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新キマクの闘技場

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新キマクの闘技場

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 続いて行われた正統派でドラゴンライダーの赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)と悪党サイドでネクロマンサーの白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)の闘いは、試合開始直後に放たれた霜月の居合一閃を竜造が【女王の加護】で見切った瞬間から、荒れ模様の展開となっていった。
 竜造の【奈落の鉄鎖】でバランスを崩されつつも、応戦する霜月。
「そらよぉっ!!」
 続けざまに波状攻撃を仕掛ける竜造の虎徹を霜月の妖刀村雨丸が受け止める。
 本来ならばレベル的に霜月が押し負けるハズがないのだが、竜造が【絶対闇黒領域】で強化しているせいか、勝負は五分五分であった。
「てめえも正義気取りか!? 俺がぶちのめしてやるよ!」
「正統派かどうかわかりませんが、一応同じような施設の経営者として王さんを守ろうと、そう思っただけです!」
 渾身の力を刀に込めて竜造を跳ね除ける霜月。
「経営者? ああ、金の話か」
「竜造さんだって、そちら側についたという事は、それが目的なのでしょう?」
 霜月の問いを笑って一蹴する竜造。
「違うね。俺は、王だかなんだか知らねえが、強い奴と戦えるならそれでいい。とはいえ正統派なんて柄じゃねえから、こちらにいるだけだ! 第一、金の力でもって善人を気取るヤツに、本当に正義の味方が出来るわけないだろうがぁ!」
 吠える竜造が、只ですら悪い目付きを一層鋭く光らせ、殺気を放つ。
「……人の気も知らないで……よく言えるよなぁっ!!」
 これまで静かだった霜月が声を荒げる。
「それでいいんだよ。てめえだって、本当は誰かのためなんかじゃなく、殺し合いをしたいからここに立って刀振り回すんだろう?」
 霜月がグッと唇を噛み締め、刀を握る手に力を込める。
「俺は闘争さえできれば満足だ。だけどな、キマクの穴か尻の穴か知らんが、そこに雇われるという形なんて真っ平御免でな、無報酬で協力してやってんだ」
 竜造が霜月を見て、
「わかるか? てめえは着く側を間違えたんだ? 素直に金のためにこちらに来ればよかったものを、安っぽい正義のために高額な報酬を蹴ったんだよ!」
「貴様ぁぁあッ!!」
 霜月が得意の居合の姿勢を保ったまま、竜造にむかって距離を詰めていく。
「さぁ、行くぜ善良な正義の味方気取りさんよぉ。俺と楽しく殺しあおうぜ!」
 再び至近距離で刃と刃を交える二人。
 霜月の居合が竜造の身体を時折かすめていくが、【リジェネレーション】による自動回復により竜造へのダメージが薄い。
 だが大ぶりな竜造の刀は、歴戦をくぐり抜けてきた霜月の前には、まるで止まって見えた。
「(力勝負をしなければ、自分の勝ちだ。だが、竜造は少し痛い目を見せてやらなければ!)」
 そんな邪な考えが霜月の判断を鈍らせたのだろうか? 竜造が接戦になったところで急接近し、つばぜり合いをしつつ、身体をほぼ霜月に密着させる体勢を取る。
「離れろ!」
「嫌だね、てめえは知っているか? 俺の光条兵器は腹から出るってことを?」
「!!」
 フッと竜造の咎人の鎧の腹部が光り、飛び出した光条兵器が霜月に突き刺さる。
「う……あぁ……」
 刀を持ったまま、腹部を抑えて蹌踉めき、後退する霜月。
「組織の配下はもっての外だけどな、有り難く、こういった技術だけは貰ったんだぜ?」
 そう言って、竜造は予め腹部に隠しておいた携帯電話を取り出す。
「そうか……それで、光条兵器を呼び出して……ひ、卑怯な」
「馬鹿め! だからこっちにいるんだよ!」
 霜月は薄れ行く意識の中で、竜造の笑い声と共に、家族の事を考えていた。
 この前、皆で初詣に行った事、おみくじで凶を引いた自分を笑いながらも慰めてくれた家族。自分が倒れたら……みんなはどうなる? 誰が守るのだろう?
 そんな思いを一瞬で巡らせた後、手にした妖刀村雨丸に霜月は最後の力を込めた。もう一撃……もう一撃だけ、竜造に一閃してからでも倒れるのは遅くない。
 黒いぼさぼさの髪の下に隠れた霜月の茶色の瞳に生気が宿る。
「まだ……です」
「ほぉ……てめえもなかなかの戦闘狂だな」
「自分は、お前とは違う!」
「当たり前だ。俺は勝者でてめえは敗者だからな!」
 霜月がゆっくりと居合の構えを取る。
「それは数秒後までわかりません……」
「面白ぇ……まずは前菜を平らげるのが先でメインはそれからでも遅くはねえと思っていたがな」
 竜造も霜月に呼応するように構えを取る。その顔には不思議な笑みが漏れていた。
「(よもや、初戦でとびっきりのメインをご馳走になるなんてな)」
 竜造はそう言って、腹部に隠していた携帯電話をリングの外へ放り投げる。
「良い判断です」
 霜月が笑みを浮かべて頷く。
「ケガ人にはいいハンデだろう?」
 暫しの静寂の後、霜月と竜造の刀が互いに相手に対しての最短の軌道を描いて交わり……勝負が決した。
 勝ち名乗りをあげた瞬間、リングで大の字に倒れた霜月は、担架で運ばれていく竜造を見ながら、不思議と彼との再戦を望んでいる自身の気持ちに少し戸惑うのであった。



 さらに続く闘いは、同じ学校に通う生徒同士の皮肉な巡り合わせを演出して見せていた。
 正統派で冒険者の高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)と悪党サイドでフェルブレイドの御弾 知恵子(みたま・ちえこ)の闘いは、試合開始時に両者が入場してきたときから混沌としていた。
「お前、おハジキのチエだろ!」
「おハジキのチエ? ククク! 違うなあ!」
 同じ波羅蜜多実業高等学校に所属する悠司が指差して指摘する先には、いかにも悪堕ちしたと言わんばかりの厚化粧をしている知恵子が不敵な笑みを浮かべて立っている。
「知恵子、一体、何してるんだ!? 第一、その化粧は何だよ! スカートもいつものロングじゃなくてミニなんて、スケバンは廃業したのか……?」
 焦茶色の頭を抱えながら悠司が言うと、知恵子は手をかざしそれを制する。
「あたいはキマクの穴の闘士、デスセーラー! キマクの穴に刃向かうものには死を! あたいのセーラー爆殺拳で夜空を舞う星屑になるがいい!」
「畜生……アレ以上頭が悪くならないだろうって安心してたのに」
 頭を振った悠司が向き直って知恵子に呼びかける。
「あれだ、パラ実に善人が多いって布教してるモヒカンとかピエロのおかげで俺らもそれなりに表の道を歩けてるって訳よ。そんな恩を受けといて、裏切るなんざ人間としてどーよ? って感じじゃねえか!」
 そう言う悠司には知恵子が面白半分で勝手に悪役で参加してるんじゃないか、という疑問がずっとあった。
「黙れ! あたいの敵はキマクの穴の敵! いざ勝負!!」
「……ダルいけど、やるしかないのかよ」
 悠司は刀を構えて、試合開始のゴングを待った。
 試合が始まると、知恵子は声高々に叫んでの恐るべき総攻撃を開始する。
「受けてごらん!! セーラー爆殺拳!!」
「何ぃッ!?」
 スキルの【SPリチャージ】で戦意を高めつつ、普段は【破壊工作】で用いる爆薬を、雨あられと投げつける知恵子。
 悠司は【イナンナの加護】と【超感覚】を駆使して、これを流れるような動きで交わすも、リング上は絶えず空爆にさらされているような炎を煙が上がっていた。
「この爆薬、どこに仕込んでいやがる!?」
「セーラー爆殺拳に敵はいない!」
「答えになってねぇぜ!」
 傍に降り注ぐ爆薬を【サイコキネシス】で軌道を変えて交わしながら叫ぶ悠司。
「(何とか接近して、頭に一発張り手を叩き込みたいぜ!)」
 そう考える悠司だが、延々と続く爆薬の投下に中々知恵子まで近づけない。
 そもそも悠司は正統派の戦士として登録されたが、「てきとーに戦う」というスタンスで参加を決めていた。それも、久しぶりに王の善行見た気がするし、ほっといて彼方みたいフェードアウトしたら可哀想だからな、というごく軽いノリであった。
 だが、知恵子の爆薬の透過量は圧倒的に致死量であるし、久々に本気にならざるを得ない状況になっていた。
「ったく、面倒だな!」
 そう言うと、悠司は闇の輝石を取り出し、効果を発動させた。
「くッ!?」
 闇魔法に知恵子の視界が閉ざされると同時に、悠司は【ダークビジョン】でその死角からの攻撃を開始する。
「ど、どこだ!?」
 手に持った爆薬を手当たり次第に投げる知恵子。
 その背後に立つ悠司が音もなく刀を振り上げ……止める。
「(そうだ、まずは一発張り手をかますって決めてたんだ)」
――バチィィーン!
 全力で知恵子の後頭部を叩く悠司。
「あ!」
 知恵子は爆薬を両手に持ったまま、吹き飛び、更に爆薬が爆発する。
「あ……悪い、そこまでする気は……」
 悠司が呟くが時既に遅し。どこかに隠していたであろう爆薬にも引火し、無数の爆発が知恵子を中心に起きる。
「人でなしー!」
「それでも正統派側かー!」
 観客のヤジもちらほら聞こえる中、悠司は黙って爆発が収まるのを待つ。
 暫し後、爆心地から驚くほどの軽傷で現れた知恵子は、首を傾げる。
「アレ……? あたい、何でこんなところに?」
「何でって、知恵子がキマクの穴からやってきたんだろう? デスセーラーとか名乗って」
 悠司の問いかけに知恵子は暫し考えた後、何かを思い出し、大声をあげる。
「あーーーっ!! 思い出した! あいつら、あたいを捕まえて、何かしやがったんだ!!」
「あいつら?」
「キマクの穴とか言うのに決まってるじゃん! んで、あたいはスケだけど、筋は通さなきゃ嫌だから仲間になりたくないって言ったら、なんか妙な薬飲まされて……」
「……洗脳されたのか?」
「そう、それだよ! 頭に来るねぇ! ……やだっ! 何この短いスカート、あたいのロングスカートはどこ!?」
バタバタと慌ただしく走りまわる知恵子を、呆然と見守る悠司に、レフリーが話しかける。
「あの……勝負は……?」
 悠司が小さく片腕をあげ、先ほどまで爆薬を切り続けた刀をチラリと見て、
「あーぁ、またくだらねーもの切っちまった。手入れが面倒なんだぜ、これ」
 そう苦笑した悠司には、知恵子を洗脳したキマクの穴への怒りと、罰として知恵子に刀を磨がせようという考えが浮かび上がってくるのであった。