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リアクション
★ ★ ★
「第八試合、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)選手対、四谷 七乃(しや・ななの)選手です」
「さあて、やるからには勝たせてもらうよ。賢人の名にかけて」
箒に乗ってきたズィーベン・ズューデンが、トンと武舞台の上に下り立った。
「七乃はこの大会に勝って、世界最強の魔鎧の名乗りをあげます! 七乃はマスターにふさわしい魔鎧にならなきゃダメなんです。だから、負けません!!」
武舞台に渡った四谷七乃も、一歩も引かない覚悟だった。
「七乃! 相手の動きをよく見ろ、隙を狙うんだ!」
はらはらしながら、四谷 大助(しや・だいすけ)が声援を送った。
「見ててくださいマスター。これが七乃の全力全開です!」
四谷大助の声援が聞こえているのかいないのか、四谷七乃が雷術の呪文を早くも唱え始めた。
「千の剣閃を越え疾く駆ける魔狼……其の金色の肢体、夜を刻む罅とならん!」
彼女の周囲に巻き起こった雷光が、群れなす狼の姿をとって宙を走りだす。時計回りに回り込んだ雷狼が、ズィーベン・ズューデンのバリアに激しくぶつかった。
「炎よ氷よ、絶対の境界を破り、彼の者を撃つ刃とならん!」
それには動じず、ズィーベン・ズューデンが両手を軽く掲げて呪文を唱えた。眼前に現れた白い導きの書のページが、ひとりでにパラパラとめくれていき、それが描く弧を模した形に、ズィーベン・ズューデンの前に炎につつまれた氷の弓矢が現れる。
「放て!」
ズィーベン・ズューデンが弓を引く仕種をすると、空中の弓が振り絞られ、炎につつまれた氷の矢が撃ち放たれた。大きく左ななめに上がった矢が、弧を描いて四谷七乃の右側のバリアにあたった砕け散った。
「ほっ。だから、よく見ろ。相手の動きは隙が多いぞ!」
ほっと胸をなで下ろしながら、四谷大助が再び叫んだ。
「次は決めるよ!」
両手を上にむけたズィーベン・ズューデンが、二射目を放つ。弧を描いて打ち上げられた氷の矢が、四谷七乃の頭上で砕け散った。
「今度は、逆から……」
対する四谷七乃が、今度は反時計回りに雷狼を回り込ませる。
「ちょー、噛むな、噛まないでよー」
雷狼に体当たりされて、ズィーベン・ズューデンが武舞台から落下していった。
「大丈夫、安心の水着……はうっ」
ローブの下からイルミンスール魔法学校女子水着を顕わにして、ズィーベン・ズューデンがスライムの海に没した。
「マスター、見ててくれましたー?」
「ああ。よく頑張ったな。それでこそオレの魔鎧だ」
武舞台の上で手を振る四谷七乃に、四谷大助が答えた。
「勝者、四谷七乃選手!」
★ ★ ★
「第九試合、朝野 未沙(あさの・みさ)選手対、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)選手」
「まあまあ。お手柔らかにですう」
武舞台に立ったチャイ・セイロンがぺこりとお辞儀をした。もの柔らかに微笑んで見えるが、よーく見ると目があまり笑っていない。
「真っ正面から、いくよ」(V)
朝野未沙が、手首を合わせた両手を突き出して、無数の氷の刃を打ち出した。
「炎の華流よお」
チャイ・セイロンも、ステッキの先を朝野未沙にむけてクルクル回した。炎の花弁がステッキの先から生まれ、渦を巻きながら朝野未沙の左側に飛んでいった。だが、バリアに弾かれてあっけなく散ってしまう。
逆に、朝野未沙の攻撃は阻まれることなくチャイ・セイロンにぶちあたった。本当ならそのまま氷片が突き刺さるところなのであろうが、事前にかけられていた防御魔法によって、ちょっとふくよかなチャイ・セイロンの身体とたっゆんにあたって弾き飛ばされた。だが、さすがに勢いを殺すことはできずに、反動でチャイ・セイロンの身体がポーンと武舞台の後ろへと飛ばされる。
「あーれー」
ばっちゃんと、チャイ・セイロンが派手なスライム飛沫をあげてリタイアした。
「あーあ、やられちゃったよ」
「やられてしまいましたね」
またかと、マサラ・アッサムとペコ・フラワリーが軽く溜め息をつく。
「よし、仇はこの私が……」
「だから、それは反則だから……」
またもや相手にむかってドラゴンアーツを放とうとするココ・カンパーニュを、アルディミアク・ミトゥナが押さえつけた。
「はははは、毛布なら、まだまだありますよ。そおれえ、乱れ投げえ!」
出番だとばかりに、クロセル・ラインツァートがすっぽんぽんになったチャイ・セイロンに毛布を投げかけた。
「勝者、朝野未沙選手!」
★ ★ ★
「第十試合、久世 沙幸(くぜ・さゆき)選手対、フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)選手です」
「さあ、出番じゃぞ沙幸。すぐにわしを着るのじゃ」
「えっ、だって、出場するのは私だよ?」
ウィンディ・ウィンディ(うぃんでぃ・うぃんでぃ)にせがまれて、久世沙幸がちょっと目を白黒させた。
「何を言っている。このような大会でこそ変身しないでどうするのじゃ。こういうときは目立った者が勝つ。わしが保証してやろう」
「そんなこと言ったって……」
周囲を見回して、久世沙幸がちょっと顔を赤らめた。
こんな衆目のある所で、しかも、これから試合が始まるというので、いやがおうにも視線が集まってきている。
「何を言っているんですの、沙幸さん。そんなことでは、せっかくわたくしが出しておいた参加申し込みが無駄になってしまうではないですか。蒼空学園に、このたっゆんありを見せつけるのですわ」
藍玉 美海(あいだま・みうみ)が、ウィンディ・ウィンディと一緒になってたきつける。
「そんなこと言ったってえ……」
「ええい、面倒くさい。早くしないと棄権になってしまうぞ。さあ、変身じゃ!!」
言うなり、ウィンディ・ウィンディが自身を輝く布の海に変化させた。まるで触手か何かのように、するするとウィンディ・ウィンディが久世沙幸に巻きついていく。
「ひゃあああ……もう、強引なんだからっ」(V)
叫ぶ久世沙幸の魔法少女戦闘服が、光になって弾けた。どうやって脱がしたのか、スポーンと空中高く舞いあげられ、ふわふわと舞い落ちてくる。まったく、これではウィンディ・ウィンディの方がマジックスライムよりもたちが悪い。
おおと、野太い声と共に野郎どもの視線が集まったが、変身の閃光のせいで何も見ることができなかった。気がついたときには、黒いミニ着物の魔鎧を装備した久世沙幸の姿がそこにあった。
「ま、まじかるくのいち☆さゆきちゃん いざ参るっ!」(V)
なんとか決め台詞を言って、久世沙幸がポーズをとった。
「いつみても目の保養になりますわ」
いそいそと久世沙幸が剥ぎ取られた服を拾い集めながら、藍玉美海がうっとりと言った。あの輝きの中でも、変身途中のすっぽんぽん姿は彼女の目にははっきりと映るらしい。
「久世沙幸選手、早くしてください。あまり遅いと棄権と見なされてしまいますよー」
シャレード・ムーンが、あまりに遅い久世沙幸を急かした。
「はい、今行くんだもん」
あわてて返事をすると、久世沙幸が小走りに橋を渡っていった。
この高さでは、下から見あげられたら大変なことになるが、幸いにして下はすべてスライムの海だ。下からのぞこうというような不埒な者たちは、すでに気力を吸い取られて救護室に転がされていた。
「頑張ってくださいねー」
ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、藍玉美海の隣で久世沙幸に声援を送った。本来は、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)と藍玉美海のライバル対決を楽しみにしてきたのだが、藍玉美海は参加しないと知って、せめて久世沙幸には勝ち進んでもらって、エリシア・ボックと戦ってもらいたいと思ってのことだ。
「上級生だからって負けません。お相手お願いします」
軽く会釈して、イルミンスール魔法学校新入生のフィリップ・ベレッタが身構えた。
「こちらこそだもん。じゃ、いざ、勝負! 一の舞い、氷針」
右手にクナイ型の氷の手裏剣を作りだすと、久世幸代がえいっとそれを投げつけた。クイと手首を返して、右にとんだクナイを操って左側からフィリップ・ベレッタにぶつけた。だが、フィリップ・ベレッタの身体よりも先にバリアにあたった氷のクナイが、澄んだ音をたてて砕け散る。
「熱き印よ!」
フィリップ・ベレッタが、人差し指に炎を宿して空中にサインを描いた。瞬間、その印が人よりも大きく広がったかと思うと、すぐさま収束して火球となり、久世沙幸の左側に飛んでいった。だが、これも、バリアによって弾かれた。
「二の舞、火針!」
間髪入れず、久世沙幸が今度は炎でできた手裏剣を正面から放つ。カカカカッと正面のバリアに突き刺さった炎のクナイが、少し強い輝きをあげて燃え尽きた。
「冷たき印よ」
フィリップ・ベレッタの方も、先ほどとは違うサインを空中に描いていた。氷の軌跡が、拡大収束して氷塊となって飛んでいく。こちらも正面からであったが、ゴンとバリアにぶつかり、そのまま氷塊はスライムの海に落ちていった。
「三の舞い、輝針!」
久世沙幸が、今度は腰近くから一気に前へ突き出した両手から光の手裏剣を放った。左右に分かれた光のクナイが、背後で合流してフィリップ・ベレッタに襲いかかったが、これもまたバリアに阻まれて消え去った。
「閃く印よ!」
今度は、フィリップ・ベレッタの雷術の番であった。スパークをあげて回転する雷球が、周囲に激しい風を起こしながら下から久世沙幸に襲いかかった。
「そっちはだめなんだもん!」
あわてて、久世沙幸が魔鎧の裾を押さえた。
『沙幸、往生際が悪い……』
みなまでウィンディ・ウィンディが言えず、二人一緒に雷球につつまれて倒れ込む。
「ひゃあぁ〜」
ポチャンと、久世沙幸がスライムの餌食となった。だが、すでに着ている物はウィンディ・ウィンディに剥ぎ取られた後でもあり、今は一緒に気を失ったウィンディ・ウィンディが人間体に戻って幸せそうにべったりと久世沙幸の素肌にひっついていたので、幸いにもすっぽんぽんだけはまぬがれた……のだろうか?
「ちっ」
思わず、藍玉美海が小さく舌打ちをする。
「勝者、フィリップ・ベレッタ選手!」
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