天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

新キマクの闘技場

リアクション公開中!

新キマクの闘技場

リアクション

 丁度先の試合の決着が丁度ついた頃、正統派の戦士達が待機する控え室で一つの騒動が起こっていた。
「どういうことだ!?」
 怒り心頭の王が闘技場のスタッフの胸ぐらを掴んでいた。周囲の戦士達も、皆怒った目付きでスタッフを見ている。
「えー、ですからー、キマクの穴サイドからの要望で、特別にタッグ戦をやってみてはどうか、という提案がありまして……」
「1対1が基本だと、そう言ってたじゃねぇか!!」
「でもー、これまでの試合で時間が掛かりすぎてまして、運営サイドと致しましても、これ以上かかると、お客さんが帰ってしまうという危機感があるのですよー。ほんの数試合、対戦形式が変わるだけじゃないですかー!?」
「絶対、罠だろうねぇ……」
 先ほど試合を戦ったクドがぽつりと呟き、霜月も頷く。
「ふざけるな! その運営スタッフに俺が話をつけに行ってやるぜ!」
 スタッフの襟首を掴む王の手をそっと制止したのは、パラディンの相田 なぶら(あいだ・なぶら)であった。
「王さん、ここは俺達に任せてみない?」
「なぶら?」
「ほら、俺とパートナーのフィアナなら何とかなるからさぁ」
 壁際で静かに状況を見守っていたヴァルキリーでフェイタルリーパーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)がコクンと頷き、
「場所はこんなアンダーグラウンドな所ですが、私は久しぶりの1対1の試合を少し楽しみにしてましたのに……」
 銀色のポニーテールをさらりと揺らして、少し残念そうに微笑むフィアナ。
「でも、フィアナ。俺の防御メインの戦闘と、キミの正面突破の戦法なら、どんな相手が来ても対処できるよねぇ?」
「ええ……負ける気はしませんわ」
「……すまねぇな」
 王が手を離した隙に、スタッフはバタバタと一目散に控え室から飛び出していく。
「まぁ、タッグ戦だけど、結局は1対1で倒せばいいんだよねぇ?」
 そうフィアナに苦笑するなぶら。
「なぶらの手を借りるほどのものでもないでしょう? 私一人で試合を決めてしまっても構わないのですから」
「俺もたまにはがんばるさ」
 笑い合う二人は、ゆったりとした足取りで控え室を出て行くのであった。



 リング上において、なぶらとフィアナの前に立ちふさがった二人の戦士は、ドラゴニュートでグラップラーのネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)と、全身褐色のスーツに覆われた異常に首の長い「NO」と描かれた戦士であった。
 レフリーが試合を開始しようとすると、突然、ネヴィルのパートナーでジャスティシアのガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、内側が真紅の黒マントをはためかせながら、ステッキを持ってリングに入ってくる。
「おいおい、3対2は流石に反則だろう?」
 なぶらがシュトラールを構えつつ、不満そうな顔をすると、黒いハットを被ったガートルードがステッキでなぶらを指して笑う。
「落ち着きなさい、相田。私はただのセコンド……そして、キマクの穴の悪のマネージャーにして無法超人軍団長のガートルード・ハーレックです!!」
「……悪のマネージャー?」
 フィアナも端正な顔を引きつらせてガートルードを睨む。
 なぶらとフィアナを前に、マイクを持ったガートルードが会場の観衆に呼びかける。
「お集まりの皆様、私たちキマクの穴の無法超人軍団の試合にようこそ! ここに呼び寄せたのは無法超人界のチャンプ、無法超人ネヴィルマンと、無法超人界のバイオ戦士、ノー・ジュニア!」
 ガードルードの呼びかけに、ネヴィルとノーが腕をあげてアピールする。
「これより、偽りの正義を語るこの二人を制裁して差し上げます。ごゆるりとお楽しみ下さい」
「偽りだと……貴様ッ!!」
 その言語にフィアナが龍骨の剣を抜き、なぶらの制止も聞かず、バーストダッシュで突進する。
――ガンッ!!
 フィアナの剣を止めたのは、ブルドック顔に筋骨隆々な巨体とドラゴン翼と悪魔の様な細い尻尾を持つネヴィルである。
「フィアナくん? 俺に力勝負を挑む気かい?」
「ほざけッ!!」
 パワードアーマーを纏ったフィアナが強引にネヴィルを押しやり、リング下へともつれて行く。
「フィアナ!!」
 なぶらが慌てて追おうとするが、その行く手をノーが塞ぐ。
 ガートルードが高笑いし、なぶらを見る。
「随分血の気の多いパートナーをお持ちだこと? でもあなたの相手はこのノーよ? 上手くかわして彼女を助けに行けるかしら?」
「勇者を目指す者として、キミたちのような姑息な真似はしない、正々堂々と戦うさ!」
「ノォォォー」
 なぶらにノーが接近し、両腕を振り上げる。
「(グラップラータイプか!?)」
 なぶらがヴァーチャーシールドを掲げ、その攻撃を防ごうとするが、両腕の反動をつけたノーの頭突きが盾ごとなぶらをリングの端まで吹き飛ばす。
「頭突きとは、恐れいったよ。挙句にパワーも強いのか……やだねぇ」
 立ち上がったなぶらがチラリとリング下で場外乱闘に発展しているフィアナとネヴィルの闘いを見やる。
「分断作戦か……すぐに片付けるから、待っててくれよ、フィアナ!!」
 なぶらが剣をかまえ、ノーに向かって突進していく。


「観客の皆様、危険です! お下がり下さい! お下がり下さい!!」
 場内の拡声器から運営スタッフの声が響く。
 この闘技場は中央のリングをメインとして、傍にそこそこの広さを持つリングサイドと高い壁を挟んで1階の観客席が設けられているのだが、フィアナとナヴィルの闘いはその壁際寸前まで展開されていた。
「そらそらそぉらッ!! 右のスーパーブロー、ドラゴニックマグナム! 幻の左、ドラゴニックファントム!!」
 ネヴィルから放たれた豪風を伴い唸りをあげる左右の拳の攻撃に、フィアナのダッシュローラーを用いた突進が止まる。
「ブレイドガード!!」
 大剣を用いてネヴィルの攻撃を止めたフィアナだが、そこにネヴィルの重い蹴りが間髪入れず脇腹を捉える。
 生身の体重差がおよそ4倍はあろうネヴィルの蹴りを受け、軽々と吹き飛んでいったフィアナが観客席の壁に派手な音を立てて激突する。その身に纏うパワードアーマーの中でミシッという音が聞こえる。
「効きました……骨にヒビが入りましたよ?」
「俺に正面突破が効かないのはこれでわかっただろう? まだやるかい?」
 ネヴィルがオールバックの黒髪をかきあげ、まるでドライブにでも誘うような脳天気な表情でフィアナを見る。
「小細工はいりません。元より私には全ての力を剣に込めての正々堂々正面突破という戦い方しかありませんから」
 剣を杖がわりに立ち上がるフィアナ。
「負けるとわかっていても、やる、と?」
「私が沈む前にそなたを沈めれば良い話ですから。もし、先に此方が沈んだら唯単に私の実力不足なだけですよ」
「……気に入った、本気で相手してやるぜ! ドラゴニックオーラ全開!! 真魔剛竜拳!!」
 強烈な闘気を貯めだしたネヴィルに、フィアナも呼応し、【チャージブレイク】の姿勢を取る。
「(龍の波動ですか、ならば!) はぁぁッ!!」
 互いに限界まで力を貯めた後、はじけ飛ぶように激突する。
「光になれ!! ネヴィルドライバー!」
「一撃必殺!! 一刀両……ぁぐ!?」
 フィアナは急に身体の自由が効かなくなるのを感じ、何故か咄嗟に横を見た。
 そこにはガートルードが彼女にサイコキネシスを使っていた。
「(卑怯な!! せめて、避けなければ!!)」
 そう思い、バーストダッシュへと意識を切り替えようとしたフィアナだったが、自分が観客を背に立っている事を思い出す。
「(今、避ければ……)」
 大剣でガードを試みたフィアナにネヴィルの則天去私が一手早く炸裂したのであった。

「なるほど……頭に鉄球を仕込んでたのかぁ、道理で首がやたら長く、頭突きにもパワーがあったわけだねぇ」
 なぶらとノーとの激闘は、なぶらの剣がノーの首を断ち切ったところで勝敗が決していた。
 いつも眠そうな顔をしているなぶらも、対戦相手の首を落とした時にはさすがに青ざめていたが、敵の正体がわかり、いつものようにぼさぼさの頭をポリポリと掻いていた。
 そこに観客のざわめき声が聞こえてくる。
「なんだ?」
 振り返ったなぶらの上に突然影が堕ちる。
 慌てて剣を構えるなぶらだが、自分に飛来してくる物の正体がわかってハッと目を見開く。
「!!」
 なぶらが両腕で抱きとめたのは、いつもポニーテールでくくられた銀髪がバラバラになった傷だらけのフィアナであった。
「フィアナ! しっかり!!」
 なぶらの呼びかけにフィアナが目をうっすらと開き、弱々しく笑う。
「すいません、負けてしまいました……」
 うっすらとフィアナの青い瞳が涙で滲んでいく。
「フィアナ……」
「さぁ、次はなぶらくんの番だぜ?」
 なぶらが腕を回しながらリングに上がってくるネヴィルを怒りの目で睨む。
「フィアナと戦って傷一つ無い? そうか、ヒールか……」
 唸るなぶらがリング下のガートルードを見る。
「許さないぞ!!」
「許すも許さないも、これがキマクの穴さ。降参した方がよいわよ?」
 ガートルードが手に持ったステッキをクルリと回す。
「勇者を目指す者として、はいそうですか、なんて言えるものかよ」
「そう……無法超人ネヴィルマン! 今度は相田をその娘と同じく、血祭りにあげてやりなさい!!」
 ガートルードに指示されて突進するネヴィルに、なぶらが重い体を気力で引き起こして剣を構える。
「だああぁぁーっ!!」
「はぁぁぁーッ!!」
 巨体のネヴィルに立ち向かっていくボロボロのなぶらの姿は、後々彼の誇らしき武勇伝の一つとして語られる事になるだろう、観客席で観戦していたとある人物は、大会後にそう呟いた。