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リアクション
第13章
チョコレイト・クルセイダーのアジトは大騒ぎであった。
「はっはっは!! さぁさぁ、覚悟して下さいよ!!」
カメリアに同行していた月光蝶仮面、鬼崎 朔やコハク・ソーロッド。そのメンバーに合流したルイ・フリード(るい・ふりーど)は月谷 要(つきたに・かなめ)と共にクルセイダーのアジトに突撃した。
「ふん、まったく。食べ物を粗末に扱う奴らにはおしおきだなぁ」
食欲魔人として名高い要。基本的に節度や礼節を重んじるルイと共に、チョコレートを武器として利用するクルセイダーを許すわけにはいかなかった。
「その通りです要さん。チョコを美味しく食べるべきという主張だけは理解できますが、チョコをビームにしたり他人様のチョコを奪ったりするのは許せませんよぉ!」
ルイはさほど広くない通路をずかずかと進み、次々と現れてくるクルセイダーやチョコ怪人を片っ端から殴りつけて無力化していく。
「ふっ! はっ! ふんっ!!」
要は狭い通路を活かしての三次元的戦闘が得意だ。
堂々と乗り込んで注目を浴びるルイに対して、光学迷彩とブラックコートで気配を殺した要は背中に生えた『鋼骨機翼』で通路を自在に飛びまわり、天井や壁を蹴ってのトリッキーな動きで敵を翻弄していく。
「さあ、俺の動きについてこれるかなぁ!?」
腕に装着した『義腕部仕込み剣』でチョコ怪人を破壊し、生身のクルセイダーに対しては蹴る、殴るの攻撃を容赦なく加えていった。
その他のコントラクターの同様にアジトになだれ込み、アジトはもう壊滅寸前であった。
☆
元よりアジトに潜入していた緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)と姫神 天音(ひめかみ・あまね)、そしてブリジット・イェーガー(ぶりじっと・いぇーがー)とイヴ・クリスタルハート(いぶ・くりすたるはーと)はルイや要たちの突入を機に行動を開始した。
「いいですか? 本来のバレンタインとは関係ないとはいえ、今のバレンタインは愛を告白し、互いの愛情を確かめ合う日なのです。そのような日に向けてチョコレートを強奪するようなことはですね……」
天音は手近なクルセイダーを捕まえてバレンタインの愛とチョコレートの関係について切々とお説教をしている。
「は、はぁ……そうですね、すいません」
すでにアジト壊滅は始まっている。クルセイダーとしても天音のお説教を聞いている場合ではないのだが、何故おとなしく聞いているのかというと天音の後ろに立っている紅凛が怖いからだ。
「――よし、お説教タイムはそろそろ終わり。動くぞ」
紅凛は剣の花嫁である天音から光条兵器を無断で取り出した。
「あッ! ……ううぅん……もう、せめて一言断って下さいよぉ」
天音から解放されたクルセイダーはこれ幸いとばかりに逃げていく。
紅凛は取り出した紅い光を放つ籠手の形をした光条兵器『ヒノカグツチ』を装着し、仲間を呼んだ。
天音を心配してついてきたブリジットは他のクルセイダーをけん制していたが、紅凛の呼び声に従って側へと戻る。
「さあ、行きましょうか紅凛。こんな非常識で迷惑極まりない組織は、さっさと片付けてしまいましょう」
紅凛に魔鎧として装着されたブリジットは、紅い竜を彷彿とさせる鎧へと変身した。
その傍ら、イヴ・クリスタルハートは通路の向こう側のクルセイダー達にエアーガンをスプレーショットで乱発してけん制した。エアーガンなので殺傷能力はないが、当れば充分に痛い。あくませ制圧だけが目的の場合で遠慮しなくていいので、かえって向いているのだろう。
「行きますよお姉様っ!! お姉様の敵はワタシの敵っ!! どんな敵だろうと殲滅殲滅ーっ!!」
紅凛をお姉様と呼び慕うイヴは、率先して銃弾をばら撒き、敵を混乱させていく。
右手にヒノカグツチ、全身にブリジットの鎧を纏った紅凛は、襲い来るクルセイダーに向かって吠えた。
「クルセイダーだか評議会だか知らないけれど、あんたらにはこの間からイライラしてたんだっ!! 今日という今日は徹底的にやってやるから覚悟しろぉーーーっっっ!!!」
☆
ルイのパートナー、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)はルイと要達の後をついてきて、倒されたクルセイダーを次々と処理していく。
「ふっふっふ……さーさぁ、どんどん脱いじゃおうねー♪」
倒れたクルセイダーに襲いかかり、茶色タイツを無理やり脱がして仮面やマントを剥いでいく。
ついでにロープでぐるぐる巻きにしてしまうので、もう身動きは取れない。
「ああっ、やめて! 顔は映さないで!!」
さらにそのまま逆さ吊りにして手にしたカメラで恥ずかしい写真を大量に撮っていく。
「え〜? やだなぁ〜、顔が映ってないとゆすりゲフンフゲン、弱みゲフンゲフン、えーと、お仕置きにならないじゃないか〜」
可愛い外見とは裏腹に中身はかなりの黒さを誇るセラ、裸に剥かれたクルセイダーの写真をカメラに収めては脅し文句をかけていく。
「ひっ、ひいいいぃぃぃっ!! 助けてえええぇぇぇ!!!」
「ひひひ、叫んでもこんなところに助けは来ないよ、いいから諦めて大人しくするのだ、いひひひひ、よいではないかよいではないか」
もちろん、クルセイダーに関しては自業自得だが、この場合どちらが悪役に見えるかと言われれば言うまでもあるまい。
うっかり個人情報が分かる物を持っていたクルセイダーは、さらに悲惨である。
「へー、結構いいとこ住んでるじゃなーい? この個人連絡先と恥ずかしい写真を、フルカラー小冊子初回限定プレゼント付きでばら撒かれたくなかったら『魔王軍』の下っ端戦闘員として働くことを誓うんだな、はーっはっはっは!!」
コミュニティ『魔王軍』のメンバーとして部員獲得――というかただの脅迫に精を出すセラの高笑いがアジトの廊下に響き渡るのだった。
それにしても酷い。
☆
要のパートナー、霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)は、要とルイの背後を守りつつ、アジト突入のサポートをしている。
「はいっ!! やあっ!!」
手にした太刀『月光』から放たれる乱撃ソニックブレードはなかなかに強力で、そうそう近寄ることはできない。
「まったくもう……せっかくのバレンタインももうすぐだっていうのに、こんな奴らがいたんじゃ楽しめないじゃない!!」
遠距離の相手はサイコキネシスでけん制しつつ、近寄る相手を手にした『月光』で無力化していく。
「……それに、このままじゃ私のチョコ渡せないし」
ぼそっと呟いた悠美香。
「んー、何か言ったぁ?」
前方の要から声がかかった。悠美香は即座に否定する。
「な、何でもないわよ!! まったく、こんな時だけ鋭いんだから……」
悠美香は要用に用意していたチョコを隠す。囮用に使ったものだが、ここでは必要ない。
しかし、もともとはっきりとした恋愛感情を自覚しているわけでもない悠美香と要。はたしてどんな顔をして渡せばいいのか、そもそも渡すことができるのか自信がない。
戸惑いを振り切るように戦いに没頭していると、いつの間にかやって来た要がぽつりと呟いた。
「そうそう。バレンタイン当日さぁ……今回の打ち上げにどっか行かない? まあ、良かったらだけど、さ」
それだけ言って、また要はクルセイダーに突撃してしまった。
「え? あ、ああうん? そ、そそそそうね。そういうのもいいわね!!」
顔を赤らめて何とか返事をする悠美香。
まあ、何とかなるかと、懐のチョコレートが主張した。
後は当日のお楽しみである。
☆
「この先が中心部のようですねぇ!!」
出てくるクルセイダーをあらかた制圧したかと思ったルイ。要と悠美香に呼びかけて態勢を立て直す。
「あの扉の向こうだな……少し、雰囲気が違う。用心して行こうぜ」
と、要が呟いた時、向こう側からドアが開き、中からおびただしい数のチョコ怪人が溢れ出してきた!!
「何ぃっ!?」
そこは桐生 円と桐生 ひなのダブルプロフェッサーがノリノリでチョコ怪人を大量生産した研究室であった。
その後も暴走した研究室は順調にチョコ怪人を作り始め、遂に溢れ出した、というわけだ。
だが、次々と廊下に溢れ出てくる怪人たちを前にしても要とルイは動じない。
「……ふん、これは潰し甲斐があるな、なあ?」
「当然です! さあ要さんやりましょう!! 今こそ私達の力を見せる時!!」
気合を入れると、ルイの頭部から巨大な牛の角がメキメキと生え始める、鬼神力を解放したのだ。
要もまた金剛力と鬼神力で潜在能力を解放し、ひとまわり大きな体になる。
二人は背中合わせに立ち、後ろ手に互いの腕を組んだ。そのまま組体操のように要が前かがみになり、ルイの背中を背負う。
それにより大きなルイの角が前方に大きく張り出し、凶悪な凶器のように存在感を放った。
「二人の力と技を合わせれば!!」
「湧き出る力は2千万パワー!!」
要は、ルイを背負ったまま並みいるチョコレイト怪人の群れに向かって突進した。
次々にチョコレイト・ビームが発射されるが、もの凄い勢いで突撃する二人は、それすらも弾き返していく!!
「必殺!! ビッグホーン・トレイン!!!」
強力な一つの兵器と化した2人を止められる者は、もはやこの場にはいなかった。
☆
それと同時に、また別な入り口から研究所に入り込み、溢れ出たチョコ怪人を次々と叩き潰していくのが魔鎧と光条兵器を身に纏った紅凛である。
襲いかかる『コレジャナイチョコ』は小麦粉をじっくりと炒めた中に数種類のスパイスを煮込んでしっかりと固めた怪人である!!
「カレールーだろうがっ!!!」
紅凛が放ったヒノカグツチの一撃でどろりととろけるカレールー。いや、コレジャナイチョコ怪人。
アベック怪人『千代子(ちよこ)と麗人(れいと)』は二人一体となった攻撃で敵を翻弄する怪人である!!
「うっとおしいっ!!」
イヴが乱射したエアーガンで動きが止まったところで、ブリジットのチェインスマイトで破壊される千代子と麗人。
血世孤霊斗マンはバレタインに振られた乙女たちの血と汗と涙が混入されている猛毒チョコ怪人である!!
「食わなきゃただのチョコだろーっ!!」
放たれた紅凛の回し蹴りで大きく飛ばされた血世孤霊斗マンは、その他の怪人を巻き込んでガラガラと崩れ去って行く。
上半身怪人と下半身怪人は、合体することで真の力を発揮する強力な怪人である!!
「合体させなきゃいいんだろうがっ!!!」
紅凛とイヴの同時攻撃で合体することなく上半身怪人と下半身怪人は砕け散った。
新宿二チョコ目・オカマーンはもうその名前通りのオカマチョコ怪人である! オカマとチョコの関係は不明!!
「気持ち悪いとはこの事かっ!!」
特に気合を入れたヒノカグツチの一撃は、オカマーンを大きく弾き飛ばし、チョコ怪人製造機に激突した。そこにルイと要の『ビッグホーン・トレイン』が炸裂し、製造機を破壊した。
こうして、チョコレイト・クルセイダーのアジトは物理的に壊滅した。
☆
木崎 光、ウィルネスト・アーカイヴス、ゲドー・ジャドウの3人は崩壊していくアジトにいた。その目の前には3人の独身男爵の姿。
そう、霧島 春美の推理どおり、独身男爵の称号を持つ者は3人いたのである。
男爵たちは、光たち三人に向かって言った。
「ここはいよいよ崩壊する、もうチョコレイト・クルセイダーは終りだ。君達も早く逃げたまえ」
光は尋ねた。
「もちろん逃げるけどさ……おまえらはどうするんだよ?」
男爵の一人は、穏やかな微笑みを浮かべて答えた。
「ふ……我々は最後までチョコレイト・クルセイダーだ。我々はこれより最後の戦いに往く」
ウィルネストも逃げる準備をしている。
「ふん……責任を取りに行くってか」
男爵たちは、既に逃げ腰なゲドーを含めた三人に自分達のマントからバッジを取って、渡した。
「な、なんだよコレ?」
ゲドーが見ると、それは独身貴族評議会の爵位を表すバッジだった。これを渡すということは、爵位を譲るという意思の表明なのだ。
「諸君ら三人の働きは目を見張るものがあった。そのカップル共を憎む姿勢は独身男爵として相応しい。クルセイダーは壊滅するだろうが、評議会自体が滅びることはない。もちろん、今後の活動をするかどうかは君達の自由意志に任せるが、まずはこの場ではこれを贈らせて欲しい。君達三人を独身男爵に任命する」
「……」
独身男爵――いや、すでに男爵ではないクルセイダーの三人は、光とウィルネスト、そしてゲドーを後に残してアジトを脱出した。
最後の戦いに、赴くために。
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