると勝ってしまいそうだ。
「シャイニング!」
「シギル!」
 天城紗理華の左側と、ルカルカ・ルーの頭上で光が輝いた。次々に様々な術を放っているが、なかなかに勝負がつかない。
「アイシクル!」
「イーサ!」
 ルカルカ・ルーの左側でまた冷気が拡散したが、彼女の放った冷気は頭上から天城紗理華を凍りつかせた。
「不覚……」
 身体の動きを奪われた天城紗理華が武舞台から滑り落ちた。
 さすがに対策は怠りないので、魔糸を使っていない服を着ているが、スライムまみれでべちょべちょだ。
「ああ、やられてしまいましたね」
 アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)が、残念そうに言う。
「合掌」
 大神御嶽が手を合わせた。
「よっし! ですら」
 なぜか、というか、当然のようにキネコ・マネーだけがガッツポーズである。
「やったよね」
 勝利に気をよくしたルカルカ・ルーが、狭い武舞台の上でバク転をして見せた。ニケ・グラウコーピスの連れているパラミタペンギンたちがバチバチと拍手をする。
「勝者、ルカルカ・ルー選手!」